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否定されし男、面倒な相手と出会う

 ミラがこの村を拠点にし始めて、早くも2ヶ月が経過した。

 あれから変わったことはさほど無く、俺はほぼ毎日のように杉の木を一つ切り、ついでに出会ったオークをサーチ&デストロイする日々を送っていた。


「えっと、これがこう……でいいのかな」

「はい、ちゃんと上手に書けてるっすよ」


 ダーナはミラから計算と文字の読み書きを習う毎日だ。この世界の言語は人間、魔族ともに共通のものを使用しており、数字や文脈も基本的に同じだ。

 が、ダーナは半魔という生まれのせいか、元居た村では読み書きを習うことができなかったという。そのため話すことはできても文字は読めない書けないという状態で、解体以外にやることが特に無かったダーナはミラに頼み込んでその勉強をしていた。


「そういえば、魔族の識字率ってどれぐらいなんだ?」

「魔族は基本言語はスラムの生まれとかじゃない限りはほぼ全員が読み書きができるっす。ただ魔法言語の方は魔族は半分ぐらいじゃないっすかね」


 魔法言語、それは魔族側の独自言語の一つで、ミラが持つマジックリュックのような道具を作るために必要な道具だ。

 簡単にいえば魔法が使える魔族が、その魔法の詠唱を道具に刻むことで作成するのだが、その文字の形が共通文字と違ってかなり独特で、魔法を研究する魔族の学院でも半分の生徒ならびに教師が習得できないそうだ。


「別に文字なら、共通語で書けば良いんじゃないのか?」

「魔法言語は文字そのものが魔力を帯びてるんすよ。だから共通語で刻んでも何も起きないし、書くのにも一つの文字に適切な魔力をペンに纏わせなきゃならないから、ただ書けば良いってもんでもないんす。扱えるのは魔族の国のそれこそ魔法に秀でた連中が通う学院の人間ぐらいのもんっすね」

「てことは、ミラは通ってなかったのか」

「えぇ。というか、ハーピィ族は種族的に風魔法に秀でてるっすけど、学院に通うほどの出力を出せるのは殆どいないっす」


 ミラもどうやらその例に漏れなかったらしく、風魔法を使って長時間飛行するのがせいぜいで、攻撃魔法も俺も使う『ウィンドエッジ』を少々射てる程度だそうだ。

 ちなみに俺は転生のチートのおかげか、異世界文字を書くことも読むことも簡単にできるし、なんならミラの帳簿を見せてもらって、簡単な複式簿記の書き方で整理して驚かせたりもしたが、それはどうでも良い。


「そういえば、ハーピィ族ってどうやって生活してるんだ?」

「基本的には自然と共存って感じっす。種族柄食は細いんで基本的には狩猟と採集で充分、中にはウチみたいに飛べることを生かして外に働きにでる奇特なハーピィも居るっすけど、それは本当に少ないっす」

「今の言い方だと、ハーピィ族は魔族軍で戦ったりって感じではないんだな」

「それはハルピュイア族っすね。ハーピィ族とは近縁種族なんすけど、ハーピィ族と違って腕と翼が完全に分かれてるんすよ」

「近縁種族?」


 なんだそれはと俺とダーナが首をかしげる。


「魔族は基本的には大雑把に六種類の系統に分かれてるっす。人間に近しい姿をした『魔人族系統』、ウチみたいなハーピィのように鳥の姿や特徴が現れた『鳥人族系統』、ゴブリンやオーガのような魔力よりも筋力が高く肉弾戦が得意な『鬼族系統』、海や水中に適応した『魚人族系統』、ライカンのように獣の特徴が濃く現れた『獣魔人族系統』、そしてドラゴンやその血脈を引き継いで生まれた『竜魔人族』の六つに分かれていて、魔族の種族はこれのどれか一つに必ず属してるんすよ」

「なるほど、って『獣魔人族系統』?獣人は人間カテゴライズされてるんじゃなかったのか?」

「獣人族と獣魔人族は別物っす。獣人族は基本的に顔の形や作りは人間とほぼ同じっすけど、耳や尻尾のような一部に獣の特徴が出るっす。対して獣魔人族の場合は程度の差はあれど顔の形が動物のそれだったり、肉体が獣のような体毛で覆われてたりしてるっす。中には魔法で普段は殆ど獣人族と見分けがつかない姿になってるのもいるっすけど、大概はそれで判別できるっす」


 つまりいわゆるアニメに出てくるような耳だけケモミミだったり尻尾があるのが人間カテゴリーの獣人、狼男のように顔や体に獣の特徴が大きく出てるのが魔族カテゴリーの獣魔人族となるわけか。


「なら、この村の近くに隠れてる連中は獣人族って判断して良さそうだな」

「そうっすね。普通の人間も混じってる……というか、匂いからしてトップは人間なんでしょうけどね」


 俺がそういいつつ鉄棒を抜き、ミラも懐から投げナイフを取り出して構えれば、俺らの言葉に呼応するように十数名ほどの人間サイドの一団が姿を現した。


「……良く我々に気づきましたね」

「これでも俺もこいつも風魔法の使い手でね、普段とは違う匂いがすれば否が応でも気づくさ」

「なるほど、それはこちらの落ち度ですね」


 そう言うフルフェイスヘルムに全身鎧を纏った先頭の人物がやれやれと肩を竦める。声からして女性だというのは分かったが、それはそれとして周りの連中の姿からして……


「傭兵崩れかと思いましたが、もしや騎士の方々……でよろしいんでしょうか」

「ふふっ、えぇ如何にも。我々はこの国の騎士団に属してる者です。最近この山の麓にある村で魔族のハーピィが度々目撃されるという話を聞きまして……所詮噂だと思ってきましたが、どうやら今回の噂は本当だったようですね」


