27話⑷【サバイバル】
焼いたお魚はとても美味しかった。
手や口が汚れるのはもう仕方ないな、と吹っ切って食べるのは楽しい。
持ってきていたパンやドライフルーツなどを食べて、栄養バランスもいい感じだ。
え?
フルーツは野菜だよ。
汗をかいたし疲れたから、本当はお風呂に入りたいところなんだけども。
流石にサバイバルにお風呂はないので、浄化の魔術で済ませることにした。
スッキリだ。
浄化魔術、腐女子ならにやにやしてしまうやつだね。
そうこうしてる内に空が真っ暗になった。
大木のない範囲だけの、歪な丸い星空が見える。
ここに張った天幕は一つだ。
何故なら、この開けた場所が狭いから。
まぁまぁスペースを取るドーム型の天幕をいくつも張る余裕がなかった。
だから、アレハンドロとネルスに中に入って寝るように促したのだが。
ネルスが眉をひそめる。
「殿下はともかく僕が天幕なのに、なんでシンは外なんだ」
真面目だ。
私は公爵家、ネルスは侯爵家。
従兄弟だが私の方が貴族としての階級が高いのだ。
ネルスが遠慮してしまうのは分かってはいるが、私なりの理由がある。
「何かあったときに私がすぐ動ける方が良いだろう」
天幕内で異常発生に気が付いた時、状況確認のためには外に出るか魔術で外の様子を確認する必要がある。
無駄だ、その動き。
外に居れば、すぐに視認出来るかもしれないのだから。
結界に誰か入ってきたら起きれるようにはなってるし、状況把握もできるようになってるけど、念には念を。
快適空間を作ってるから、別に外でも問題ないし。
寝やすいマットも掛け布団も小さくして持ってきてるし。
私の説明で、アレハンドロとネルスは一応の納得はした。
しかし、ネルスはまだ不安そうな声を出す。
「万が一の時に殿下の隣で寝ているのが僕だけだと……もしかしたらご迷惑を……」
「アレハンドロがネルスを守ってそうだな」
「ぐ……」
バレットの正直すぎる言葉に、ネルスが苦虫を噛み潰したような顔になる。
エラルドが苦笑しながら低いところにある黒い頭を撫でた。
「向き不向きもあるし、それはそれで仕方ないよネルス」
「それはそうなんだ。だ、だから、その。交代で見張りをするなら、バレットとエラルドは寝るときにテントに入ってくれないか?」
エラルドに慰められながら、ネルスは項垂れた。
きちんと短所を自己申告し、対策を考えているのが偉い。
アレハンドロが顎に手をあて、感心したように頷いた。
「なるほど。その方が安心して眠れるな」
「不甲斐ないです……僕がもっと強ければ……」
「冗談だ」
そろそろ蹲ってしまうのではないかと言うほど肩を落としたネルスを見て、アレハンドロは可笑しそうに目を細めた。
その光景が微笑ましくて仕方がない。
皆、なんだかんだで本当に楽しそうだなぁ。
こういう時はついつい話してしまうんだよな。
それが楽しいんだけど。
でもここは森の中で、順調にいけば明日はドラゴンに会う。
体調を整えておいた方が良いだろう。
というわけで、私はさっさと就寝を促すことにした。
「じゃあ、明日も歩くしそろそろ寝よう」
良い子の4人は私の言葉に対してすぐに反応し、すぐに寝る準備を始めた。
なんて賢いんだ。偉すぎる。
さすが16歳17歳のお兄ちゃんたちは違う。
「……広すぎないか?」
一番に深緑色の入り口を開いたアレハンドロが、怪訝な声を出しながら私の方を振り返った。
「テントの中か? 空間を広げておいた。狭いと寝にくいだろ」
サービスしてあげたことを何気に伝えると、皆の顔は尊敬を通り越して呆れ顔になっていた。
解せぬ。
「なんでもありだな」
私もそう思うよネルス。
「やっぱり騎士団に入ったらどうだ」
居たら便利な魔術師だろうけど、絶対嫌だよバレット。
「あはは、シンに騎士は無理無理。戦場なんて行ったら毎日泣きながら治療し続けて、魔力が尽きて倒れちゃうよ」
エラルド、まさかの的確な指摘。
治療っていうか、1人1人に怪我しないように結界張って倒れそう。
流石に何万人分ともなるとしんどいのでは。
「あー」
「敵国の兵士まで助けているのが目に浮かぶようだな」
ネルスが珍しく気の抜けた声を出し、アレハンドロは皮肉めいた言葉を放つ。
私もなんとなくその光景が目に浮かぶんだよな。
嫌じゃないか。
傷ついた人が目の前にいるのにスルーするの。
それにしてもだ。
「お前たちは私をなんだと思ってるんだ」
全員が顔を見合わせた。
そして。
「平和ボケしたお人好し」
バレットくんまで的確じゃん。
いやお人好しっていうか、現代での普通の感覚だと思うんだけど……どう?
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