洋菓子店 Pumpkin lake 第五話
ここは、町外れにある洋菓子店「Pumpkin lake」
もう随分前からそこにあるお店は、朝から晩までぼんやりとした暖かい灯りが窓から漏れています。
風の噂によると、店主はまだ若い青年で、来店できるのは一日に一組と言うのです。栗毛色した扉にある貼り紙には
「来店時間はお客様の都合の良い時間に。お代は戴きませんが、その代わりに貴方の大切な思いを聞かせてください。」と書いてあります。
その言葉を疑って来店をしない人達もいますが、今夜もまた、小さな影がお店の扉を開きました。
いらっしゃいませ。おやおや…
僕ら皆で一組。大丈夫?
ええ、勿論。
今夜のお客様は真っ黒なロングコートを召した身長が100センチ程の子供の様でした。コートの下から覗くブーツはとても綺麗な銀色、顔は満月の様に真ん丸で可愛らしい顔立ちでした。約30人くらい居るでしょうか、ぞろぞろと入店してはロービーを埋め尽くすには然程時間も掛からず綺麗に三列に整列して皆一様に店主を見上げています。少しずつですが其々が顔立ちが異なり、その中でも一番落ち着いた様な二重の彼が店主とやり取りをしています。
彼はショーケースの中をじっくりと眺めて、盆にたくさん並んでいるシュークリームを指差しました。
これがいい。
かしこまりました。……うーん、足りそうにありませんね。
店主は腕組みして首を傾げて渋い表情を見せます。どうせならば皆に食べて貰いたいからです。そうしているとシュークリームを指差していた彼が店主に告げます。
僕ら、待つよ。そうだ、あれは出来る?これを使った塔を雑誌で見たことがある。
彼のコートの内ポケットから取り出された雑誌は少し古いものでありましたが、何度も見ていたのであろう開かれた場所は少しだけ色褪せていて、小さなシュークリームを下地に沢山くっつけた塔の写真がありました。店主は、深く一度頷くとショーケースの中のシュークリームを盆ごと引いて、今回の思いを聞こうとした所先読みをされてしまいました。
かしこまりました。満足いく物をお作りしましょう。それから…
僕達の思い?うーん、地球が始めてだからよくわからないけど…その塔が食べれると知って、いても立ってもいられなかったよ。しかも、太陽さんはとても美しいものを持って帰ってたのを見て、僕達も、と思ったから。地球の食べ物、美味しいね。
そうでしたか…それでは、少しだけお時間を戴きます。
店主は奥に籠るとなるべく早く仕上がるように頑張りました。その内に甘くて芳ばしい香りが漂って来ると、月からやって来た彼らはざわざわと話を始めました。
奥から出てきた店主の両手の盆にはたくさんの小さなシュークリームが乗っておりそれを彼らの目の前で、土台となる物にくっつけていきました。最後に飴細工と薔薇を所々に飾って完成です。透明のショーケースを上から被せて持ち運ぼうとしたところ、ふわりと浮き上がりました。
わあ!
フフフ、ビックリした?僕達、力持ち。
じゃあ、またね。ありがとう。
驚く店主を尻目にそれは空中をゆっくりと進み、皆の元に届けられたシュークリームの塔を一番前にいた彼が自慢気に小さな手で下から支えると回りの月の住人達が万歳を数回しました。そんな彼らは最後に店主に挨拶を告げると一人ずつお店から出ていきました。
開かれた扉から見えたのは、月へと彼らが歩いて帰る後ろ姿…いつの間にか顔も三日月の形になっており、それを見て店主はまた驚いた声をあげたのでした。
ほ