私と彼女と。やり直しがきかない人生を共に歩んで。
「Undo, Delete, Back Space……。ねぇ、何でこの世界って、やり直しが出来ないんだろね……?」
彼女は傷の目立つ液晶ペンタブレットを見ながら、小さな声で私に訊く。勿論液タブはパソコンに繋がれていて、彼女は作業中なのだけれど。
「ね、ホントにそう。何でやり直しが効かないんだろね」
「デジタルだったらこうやって何回もやり直せるのにね」
そう彼女は私の言葉に答える。そして液晶に小さくあるUndoアイコンをペンでタッチする。
彼女が描いていたイラストの目の一部が消える。
私から見れば別に悪くないと思うけれど、彼女は納得していなかったのかと思う。
「……」
しかし、どうしてこの世界はやり直しがやり直しが効かないのだろう。なんて、私はもう一度考えてみる。
――ゲームの中だったら、セーブとロードを繰り返して、何回もやり直しが出来るのに――。
「ねぇ」
ふと、彼女の少し語気の強いそんな声が聞こえて、私の考え事は中断される。
「どうしたの、急にそんな怖い顔しちゃって……?」
彼女が心配したような顔と声音で訊く。自分では表情を変えていた気はしていなかったのだけれど、そんなに怖い顔をしていたのだろうか。
「ん。ちょっと考え事してただけ」
私はそれだけを言う。というかそれが事実で、それ以外言うことがなかったのだけれど、自分を心配してくれている人への返答としては、少し無愛想だったろうか。
「考え事……?」
たった一言彼女は訊く。しかし、その一言に心配だという気持ちが強くなっているのを感じる。
「バカ、そんな心配そうな顔しないでよ。ただ、何でこの世界はやり直しが効かないんだろうなって考えてただけだから」
私は少し笑いながら言う。――本心ではない、上辺だけのバカという言葉を添えておいて。
「……そっか」
ほんの少しの間を置いて、彼女はその一言だけを言う。その顔は何だか嬉しそうで、その声音は何だかいつもより優しい感じがする。
――まるで『私に寄り添ってくれてありがとう』とでも言っているような――いや、ただの私の思い上がりかもしれないけれど――。
私は彼女の言葉に微笑む。そして私の目の前に置かれた時計を見る。時刻は午後の11時を回ったところだった。
「……もう11時過ぎてる。そろそろ寝よっか?」
私は彼女の顔を見ながら言う。
「えっ……!? ホントだ……!」
私の言葉に時計を見た彼女が、あからさまに驚いたような顔と声で言う。
「――でも、私、まだ寝たくないな」
彼女が続ける。
「これだけは、どうしても、完成させたくって」
「……そっか」
これまでよりも一層意志の強さを感じる彼女の声に、私は先程の彼女と同じ言葉を、ただそれだけを返す。
――この世界はやり直しが効かない。それでも、私達は歩んでいく。共に、この世界を。私達が目指す世界を、創り上げるために――。
――その日、私達は思い通りの作品が出来上がるまで起き続けていた。結局のところ一睡もせずに完徹したあとに出来上がったのだけれど。
――まぁ、それでも良いか。完徹した事実は変えられないし、やり直しは効かないけれど、『彼女と共に作品を納得するまで作り続けていた』という事実だけは、やり直したくないものだから――。
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