表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/91

歓迎会兼パーティーの始まり

「大丈夫でしょうか、シュンさん」

「うーん、どうかなぁ。でもシュン君が簡単にやられるとは思えないかな…」

「うむ、アイツはゴキブリの如くしぶといからな。どうせ魔族とよろしくやってるんだろう」

「それ、絶対シュンくんの前で言わないようにね…」


 マナ姫様が心配そうにつぶやくと、桐峠さんと結城さんが笑いながら返す。


 シュンが連れ去られた後、周りの兵たちまた若者が殺されてしまうと嘆いていたが、シュンに限って死ぬことは無いと思う。あの魔族から敵意もそんなに感じなかったし。


 兵士さんたちはまたあの付近で魔族が来ないか見張っている。俺たちは俺たちの用を済ませるべく、ウィンドブルムへと急いだ。






「で、ここがウィンドブルム国か」


 俺は城壁を見上げて言った。

 シュドール国とほぼ同じくらいの大きさに見える。城壁の頂部では何人かの兵士らしき人達が弓を持って警戒している。

 跡継ぎの話でピリピリしてる上に魔族が近くをうろついてるなら無理もない。


「こんにちは、通して下さる?」

「はい?……こっ! これはこれは!マナ姫様! ようこそいらっしゃいました!!おい!早く通せ!」


 マナ姫様が門番の人に話しかけると、あからさまに腰を低くして汗を垂らし始めた。突然姫様が現れたらまぁそうなるだろう。マナ姫様は俺たちを護衛として紹介してくれると、そのままこの街の説明をしてくれた。


「ここ、ウィンドブルム国は少し特殊な話し方をする国風で、今のように門番などの他国と関わる人以外は少々分かりづらい喋り方なので、慣れるのに時間がかかるかもしれません。」

「へぇ、そうなのか」


 前のアリナの護衛の人達みたいな、なまった喋り方だろうか。なるほど、あれはそういう事だったのか。


「このまま馬車に乗り、ウィンドブルム城まで行きますが、どこか寄りたいところとかはございますか?」

「特には」

「私も、特に何も無いかな」

「右に同じく」


 護衛ではあるが、ついて行っても良いんだろうか?


