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18話⑴【剣術大会】

※拙いですが戦闘シーンがあります。流血はありませんが、苦手な方はお気をつけください。



 

 剣術大会2日目。

 今日は準決勝が午前中、決勝が午後にある。

 

 今の控室にはバレット、エラルド、マヘイダ、リルドット、そして私の5人しかいない。


 部屋の空気は意外と和やかで。


 エラルドとバレットは2人で腕を引っ張りあったりして準備運動中だ。仲良しだなぁ。

 リルドットとマヘイダは椅子に座って、剣を見ながら何か話している。アドバイスをしているのか、それとも剣に関する専門的な話しなのか。


 私は1人でテーブルの端っこの席につき、その様子を眺めていた。

 おそらく全員、朝から体を動かしてきているはずだ。

 だから本当は私が一番準備運動をしないといけない。


 しかし、意外とね。

 ある程度体がほぐれてたら大丈夫なんだ。

 会場までまぁまぁの距離を歩いてきてるしね。

 若い体って素晴らしい。

 

 この状況あれだなぁ。

 騎士カップル2組、余り1。


 あれ、私余り?こんなに美形なのに余りか。

 中身が私だから仕方ないな。世は無情。


 などと、背中合わせになって担ぎ合いをしているエラルドとバレットをぼんやりと凝視する。

 ぼんやりと凝視とは。


 あれ、体格差あると大変なんだよな。2人は体格が似ているから丁度いいね。楽しそうだね。


 そういえば、昨日の夕方にリルドットとマヘイダの会話に巻き込まれていたせいで、あの後2人がどうしていたのか気になって仕方がない。


 おそらくリルドットは寮の来賓部屋に泊まっているのだろう。でも、もしかしてマヘイダのお部屋でもう少しお喋りしたりしてたんじゃないかと思ったりして。

 おしゃべりどころかあんなことやこんなことをしたりしなかったり。

 BL小説なら試合後の昂った身体がどうとかこうとかで絶対に1戦やってるわ。


 そういうことを妄想しながら寝たので、私の頭は今も割とハッピーな状態だった。

 というか、そういうことを考えていないとここに座っていられない。

 

 正直、帰りたい。

 棄権して帰りたい。

 帰りたい病がきている。

 朝起きた時から帰りたかった。

 

 まさか本当にエラルドと当たることになるとは。

 別に殺し合いをするわけではない。

 試合だ。あくまで、試合。

 必要以上に怖がる必要はない。


 しかし、怖いのももちろんあるが、やりにくい。友人と試合をする、というのがやりにくいのだ。

 もしも怪我をさせたらと思うとゾッとする。

 

 私は机に頬杖をついて溜息を吐いた。


「シン? 大丈夫か?」


 私の様子に気づいてくれたらしい。エラルドの声に顔を上げる。


「ああ、なんでも……!」


 触れ合いそうなほど近くに顔があった。

 ガタンッと椅子が鳴る。

 そのまま後ろに転倒するところだった。


 いつも思うんだけど!

 パーソナルスペースって知ってるかな!?


「エラルド、近い近い」


 さっきまでバレットといちゃつ、いや、準備運動をしていたのにいつの間にこんなに近くに居たんだろう。

 私は自分が思っていたより、帰りたい帰りたいイヤイヤ期に深く突入していたようだ。


 エラルドは軽く笑うと、私を覗き込んでいた体を起こす。

 私はおもむろに机に肘をつき、両手の指を組む。

 真面目な顔を作って黄色い瞳を見上げた。


「エラルド。知っているかもしれないんだが。実は、私は棄権したいんだが……」

「うん、シン。知ってるかもしれないけど、ダメだよ?」


 真っ直ぐに見つめ返され、輝く笑顔で即却下された。

 酷い。


「私はもう充分頑張ったと」

「もし、棄権したり手加減してワザと負けたら絶交だからなー!」


 エラルドは明るいトーンで、私の肩にポンっと手を置く。

 

 いや、絶交って。

 子どもはすぐそういうこと言うんだから。

 すぐ絶交するって言うんだから。

 私もなんか、軽ーい気持ちで言ってたわ。


 エラルドからそんな言葉が出てくるなんて意外過ぎてびっくりだ。

 笑ってしまいそうだ。

 絶交。

 でも、言ってるその時は本気でそう思って言うんだよねぇ。


「……ぜっこう……」


 私は改めてその言葉を復唱する。

 我ながら消え入りそうな声が出た。

 

