化け猫と化けぬいぐるみ
ニャーコは化け猫の類だ。
もう数千年は生きている。
ニャーコという名は、化け猫になる前からのものだ。
誰がつけたのだったか。
「ニャーコは死んじゃダメ!」
そんな涙声が記憶にある。
だが一度死んだ。
「ニャーコが化けて出てきた!」
嬉しそうな声が記憶にある。
繰り返し思い出す風景は、小さな村。
ふかふかなものの上で、まどろむあたたかさ。
そのふかふかは、今もニャーコのそばにいる。
ポッポは化けぬいぐるみの類だ。
もう数千年はニャーコと共にある。
強力な保護魔法のかかったその体は、損じることがない。
ポッポは全部覚えている。
小さな女の子。
その女の子にしがみつく男の子。
鳴きながら自分の背中に登ってくる子猫。
みんなどんどん大きくなっていく。
ポッポはずっとそのままだ。
ドラゴンの姿を模した大きな体。
いつからか赤いスカーフが頭にかぶせられて。
祭りの日には全身に飾りをつけてもらえる。
ポッポはみんな覚えている。
クッキーを盗み食いした女の子が、ポッポの口元にクッキーの粉をなすりつけて濡れ衣を着せようとしたときのことも。
財布の中身を数えてため息をつく侍女のことも。
男の子がポッポという名前をつけてくれたことも。
ある日、布でできた自分の翼を動かせるようになった時のことも。
その翼を、あまり動かなくなった猫の上に被せてやったことも。
ポッポはみんな覚えている。
ニャーコは化け猫の類だ。
日が高くなるまでポッポの上で寝ている。
起き出すとあくびをして。
まず身繕いを始める。
全身の毛並みが綺麗に整ったら、次はポッポの毛繕いだ。
ざりざりとした舌でポッポを舐める。
ポッポはめんどくさそうに、舐めやすいように顎を上げてやる。
ときどき甘噛みしたりしながら舐め続けて、
突然飽きてやめる。
こうして一日が始まる。
一日が始まっても、別に何も始まらない。
ニャーコはただポッポをふみふみしたり。猫キックを浴びせたり。
ポッポはされるがままだ。
やがて一日が終わる。
一日が終わっても、別に何も終わらない。
ポッポはずっとそのままで。
ニャーコもずっとそのままだった。
あとは特に語ることもないんだけど、黙ってさよならというのも味気ないかな。
何かひとこと残していこう。
とりあえず、こんな感じでどうかな。
昔々
小さな村の
小さな家に
化け猫と
化けぬいぐるみが住んでいました
今もいます
「ソンソン君と私もいるよ! ソンソンアンプルニャーコポッポ村は永遠に不滅だね!」
「余韻が台無しだなあ。ちなみに『賢』の字は一日で消えちゃったそうだよ」
それから化け人間の類もいるんだって。