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19話⑷

 ラナージュの説明によると、ここは「花咲く!ラブストーリー!」という乙女ゲームの世界らしい。


 え? なんて? 花?

 あー、みんなの苗字か。

 そういや花の名前だねぇ。


「花要素それだけじゃないか」


 と言ったら、


「お黙りなさい」


 と言われた。

 好きなゲームに対して揚げ足をとってごめんなさい。

 恋の花が咲くって意味なのかな知らんけど。

 私は乙女ゲームは守備範囲外で、相当有名どころじゃないと分からない。

 だから、知らなかったらしい。

 

 舞台は魔術が使え、魔獣やドラゴンなども生きるヨーロッパ風の異世界のとある学園。

 ストーリーはほぼ学園のみで話は進むという。


 そのゲームのヒロインはアンネ・アルメリア。

 知ってた。それは聞かなくても分かる。


 攻略対象はアレハンドロ、エラルド、ネルス、バレットだそうだ。まぁ分かる。


 私、というかシンはアンネが最初に恋をするキャラクター。

 でも、アンネは最終的に他のキャラクターを好きになるという、完全に当て馬役。かませ犬。

 でも、4人全員をクリアした後に攻略ルートが出現するという。


 ラナージュは、悪役令嬢とやらとは少し違うらしい。

 アレハンドロを攻略中だけは気高いライバル令嬢で、他のルートだと相談役の優しいお嬢様。


 パトリシアは応援したりチュートリアルしてくれるお友達キャラ。なんか分かるー。

 

 学園でのイベントを楽しみながら攻略対象との仲を深めて一緒に卒業してハッピーエンド。

 乙女ゲームを知らなくてもなんとなくイメージできるシナリオだ。

 

 どこに人が死ぬ要素があるのか。


「シンは、幼い頃から魔王の依代にされていますの。ルース王子の物語に出てくるあの魔王です。アンネが他の攻略対象と結ばれることで精神が崩壊し、覚醒してしまうという流れですわ」

「メンタル豆腐かな」

「お黙りなさい」


 やっぱり私は魔王関連で色々あるらしい。

 当て馬令息というより悪役令息なのか?

 どちらにしろそんなキャラ、乙女ゲームにいるの聞いたことないけど。

 

 シンは幼い頃に弟妹を助けるために魔王が封印されている大岩の前で「力が欲しいか」「欲しい」のやりとりをして、封印を解いてしまった。

 魔王の力を使ったのはそれっきりだったが、その力は徐々に体と精神を蝕んでいく。


 そんな時に出会ったアンネという女の子に癒されるも、アンネは他の男を好きになる。

 初めは自分に恋心があったはずなのに、どう頑張ってもこちらを振り向くことはない。

 今まで努力すればなんでも手に入り、いつでも一番だったシンのプライドはボロボロ。


 で、魔王の出番ってわけ。

 シンの体を乗っ取って大暴れ。

 魔王出現の際に偶然そばにいたラナージュを殺し、学園を騒然とさせてしまうと。


 いや、ラナージュ不運で不憫すぎる。


 クライマックスで魔王は、アンネと攻略対象の愛の力に負けて死んでしまう。

 

 待って。


「そういうのって普通、魔王だけ死んで、シンは救われるんじゃないの」

「私もそう思いますわ。でも、製作者は鬼ですの」

「あ、そう」


 ということは、アンネに攻略してもらえば生き残れるかも、と思うじゃん?

 死ぬらしい。


「なんで!?」

「色々あって結局魔王の力が暴走して、最後は正気を取り戻すんですけれど。アンネの腕の中で死にます」


 ラナージュはずっと真顔で淡々と答えてくる。目が達観してしまっている。


「なんで!?」

「製作者が鬼なんです」


 クソゲーか!!

 やったことないから知らんけど!!

 皆、シンルートで生き残ることを期待してたでしょ多分!!

 シン推しで他のキャラ頑張って攻略した人たち可哀想!!


 ていうかルース王子!!

 封印じゃなくて物語みたいにちゃんとトドメ刺しといてよ!!


 いやでも伝承のほとんどで魔王は「生まれ変わって国を滅ぼす」とかなんとか言っていたな。

 そこは話が捻じ曲がってて、本当は「いつか封印を解いてやる」って言ってたのかもしれない。

 どっちにしても私は困る。

 

 色々言いたいことは山ほどあるが、それよりも。


「でもそういうことなら、アレハンドロとライバル関係になってアンネと結ばれようとする必要はないわけだ」

「無駄ですものね」


 無駄な上にすでに手遅れ感がすごいし。

 

