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否定されし男、考察する

 その日の夜、再び集まった俺らは今回の捜索の成果を話し合っていた。

 が、聞いたところによれば、どうやら他の所は手がかり一つ見つけることができなかったらしく、完全に外れだったそうで、俺たちが見つけた証拠二つ以外の手がかりは無かった。


「さて、殆どふりだしに戻ってしまったわけだが、どう思うレイス」

「……少なくとも相手は単独犯か、複数人居たとしても二人って所だと思う」


 食事の痕跡こそ見当たらなかったが、ここまで痕跡が無かったのならば、相手は大人数で行動してはいないと断言できる。それぐらい、山の痕跡は舗装路なんかよりも多く残るからだ。


「けど不自然なのは、穏健派って話のナーガ族が無断で人間側の領土に来てることなんだよな」

「うちも同じ意見っす。ただでさえナーガ族は竜の一族といえど戦闘能力で言うならウチのようなハーピィ族とどっこいどっこい。どっちかというと洞窟の探索や夜襲みたいな搦手が得意ではありますけど、態々敵地に乗り込んでくるほどの実力はないはずっす」


 ミラと同レベルとは言うが、それでも並みの人間相手なら普通に無双できるのが魔族なので、全員分かってはいるがそこは置いておくことにした。


「だが曲がりなりにも竜の一族なのだろ?魔力だけでもかなりのものだとは思うが」

「クラウヴィアさん、アンタナーガ族と出会ったことは?」

「いや、少なくとも私と私の部下は1度もないな。おそらく、我が国の騎士団でも目撃したことはほぼないだろう」

「ならナーガ族がどんな姿をしてるのか知ってます?」


 その問いにクラウヴィア含め、彼女の部下も全員が首を横に振った。


「……たしかナーガってのは上半身が人間で、下半身が蛇の尻尾になってるんだよな」

「いやレイス、なんだその気持ち悪い生物は?」

「失礼なのはクラウヴィアさん、アンタっすよ。レイスさんの言う通り、ナーガ族に人間やうちらみたいな二本の脚はないんす。腰から下の下半身が蛇の尻尾のように長い尾になっとるんですよ」

「なんだと?」


 どうやらクラウヴィアの予想していた魔族像とは完璧に違ったようで思わずドン引きしていた。


「しかし良く知ってたっすねレイスさん、正直、ほとんど表に出てくることはない魔族ですから、知らなくても不思議じゃないんやけど」

「地元にいた頃、たまたま珍しい魔族に関する本を読んだことがあってな。その時に知ったんだよ」


 図書館でたまたま見たファンタジー生物の本だったが、その外見と大差がないようで助かった。


「俺が知ってるのだと、ナーガ族は攻撃的な魔法より儀式的な魔法……占術や結界術のような魔法が得意で、視覚だけでなく蛇のように熱で相手の位置を探ることができる能力を持つって話だけど」

「だいたいその通りっす。ついでに言うとナーガ族は毒と薬に長けた種族で、魔族の中でもトップクラスに医学に通じてる種族でもあると同時に、毒の特殊魔法を操る一族でもあるっす」

「ふむ、だがそうなると火を食べるということはしないのだろう?」


 そう、まさにそこなのだ問題は。


「俺が知る限り、ナーガが火を食らうなんて話は聞いたことがない。火喰鳥とか一部のドラゴンがそういうことをするというのは聞いたことはあるがな」


 ファンタジーゲームや小説では結構な頻度で火を食べる鳥は何かしらの形で出てくる。というか、不死鳥と呼ばれるフェニックスも、地域によっては火を好んで食べると伝わっていることもあるぐらいだし、この世界にも恐らく何かしらの形で実在はしてるんだろう、多分。


