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フローれお嬢様帰還

魔法のお馬、ただ走るだけ。戦闘シーンなし

  (引き続き、ロイドさんの回想です。)


 「さー、あと4時間くらいです。

  お嬢様もミヨチャンも馬車にお乗りください。」


 あたしがそう言うとお嬢様は馬車のベンチシートに座ったがミヨチャンはシーザーのそばに近寄って、じっと診察するかのようにその黒毛を撫でている。


 「すごく疲れてるわ、もう少し休みたい、って言ってる。」

 ミヨチャンが真剣な顔で言う、大きなお馬は怖いんじゃなかった?


 シーザーが疲れ切ってるのは分かってる。

 休みたがってるのも、でも今は馬に同情できる立場にはないのだ。


 「はい、その通りです。

 でも、私たちは何としても、たとえ馬がつぶれても、この森を日が暮れるまでに・・・、」

 お嬢様が動揺をしている。

 それでも、唯一の大人の私が正論を言うしかない。


 「そうだ、ハナちゃんに馬車を引っ張ってもらおう。」

 ミヨチャンが肩掛けカバンから小さな白い馬のヌイグルミを取り出す、可愛い、しかしなごんでいる場合ではない。

 

 あたしは心を鬼にすると決めて話を続ける(おもに主たるお嬢様に対して)。


 「ヒヒ~ン!」

 背後で聞きなれない馬のいななきが聞こえる、あれ?幻聴かな?

 あたし、壊れちゃったかな?


 振り向いたあたしは、こんなに驚いたことはなかった、ってくらいビックリ!


 ミヨチャンがさっき、遊んでいたヌイグルミそっくりの美しい白馬が元気いっぱいで、ミヨチャンに甘えている。


 確かにヌイグルミについていた、黄色いヒマワリの飾りまで頭に着けている。

 ヌイグルミが化けたのですか?コレハユメデスカ?


 ミヨチャンが白馬の手綱を持ってこちらに来る。

 

 シーザーと白馬の目が合うと2頭は嬉しそうに「ヒンヒン」言いながら、体をこすりつけあって甘えている。

 当然、お嬢様もビックリ!