 そして、私は1つの疑問を持った。


「私は、力が欲しいかの下りはやった覚えがないんだが。記憶操作をされているのか?」

「いいえ、シンはずっとそのことを覚えていて抱え込んでいますので……そうですか。そのイベントが回避できているなら、きっと、そこが今回の鍵ですわね」


 なるほど。

 そもそも5歳の弟と3歳の妹が2人で森に遊びに行ってしまった時に迷子になってしまい、それを探すためにシンは魔王の封印を解いたという。


 私は一緒に居られる時に5歳児と3歳児を2人だけで遊びに行かせるなんて恐ろしいことは絶対にさせない。

 普段から護衛の人たちや親にまでその辺は口を酸っぱくして伝えていた。

 そのため魔王とのイベントが発生しなかったようだ。


 しかも、弟が産まれてから開発したGPS魔術を弟妹には施している。どこにいるか私にはすぐに調べられるのだ。

 その上、2人に物理的な被害が有れば、1度のみだが自動的に防御の魔術が発動する。

 そして、それが発動すると同時に私はその現場に瞬間移動ができる仕様だ。

 

 切実に持って帰りたい魔術のひとつだった。

 

 つまり、魔王の力を借りる余地が無かったので、出会っていない。


「ということは、魔王は復活していないし今回は覚醒もしようがないな?」

「そういうことになりますわね」


 ラナージュが唇に弧を描いて頷いたので、希望が見えてきた。

 思わずホッとしてしまう。


「勝ったのでは?」

「その発言は死亡フラグでしてよ」


 メタだけど、それは確かにそう。

 口を慎もう。

 

 ラナージュの説明はまだ続いた。


 なんと、ラナージュはこの世界で既に4回死んでしまっていて、今回は5回目のチャレンジなのだという。

 死亡確実のライバル令嬢に異世界転移した上にループ物とは。辛い。

 

 あと、とても重要な情報なのだが。

 この世界で死ぬとまた一番初めのフワフワ空間に戻り、あのイケメンと話し、最初からやり直しになるらしい。


「聞いてない」

「聞かないと答えてくれませんの」

「お役所仕事か」


 マジでBL漫画を書き散らしてやろうかあの野郎。

 

 ただ、聞いたところ私とラナージュでは状況が違うので一概にルールが同じかは分からない。

 死んでも大丈夫!なんて油断は禁物だ。

 

 ラナージュは初めから、この学園の舞台がスタートだった。

 つまり、目が覚めたらいきなり入学式だったということだ。

 大好きでやり込んだゲームだったから良かったものの、1回目は相当戸惑ったらしい。


 3年を4回、プラス今回の1年目を1回で計13年この世界にいる。

 魔王とシンの接触を阻もうにも学園生活の3年をループする兼ね合いで不可能だったようだ。

 

 しかし今回。

 明らかに今までとは様子が違うシン・デルフィニウムが入学してきた。

 お取り巻きに囲まれていないし、皇太子に喧嘩を売るし、魔術以外は一番にはならない。

 ていうか、なれないんだわ。


「何よりシンはネルスに抱きついたりしませんわ」

「もしかして、入学式の日に見ていたのは」

「私ですわ。時が止まったかと思いましてよ」


 なるほど。

 あの時はやっぱり聞かれていたのか。

 そして全く噂になったりしなかったのはそのせいだったのか。聞かれた相手がラナージュで良かった。

 他の人だったら皆の記憶を消して回るという面倒なことをしなければならなかったかもしれない。

 

 人格の変わり方が自分と重なる部分があったらしい。

 本当はすぐにでも私に確認したかったが、確証が持てなかったという。

 何故なら、ネルスもゲームとは様子が違ったからだ。


「ネルスは、人嫌いの卑屈キャラです。いつも親戚のシンの日陰となっていて自己肯定感も低くて『僕なんか』が口癖のような子」

「誰それ」

「ネルス・クリサンセマムのキャラ設定ですわ」


 おそらく、私との関係性が違いすぎるせいで性格も別人になってしまったのだ。

 めちゃくちゃ可愛がったからな。勉強もネルスの方が出来るし。


 私とネルス、どちらかが今回の鍵になると踏んで観察していたのだとか。

 観察されてたのか。


「1年間見てきて、まぁ貴方でしょうと。ネルスの性格設定はシンの在り方に影響されていますが、シンはネルスの性格が明るくてもここまで変わらないでしょうし」

「なるほど」


 それが大正解だったわけだ。

 

 ラナージュは上品な所作で立ち上がる。

 そして、私の前に手を差し出した。

 キラキラとした紅い瞳が私を映す。


「貴方と協力し合って、今度こそ生き残りますわ」

「よし、生き残りたいのは私も同じだ」


 出された手をしっかりと握る。

 何だこの光景。

 

 私にとって最悪で高難易度なストーリーであることを知ってしまった絶望感が押し寄せてくるが、先に知れて良かったと思うべきだろう。

 この世界観のゲームをやり込んだ協力者まで出来て万々歳だった。

 

「でも、具体的にはどうしたらいいんだ?」

「それが分かれば私はとっくに帰ってますのよ」

 

 ですよねー! 



お読みいただきありがとうございました!

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すでにしていただいている方、本当にありがとうございます!

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