17話⑶【剣術大会】
※拙いながら戦闘描写があります。
怪我や出血はありませんが、苦手な方はご注意ください。
剣術大会は2日間に渡って開催される。
1日目は1回戦と2回戦。
2日目が準決勝と決勝だ。
2回戦は昼食後になるため、しばらく自由時間が出来た。
ずっと控室にいるのも窮屈なので、私は両親の元へ顔を見せにいくことにした。
皇太子の代わりに出場して、1回戦で敗退という残念な結果にならずホッとしていることだろう。
心配もさせたことだろうし。
と、軽い気持ちで行ったのだが。
ひたすらベタ褒めされた。
それはもう誉められまくった。
親バカだなぁと思っていたら、周りにいたお貴族さまたちにもすごい褒められた。
これは、普通に恥ずかしいな。
努力の成果じゃないから余計に。
そして残念ながら、かわいいかわいい弟と妹の姿はなかった。
エラルドも、弟は来ていないと言っていた。
会ってみたかったのに。絶対に可愛い。
貴族は家族が怪我をするかもしれないこういった大会に、子どもは連れてこないことが多い。
トラウマになるかもしれないからだという。
それはそうだよね。
逆に騎士の家では出場者の家族でなくとも、可能であれば小さい子が観に来るのだ。
先程も3歳くらいの子が出場者に駆け寄っていくのを見た。
とても年が離れた兄弟なのか親戚の子なのか。
関係性は知らないが、ほっぺがぷにっとしたシルエットだったし伸ばしたおててがぽむぽむだった。かわいい。
かわいいかわいいかわゆい羨ましい。
まだ真剣を持たせてもらえないような年の子を連れてくるのは、やはり勉強させるというのが第一の理由だろうと思っていたのだが。
リルドットが言うには、家族が大怪我したことで戦うのを怖がるようになる子は騎士適性がないからやめておけという意味合いも強いらしい。
「そんなまともな神経してるんだったら、勉強して普通の仕事した方がいいからな。よく分からん内から観てたら、物心つく頃には感覚が麻痺してることも多いから……それも狙いだな」
とのことだ。
待ってそれ一種のぎゃくた、いや、色々な価値観や倫理観があるんだなぁ。
サラッと自分も含めて、騎士はまともな神経してないって言ったようなもんだし。
私には騎士適性とやらは皆無だろうな。
そもそも、常識を培った世界が違うからなー貴族で良かったーなどと考えながら、他の試合も観るらしい両親とは一旦離れる。
しかし、特にすることはなかった。
エラルドもバレットも家族のところに行ってしまったし、アレハンドロは皇太子としての仕事中だ。
ネルスやアンネたちなら、2回戦が始まるまで相手をしてくれるかなと思い当たって探すことにした。
1人で居ると、また緊張をぶり返しそうだし試合イヤイヤ期が始まる気がした。
ちょっと格好つけてピシッとしていられる相手が欲しい。
◇
「シンさま!」
中庭に出ると、ベンチに座ったアンネに出会った。
私を見るなり駆け寄ってきて、1回戦かっこよかったです! と言ってくれる。かわいい。
ありがとう!と抱き締めたいのを堪えて微笑みかけるだけにした。
ほらやっぱり。格好つける相手が居ると逆に楽だ。
寒いから居ない可能性が高いがとりあえず、で来たというのにいきなり当たりとはついている。
ふと見ると、アンネが座っていた場所の隣には、髪の短い人が座っていた。
私はその人の顔を見て目を丸くしてしまう。
「あれ、2人は知り合いだったのか?」
そこにいたのは、16人の出場者の中で唯一の女子生徒。
3年生のジル・ギガンチウムだ。
濃い紫色の癖の無い髪を耳元も後ろも刈り上げたベリーショートと、左頬に三本の大きな傷があるのが印象的な女の子である。
瞳は髪よりも淡い紫、凛々しく中性的で綺麗な顔をしている。
初めて会場で見た時は、
「かっっこい――! 居るよね! 要るよね! やっぱり1人は女騎士いるよねー!! 一番かっこいいー!! 不謹慎だけど、お顔の傷が敢えて女の子にあるの良きー!!」
と声に出して言って、はないが。言いたかった。
誰かに同意を求めたかった。
推しのイケメンとは別腹ですね強い女はね。
彼女は私を見ると涼しげな微笑みで立ち上がった。
私と同じくらいの身長だ。
「デルフィニウム様。先程はお見事でした」
胸に手を当てて腰を折る礼をとられる。
手を振って恐縮しそうになるが、手足に力を込めてグッと堪える。
「ありがとうございます。ギガンチウム先輩も、圧倒的でした。あの、気にせずに他の後輩の皆さんに接するようにしてください」
控室で他の生徒と話していた時と随分違う。相手を見てきっちり分けて対応しているんだろう。
大人には必要なことだ。
しかし、彼女にとってはあと数ヶ月の学生生活だし、ちょっとくらい崩して良いのではないかと思う。
いや嘘。
