7話⑴
ここは寮への帰り道。
私はエラルド、ネルスとアホなじゃれ合いをしていたところを皇太子の婚約者で才女と名高くてすごく美人のラナージュと、ついさっきエラルドとの稽古試合で見事勝利したワイルド系イケメン剣術使いのバレットに見られてしまった。
本当の15歳だったら私、恥ずかしすぎて泣いて逃げてるわ。
しかし今は、当時の自分はやった覚えはないけど、15歳なんてそんなもんでしょという鋼の精神力があるので平気だ。
それよりもどうして2人が一緒にいるのかという方がとても気になる。
知り合い?知り合い?
騎士見習い君とお嬢様が幼なじみで、貴方を守るために強くなります的なそういうご関係?
怪我をした時にお嬢様の綺麗なハンカチで手当してくれたりして?
身分違いの恋?
「わたくしを連れて、遠くへ連れて行ってはくれませんの?」
「全てを捨てる覚悟がお有りなら……」
みたいなそういうの見たことあるようなないような。
だとしたらアレハンドロを手放しで応援出来るんだけども。
片や皇太子と平民の少女、片や騎士と皇太子の婚約者のお嬢様。
うんうん、身分差良いよね。
2人が並んで歩いていただけでここまで妄想を展開出来るのは我ながらドン引きだ。
でもそういうのが好きなんだから仕方がない。
正直にいうと、私の命は貴方のものですな騎士がアレハンドロの幼なじみに欲しかった。
それが一番好き。BLでもブロマンスでも良い。
姫と騎士、王子と騎士は鉄板だよね。
「皆さま、仲が良くていらっしゃるのね?」
口元に手を添えて微笑まれてしまった。
いやこれ嘲笑われてるのか?
どっちか分からないが笑顔を返しているネルスがすっごいこっちに怒りのオーラを向けてきているのは確か。
いや始めたのは私だけど、2人もノッてきてたから絶対私だけのせいじゃない。
「女子寮反対側なのに一緒にいるなんて、2人も仲が良いんだな?」
立ち上がったエラルドが砂埃を払いながらラナージュとバレットを見比べた。
直後にネルスが思いっきりその足を踏み付けたのを私は見逃さなかった。
うん、よくそこに触れたなエラルド。
勇気がありすぎる。
踏まれても痛いとは言わなかったが、固まったエラルドの背中の砂をパタパタと払ってやる。
「仲良しと言ってよろしいのかしら……お話するのは2度目ですの」
「さっき偶然会って声をかけられただけだ。」
(なーんだつまらん)
私の妄想は早くも打ち砕かれてしまった。
ネルスが隣でホッとしているのが空気で伝わる。
私と同じ、ではないとは思うが。
2人の間に何かあるのかと勘ぐってしまっていたようだ。
普通に考えたら2人で歩くくらい男女の友人でもあることなのだけど。
ついつい付き合ってるのかな、とか思ってしまう。
いや、果たしてよくあることだろうか?
私がこの年の頃は無かったな。まぁいい。
「男子寮にはアレハンドロに用事で?」
私はそう聞いてはみたものの。
もしそうであれば、アレハンドロはおそらくまだ食堂でアンネとデート中なので部屋にはいない。
場所を教えるわけにもいかない。
どうしよう、と頭を悩ませた。
ラナージュは首を横に振ってから、こちらを真っ直ぐ見た。
「いえ、実は丁度あなた方4人にお願いがあってこちらに来たんですわ」
丁度良すぎでは。
しかし心配事はなくなった。
「お願い、ですか?」
ネルスが先を促すように復唱する。
「ええ。来週末に1年生の懇親会を兼ねた舞踏会があるのはご存知でしょう?」
そういえばあるって母親が言っていた気がする。
そのために服を用意して持たされていたのに、すっかり記憶から抜け落ちていた。
懇親会を兼ねた舞踏会とは。
そのまんまなのだが。
1年生のみで行われる、これから3年間同級生としてよろしくねのパーティーだ。
皆んながドレスアップして会場に集まり、ペアでダンスしたりご飯食べたりおしゃべりしたり恋に落ちたりするぞ!
「あなた方、どなたかアンネをエスコートしてくださらない?」
アンネって。
私が知るアンネは1人しかいないんだがそのアンネでいいんだろうか。
社交会のテーマにもよるが、通常そういった場には男女のペアで行く。
夫婦、もしくは恋人同士で行くのが一般的だ。
しかし、親に連れられて来ている社交会にデビューしたての我々のような子どもは除く。
だからあんまり長い間1人で参加していると「寂しいお1人様」ってなるし、相手がころころ変わると「遊び人」となる。
いや、後者は本当にそうなんだと思うけど。
だが、今回のような場合は学生の親睦会だし、みんな友だちと来て良い人いたらダンスしよーって感じかと思っていた。
まさか違うのか。
父も母も執事もメイドも教えてくれなかったけど!?
大事だぞそこ!