 騎士の女性が呆れ半分といった口調で答えるが、その答えの半分は正義感により伐るといわんばかりのものだった。


「一応聞きます。貴方がこの場所の主と見てよろしいでしょうか?」

「……なぜ俺が主だとお思いに?」

「それはここが人間の国だからです。方や半魔の少女と方やハーピィ、年齢的にも貴方が長だと考えるのが合理的です」


 なるほど、確かに合理的にはその通りだ。だが、


「残念だが、この場所の長はダーナ……こっちのあんたらが言うところの半魔の娘だよ」

「……なんですって?」

「事実さ。俺はあくまでもこの場所の守護者であり、外交官だ。あくまで話し合いで済むのならそれに越したことはないと思うのだが、そちらはどう考えるのかな?」


 俺の挑発に周りの騎士達が騒然と煩くなるが、女騎士が右手を上げた瞬間それは一瞬で静まった。


「ではそちらのハーピィは?まさかここが人間の国の領域だと知ってここに存在するわけではあるまい?」

「いや、知ってて存在するさ。何故なら彼女は商人だからな。俺もダーナも訳あって人間種族を信じられないうえに、土地柄、生活に必要な食料を取引してくれてる存在だ。滞在を許しもてなすことの何が問題かな?」


 そんな当たり前の言葉に、女騎士から徐々に圧のような何かが溢れてきて、握る鉄棒に自然と力が入った。


「我々人間側と魔族は現在戦争の真っ最中、よもやその事を忘れてはおりませんよね?」

「そんな糞ほどどうでも良いこと、俺からすれば覚える価値もないな」

「どうでも良い……ですか?」

「あぁ、俺からすれば人間と魔族の戦争でどっちが勝とうが負けようが関係ないし、勝手にやっていればいい。俺らはただ、俺たちが自由に生きていける場所を作れればそれで充分なんだよ」


 その言葉に周りの連中の気配も鋭くなり、女騎士の圧もさらに濃いものになった。が、そんなことは関係ない。


「騎士様よ、逆に俺からも質問させてくれや」

「質問?」

「あぁ、そもそもの話、何故そこまで魔族と戦争をしたがるのか俺には良く分からん。外交によって経済的な損失を埋めるためとか、不平等な条約を結ばされたって言うのなら理解ができる。どうしても欲しい鉱脈や資源があるからってのも多少は理解はできる。が、ミラから聞いた話だとそんなことじゃなく、戦争の原因は互いが気に食わないっていうただの人種差別のそれじゃねぇか」


 事実だ。現代の地球でも人種差別の問題は根深いもので、肌の色だけでいじめや差別されるなんて事はざらにあったが、それでもそれが理由で戦争になるというのはそう無かった。

 あのアドルフ・ヒトラー率いるナチス党がユダヤ人を差別・虐殺したのも、大本は世界恐慌によってドイツ経済が大打撃を受け、大量のドイツ人失業者を出したことと、ドイツのユダヤ人が当時高い技術力を持っていてドイツ人と比べて失業者が少なかったこと、そしてヒトラーが属するナチスはドイツ人労働者を基盤とする政党であったことが合わさって起きた事だが、だからといってそれが即ち戦争の発端かと言われれば確実にNOだ。

 日本でも過去にノルマントン号事件というものがあったが、あれも不平等条約によって日本人を助けなくても良いという考えからの、人種差別の見本のような事件だったが、これも結局は最終的な裁判でこの判断を行った船長は有罪判決となっているし、この事件がきっかけで不平等条約の修正に動きはしたが、それがイコール戦争に繋がったとはならない。


「騎士様よ、こういったらなんだが、気に食わないのなら関り合いにならなければいいと俺は思うんだ。なのにどちらから仕掛けたのかは知らんが、戦争が数十年以上続いてる……明らかにおかしいだろ?」

「……」

「沈黙は肯定って取るぜ?」


 次の瞬間、女騎士の圧が素人の俺でもわかるくらい、ほんの少しだけだが確かに揺らいだ。だがすぐにそれは今までより鋭いものへと変化した。


「そうだな、そこを否定するつもりは私にはない。が、それはあくまでも上が考えるべき事だ」

「……」

「私は騎士だ、騎士とは国の力を司る剣であり、民を守るための盾だ。私心など騎士である私には必要ない、必要なのは上の命令を絶対に遂行するということのみだ」

「なるほど、そういうタイプの騎士か」


 こいつはあれだ、所謂脳筋タイプの考え無しに突っ込むタイプの武人だ。しかも上の命令は絶対という盲信で行動するとんでもなく傍迷惑で、同時に面倒なほどに相手をしたくない分類だ。

 なにせ、こういう考えの人間に合理なんてものは存在しない。ただひたすらに上の命令を唯々諾々と肯定し、自分で考えずにただ言われたことを行うことを良しとする。

 簡単に言えば、()()()()()()()()()()()()というわけだ。


「我々の受けた命令は魔族の根絶、そして半魔などという穢らわしい魔族の血を身に宿した存在を根絶やしにすること。邪魔立てするのなら例え人間であろうと貴様も切り捨てる」

「寝言は寝てから言えや、ド三一」


 次の瞬間、女騎士は手元の剣を抜いて飛び出していた。

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