「皆さんからの意見もお聞かせください。この国は我が国と同じく王子が生まれず、第1王女、第2王女、第3王女が居ます。どの方もそれなりの問題を抱えてまして…」


 マナが苦笑いをして言った。アリナの問題って…何か変なところあったかな。


「まぁその辺は説明するよりも見た方がよろしいかも知れませんね」

「城に入るのは慣れないけどね…」

「そんな、ユウト様ならいっそのこと魔族くらいでも簡単に落とせそうですけどね」

「や、辞めてくださいよ……ホントに」

「えっ、なんですかその顔は」





─────────────



「なぁ……今何時だ」

「ん? 目が覚めたのだ? 今は日が登ってるから昼時じゃないか?」


 体の節々がまだ痛い。固い岩で寝るなんて正気の沙汰じゃないな。せめて枕ぐらい用意しとけよ。


「平日なのに長く寝れたな」

「人間は寝る時間も無いのだ?」

「人によってはある。俺の場合はあんまり無い。毎日特訓だ。まともにやってないけど」

「だろうね、なのだ」

「なんだァ? てめぇ」


 急に煽り散らかすロリにキレる俺ではない。

 男はクールに、それでいて静かなのが良い。


「特訓っていうのは、魔族を殺すための特訓か?」

「おう」

「魔族を前に包み隠さないのだ! ……じゃあシュンもメアを殺すのだ?」

「殺さないのだ」

「その語尾キモイのだ」

「殺すぞのだ」

「どっちなのだ!?」


 キレない。クールに行こう。このガキ絶対許さねぇ。


「メアは俺を殺すつもりは無いんだろう? じゃあ俺もメアをどうにかする理由が無い」


 俺は身動ぎしながら言う。背中の岩が刺さって痛いのだ。ゲーミングチェアが欲しい。


「人間とまともに話すのは初めてなのだ。シュンと話してみて、我は今まで無駄なことをしてきたのかもしれないのだ」

「まぁ、人殺しを庇護する事は出来ないな。メアが殺した人間の中でも俺より優しくて良い人が居たかもしれない」


 メアはそれを聞いて俯いた。身体が少し震えている。魔族の倫理観は分からないけど、メアの場合は少なくとも殺すことに目的は無かったんだろう。

 親が殺られたから復讐心でやってるのかと思っていたが…魔族としての責務とでも思ってるんだろうか。


「メア、俺の世界にはこういう言葉があってな」

「俺の世界ってなんなのだ」

「今は突っ込むな」

「分かったのだ」


 ゴホンと咳をして話し直す。こいつ俯いてた癖にここに突っ込んできやがって。


「"隣人を愛せ"……て言葉知ってるか?」

「知らないのだ」

「だろうな、まあ簡単に言えば『敵対する人でも優しくしよう』という意味だ。宗教の言葉だけど、実際正しいと思う。寄り添うことが出来なくても敵対しないことは出来るからな。」

「……深いのだ」

「ホントに分かってんのか?」


 ウンウンと頷いて見せるメア。深いのか。


「本当に平和に過ごしたいなら敵を作るな。人に尽くせって感じか」

「それは搾取されるだけではないのだ?」

「難しい言葉知ってるなお前。うん、まあだから素直に従ってる人の方が少ないんじゃないかな。だが、その言葉を覚えていたら、人に優しく────あぁ、いや、魔族に優しくなれそうだろ」


 人に優しくする。俺の信条だからな。主に自分に優しくする。俺も人だからな。


「シュンのイメージがコロコロ変わるのだ。最初は優しい人、次に変な人、今は胡散臭い人なのだ」

「マジか、宗教じみた事言うんじゃなかった」


 後悔先に立たず。俺はもう神様なんて信じない。


「覚えてくれたか? 隣人を愛せって」

「分かったのだ…隣人を愛せ! 覚えたのだ!」

「…………隣人の意味知ってる?」

「知らないのだ!」


 んもぉ〜うっ、メアちゃんのおバカっ。


「あ、メア。ひとついいか?」

「なんなのだ?」

「手首の縄解いてくれ。腐り落ちる」

「ごめんなのだ」


 素直に解いてくれて嬉しいよメア。ついでに城に返してくんねぇかな。



─────────────



 俺は光ヶ丘ユウト! 今友達のアリナの家(王国の城)に来てるんだ! いやぁ、世の中はすげぇヤツらがいっぺぇいんだな! オラワクワクすっぞ!


「ユウトくん? なんか髪が凄く立ってるけど大丈夫?」

「あぁいや、結城さん。気にしないでくれ。それより、今はパーティーなんだよな?」

「うん、歓迎パーティーらしいよ。さすが、マナ姫様だよね」


 マナ姫様とこの城に入った瞬間、すぐさま黒いスーツを着た男の人たちに強制的に移動させられて着替えさせられた。

 カクテルスーツと言うんだろうか。なんかジャ◯ーズ系が着てそうな服だ。俺には似合わない気がする。


「ユウトくん似合ってるね! スーツ決まってる!」

「そんな。結城さんこそ、ドレス似合ってるよ。やっぱりスタイル良いんだね。桐峠さんも、髪飾りとかすごく似合ってる」

「あ、ありがとう」

「あっ! シズクちゃん照れてる!?」

「ばっ! ばか!違う! 男に褒められるのに慣れてないだけだ! 」


 桐峠さんも結城さんも赤と黒のカクテルドレスを着ている。ちなみにカクテルドレスやカクテルスーツは今のような時間帯、正確にはもう少しあとだけれど、夜ではなく昼から夕方に掛けてのパーティーで着られる正装のことらしい。昔シュンが言ってた。