 可愛らしく両手で口元を抑えたまま無言で固まっている。


 「お姉さん、ハナちゃんは魔法のお馬だから1日に3時間しか遊べないの。

 でも、馬車を引っ張るの初めてだから楽しそう、って張り切ってる。

 走らせてあげて。」

 「それとシーザーちゃん、すっごいイケメン(馬にとって)だから、一緒に走る、って言ってる。」

 ミヨチャンが当たり前のように、当たり前じゃない話をする。


 「と、とにかくロイド。魔法でも天の恵みでも何でもいいから、シーザーの手助けをしてもらいましょう。」

 おー、さすがはマイジェネラル。

 呆けているあたしに喝をいただきました。


 「ハナちゃんはスッゴイから大丈夫!魔法のオウマだから3時間はお休みなくてもゼンッゼン平気。

 でも、3時間たつとあたしのカバンの中に戻っちゃう。

  お姉さん、急いで準備して!」

 ミヨチャンにまで喝をいただきました(笑)。


 あたしは急いで馬車にシーザーとハナちゃんを繋ぎ、御者台に上がる。

 ミヨチャンも馬車に乗り込み準備完了。


 「で、ミヨチャン?ハナちゃんは鞭での合図は分かるんですか?」

 あたしは御者台から振り向いてフローレ様と早くも談笑を始めているミヨチャンに尋ねる。


 「ハナちゃんは”曲がって”、”止まって”、とか、お姉さんが思うだけでその通りにしてくれるから、たぶん大丈夫だよ~。」


 「えー、ハナちゃんスゴ~イ!でも、うちのシーザーちゃんも頑張り屋さんなのよ。

 このちっちゃな馬車を2頭なんて初めての贅沢、楽しみだわ!」

 お嬢様までもウキウキモード。

 これは難しい操馬だがしっかりしなければ。

 とりあえず、信じられないことだがまずはシーザーにだけ”出発”の軽い鞭を入れる。

 驚いたことに2頭の馬はまるで鏡に映っているかのように同じ動きで滑らかに発進する。


 『暇だ!』

 馬が2頭で勝手にパッパカパッパカとご機嫌で走っている。

 草原の中の街道。景色もいいし眺めもいいし、お嬢様方の女子トークに耳を澄ます。


 「休憩中に車輪にインスタントゴム溶液、って柔らかくてぶよぶよするものを1センチくらい、塗っといた。

 でも、まだゴトゴトするね。」

 ミヨチャンが話してる、フムよく分からん。


 「えー、ものすごく乗り心地イイよー。うちの馬車ポンコツだからスッゴイお尻痛いんだから。

 ロイドみたいにお尻のお肉あればいいけど、まだわたし、幼児体型だから(笑)。」

 とか、盛り上がってるし、人の尻を暗に”デカい“、とか言ってるし。


 「そうなんだー、あたしなんか初めて馬車に乗ったからうるさいし、ガタガタ揺れてお尻は痛いしサイアク~、とか思ってたのに。

 でも、ロイドさんのお尻って役に立つんだね(笑)。」


 「そうよー、お尻とかオッパイとか女の武器は大きい方が有利よ、とかお母様もお父様が居ない時に笑ったりしてるもん(笑)」

 奥様、お嬢様になんて話を、って感心をしているのか、ミヨチャン。


 「あたしのお母さんなんか、オトコの武器も大きい方が断然いいわよ、とか言ってたわよ(笑)。」

 なんて話を幼児にするのか、ミヨチャンのママ!

 

 「あんたら、何歳だよ!」と心の中で突っ込みながら、後ろの幼児の女子トークに耳を傾ける。

が、そもそも馬車の中で話ができるほど静か、というのがおかしい。


 「休憩の時に”木用超潤滑油”、”鉄用超潤滑油”っていうの、車輪の回転が良くなるように、たっぷり塗っといたの。」

 「えー、それってあの魔法のコップで出したの?」


 「もちろんよ、液体なら大概の物?は出てくるわ。」

 「うっわー、油とかゴム?とか入ってたコップのジュース、あたし飲めないかも~、引くわ~。」

 お嬢様、あたしはカルピス(オレンジ味)飲みたいです。


 盗み聞きがばれるので後ろの席の女子トークを聞きながら、聞こえないふりで前方を見たままにあたしはアッツイ御者席で思う。


 「お姉さん、ご苦労様です。

 フローレは”いらない”、って言うから、お姉さんにカルピス(オレンジ味)差し入れ。

 危ないから振り向かないで手を伸ばしてください。」

 背後からミヨチャンの声。

 こ、心が読まれてるのか?

 

 素直に後ろに回した右手の手のひらに冷たい銅のコップの感触、きたコレ~!


 一気に半分を飲み干す”ゴクゴク”、至福、まだ半分ほど残っているコップを手に呆けてしまう。

 お母様、あたし、もうコレ無しでは生きてゆけない体になってしまいました(笑)