「うちも同じくっす。山向こうのナーガ族の里は火を神聖視してるってのは聞いたことがあるっすけど、火を食べるなんてことは聞いたことがないっす」

「だがそれでは火も土も使わずに火が消されていた理由が分からん。燃えかけの枝も何本か残っていたというのに、自然に消えるということはあり得んだろ」

「そうだな。よっぽど強い風が吹いたりでもしない限りは無いでしょうけど、ここ2~3日でそんな大風が吹くことは無かったはずだ」


 まさしく暗礁に乗り上げる自体となった俺らは、全員が唸り声をあげてああでもない、こうでもないと話し込む。


「でも、それ以上に問題なのって、その魔族の人がどこかに隠れてるってことですよね?」


 と、そんな俺達の会話に疑問を覚えたダーナが声をかけてくるが、


「いや、まぁ確かにそうなんだが……むしろナーガ族ってことになるとそこが問題って言えば問題なんだが……」

「?どういうことなんですか?」

「ぶっちゃけ、隠れ家を探そうと思えば多分簡単なんだよ」


 俺の言葉に事情が分かっているミラも苦笑しながら頷く。


「そうっすね。ナーガ族の生活圏を知っていれば簡単に分かるっすね」

「む、すまないが、私にはさっぱり分からないのだが……具体的にはどういうことなのだ?」


 クラウヴィアも分からないようで首を傾げている。


「俺の知ってるナーガ族と同じなら、彼女らの生活圏は湿度の高い洞窟なんだよ」

「その……すまない、湿度とはなんだ?」


 クラウヴィアやダーナだけでなく、その場にいたクラウヴィアの部下達も意味が分からないと首を傾げている。


「簡単に説明すると、例えば鍋に水を入れてそれに火をかけたとき、水が沸騰すると水蒸気になるだろ?その水蒸気が空気にどれぐらい混ざっているかっていうのが湿度だ」

「水蒸気?湯気と言うのは水が空気になっているのではないのか?」

「勿論空気も同時に熱せられてるが、水蒸気っていうのは大本が水だから、冷えれば水に戻るんだよ」


 どうやらこの世界ではまともな科学すら発展してないようだ。魔法という存在があればそれも分からないわけではないが。


「雨のあとできた水溜まりが、暫くすると乾いたりするのも水が水蒸気になるってことなんだが、この水蒸気が空気中に多くなる場所もあるんだよ」

「それが湿度が高いということか?」

「そうだ。特にそういう傾向が強いは鍾乳洞のように水脈と繋がってる洞窟とか、海辺や沼地みたいな大きな水源が側にある場所だ。ここみたいな山のなかなら、洞窟を探せば自然と見つかる可能性は高い」


 山のなかで水脈と笑うものも居るが、部下連中のうち採掘の経験がある何人かは真剣な表情をしていた。


「だが、仮にそうだとしても湿度の高さなどそう簡単に分かるものなのか?」

「さっき俺は湿度の指標になるのは水蒸気だって言ったよな?なら、湿度が高い場所にずっといたら金属の鎧や髪の毛に簡単に変化が現れるぞ」


 湿度が高い場所だと、髪の毛ならとんでもなく痒くなるくらいに湿るし、金属の鎧なら表面に金属で冷えた水滴が多数滴る。

 しかも侵入者のナーガ族が居るのは、鉱山があった山の方ではなく、村から山を下る方の側だ。そんな場所にある自然の洞窟となれば、その数はかなり少なくなる。一つ二つ見付ければそれだけで見付けられるし、人工の洞窟となれば素人目でも簡単に分かってしまう。


「だから根城にしてる場所を探すのは簡単に……」

「あ、姐さん!!村の前に魔族が現れました!!それも下半身が蛇みたいな尻尾でできてる魔族が!!」

「……は?」


 俺の言葉を遮るように、村の警備をしていた騎士の一人が飛び込んできて宣った言葉に、その場に居た全員の目が点になった。

 まさか俺達が話し合いをしている最中に、その問題の人物が向こうから現れるなど誰も思いもしなかったからだ。


「……そのナーガ族は何か言っていたか?」


 混乱してるだろう頭でクラウヴィアが入り込んできた騎士に聞けば、さらに驚くことを伝えてきた。


「そ、それが……そのナーガ族は『保護してほしい』と言ってました。それも白旗を右手に持ってました」

「はぁぁ!?」


 クラウヴィアが狂ったような叫び声をあげるが、俺らも訳が分からなかった。


「えっとクラウヴィア、白旗ってのは降伏とか投降するって意味で合ってるか?」

「あ、あぁ、その認識で間違っていない。間違っていないのだが……間違いであってほしいんだが」


 そう頭を抱える彼女を責める者は誰も居なかった。いや、むしろ同情する者が大半だったし、なんなら俺も意味不明すぎて一緒に頭を抱えてたし。


「え、えっと、お茶を持ってきますね」


 そんな俺らを見てダーナはお茶を作りにいってしまった。いやまぁ確かに、こんなふざけた状況、お茶の一つでも飲まなきゃやってられない。というか、なんなら葡萄酒(ワイン)を一本飲み干したいくらい心労にきていた。


「……とりあえず話を聞かないことには始まらないよな、これ」

「そう、だな……確かにそうだ」


 クラウヴィアは気が重そうに部下へ指示を出す。鬼が出るか蛇が出るかという気持ちを抱えた俺達は、何度となくため息を繰り返した。出るのはナーガ族なので蛇で確定なのだが。

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