スヴォゥルスティッカァネ売りのおじさん
まったくひどい寒さ——いえ、それは暑さだったのかも知れません。デブリのぶつかる音がしました。一番近い恒星の、遮るもののない強い光が降り注いで、けれども、辺りは真夜中よりも暗い夜になるところでした。時間というのは相対的なものでしかなく、今、ここに、その恒星の周りを公転する惑星が通らなければ、その今が、何年何月何時何分なのか、ここが、広い宇宙の一体全体どの辺りなのか、誰にも分かるはずがありませんでした。
この寒さ——そうでなければ、暑さ——の中、この暗闇——恒星は惑星の陰に隠れてしまいました——の中、真空の宇宙空間を行くのは小さな——大きなものと比べれば小さい——ほとんど丸腰のリィレ・ピィェ——人型ロボット兵器——で、頭部ユニットの装甲は軽量化のために取り外されており、足首より先の部品もないのです。それは無重力下で運用するためですが、それならばなぜ、脚部スラスターも装着されていないのでしょうか。もちろん、母艦を出た時には、確かにトゥフラァ——燃料タンクやブースターを含む高機動化ユニット——を装備していたのですよ。けれども、それがなんの助けになるでしょう! トゥフラァはとても大きくて、それは最近まで駆逐艦に使われていた物でした。ですから、そのように大きかったわけです。それを、リィレ——言い忘れていましたが、そのコックピットに座るのは、大きくもなければ小さくもない、普通のおじさんです。それで、ええと——それを、おじさんの操縦する、リィレはなくしてしまったのです。小惑星帯を急いで渡った時でした。急いだのは、二隻の敵艦が、まったく恐ろしい勢いで、すぐそばを飛行していったためです。トゥフラァの片方はどこにも見当たらず、もう片方はクナァベ——敵の人型ロボット兵器——が持っていってしまいました。いつか自分が撃墜されたら、棺桶として使えるだろう、と言って。
それで今や、リィレ・ピィェは、装甲の破損した小さな——くどいようですが、大きなものと比べたら、です——脚部ユニットで、何かの部品が放射線に反応して赤や青に光って見えるその脚で、バランスを取りながら、飛んでいるのでした。古いフォオクレル——超多連装ミサイルポッド、これが唯一の武装でした——の中には沢山のスヴォゥルスティッカァ——時代遅れの戦術核ミサイル——を入れて、腕部ユニットにも一束持って飛びました。その日は——そういう単位で時間を区切るなら、ですが——ずっと、おじさんから買ってくれる——つまり、ミサイルを打ち込ませてくれる、ということです——敵はおりませんでした。ほんの少しの戦果すら、挙げさせてくれる敵もいなかったのです。おなかをすかせて——機体の動力源は核融合炉でしたが、おじさん自身は空腹でした——凍えながら——コックピットは暑かったのですが、機体の大部分は冷え切っていました——飛ぶ、まったく見るからにぼろぼろの機体に乗った、かわいそうなおじさん!
漂うデブリが、機体の長い黄色の放熱板にぶつかりました。その板は、これまでに受けた衝撃で、少なからずゆがんでいたのですが、そんな見た目のことなんて——機能には影響がありませんでしたから——おじさんは本当に考えもしませんでした。
センサーというセンサーから警報が鳴って、その上、近くには、ゴォスェスタィ——ゲンゼブラァテン、敵の哨戒機——の、とてもおいしそうな匂い——とてもいい的になるのです——が漂っていました。そうなのです、夜襲には打って付けの夜でした。そうです、おじさんはそんなことを考えたのでした。
二つの衛星の、一つは少し——数万キロ——惑星の方に、もう一つよりも近かったのですが、その間の隅っこの辺りに、おじさんは機体を潜ませました。小さな——人間の背丈よりも大きい——両脚を胴体に格納させようとしましたが、変形機構は正常に作動せず、かえって装甲を傷付けるばかりです。そしておじさんは撤退しようとはしませんでした。スヴォゥルスティッカァは誰にも売れていなかった——打ち込んでいなかった——わけですし、敵は一機も撃墜していなかったのです。上官はおじさんをぶつ——ようなことはありませんでした、そんな度胸のある者はいなかったのですが、母艦に帰投できたとしても、戦況が悪いのは変わりませんでした。ただ艦橋が、なんとか頭の上——艦橋のある方が上です——にあるばかりで、艦の中には色々なものが吹き込むのです。特に大きな亀裂には、炭素材や鋼材が詰め込まれてはいたのですが。
機体の小さな——機体の他の部分よりは小さな——手は、寒さのために、ほとんどすっかり機能を停止していました。
ああ! 小さな——小型化されていましたので——スヴォゥルスティッケの一本でもあれば、どんなにか良かったことでしょう。
狙いを定めて、束から一本を発射して、目標を暖めさえすれば。
おじさんは狙いを定めました。「バシュッ!」火花はどんなに散ったでしょう、推進剤はどんなに燃えたでしょう! それは暖かな、澄んだ炎でした。小さな流星の光のように。おじさんがその手を——自分の手を——かざしたほどに。それは不思議な光でした!
