11.討論 トカゲVSドラゴン
イヴとイールは、解体場に来ていた。
ギルドを介した依頼ではないため、冒険者としての実績にはならないけれど、素材は売れる。
また、わざわざ2人が移動したのは、受付で魔物の死体を出したら、衛生的に問題になるから。
通常は1人で行くのだが、イヴは冒険者登録初日ということもあり、イールが案内している。
解体場は大きい倉庫のような感じだ。簡素な台がいくつも置いてありその上にある魔物を、巨大な鋸で解体していく男たちがいる。
解体場までの道中、イールがどんな魔物を狩ったの? と聞くと、イヴは「トカゲだよ」と返す。
なのでてっきりイールは『ファイアリザード』を思い浮かべる。
比較的狩りやすいし、草原に出れば嫌でも出会う。
それでも新人には大きな獲物であるから、「期待の新人かなぁー」とイールは呑気に考えていた。
解体場に到着したので、「ここに置くね〜?」と確認しつつ、空間収納から2匹の『トカゲ』の死体を取り出す。隣のイールは口をパクパクさせている。そして、
「ド……」
「ド?」
「ド……ドラ……ドラゴ……ん?」
「ドラゴン?そんな訳ないよ。たまに畑を荒らす小さいトカゲだよ?」
さも、害はあるけどすぐに駆除できるでしょ? という感じのイヴに、「そっか……ただの害獣のトカゲか……」と現実逃避しそうになるがすぐに思い直す。あんなに大きなトカゲはいないと。
「やっぱりドラゴンですよ!!? しかもこの火竜なんて気配の感知能力が高くて凶暴なんですよ?! どうやって倒したんですか!!?」
イールの言う通り、イヴが狩ったのは火竜で間違いない。
イヴを育てた特殊な環境が、感覚を狂わせているのだが、イヴは気づかないだろう。何故なら、両親を信じ過ぎているから……。
そして、そもそもドラゴンとは最弱の火竜でさえ、ベテランであるBランク冒険者が10人程度で連携して倒すものである。
そんなものを、トカゲだよ〜、と軽いノリで出されたのだから落ち着いて居られない。
そんなイールの内心をイヴが知れば、タバスコの借りは返したぞ、と言わんばかりの笑みを浮かべるだろう。
話は戻ってイヴはと言うと、
「……ん〜、気配を消して縮地を使ったら、あとは頭を串刺しにするだけだよ。」
串刺しという、普段、受付嬢をしていて見ることの無い残酷なビジョンを思い浮かべ、少しビクッとするが、さらに質問を重ねる。
基本的に、狩りの方法を他人に聞くのはマナー違反なのだが、度重なるイヴへの対応の精神的疲労により、そこまでイールの頭は回っていない。
「ドラゴンの鱗はとても硬いと聞きますが……普通の剣では折れてしまうのでは?」
それなりの業物ならば、刃も通るかもしれないが、イヴの剣は業物ではないどこにでも売っている鉄剣だ。
実際は、鉄剣に魔力の伝導率が良くなるよう、アビスが改良を施そうとした失敗作である。伝導率は通常よりも悪い……。
もちろんイヴもイールも気付かない。
「剣に鋭利化と剛化を付与したんだよ。トカゲなら二重付与で十分だよ。ドラゴンを倒そうとしたら30個くらい付与しなきゃ剣が折れちゃうから疲れるんだ。でも、魔法も……」
「…………」
以前イールは一度だけSランク冒険者と話したことがある。
そのとき彼女はこういっていた。
「剣に限らず、魔力を付与するのは魔法ではないんだ。とてつもない集中力、そして努力によって積み上げられた魔力制御により魔力を纏わせる『技術』なんだ。これは下手な人が実践しようとすると魔力による溝が生じてしまって、逆に脆くなってしまうんだ。多重付与なんかをするなら、それこそ凹凸がなくて尚且つ、それを等しく薄く延ばさなきゃ行けない。私は20個が限界でね、それ以上やると神経が焼き切れそうなんだよ。……それにしても勇者様は凄いな!なんでも50個は付与できるとか……。」
その少年はまるで、30個付与できるのは当然。余裕だとでも言うように話している。
そんな中受付嬢は思う。
───この子がいれば人間は安泰だ、と。
と同時に、イールは明日月に一度の冒険者初心者演習があることは、絶対にイヴには伝わらないように、と願った。他の新人が自信を無くしてしまうから。
今までの会話で悟る。この子の強さは無自覚であり、他者が何を言っても聞き入れられぬと。
そんな中、人間、そして魔族の思惑が絡み合い、1人の少年は事件の渦中に呑み込まれていく。
───その頃、一部では15年以上前に滅びたとされる圧倒的実力至上主義の暗躍集団『滅帝』の噂が囁かれていた。




