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2.覚醒



 「ヴッ…」


 ドサッ。


 ペンギンは、クラスの先頭にいた男子生徒の腹に一撃を与えた。受けたのはクラスの長友だ。そのままくずれ落ちる。


 横たわるのは、大きく血を口から流した、うごかぬ塊だった。


 「な、長友!!」


 なにがなんだかわからないけど、やばいことだけはわかる。

 朝はぜんぜん頭が働かない俺だが、動悸の音が馬鹿みたい高鳴っている。

 

 全然足がすくんで動けない。頭が真っ白になっている。やばい。やばい。

 逃げないと。逃げないと。


 ドン!パリン!!


 「ああああああああ!!」

 「きゃああああああああああ」


 一人ずつ、崩れ落ちる。窓の外に吹っ飛ばされる。椅子や机が空を舞う。

 

 「……っ痛っ!」


 俺の腕に、飛んできた椅子の足が当たったようだ。

 日常の中に非日常が迷い込んできたかのような感覚。いまいち、今起こっていることに現実感がない。


 そして、ペンギンの一匹が、俺のいるところに迫る。


 ズドン!


 「うぉお!!」


 数瞬前まで、俺が立っていたところにあった椅子が、あっけなく吹き飛ばされ、教室の壁にめりこんだ。ペンギンの拳が対象の俺を空振りしたのである。

 飛ばされた椅子の直線上に誰もいなかったのが幸いだ。


 ペンギンは明らかに目の前の俺を狙っていた。


 「キュ」


 その瞳は、何も映さない。死神のようなうすら寒さ。


 ペンギンは拳を振り上げた。

 俺は、顔面蒼白になる。

 

 「ま、まってくれ!!ちょっとたんま!」

 

 バキッ!ドン!


 椅子や机が叩き割られ、吹き飛ばされる。

 逃げる俺は、次第に教室の隅に追いつめられていった。


 ペンギンは、勢いよく俺にとびかかってくる。


 「キュウウウウウウウウウウウウ!」


 眼前にペンギンの拳が迫る。


 あぁ。俺はここで死ぬのか。

 短い人生だったな。

 せめて、死ぬ前に俺は、あいつと。

 そう心の中で呟いた。思い出したのは幼馴染の姿で――。



 ――突然、俺の中で記憶が蘇った。

 

 頭に流れ込んでくるのは、異世界の記憶。

 戦場で魔物達と戦い、傷つき、敵を切り裂いてきた記憶。俺は生前、死地を駆け、魔王の軍勢と戦闘を繰り広げてきたのだ。


 そうだ。思い出した。


 ――俺は、異世界から戻ってきたのだった。


 拳にエネルギーが満ちる。急に、ペンギンの姿がスローモーションに見え始めた。


 ――戦える。俺は、皆を守る。


 熱い魂の咆哮が内から聞こえる。記憶を取り戻した俺に、眠る力が自らを開放しろと語りかける。

 俺は、右手に力を、『魔力』を込めた。

 

 もう好き勝手にやらせはしない。可愛らしい顔して、散々クラスメイト達を…

 俺は怒りに力を任せ、()()した


 「唸れ」


 ――必殺必中。


 「火炎龍(フレイム)…」


 「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 ……え?


 ドォォォォォォォン!!!


 目の前で突如、ペンギンが消えた。否、何者かに吹き飛ばされた。


 余波で粉砕された椅子が、埃を巻き上げる。


 目の前にいたのは、女の子だった。


 たっていたのは、なにやら剣呑な武器を携え、いかにも騎士のような武装をしている少女。


 いつも見ている、()()()の姿。


 「……大丈夫だった??陸人?」


 「ま、真菜、お前」


 毅然と立つ()()()()の、亜麻色の髪が俺の目の前で揺れた。

 お前、その姿。まさか…お前…


 「話は後!今はクラスの皆の安全を!」


 そういって、真菜は襲い来るペンギン達に居向かう。


 「お、おう」


 真菜、お前、それコスプレじゃないよな?その、いかにも中世の騎士みたいな格好。あれだよな、もしかして、ゆうsy。


 「七星剣!!」


 真菜が、ばっさばっさとペンギンを真っ二つに切り裂いていく。


 その優美な戦闘に見とれる俺。

 完全にあっけにとられてしまった。

 

 しかしこうしちゃいられない、色々とショッキングなことが立て続けに起きているが、俺は俺で皆のために戦わねば。

 気を取り直して、残りの残党のペンギン達を探す。


 それは視界の端、すぐ近くでペンギンが暴れていた。

 俺が見つけたとき、既に、ペンギンの拳は振り上げられ、クラスの女生徒に飛び掛らんとする寸前である。

 くっ、万事休すか!

 おれは、手のひらに魔方陣を展開させる。

 蘇る前世の記憶。戦いに挑み、それでも守れなかった命の数々を俺は思い出す。

 間に合え!


 「反射反駁する盾の(リフレクトシール)…」


 「はああああああああああああああああ!!!大いなる守り手の盾(テザーディフェンス)!!!!!」


 ……え?


 ガキン!!


 すんでのところで、襲われる女子生徒の前に魔方陣が展開された。魔方陣はペンギンの攻撃を受け止め、はじき返す。

 俺は周りを見渡した。すると、黒いマントをまとい、長い杖を持っている同級生の姿があった。


 「ぼうっとしてんじゃないわよ!!」


 御船栞。俺に今朝悪態をついていたクラスメイト。

 ツインテールのシニョンが、つばの広い黒帽子に隠れている。 

 お前、その格好…。まさかお前も…?


 「御船、お前まさか魔術s」

 「話は後!!あんたもきっと、私と一緒なんでしょ!!今は」


 敵に背を向けるな、と彼女は叫んだ。

 御船の手には、既になんらかの魔術を発動しているかのように光がともっている。


 みると、クラスメイトのほとんどの目の前に大きな魔方陣が展開されていた。おそろく、御船がしいた、防御の魔法だろう。

 事態に頭が追いついていないが、チャンスだ。御船の魔法のおかげで、クラスメイトが守られている。

 そのおかげで、俺もきっと存分に戦える。

 ここからは、俺も周りを気にせず暴れられ…


 すると、急に、突風が吹荒れた。




 「勾玉の剣」




 ズバン!


 急に風が吹き、俺はとっさに目を覆った。な、なにが起こった?真菜の技か?

 教室の中央を見ると、切り裂かれたペンギン達が床に転がっている。

 その中に、一匹のペンギンを剣で串刺しにして、高々と掲げている男。


 「陸人。まさかお前もなんてな」


 綺麗に刈りそろえられた髪形が目に映った。

 俺のクラスメイトであり、悪友。


 戸田喜一がそこに立っていた。


 …待って。なにそのめっちゃかっこよさげな日本刀。

 すんごいかっこいいんですけど。


 「話は後だ!!まずはこいつらをのこらず細切れにしてやろうぜ!」


 物騒なことを言い出す喜一。こいつこんなキャラだったっけ。

 というか、多くない?俺のクラス、異能持ち多くない?

 みんなもしかして俺みたいな前世の記憶持ち?転生者?

 こういう展開って、一人記憶が覚醒して大活躍、ってパターンじゃないの?


 「ひゃぁー」


 俺は、ドラゴン○ールの悟○みたいな声を上げて、暴れまわる異能持ちの三人を眺めた。


 




 





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