石像の囁き
ある世界の海の果てには島しかない海域があるという。これはその海での物語だ。
ある一つの島には翼が生えた鳥と足を持つ人間の中間の種族、鳥人族が暮らしている。村などはなく、鳥人族はこの広い島の好きな場所にテントを張る。この島は美しい海に囲まれ、山と川と森がある。とても自然に恵まれた土地なのだ。
そして中央にはドーム状になった神殿がある。中には鳥の石像が並べてあり、真ん中には「光の水」と呼ばれる水が金色の器に入っている。鳥人族が神として崇めている水だ。
神殿には、「石像の囁き」と呼ばれる小さな音が鳴り響き、その音をしっかりと聞き取れた者はいまだにいないという。
まだ朝日が顔を出していない薄暗い朝、1人の鳥人族が旅立った。名前はメルガ。これから三つの楽器を作りに行くのだ。島を渡り、様々な島で材料を集めるのだ。メルガは翼を羽ばたかせ次の島を目指した。
まず最初に行く島は様々な楽器に使われる「木」を手に入れるため、スプルーク島、通称、森の島だ。メルガはマリンバとサルテリーをここで作るのだ。
その旅の途中では、フランデス島、通称、花の島にも立ち寄った。妖精たちが住み、色鮮やかな花が咲き乱れる、とても美しい島だった。
そして出発してから三日後、スプルークに到着した。スプルークは全体が森で、大きい木に穴をあけて暮らしている。メルガはマリンバを作るためのローズウッドとサルテリーのための木材も用意した。準備が終わったら、切り株を作業台替わりにして、マリンバを作り始めた。
まずはローズウッドを木目を見ながら一番良いと思える位置で切断した。そして基音の振動を妨げない場所を選び、紐を通す穴をあけた。これを16個作ればいいという話だがそう簡単にはいかない。たくさんの鍵盤を作り、音階が合うものを選ばねばならない。次は木材を小刀で削っていく。最後に鍵盤に紐を通し、マリンバの形に組み立てた。
これでマリンバの完成だ。試しにメルガはこの海にやってきた商人から聞いた曲をマリンバで弾いてみようと思った。森エルフがその歌い手になってくれた。
悪の者には不幸が訪れ
善の者には幸運が訪れ
疾風の様に時空を飛び回る
なぜそうするか
それは神にも分からない
魔の使い手には不幸が訪れ
魔の王にも不幸が訪れ
最後の軍は
幸運を受け取ったのだった
詩の一節を森エルフが歌い終わったら、メルガはマリンバを引く手を止めた。
これでマリンバが正常に音が鳴るのが分かっ
た。
メルガはサルテリ―を作ろうとしたが、弦がない事に気がついた。
そこで、馬の尻尾の毛を弦にするため、オールハン島、通称、狩りの島へ行くことにした。メルガは翼を羽ばたかせ、オールハンを目指した。
旅の途中、風の島、カラクレ島に立ち寄った。カラクレ島は風を使った様々なからくりにあふれている。1人の風学者が様々なからくりの仕組みについて教えてくれた。
スプルークから出発して二日、ようやく狩りの島、オールハンに着いた。オールハンは全体がサバンナになっていて原住民たちはわら小屋で過ごしている。
メルガは馬の尻尾の毛を何本か引き抜き、
すでに作ってある板の出っ張りにサルテリ―の弦となる馬の尻尾の毛を引っ掛けて結び、サルテリ―を完成させた。
ちょうど島の住民が歌を歌っていたのでその歌に合わせて弾いてみることにした。その歌の歌詞はこうだ。
冥と天が一体に
二つが一つに、一つが二つに
天の剣士と冥の魔術師
きらめく杖とドワーフの剣
二つが一つになった時
エルフの森は甦る
一つが二つになった時
あの世界は終わりを迎える
原住民たちはまだ歌い続けたがメルガはここで弾くのを止めた。
これは後から知ったことだがこの歌ははるか昔にあった予言の歌だそうだ。
メルガは次に作るオカリナの材料を集めに
ドットアース島、通称、土の島へ黒い翼で飛び立った。
土の島に行く道中、メルガはムルケント、通称、月の島に立ち寄った。月の島では月を神として崇め、住民の先祖は魔法で月に降り立ったことがあるという。
土の島に着いたら、早速粘土を掘ってその土でオカリナ作りを始めた。
まず粘土をちょうどいい大きさに切り、それをあらかじめ作っておいた型に広げ、もう一つの型にも粘土を広げた。そしてその二つの型をくっつけ・・・・という風にオカリナの形を作った。
それが出来たら今度はドットアースのかまどを借り、オカリナを焼いて完成させた。
メルガはドットアースの人々が土を掘る時に歌っていた歌を吹いてみた。
島の黒き者は
土で揺れを奏でる
木で揺れを奏でる
命で揺れを奏でる
しかしそれは
全てが予知夢
もう一度旅をする
白い幸運の旅をするのだ
オカリナの音がしっかり出ることが確認出来たら、メルガは早速、故郷の島へ帰ることにした。メルガは黒い翼を羽ばたかせた。
島に帰る途中、メルガは恐ろしい魔物に出くわしてしまった。ローブウィザードという魔物だ。ローブウィザードは別名、目の悪魔と呼ばれ、魔の目という名の目を見た者は失明してしまうという。
メルガは必死で逃げたが時はすでに遅かった。ローブウィザードは目の前に現れメルガは倒れ、海に投げ出された。
メルガは何が何だか分からないまま、浜に打ち上げられた。
メルガは失明したのだった。
あれから数カ月がたった。あの事があってから楽器は一度も弾いていない。
しかし、目が見えないのは慣れ、何年も過ごしたこの故郷の島なら目が見えなくても歩き回ることが出来た。
ある日、メルガは島の中央にある神殿に行こうと考えた。神殿に入るとメルガは何かの音がするのに気づいた。
メルガはすぐに石像の囁きだと気付いた。メルガは失明してから、驚異的な聴力を手にしていた。
メルガは耳を澄まし、石像の囁きを聞いた。
我は石像
鳥の石像
魔の目をもしも見たならば
そなたの目は暗闇であろう
光の水に触れるがよい
そなたの魔法が一つ解ける
メルガは水に触れた。そしてメルガの視力は回復した。ところが目の前はまた真っ暗になった。
幸運を表す白い翼のメルガは目を覚ました。今の「夢」を本人は覚えていない。
島の黒き者は
土で揺れを奏でる
木で揺れを奏でる
命で揺れを奏でる
しかしそれは
全てが予知夢
もう一度旅をする
白い幸運の旅をするのだ
この歌をメルガは何故か覚えていた。
揺れを奏でる。というのはきっと楽器を奏でると言うことだ。音は振動だからだ。
メルガはこの歌に興味を持ち、楽器を作りに行くことに決めた。
まだ朝日が顔を出していない薄暗い朝、1人の鳥人族が旅立った。名前はメルガ。これから三つの楽器を作りに行くのだ。島を渡り、様々な島で材料を集めるのだ。メルガは翼を羽ばたかせ次の島を目指した。