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20話⑷【街にお出かけ】


「何をしてるんだお前たちは」


『アレハンドロのいる場所に移動を』と魔術転移した先で目に入ったもの。


 捕縛魔術の光の輪で身動き出来ないように捕らえられ、下着のみになっているあざだらけの男が5人。

 その彼らの前に仁王立ちして見下ろすバレット。

 アレハンドロの手を取って頭を下げている老婦人と、老紳士に何か魔術を施しているネルス。


 それを野次馬をしている人たちがわらわら囲んでいる。


 周囲の露店は商品が乗っていたであろう机がひっくり返ったり、テントが落ちていたりと大荒れで散々な状態だ。


 そう、公園で待っていたはずなのに。

 先程アレハンドロと一緒に来ていた露店の並ぶ道に転移した。なんでだよ。


 しかしとにかく、3人とも怪我は無さそうだ。

 エラルドと2人で胸を撫で下ろす。

 

 悩ましい表情で魔術を施していたネルスが私の声に顔を上げ、パッと笑顔になった。


「シン! 良いところに! この方の時計が壊れてしまったんだが、僕では上手く直せなくて……」


 第一声がそれか?


「うんうん、ネルス。分かった。状況説明をしてくれるか?」


 色々言いたい荒ぶる気持ちを抑えて、老紳士が手に持っている懐中時計に手を翳す。

 白い光が時計を包んだ。


 ネルスは基本的な魔術と私が叩き込んだ防御や治癒の魔術は得意だが、時計のような仕組みが複雑なものは直すのが難しかったようだ。


「……詳しい事情はよく分からないんだが……」


 光を見ながらネルスが口を開いた。


 この状況で分からないことがある?

 アレハンドロとバレットは明らかに人と争ったような髪と服の乱れ方してるけど?

 と言いたいのを我慢して耳を傾ける。


 エラルドは、「街の兵士を呼んでくる」と走っていった。

 

 

 ネルスの話では、公園で大人しくベンチに座って待っていた3人の耳に、


「兵士さんに言った方がいいかなぁ」

「いや、でも関わらない方が」


 といった会話が耳に入ったのが発端だったらしい。



「ネルス」

「はい!」


 アレハンドロの合図でネルスが事情を聞きに行くと、どうやら露店の方で揉め事が起こって暴力沙汰になっていると。

 3人は顔を見合わせることもせず、その場所に走り出した。


 バレットとアレハンドロが先に到着し、男5人と大乱闘をしているところに遅れて息切れしたネルスが到着。

 剣は鞘からは抜かず殴ったり露店まで蹴り飛ばしたりと大暴れ中の2人をそのままにして、ネルスは座り込んでいる老夫婦に声を掛けた。


「何が起こったんですか?」

「あの、向かいの店の髪飾りを盗んだのが見えたので声をかけたら、証拠を出せと暴れ出して。うちの店を……」


 答えてくれた老紳士の店は時計屋だ。

 さまざまな持ち歩けるタイプの時計が売ってあるようだが、今は店はぐちゃぐちゃだった。


「2人とも! その男たちの誰かが、髪飾りを隠し持っているはずだ!」


 アレハンドロとバレットはその声を聞いて、ボコボコにした男たちのポケットや上着を漁った。バレットがあっさり金色の髪飾りを発見した。


「これは」


 アレハンドロは手元を見つめて眉を顰めた。

 先程、アクセサリー店で選ばなかった方のピンクのペンダントも、別の男のポケットに入っていたのだ。

 あの店は、可愛らしい包みにアクセサリーを入れてくれていた。さっき買ったものを身につけているならともかく、直接ポケットに入っているのは不自然だ。


「……おそらく他にもあるぞ。バレット、身包みを剥げ」

「盗賊みたいだな」


 で、服を引っぺがした後、ネルスの捕縛魔術で現在の状況になったらしい。


 いや、普通に詳しい事情を知ってるじゃないか。なんでよくわからないことにしようとした。

 さてはちょっと後ろめたかったな?



「なるほどな」


 話が終わると、老夫婦は「本当に助かった」とお礼を言ってくれた。

 が、果たしてそうなのだろうか。


 周囲の露店の被害を見て私は額を抑えた。

 

 3人のしたことは正しい、と思う。だから強く叱ることは出来ないのだが。


「お前たち、やりすぎだ」


 どこから言えば良いんだろう。

 とりあえず、待ってろって言ったのに公園から離れたところからだろうか。

 それともどう考えても被害が甚大すぎるところだろうか。


 いや、それより危険に飛び込んでったところかな。


「お前たちは結果的には良いことをした。それは大前提で言うぞ。頼むから目立つことはするな。危ないから」

「悪事を見逃せと言うのか!」


 ネルスは想定内の反応。横で聞いているアレハンドロとバレットも「俺は説教される覚えはない」って顔に書いてある。

 お前たちは本当に暴れすぎだから少しは反省しろ。


 見逃せとは言ってないんだよ。

 もうちょっと考えて、安全を確保してから行動してねって言ってるんだ。


「良いか3人とも。こういう時はエラルドみたいに、街の兵士などを呼べ。大人を頼れ。危ないから。殴ったりとかしちゃいけない。やり返されたら本当に危ないから」


 ダメだ。言いながら絶対納得させられないのが分かる。

 危ないからって大事なことすぎて何回でも言ってしまうな。


 しかもネルスは剣術大会の日、アレハンドロに助けてもらった上にエラルドに注意されただろうと肩を掴んで揺さぶりたい。


 私の言葉にネルスは、納得出来なさそうな表情をしたが口をつぐんだ。一応、約束を破って危ない事をしたことを反省しているとみえる。


 しかしアレハンドロとバレットには本当に全く響かなかった。


「俺は相手の強さを見極められるから大丈夫だ」

「私はもしバレットが手を出さなくても5人に勝てたぞ」


 二人とも胸を張って自慢げなのなんなん。

 こいつらマジで厄介だな。

 特にアレハンドロ。自分の身分ちゃんと分かってんのかな。

 目立って正体がバレたら良からぬことを考える大人に危害を加えられるかもしれないというのに。


 私はアレハンドロの両肩に手を置いて深緑の瞳を見つめる。

 子どもとお話する時ってこのポーズとっちゃうんだよな。


 ちゃんと聞いてくれるかは別の話だけど。


「アレックス? お前はもう本当に自分でやるなよ? そして目立つなよ? な?」

「もう目立ってるから手遅れかなー」


 兵士を連れてきてくれたエラルドが到着する。そして、周りの野次馬を見渡しながら笑った。

 

 うん、実は私も全く同じことを考えていたよ。


「だいたい、露店をこんなに壊し回ってしまって。誰が直すと思ってるんだ」

「シン」

「他に居ないだろう」

「貴様がいるから多少大丈夫だと判断した」

 

 3人とも、絶大な信頼をありがとう。

 別に私はね、「これ元に戻すの私なんだぞ! 手加減しろ!」て言ってるわけじゃなくてね。

 他人の迷惑も考えて暴れろってね。

 はいはい直します。直しますけども!

 

 ヤケクソで呪文を唱えると時間が巻き戻るかのように露店や商品が元に戻っていく。

 

 周囲の感嘆の声を聞きながら、深く深くため息が出た。



お読みいただきありがとうございます!

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