 本気で頑張ったら絶交されないということでよろしいか。


「シン、大丈夫か?」

「死にそうな顔で固まっちまったな。」

「デルフィニウム様、しっかりしてください。エラルド、訂正しろ」

「え、え、シン? そんなに? 本気でやろうねってだけのことだぞ?」


 みんなが心配して私の周りに集まってくる。

 そんなに絶望的な顔をしているのだろうか。

 ちょっと鏡が無いから分からないな。


「ぜっこう」


 同じ言葉を繰り返すだけの私の両頬を誰かが掴んだ。


「シン! ごめんごめん! あんまり深い意味はないから!」


 エラルドだ。

 私は手を伸ばすと、強く頬を掴み返した。

 出来るだけドスの効いた声を意識的に出す。


「この世には。気軽に言って良い言葉と良くない言葉があります。さっきのは?」

「良くない言葉です」


 真面目に即答したエラルド。

 

 私たちの様子を見ていたリルドットが耐えきれずに爆笑し始めた。

 それに釣られてエラルドも私も笑う。

 

 

 危ない!

 子どもの軽口に、一瞬だけ!

 一瞬!だけ!

 本気でダメージを受けてしまっていた!!

 

 

 手を抜いたら何の宣告もなく本当に絶交されそうだから本気で頑張ろう。

 

 

 ◇

 

 

 冷たい空気が頬を擽る。

 呼吸に合わせて白い息が舞う。

 

 それにもかかわらず、空間は熱気に包まれていた。

 

 お互いが名前を呼ばれて中央に進むと、黄色い瞳が微笑んだ。

 最高に格好いい、私の友人。


「手加減、しないからね?」


 剣を構えながら、この場の空気に似合わない優しい声。

 私は、ようやく吹っ切れた。

 なるようになるさ。

 剣を片手で持ち上げ、切っ先をエラルドに向けた。


「私はお前の顔が大好きだけど、傷が付いても男前が上がると思っているから気をつけてくれ」


 挑戦的に口角を上げて答えると、エラルドの目が楽しげにキラリと輝く。

 

 本当に傷をつけてしまったら。

 慌てふためいて治癒の魔術を使い、失格になる自分が目に浮かぶようだ。


「始め!!」


 互いが同時に地を蹴る。

 

 一太刀目は強く剣がぶつかり合った。

 ギラついた瞳と間近で睨み合う。

 普段の穏やかな表情とは別人だ。

 競り合いながら、感じた。

 

 ああ、これは。

 

 勝てないわ。

 

 そう思った瞬間、体が強い力に押されて後方に飛んだ。

 アレハンドロがバレットに壁まで吹っ飛ばされたってこれか。

 イキったのにカッコ悪い。

 

 しかし、あっさり負けたら推しに絶交されるかもなので。

 

 私は剣を地面に突き刺す。

 後方へ飛ぶ体の勢いを殺す。

 足を開いて地面にしっかりつける。

 ザザザザと土を滑る感覚が足の裏に響いた。

 砂埃が舞う。

 

 これ、戦闘するならやってみたかったやつのひとつ。

 そして、体が止まったところで顔を上げると。

 

(ですよね!!)

 

 砂埃が晴れる前に突入してくるエラルド。

 避ける間もなく再び剣を受ける。

 

 奥歯を噛み締めて弾き返す。

 が、何度弾いても重い剣が襲ってくる。

 振動が骨にくる。

 剣を持つ手が痛い。

 

 どいつもこいつもゴリラばっかり!!!!!

 多分、今回の大会で私が一番非力だこれ!!!!!

 

 なんとか切り抜け、上に高く跳ぶ。

 空中で前転してエラルドの背後に周る。

 

 はずが。

 

 即座に振り返ったエラルドが、私に向かって剣を振り上げた。

 反応が早すぎるから。

 上に跳んだ私を目で追うこともしなかった。

 

 バトル漫画でよく見る通り、空中では逃げ場はない。

 ならば、と落ちる勢いに乗ってこちらも剣を振りかぶる。

 剣と剣がぶつかり合ったその瞬間。

 

 バキンッ!

 

 エラルドの剣が折れた。

 

(えっ!勝っ……)

 

 着地の直後。

 何かを考える間もなく。

 息さえする暇もなく。

 

 

 私は異世界転生トラックに轢かれたわけでもないし、幸い交通事故にもあったことはないが。

 きっとこのくらい、何が起こったか分からないんだろう。

 

 背中への衝撃と共に。

 私の剣が私の首元に迫っていた。

 

「そこまで!」

 

 冷たい剣身が喉仏に当たっている。

 剣は私が持ったままだ。

 背中が地面に着いている。

 視界に入るのは雲の少ない青い空。

 そしてもうひとつ。

 

 逆光の中で光る獰猛な黄色。

 

 

 

(こ…っ)

 

 

 殺されたかと思ったぁああああ!!!!!!




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