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22話⑴

 

(わたくし)も攻略対象の方で転移したかったですわ!」


 ラナージュに先日、カラマに遊びに行った時のことを報告した後の第一声はこれだった。


 私を見下ろす顔は、血色の良い唇を尖らせて眉を寄せ、本気で悔しそうだ。


「あー、分かる。代わってあげたい」


 好きなゲームのキャラクターに囲まれて一緒に青春を楽しむ。

 私よりもラナージュに経験させてあげたかった。絶対もっと楽しいもん。

 いや、私もめちゃくちゃ楽しかったけど、やっぱ疲れるし。

 

 今、私は学校の裏庭のベンチに寝そべっている。

 ラナージュに膝枕されて。

 細いけれど、柔らかくて寝心地の良い不思議な枕だった。時折、頭を優しく撫でてくれるのも気持ちがいい。


 会話を聞かれたくないので人避けの魔術を施しているが、万が一誰かに見られたら面倒だろうなぁ。


「そろそろ普通に会話しないか?」

「もう少しだけ。(わたくし)はもう4回もゲームオーバーを経験しているんですのよ? 何かご褒美がないとやってられませんわ!」


 ご褒美を受け取る方が膝枕してるの面白いな。

 実際、大変な思いをしてるんだから何か良いことがないとなとは思う。


「逆に膝枕してあげようか?」

「今度はそうしていただきますわね。もう、シンの肌ピカピカですわ……最高……」


 ご機嫌に私の頬に触れたり額に手を当てたりとこそばゆい。彼女の推しなのは体だけなんだけど良いのだろうか。

 中身まで推しな方がやりにくいか。

 とにかく幸せそうだからまぁいいや。


 気がすむまで膝枕はしてもらうことにして、私は本題に入った。


「そういえば、ルース王子と私の外見の特徴が似てるのとか、攻略対象のメンバーが王子一行まんまなのは何か物語的に意味があるのか?」

「ルース王子と貴方の関係は謎なんですの。ファンの間では生まれ変わりとか似ているから魔王に選ばれてしまったとか、二次創作は色々あるんですけれど」


 ラナージュは蕩けるような笑顔から真面目な顔とトーンに切り替わる。


 ゲームの隠しルートまでやって謎ってことはそこに深い意味はないんだろうな。

 金髪碧眼の王子様を夢見るヒロイン、アンネって設定のためのビジュアルか。


「生まれ変わりの上にそっくりだから選ばれて、『私たち一つになれたね。お前の大事な国をお前の手で滅ぼしてあげるからね!』て魔王が満足してるBL展開はない?」

「それBLですの?」


 思いついたことを口走っただけだったのだが、真顔で質問が返ってきてしまった。

 BLの定義を考えねばならない質問が来たな。


 王子と魔王が愛し合ってたら間違いなくBLだけど。魔王の片想いで王子が姫を好きだったらBLじゃないのかな。

 片想いBLってことも。いや今はどうでも良いわそんなこと。


 我々がBLだと思えばそれはBLなのだから。


「すまない、話が逸れた」

「いえ、(わたくし)そっちも好きですわよ。アレハンドロとシンとか」

「聞かなきゃ良かった」


 とても美しい笑顔で言われてしまった。

 そういえばこの子にアレハンドロと舞踏会で踊らされたんだった。本当にそういう意図があったとは。


 なんでその2人なんだとかどっちが攻めだとか詳しく聞きたいところだが、また今度にしなければ。絶対長くなる。


「攻略対象の5人とルース王子一行が似ているのは、魔王の倒し方が伝説の物語の通りだからですわ」


 全員が王子一行の生まれ変わりとか末裔とかそういうことでもないんだね。

 魔王の倒し方、というのは生き残るためにも知っておかなければならないことな気がする。


「物語の通りというと」

「エラルドがアレハンドロを守り、後ろからバレットが魔王を切ったところにネルスが無力化の薬をかける。最後はアレハンドロとアンネの2人が魔王にとどめを指します」


 王子が魔王に負けそうなところを盾の騎士が命を捨てて守る。

 その隙をついて剣の騎士が魔王を切る。

 本来は王子が、魔王を一時的に弱らせる薬を賢者から預かってかける。

 最終決戦でネルスの出番がなくなるからここは変更しているようだ。


 最後は王子が剣で魔王の胸を貫く。

 乙女ゲームだからアンネも一緒に、となったというところか。

 