自然体の喋り方の彼女の方が、私の好みなだけ。
「いえ、しかし」
「同級生も皆、私にはそうしてくれています」
にっこりと言い切ったものの。
「そう……か?」
先程から私に敬語を話すアンネの方を戸惑ったように見ている。
しまった。
そういえば男子は砕けた喋り方をしてくれるけど、女の子たちはだいたい敬語で会話するんだった。
お嬢様言葉は敬語に分類しないか?わからん。
「よし、アンネ。今から私への敬語は禁止にしよう」
「えええ!?」
まさかの流れ弾にアンネが仰天する。
ジルも目を丸くした。
唐突すぎたか。
しかし、1年くらい仲良くした同級生だし良いじゃないか。
「し、シシシンさま!!そんなの!」
「あははは!成る程。アンネがそうするなら私もそうしよう!」
拳を握りしめて抗議しようとするアンネの慌てぶりを見て、ジルが快活に笑った。
「ジルさま!?」
アンネがムンクの叫びのように頬に手を当てる。
「頑張れアンネ。敬称をつけるよりシンの方が呼びやすいだろう?」
「呼び方もですか!?」
「アンネ、デルフィニウム様には敬語禁止じゃなかったか? お前がちゃんとしないと私も他の後輩にするようには出来ないな」
困っている様子が可愛くて突っつくと、ジルが面白げに乗ってきた。
他の人との会話を離れて聞いた時に想像していたより、砕けた性格の人なのかもしれない。
アンネはあー、とか、うー、とか言いながら上を向いたり下を向いたりと落ち着かない。
しかしそうしながらも、ピタリと止まって口を開いた。
「し、シン……!……さん……」
お決まり通り、小声で敬称が付け足される。
これで許してあげようか。
「それは敬称をつけていないとは言わないな」
からかいがいのあるおもちゃを見つけたお姉さんは、許さないらしい。
アンネは困り果て、眉を下げて上目遣いでこちらを見る。
かわいい。
「シン、くん?」
その呼び方は大人以外にされないな、そういえば。新鮮で良いかもしれない。
「そこまで言ったなら、もう一息だアンネ」
お姉さまは納得なさらないらしい。
これはある意味すごく真面目なのかな。
アンネは顔を真っ赤にしてプルプルしている。
そんなにならなくても。
そのくらい、切り替えるのが大変なのか。それとも単に恥ずかしいのか。
アンネは大きく息を吸うと、真剣な顔で私を見上げた。
「シン! って、呼んで、いいです……かな?」
良いですかな。
「い、良いです、よ……!」
思わず口元を抑えて笑ってしまった。
ジルは「良く出来たな!」と頭を撫でて褒めている。
なんだこれ。
こういうベタなの楽しいよなー。
と、ひとしきり楽しんでから私は思った。
ミスった。
これはヤバいのでは。
このイベントは。
アレハンドロがやるはずのやつじゃないか。
◇
アンネとジルが出会ったのは、特待生の入試の時のことらしい。
この広い学園内で、アンネが入試会場まで行く途中で迷ってしまったのを助けてくれたのだとか。
「他にもっと声を掛けやすそうな女子生徒がいるのに、わざわざ私に突撃してきたのが面白かった」
とジルは笑っていた。
アンネは必死すぎて、あまり相手を見ていなかったらしいけれど。
そして、このジル・ギガンチウムは私の2回戦の相手である。
「手加減は無用だぞ、デルフィニウム」
と、差し出された手を握ったのが数時間前。
今、彼女の剣が私を襲っている。
長身といえども女子生徒。
筋肉量は元々男子とは違う。
きっと、優れた技術で勝ち残って来たのだ。
と、予想していたのだがこれは。
剣の切っ先が真っ直ぐ向かってきた。
私は横に跳んで刃を避ける。
鈍い音が響いた。
目線をやると、背後にあった壁に彼女の剣が突き刺さっている。
剣の根元まで、石の壁に突き刺さっていた。
(女子力カッコ物理!!)
女子力(物理)。
当然、技術力も優れている。
しかし、パワーが想定以上過ぎる。
人間の力じゃないよね?
不可能じゃない?
パラパラと落ちる石のカケラを見て、乾いた笑いが漏れる。
しかも、その剣は直ぐに、何でもなかったかの様に引き抜かれた。
(何でだよ!!)
私はすぐに走って距離をとる。
手加減など出来るはずもない。
気を抜いたら潰される。
何で1回戦も2回戦もパワータイプなんだ。
普通、趣旨を変えてくるだろう!
それともこのくらいが騎士階級の平均なのか。
「デルフィニウム!逃げてばかりでは試合にならないぞ!!」
追いかけてくる声が怖い。
(もう降参したいー!)
内心では半泣きになりながら、振り返って剣を交える。
金属音が連続する。
一撃一撃が重い。
地面に沈められそうだ。
しかし。
何故か分かるのだ。
この試合、勝てる。
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