リィレ・ピィェのセンサーには、機体が大きな——文字通りの意味です——ヤァンカァケルオゥン——アイゼンオーフェン、敵の輸送機——の前に浮いているように映りました。輸送機には、ぴかぴかの航行灯と放熱板が付いています。ミサイルはとても順調に進み——ミサイル防衛システムは作動しませんでした——とても強い光を放ちました! いや、これはどうしたことでしょう!
——リィレは脚を伸ばしたところでした。変形機構がまったく駄目になっていましたので。————その時でした、炎が広がったのは。カァケルオゥンは見えなくなりました。——敵の小さな残骸を前に、機体は浮いていたのでした。
新しいミサイルが発射されて、飛んで、炸裂して、その光が目標に当たると、そこが、薄い断熱材のように、溶けてなくなるのが見えました。敵艦の中を真っすぐにのぞき込むと、そこでは出撃の準備が進められており、白く輝く熱線が、立派な宇宙船やロボットを包みます。そして、おいしそうに湯気を立てるのは、敵の焼かれた哨戒機です。最新技術が中に詰まっているのに、とても弱いのです! それに、なお一層素晴らしいことには、その哨戒機が格納庫から飛び出して、背中——のように見える部分——には艦の部材や格納庫の設備の刺さったままで、爆煙の中を、よたよたと進むのです。真っすぐに、ミサイル以外は丸腰のこちらへと、向かってくるのです。その時、スヴォゥルスティッケンの火が広がって、そこにはただ、厚い、冷たい微粒子の雲が、見えるばかりだったのです。
新しいミサイルを撃ちました。
その時、機体は、最高においしそうな——標的として、です——ユゥレトレィ級——ヴァイナハツバウム級——の宇宙要塞の下——主機関のある方が下です——に浮いていました。それは、もう先日の会戦で、たまたま拿捕したお金持ちの商船の、モニター越しに見た物よりも、なお一層大きく、もっと武装していました。千本の砲塔が緑の稜堡の上に並び、観兵式で展示されるような、多種多様の兵器が、おじさんを見下ろしていた——そのように感じられた——のです。
リィレは両の手を上——どちらが上なのでしょうか——に伸ばして——その時、スヴォゥルスティッケンの火が広がりました。沢山のユゥレリィス——砲塔のことです——が、遠く遠く飛び散っていきました。それらが今や無害な——攻撃する能力のない——デブリになったのを、おじさんは見たのです。その中の一つが近くの衛星に落ちて、薄い大気に長い火の筋を引きました。
「今死す者あり!」とリィレに乗ったおじさんは言いました。今更当たり前の話ではありますが——それは、ただ一人、おじさんをかわいがってくれた、けれども、今ではもう死んでしまった、年老いたおじいさん——かつての上官でした——が、言っていたのです。石塊落つること、魂魄召さること。
もう一度、目標にスヴォゥルスティッケを発射しました。辺りが照らされると、そのきらめきの中に、敵の古びたグロースムタァ——巨大人型ロボット兵器、それはおじいさんを撃墜した機体と同じ機種でした——が立っていました——仁王立ちしているように見えたのです。とてもはっきりと、とてもきらきらと、とてもゆったりと、壮麗に。
「じじい!」とリィレに乗ったおじさんは叫びました。「おお我が死地やここにあり!」戦いの中で死ぬのが名誉であるという、古臭い考えの持ち主です。「知っておるぞ、消えるのだ、スヴォゥルスティッケンの火の中に。あの暖かいカァケルオゥン、おいしいゴォスェスタィ、壮大にして壮麗なるユゥレトレィが、消えたように!」——そしておじさんは、束の中にあった、スヴォゥルスティッカァの残りすべてを急いで発射しました。あの頑丈なグロースムタァを、確実に破壊しようとしたのです。そしてスヴォゥルスティッカァネは輝きました。そのきらめきは、明るい恒星の光よりも、その場が綺麗に照らされるほどでした。
グロースムタァが、こんなにも破壊されながら、こんなにも大きく迫ってきたことはありません。敵は、リィレ・ピィェを、その腕部ユニットで捕らえました。そして二機は、きらめきと超高温の中で、とても白く、とても白く、光り輝きました。そしてそこには、寒さもなく——超高温と言いました——空腹もなく、争いもありません。——彼らは粒子と波動の狭間へと還っていったのです!
けれども、その衛星のそばの隅っこに、寒い——すぐに暑くなるであろう——明くる朝——惑星の衛星軌道上を、恒星の方に移動していたのです——浮いていたリィレ・ピィェは、赤く焼けたフレームと、コックピットの形だけを残して——機能を停止していました。いつかの、どこかの、その場所で、敵もおじさんも焼け死んでいたのです。
新しい朝が、小さな——それは随分と小さくなっていました——残骸の上に訪れました。コックピットの中には、黒くて小さな塊——おじさんだったもの——が座っており、ミサイルポッドの中に残されていたスヴォゥルスティッカァネは、ほとんどすっかり燃え尽きていました。
あったまろうとしたんだな! と、残骸を回収した兵士たちは言いました。おじさんがどんなに立派な戦果を挙げたか、どのようなきらめきの中、おじさんと古びたグロースムタァが業火の中へと消えていったのか、知る人はいなかったのです!