 乙女ゲームの割にはアレハンドロとアンネがくっついてるとしか思えない最終決戦だなぁとか、色々ツッコミたいところはある。

 が、まず確認したいことができた。


「それってエラルドは無事なのか?」


 物語中の盾の騎士は、理由は様々だが魔王に寝返る。

 しかし最後は100%王子を守り、その後99%死ぬ。


 シンとラナージュがあっさり殺される世界観ならば、盾の騎士の役割を果たすらしいエラルドも命を落とす可能性が高い。


 自分から裏切るってことはなさそうだから、操られる方向だろうか。だったらそれを跳ね返すような防御魔術をかけとくとか何か対策を考えなければ。


 待て待て、魔王が私なんだとしたらその魔術を解かれる可能性もあるのか。

 それならば私の手から離れても効果がある魔術道具を持ってもらうか?


 エラルド攻略ルートならアンネが洗脳を解くエピソードがありそうだけれど、生憎と今はアレハンドロのルート爆進中だ。

 

 質問の答えを待ちながら、すでに考えを巡らせる私を見下ろしてラナージュは大きな瞳を瞬かせる。

 まつ毛で風が起こせそうなくらいまつ毛長い。


 小さく息を吸い込む音がする。

 返答が怖くて胸が騒ぐ。

 そして、私の質問の意図を完璧に理解した返答がきた。


「それが、特に操られもせず裏切りもせず、アレハンドロのを守った時に負傷すらしませんのよ」

「逆になんでだよ」


 ◇

 

 エラルドに関しては、そこで死んだりなんかしたら物語の流れが断ち切られるし、シンの死が際立たないからからではないかという大人の考察をラナージュはしている。

 本当のところは製作者に聞かないと分からない。


 そして、この魔王討伐最終決戦はメインヒーローであるアレハンドロルートのみで発生するものらしい。

 他のキャラのルートだと、アンネと2人で協力して魔王を倒すんだって。


 2人で倒せるんかい。そういえば2人の愛の力で倒すとか前にも言ってたな。

 アンネは聖女とか特殊能力持ちでもないのに。


 意外と普通に倒せそうな魔王だな。私が乗っ取られる心配が無ければなー。


「魔王を弱らせる薬の作り方を調べるかとりあえず。で、それを持って魔王が封印されてるところに行ってかけてみるとか」

「すでにシンに取り憑いた状態ですが試したことがあります。あれは魔王が実体化してないと飲ませても頭から掛けても意味をなさないんですの」

「試したのかぁ」


 そりゃ確かに、4回も繰り返してたら思いつかないわけがない。

 ちなみに、魔王出現の際に遠くへ逃げておくというのも試したらしいがダメだったらしい。

 物語の引力怖い。


 私はひたすら思いつくことを提案していくことにした。


「じゃあ魔王の封印を強化しにいこう。もし私が乗っ取られたら、抵抗せずに実体化させるから即座に薬をかけてもらうのはどう?」


 私の意識が無くなるのでリスクは大きいが、無力化出来ればチャンスがあるかもしれない。

 何事もなく封印を強化できれば、魔王復活そのものを阻止できる。


「同行者が(わたくし)では、ゲームオーバーが早まる恐れがあるので他の協力者が必要かと」

「うーん」


 確かにラナージュにとっては魔王復活は死に直結の恐れがある。


 しかしながら。

 魔王が封印されている場所があるのでその封印を強化しに行きます。その際、私の身体が魔王に乗っ取られる可能性があるのでそうなったら即この薬を使ってください。


 なんて聞いて「はーい」て言う人いる?