「そんなこと言って〜、実はユウトくんのこと好きなんだったりしないのかな?」

「バカ言うな、私は男自体嫌いだ。そう、あの死んだ男のようにな」

「シュンくんのことかな!? ならまだ死んでないよ!?」

「死ねばいいのに…はっ、私が殺せばいいのかっ」

「まずいよ、スイッチ入っちゃったよ!」


 結城さんが口に手を添えてワナワナと震えている。桐峠さんはシュンの事が嫌いなのだろうか? あんなに物知りで賢いヤツはそう居ないと思ってるんだけど。


「ねぇ、あの人、凄いかっこよくない? 話しかけてみようよ」

「えー、アンタが行きなさいよーっ」


 向こうからの視線に気付き、チラリと目を向けて手を振る。


「キャーっ!」

「ねぇ見た!? 私に手を振ったわよね!?」

「私に決まってるでしょう!?」


 あはは…なんだか居心地悪いなぁ。でもマナ姫様に連れてきてもらってるんだし、できる限り良い印象を与えないとな。


「あの、お綺麗ですね。もしかしてマナ姫様のお連れの方でしょうか?」


 と、いつの間にか近寄ってきていた男の人が結城さんに話しかけた。綺麗な服装を着ている。あと髪をガッチガチにワックスで固めてる。


「あー、えーと…はい。マナ姫様に連れてきていただきました、結城美郷です」

「おぉ! とても可愛らしい女の子だね! 僕のはフリム=ドール=リンド。美しい女の子の味方さ」

「リンドさんで良いですか?」

「あぁ! そんな可愛い声で呼ばれたら笑顔になってしまうよ。そうだよ、リンドさんだよ」


 中々キャラの濃い人が出てきたな…確かにイケメンの方だ。スーツの着こなしや立ち振る舞いにも優雅さと気品を感じさせる。上流貴族なのだろう。


「フリム=ドール公爵家のご子息の方ですわ。ここから北のブリームの土地を丸々支配してるお方よ」

「へぇ」


 傍に居た女の人が聞かずとも教えてくれた。本当に上流貴族らしい。確かにあの気品は本物だ。


「悪いが、ミサトにはもう好きな人がいる。ソイツにはムカつくが、ミサトが好きな以上私は応援する。よって、貴様がミサトに近付くことは許さない」

「えっ…」

「ちょっとシズクちゃん! そんなに強く言うことないって……ていうかこんなとこで言わないでっ」


 チラリとリンドさんに目を向けてみると、後ろに『ガーン』という文字が見えそうなくらいショックを受けているようだった。


「ご、ごめんなさいリンドさん。お茶くらいでしたらお供しますよ?」

「ミサト、無理は良くない」

「……はっ! あぁ! うん! 別に僕も無理強いをしようって訳じゃないさ。ごめんね、可愛い子にはつい話しかけてしまうんだ。悪い癖だね」


 さわやかに笑いながら、頭を下げるリンドさん。貴族という割には簡単に謝罪をする。正直、最初のイメージはアレだったけど、浮ついた中に本気が見える。


「あとシズクちゃんでいいのかな?」

「桐峠と呼んでくれ」

「そっか。キリトウちゃんはミサトちゃんに男を近付けさせないと言ってたけれど、そんなにミサトちゃんが好きな男の子はいい男なのかい? はは、こんなに良い子を放っておくなんて、罪深い男もいたもんだね」

「あのクソ粗チンやろうと比べたら、貴様の方が何千倍も良い男だ」

「えっ、今なんて言ったんだい?」


 さぁっとリンドさんの顔が青く染まる。まずい。普段から口があまり良くない桐峠さんも、この場でそんなこと言ったらあまりにめ印象が悪い。


「は、ははは。ごめん、何か変な言葉が聞こえた気がして。でも、いい人なんだろう?」

「人類の邪悪を圧縮して人型にしたらアイツになる」

「あっ、僕用事があるんだった。ごめんね、まだまだパーティーを楽しんでね」


 ついに耐えられなくなったリンドさん。慌てて退散です。正解だと思います。はい。


「シズクちゃん」

「ミサト、私は悪くない」

「シズクちゃん」

「……悪くないもん」

「シズクちゃんっ!」

「……す…す、すまなかった…と、思っている」

「よし!」


 あれ? おかしいな、桐峠さんと結城さんの関係がペットと飼い主みたいに見えてきたぞ? 闇が深いのかな?