 「なによミヨ、誰も飲まないとか、いらない、とか一言も言ってないでしょ。

 あたしは偉いのよ、早くカルピス(グレープ味)出しなさいよ!」

 お嬢様、高飛車はやけどの元ですぞ。

 カルピス(オレンジ味)をちびり(ちびちびと飲む、の略)ながら、風に吹かれてあたしは思う。


 「フローレ、あなたがとっても偉いのは分かったわ。10日あなたがお姉さんなのだから我慢したげる。

 でも生粋の(たぶん)大和撫子(元?)のあたしには、公爵だろうが伯爵だろうが関係なし(以下略)」


 お嬢様、やりこめられてますな。

 でもミヨチャンは命の恩人ですぞ、恩を忘れては人の上に立てませぬ。

 「ミヨチャンご馳走様でした、よろしければお嬢様にもよろしく。」

 空になった銅のコップを後ろ手に返しながら例を言う。


 すっと、あたしの手からコップがなくなる。

 「いくら、友達の頼みでもコップがないとあたしは何もできないの。

 はいフローレ、お気に入りのカルピス(グレープ味)。

 ベソかくんじゃないの、あたしより10日お姉さんでしょ。」


 「うん、ありがとう。(ゴクゴク)美味しい。」

 成長なさってください、お嬢様。


 そんなことを思うあたしにミヨチャンが背後の馬車ベンチから声をかける。

 「ハナちゃんがね、シーザーが疲れてきたから馬車を軽くしちゃうって。

 そしたら、2人(2頭)で全力で遊べる、って。」


 瞬間、体がふわりと浮き上がったような気がした。

 聞きなれた、ガタゴトいう馬車のきしむ音が一切消え去り、2頭の馬の蹄の音だけが軽やかに響く。


 えっウソでしょ!あたしたちは風になった。

 シーザーはあたしが単身騎乗で全力疾走させるよりも明らかに早い!

 それはそうだ、今のシーザーはカラ馬で全力疾走しているのと同じなのだから。

 風の音がすごすぎてあたしたちは沈黙した。

 

 

 何時間、魔法?の時間を過ごしたのか?

 彼方に町が見えてきた。

 あたしも故郷の友達に会いたくなったな。


 「お姉さん、もうすぐ魔法が消えるよ。

 馬車が重くなるし、ハナちゃんはカバンに戻っちゃうって。

 馬車のスピードを落として、じゃないと馬車が壊れちゃうから。

 あとはシーザーちゃんに歩いてもらおう。」


 あと、もう少しで町だ。

 ハナちゃんが消失し、シーザーがのんびりと馬車を引く。

 馬車の音も普段よりは(潤滑油やゴムのおかげで)だいぶ静かだが、ききなれたきしむ音がする。


 もう5キロもないだろう、西は夕暮れ、東は早くも夜空が広がり始めている。


 「フローレをきっとみんなで探してるね、お姉さん止めて。」

 あたしが馬車を止めるとミヨチャンはトテトテと馬車から降りて100メートルほど歩く。


 そこで止まったミヨチャンは肩掛けカバンから、あのコップを出して赤い布を一回被せる。

 そして、白く輝きだしたコップを地面にそっと置くと馬車に戻ってきた。


 ミヨチャンが馬車に戻ってベンチに座ると同時。

 ”ヒュ~ン”、空気を切り裂く音がして”あのコップ”から白いヒカリが空をめがけてかけ上がってゆく。


 「きれいな夜空に大きな花火のお絵かきだ、これならフローレを見つける目印になるよ!」

 ”ド~ン”、頭上に真っ白な大きな炎の花が咲いて、その1つ1つの花びらが火の粉になって降りかかってくるようだ。


 「わーい、花火大会だ!」ニコニコのミヨチャン。

 立て続けに数十だろうか、白いヒカリは空をめがけて次々と駆け上がり、爆発し、大輪の花を夜空に咲かせる。

 白だけではない、ピンク、パープル、ブルー、表現しきれないほどの色彩豊かな大輪の花が夜空を爆裂音とともに彩る。


 雷鳴のような轟音が夜空を埋め尽くす、色とりどりの大輪の花火とともに途絶えることなく鳴り響く、地を揺るがす。

 


 30分後、フローレ一行はすっかり暗くなったころ、捜索隊に町まで数キロの地点で無事に保護をされる。


 「フローレ様、すごい信号弾をお持ちですね。」    (騎馬隊の兵士)

 「・・・、」(ミヨチャン、何て言えばいいのよ!)  (フローレ)

 「Z Z Z,・・」                   (ミヨチャン)

 「町の子供たちも大喜びでしたよ。」         (騎馬隊の兵士)



 



 


 

 

 

  

 



  

 

 

戦わないのが正義!

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