10話⑶
家に帰る準備が終わって、さぁ行こう!と思った時。
ドンドンドンドン!
ドアをノックされた。
というか、私の部屋のドアを乱暴に叩く音がする。
嫌な予感しかしない。
居留守をしたい。
ドンドンドンドドンドンドドンドドド!!
止まっている内に激しくなるドンドン。
私は荷物を一旦床に置いて、ドアに近づいていった。
大きく息を吐き、そして吸う。
険しい顔を作る。
「もう帰るんだが」
ドアを少しだけ開けて目だけ外に覗かせながら低い声で言うと、その瞬間、手がドアを掴んだ。
絶対に閉めさせないという気迫を感じる勢いだった。
「デルフィニウムー!助けてくれ!!殿下が!!」
「絶対やだ」
必死の声に、これはもう避けられないと察しつつもドアを閉めようとする動作だけはしておく。
トラブルはごめんすぎる。やっと帰れるのに。
しかもアレハンドロだと?面倒なことになっているに決まっている。
しかしドアを閉めると半泣きでしがみつく生徒の指を挟むことになってしまう。
だから結局、断る形だけになっている。
「見捨てないでくれー!頼む!!先に謝っておくから!!」
先に謝っておくの意味がわからない。
よく見たらいつもアレハンドロといるお取り巻き君の1人だ。
「人の命に関わることでなければ本人に解決させろ。元々お前たちの皇太子殿下だろなんとかしろ」
開けようと一生懸命ドアを引っ張っるお取り巻きAくんが声を張り上げた。
「命に関わる!!バカが殿下の逆鱗に触れた!!ユリオプスとアコニツムも暴れそうだあわぁ!!」
私が思わずドアから手を離してしまったのでAくんが軽く飛んで尻餅をついた。
「緊急事態な上に異常事態じゃないか!アレハンドロよりエラルドが怒っている方を優先的に伝えろ!!」
普通逆なのだが、マシになったとはいえ怒りの沸点がとてつもなく低いアレハンドロと、罵倒されても笑っていられる心の広い中身までイケメンのエラルドでは受ける印象が全然違う。
一体何をしたらあの恐ろしいまでに温和なエラルドが暴れ出しそうになるんだ。
バレットは。怒りで暴れ出しそうなのか、もう殴って解決したろって気持ちなのかが事情を聞かないと分からないな。
私は現場へと走りながら、これまでで一番やばいドタバタ劇場かもしれないと頭を抱える思いで事情を聞いた。
◇
ことの発端は、2人のバカがエラルドに私の悪口を言ってからかったことだそうだ。
それが原因なのによく私に助けを求めたな。私をなんだと思っているんだ。
エラルドは初めは言い返しもせず笑いもせず聞いていた。その時点で普通に怖いけども。
ただ言葉を受け止めているように見えたエラルドだったが、最後の一言を聞いた瞬間、床を蹴り拳を握りしめてバカに向かって腕を振り上げた。
それとほぼ同じタイミングでバレットも飛び出した。いやどっから出てきたお前。
「エラルド、バレット!止まれ!!」
2人の背後から辺り一体に響き渡る強制力のある声。
そのアレハンドロの声に反応した2人はピタッと止まった。
顔面にグーパンがキマる直前だったそうだ。よく止まれたな。
そしてアレハンドロ。お前もどっから出てきた。
「その者達の親は陛下と政の中枢を担う上級貴族。先に手を出したら、私は友人2人を裁かなければならなくなる。だが……」
アレハンドロは大股で歩いて近づいていくと、恐怖で固まっている2人の生徒の前に立ちはだかった。
そして腕を振りかざす。
空を切り裂き耳に響く音が鳴った。
すぐ近くにあったガラス窓を左拳で叩き割ったのだ。
「私が指示を出した後ならば、何をしても許される」
ガラスがアレハンドロの足元に落ちていった。
◇
「いや許されないだろ」
話を聞きながら思わず突っ込んだ。
ガラスを割った!
物に当たる悪い癖!
絶対に怪我をしているはずだそっちもバカだ。
「一体何を言ったらそこまでのことになるんだ」
「と、とても本人には言えない……!」
真っ青な顔でAくんは首を振る。どんなだよ。
本当になんで言われた本人に助けを求めた。
「すごく救いようのないことを言ってしまった奴らなんだけど、あんなでも友だちなんだ!助けてくれ!」
「お付き合いを考え直した方がいいぞエラルドを怒らせるくらいだし……ご愁傷様だ。」
「そんなこと言わないでくれー!」
何を言われたのか知らないけれど、私には「許す」以外の選択肢しかなさそうなんだが。
なんでだよ。
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