「お連れの方、随分特徴的ですね?」

「えぇ、まぁ、ははは」


 さっきリンドさんの説明をしてくれた女の子が笑いかけてくる。今さっきまで周りを取り囲んでいた女性たちの相手が終わり、ちょうどフリーになっていたところだった。

返せるのはギリギリの苦笑い。


「君の名前は?」

「私はルナ=ウィンドブルム=ランド。あなたは?」

「俺の名前は光ヶ丘ユウト。ユウトって呼んでくれ」

「ユウト、ね。聞いてるわ」


 炎のように美しい赤髪がサラリと風になびく。風吹いてるのかこの空間。

 聞いてる? 一体何をだろうか。


「ねぇ。お酒飲める?」

「いえ、未成年なので」

「私の酒が飲めないの?」

「あ、圧をかけないでください…」

「あっはっはっは! 冗談だよ! 冗談。悪かったね、ほら、ノンアルコールなら良いでしょ? 付き合ってよ」


 テーブルに着き、2人だけで会話をする。豪快に笑う様子は彼女が明るい性格であることを裏付ける。


「ユウトは好きな人いるの?」

「ぶっ……はい? いきなり何の話ですか?」

「良いじゃなーい! ほら、まだ若いんだし、好きな人の1人や2人居るんじゃないの?」

「そ、それを言うならルナさんもまだ若い、ですよね?」


 どう見たって20代行ってるか行ってないか。さっきまで話してた別の方たちと同じくらいだ。充分若いはず。


「あっはっは! もしかして口説こうとしてるのかい!? 歓迎だよ、あんた位のイケメンなら抱かれても構わないわ!」

「こ、困ります」

「困るのね。」


 しょぼんっと凹んだように俯くルナさん。あっけらかんとした表情から落ち込んだ暗い顔に、感情の起伏が激しい方だなぁ。


「というか、そんな事はどうでもいいのよ」

「あ、はい」


 ガバッと顔起き上がらせてこっちを見る。瞳が濁りに濁ってる。こちらまで届く彼女の息から酒の匂いがする。


「酔うの早くないですか?」


 さっきまで説明キャラだったのに、今じゃ酔っ払いキャラ? 属性何個積むつもり?


「んぇえ? なに? 私の酒が飲めないの?」

「それさっき聞きましたっ! ほら、ノンアルですけどこちら頂きますよ」

「うへへ、あんた良い男だね。一気飲みだろう?」

「も、もちろんです」


 意を決してがぶがぶと飲み続ける。喉を刺激する炭酸が心地よくも少し痛い。お姉さん、せっかくの美人さんなのに酔い潰れちゃってるの、魅力が激減……うぷ。


「ぷはぁ! ど、どうですか。飲み切りましたよ!」

「………ぐぅ…ぐぅ…」


 あ、やばい。久々にキレそうだ。やらせるだけやらせて眠ってるなんて、俺は芸人じゃないんだけどな。


 と、人がまた多く集まってきている。どうやらダンスが始まるようだ。経験の無い俺は見てるだけでいいかな。


「ねぇ、踊ってよ」

「ルナさん…酔ってるんですから、ほら、体勢を変えて…椅子並べて倒れられるようにしとくか。はい、あと水飲んでください」

「……ユウト君、君ほんとに良い子だね。うちで働かない? 給料弾むよ?」

「良いから、酔ってる頭で何言われても信じませんよ」

「やぁーん、冷たいー♡」


 酔っ払いの相手は慣れている。姉さんがよく酔っ払って帰ってきてたから、何度も介抱してあげた。吐かないだけ偉い。


「あ、ごめん。無理」

「無理って何が!? ちょっと! 急過ぎません!?偉くない! それは偉くないですルナさぁん!!」

「おろrrrrrrr」

「ちょっ! はい! 袋ぉ!!」


 ギリギリ間に合った……ふぅ、ゴミ入れる様の袋が傍にあって助かった。にしても酷い酔っ払いだな、ルナさん。ただ、やっぱりウィンドブルム=ランドってきいたことがあるんだよな。


半年ぶり以上の投稿で草






……はい、すいませんでした。何でもするので勘弁してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりだけど面白かったです。 [一言] ん? 今何でもするって言ったよね? 手始めに今月中に20話更新してもらおうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