 魔族が最早伝説と化してる世界で?


「病院行きになりそうだな」

「それによく考えたら、一時的に弱体化させてその後どうするかって話になりますわね」

「とりあえず拘束してもらって、成人するまで王都の地下牢に結界張りまくって隔離を」

「それは油断していたら卒業式直前に突破されて大事になるフラグですわ」

「あるあるだな」


 そもそも、「魔王」と称されるような力の持ち主ならすぐに出てきそうだ。


 美男美女が膝枕をしながら真顔であーでもないこーでもないと、淡々と話をしている様子は客観的にはどんな状況に見えるのか。

 ちょっと別のモブになって見てみたいわ。

 話してる内容が変すぎることに気づいて真っ青になりそう。


「魔王の封印場所の特定と薬の用意をしながら考えるか……」

「このまま何もせず平穏に終わってくれたら一番ですけれど、そうしましょう。薬の方は任せてくださいまし。一度作っていますので」


 そういえばラナージュは薬学が得意だった気がする。

 もしかしたら、その薬を作るために努力した結果なのかもしれない。ありがたく任せることにしよう。


 問題は封印場所だ。魔王や魔族に関しては、図書館の本を読み尽くしてしまった気がするが、どうしたものか。

 私は自分の前髪をかき上げる。


「もっと古い文献がある場所はないかな……薬の作り方はどうやって調べた?」

「あれは魔力を強制的に抑える薬なんですの。魔力の制御が効かなかった時などに使用するものです。全ての原動力が魔力にあるらしい魔王には効くはずだ、とゲームのネルスが言ってましたわ」


 パトリシアのように、保持する魔力と魔術の技術が釣り合っていないと暴走してしまうことがある。

 その時に私のように魔術に長けた人間が近くに居ればいいが、いない場合のために作られたものだった。

 特に幼い子どもの場合は死活問題なため、平民にも普及している薬だ。


「それは、作らなくても売ってるんじゃないのか?」

「市販のものよりも強力にするために色々と必要なことがありますのよ。ふふ。こっそり薬を飲み物に混ぜた後、魔術が丸一日使えなかった時のシン。なかなか良かったですわ」

「推しじゃありませんでしたっけ」


 いつも通り美しいはずの笑顔なのに、背中に寒気が走った。

 魔王にまでは効果を及ぼせなくても、シンの体には効果が絶大だったらしい。

 彼は絶望的に慌てふためいたに違いない。


 推しがあたふたしているのを見るのは楽しいけども。


 シンが可哀想だから詳しくは聞かないけども。


 いやもう本当に不憫だからシン・デルフィニウムが幸せになる世界線もほしいよな。

 二次創作で良いから誰か幸せにしてあげてくれ。

 アンネと相思相愛になって魔王からも上手く解放されてっていう感じで。

 

 ん? アンネ?


「あ! しまった!」


 突如声を上げて起き上がった私に、ラナージュの身体が大きく跳ねた。


「き、急にどうなさいましたの!?」

「今日はアレハンドロがアンネにお土産のペンダントを渡すっていうから覗こうと思っていたのに!!」


 ものすごい説明口調で叫んでしまった。

 

 我ながら最低だ。

 

 いやでもちょっとだけ見せてもらうくらいなら許されるかなって。わざわざ宣言されたら見たくなるに決まっている。


「なんでそんな大切なことを忘れていましたの!?」


 恐ろしい剣幕でラナージュが立ち上がって今度は私がびっくりした。


「こんな話をしている場合ではなくてよ! 早く2人を探さなければ!」

「私が言うのもなんだが、命が掛かってる話をしていたんだが!?」


 拳を握りしめて走り出したラナージュを追いかけながら声を上げる。

 一体、どこに行くつもりなのだろう。


 イベント的にココだ! みたいな場所があるのだろうか。

 他に当てがないので追いかけることにした。

 

 恋愛イベントを逃したくないオタクの情熱はすごいなぁ、などと他人事のように思う私であった。



お読みいただきありがとうございます!

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