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ハンググライダー製作の準備

「よし、メンバーが揃ったな。文月、ハンググライダーサークル入るよな?」


 勿論という風に椎倉は文月に訊ねると、


「え、ここそういうところだったんだ……」

「え、なにだと思ったの文月?」


 僕も驚いて訊ねると文月は頬を朱に染め身体をもじもじとさせる。


「だって、ここガラスにH.Gって書いてあったよ?」

「ハンググライダーだろ?」


 椎倉の指摘に文月は目を大きく見開いて、顔を伏せて黙り込んでしまった。


「なにだと思ってたの?」

「え、えっとその……ね」


 歯切れ悪く言葉をぽつぽつと文月は呟いていく。


「男同士で仲良くね……っていう感じ……」

「ゲイじゃねぇか! あぁそういう事かよ! こういうこと言う奴初めてだ」

「ご、ごめんっ……私てっきりそうなのかと……」


 つまりハンググライダーとは読まずに一昔前に流行していた芸人っぽく読んだわけだ。


「じゃあ僕たちをそういう風に見てたわけ?」

「え、そんなことないよっ!? 仲が良さそうだなって!」


 これ以上聞くと文月は言いたくないことも素直にこぼしてしまいそうだった。


「で、文月もこのサークルに入るんでしょ?」

「う、うん! 宮前くんが入ってるなら……」


 そこでどうして頬を恥じらい染めて僕のことを見つめるんだろう。

 椎倉なんか思いっきり僕のことを睨んでくるし。


「まぁいいや。これで三人か」

「ちょっと待って。三人しかいないの?」

「あれ言ってなかったっけ?」


 椎倉はハンググライダー同好会を一人で立ち上げたらしい。

 当然一人ではサークルの許可が下りるはずもない。

 適当に生徒から名前だけを貸してもらい今まで何とか存続してきたそうだ。


「俺が立ち上げる前にここは何だっけ、レボリューションサークルってのがあったらしい。そこらへんの段ボールの奥にそのサークルの資料がちょっと残ってる」


 レボリューション。革命。一体何を革命しようと画策していたのだろう。

 不思議なサークルもあったものだ。


「飛ぶにはまず機体を作らないとな。宮前が練習もできない」


 ハンググライダー練習場は二年前に閉鎖している。

 現在は営業を停止しているためこの町にある機体は椎倉が作っているものしかないらしい。

 椎倉が機体を作らなければ飛ぶことはできない。


 椎倉は中央にある長机を折りたたみしまう。

 横に置いてあったハンググライダーを引きずりながら取り出し翼を広げる。

 何度見ても大きな翼だと思う。だけどこれでも小さいと言うのだから驚きだ。

 僕たちは翼を反対にひっくり返す。椎倉が各部位の名称を説明してくれる。


 翼の中央を縦から支えているのが主軸であるキール。

 キールの尖端をノーズと呼んでいてノーズの角度を決めることで翼が横長になるか、縦長になるかが決まる。現在の主流はノーズの角度を広めに取り、翼を横に長くするタイプらしい。

 主軸からは二本のパイプが翼の前縁を支えるように伸びている。風の抵抗に強くするリーディングエッジだ。主軸をクロスするようにリーディングエッジから伸びるパイプがクロスバー。翼の長さを一定に保つ役割を持っている。クロスバーからはトライアングルのようなコントロールバーがぶら下がっている。人間はこのバーを握って機体を前進させ、ハーネスで身体を吊って大空へと飛び立つ。


 椎倉は胡座を掻いて座り、僕と文月は肩口から部品の取り外し作業を眺めている。一つ一つの部品はナットやピンで強く締められているようだ。


「文月、ペンチとってくれ」


 作業をしながら椎倉は右手を後ろにやる。手の平に置いてくれと言う意味だろう。文月は周りをきょろきょろと見回してペンチを見つけると手にする。


「はい、これ……きゃっ」


 椎倉に渡そうとしたときだった。

 文月は何もないところでつるっと足を滑らせる。

 ペンチを持った手をそのまま椎倉の後頭部に叩きつけた。


「ぬぉぉぉぉぉ!! おい! 誰が殴れって頼んだ!? 俺は渡してって言ったんだ!? 聞こえなかったのか!?」

「ごめん、ごめん、ごめんっ!」

「やべぇ、視界が一瞬どっかに飛んだ……」


 椎倉は後ろ頭を撫でながら言った。


「よかったじゃん、死ななくて」

「冗談きついぜ、文月……俺の右に置いてくれ。くれぐれも俺の頭を殴るなよ。オプションはパスだ」

「本当にごめん……」


 文月は今までの行動を見る限りドジだ。

 本人もわかっているが、治せないのだろう。文月の表情は暗く落ち込んでいた。


「文月は……そのあれだ。助手には向いてないな」


 椎倉は文月の失敗を気にすることじゃないのだと笑いを誘いたいようだった。

 だけど本人はそうはいかない。椎倉は多分サークル内での役割を気にしていた。

 椎倉は機体を作る。

 僕は飛ぶ。

 じゃあ文月は一体何をする? 

 彼女には何ができる? 

 そんなことを気にしている風に僕は見えた。


「じゃあ文月はデータ係だな。すげぇ重要だぞ。風の強さを何十箇所って測ってデータとして残すんだ。崖の攻略には必要だぞ」

「私にできるかな……私っていつもこうだから」


 文月の言葉には照れも含まれているが、どこか諦めのようなものが感じられた。


「大丈夫だ。計測の仕方を教えてやる。それと宮前、文月と部品を注文してきてくれないか?」

「どこに?」

「瀬川文具工務店だ」


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