「アンネ……?アンネ・アルメリアでよろしいですか?」
ネルスも他に「アンネ」を知らなかったようで、遠慮がちに質問する。
ラナージュは今度は頷いた。
私を含む4人の顔には「なんで?」と書いてあるだろう。
「アンネとわたくしは、とても良い友人なんです。パートナーが居ないということなので、少しでもお手伝いをと思ったんですわ」
ですわじゃなくて。
そこじゃないそこじゃ。
いやそこもなんだけど。
そんなお節介しなくて大丈夫だろうと言いたいが、人によるので言葉を飲み込む。
「なんで俺たちなんだ? アンネと仲がいいからか?」
まずはエラルドが疑問をそのまま口に出した。
私もつられて口を開く。
「ん? バレットも仲がいいのか?」
ずっと動かずに立っている無表情くんに目線をやると、首を傾げている。
「何回かしか話したことはないな。」
バレットとしては、仲が良いというほどの関係ではないということだろう。
全員の話を聞いていたネルスが、改めてラナージュを見た。
「なんで僕たちなんです?」
ゆったりと瞬きをした後、浮世離れした楽しそうな笑顔が私たちを見た。
「あなた方がアンネと運命的な出会いをされているからですわ」
才女って噂だったけどどうなんだ実際は。
いったい何を言っているんだこのお嬢様。
4つのポカン顔を眺めながら、にっこりとラナージュは笑みを深める。
こほん、と一度咳払いをして、1人ずつ説明し始めた。
「まず、皆さんご存知の入学式のこと。デルフィニウム様はまるで物語の王子様のようにアンネを庇ってお救いになったでしょう?」
「私の主観では王子というよりは魔法使いなんだが……」
アンネとアレハンドロの今の感じを見ると、完全に脇役のサポーターだ。
もしくはかませ犬だかませ犬。
運命的と言われたら、ある意味そうなのかもしれない。
「クリサンセマム様はアンネと毎日図書館で会うのだとか。読みたい本が同じなことが多く、本をとる指先が触れ合うことがよくあるとアンネが言っていましたわ」
「え、いや……ま、まぁ……」
私の知らない間に、BLフラグだけじゃなくて少女漫画フラグまで立ててたのかネルス。
さすが黒髪吊り目の美少年。
汎用性が違う。
本人は改めて他人に指摘されて戸惑っている。かわいい。
「アコニツム様は前の週末、街でアンネが強引な方に声をかけられて困っているところを助けてくださったとか」
「声をかけていたんじゃなくて連れ去ろうとしていたぞ。どう見ても堅気じゃなかった。助けられた本人は気づいていなかったがな」
アンネはトラブル吸引機か何かなのか。
かわいそうに。
本人が強引なナンパだと勘違いしていたのは救いかもしれない。
ちょっとその話を詳しく聞きたい。
「ユリオプス様はアンネの落としたハンカチを拾われて」
(それは最早、古典……!)
「渡そうとしたところに現れた子猫がハンカチを咥えて窓から逃げて木に飛び移ったのに降りられなくなってしまったのを同じように窓から木に飛び移って降ろしてくださって、ハンカチも取り返してくださったとか」
なんて?
「あの灰色子猫ちゃん、降りれないなら高いところに行かないことを覚えた方がいいよなー」
灰色ってもしかして入学式のあの子猫ちゃんか!
おばかちゃんなのか!
それともアンネのためのフラグ製造機なのか!
「ね? 皆さま、アンネと素晴らしいご縁がおありでしょう?」
(おありだな。1人1人、詳しく聞きたいその場面見たかった――)
やっていいなら記憶を覗き見したい。
私は納得しました、という笑顔を向けながら心の中では頭を抱えていた。
みんなの少女漫画みたいなシーン見たい――!
そして、相手を探すのをすっっっかり忘れていた。
というか知らなかったが、そういうことならアンネと組みたい。
アレハンドロに嫌な顔をされそうだが、何を隠そう私はアンネ以外の女子とほぼ会話をしたことがない。
避けられているのもあるが、そもそもわざわざ話しかけることもない。
決めるのはアンネだが、とりあえず声をかける優先権を貰ってしまおう。
「それなら」
「僕は元々、アンネを誘うつもりでいました。彼女が良ければ……」
私は即座に口を結んで隣を凝視する。
まさかのネルスが!誘うつもりだったとは!
「まぁ! そうでしたの!」
ラナージュは嬉しそうに手を合わせた。
「では、是非明日にでもお声掛けしてあげてくださいませ。よろしくお願いしますわね?」
念を押すようにネルスの手を両手でぎゅっと握る。
美女を間近で浴びたネルスは真っ赤になって固まってしまった。
美人は身内で見慣れてるはずだけど、やっぱ家族じゃ耐性つかないよね。
いや美醜関係ないか異性だからか。
そして、本当にそれだけの用事だったらしいラナージュは、ごきげんようと手を振って行ってしまった。
なんだったんだ。
想像していたより、夢見る乙女な愉快なお嬢様だったのか。
「ネルス、アンネを誘うつもりだったのか」
ラナージュの姿が見えなくなると、エラルドが後頭部で手を組みながらネルスを見下ろした。
「他にまともに話せる女子生徒がいないんだ。アンネにさえまだその話を切り出せなくて……」
私の仲間だった。
多分、陽キャのエラルドには一生分からないだろうと思うこの気持ち。
「舞踏会のパートナーになれというだけだろう?奥手だな」
お前もかバレット。
お前もそういう感じか。強い。
「バレット、君に言われる筋合いはない」
エラルドが負けたことをまだ引きずっているネルスは、眉を顰めてそっぽを向いた。
そして私たちを横目で見る。
「僕は明日アンネに声をかけるとして、3人にはもう相手がいるのか?」
ネルスの言葉には3人で揃って首を横に振った。
「いやー忘れてたな舞踏会のこと」
「エラルドもか……私も今の話で思い出したよ。まぁ最悪、私と2人でいこう」
肩を叩くと、ケラケラとエラルドは笑う。
「あ、それでもいいよなー! 相手は女の子じゃないといけないって決まってないし!」
いけないと決まってはいないが、暗黙の了解で決まっているようなものなのだが。
エラルドは本当にノリがいい。
「興味ないから行かん」
バレットはそういう感じかー。なるほどねー。
そうか、行かないという選択肢があるとは知らなかった。
しかし美味しい食べ物も出るのに勿体無いぞ、とエラルドと2人で行くように促してみる。
「お前たち!学校行事なんだから真面目にやれ!」
最終的に、途中までは黙って聞いていたネルスに怒鳴られた。




