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ウィンドブルムへ行きたくない

「はい、ウィンドブルムまでの護衛はシュンさんに頼みます、えぇ、問題ありません」

「ありよりのありなんだよこのアリ」

「さすがの私もアリと言われたことは生まれて初めてですね…」


 俺は休日にマナに呼び出され、王室に来ていた。そして目の前のマナが王様、ロミオに自信満々に不可解な事をほざくので、軽くどつく。イタタと言って頭をさするマナ。


「ふむ、まぁ私としてもシュン君が護衛と言うなら怖いものもないが…しかしシュン君だけではな」

「おいおい、俺を連れてく前提で話を進めるのは困る。誰が行くって言ったよ」

「あら、ユウトさんが『シュンなら来てくれるよ、優しいから』とおっしゃいましたので」

「ちょっと用事が出来た。待っててくれ」

「申し訳ありませんがそのような顔をした方をここから出す訳には」


 マナよ、退いてくれ。アイツを殺せない。


 というか、そもそもよ。


「なんの用があって行くんだ。俺としては行くメリットも感じないし」

「実はウィンドブルム国とは同盟国として、良くして頂いてるのですが、今ウィンドブルムは後継者を決め兼ねているらしいのです。そこに手紙が来まして、私たちの意見を聞きたいとの話で、赴くことに」

「手紙で済ませやそんなもん…」

「国の大事なことですので、機密情報なのです」

「機密情報とか、なんかめんどそうだ。帰ろう」


 俺は即座に踵を返し、部屋を出るべくドアノブへと手を掛ける。


「お、お待ち下さい!」


 後ろから声がかかり、同時に片腕を引っ張られる。痛いって。


「マナ、俺にメリットが無ければ動かんぞ」

「ウィ、ウィンドブルムまで行く間、護衛して下さるだけで良いのです。あちらへ着いたら自由になさってくれて構いませんから」

「行きたい訳でもないのに、自由にされた所でだろ」

「それに、最近ははぐれ魔族だったり、盗賊だったりと怖いのです」

「はぐれ魔族とか、んなもんも居るのか」


 が、俺としては関係ない。別に俺じゃなくともマナを守れる奴は万と居るだろう。


「どうしてもと言うなら、メリットを提示してくれ」

「で、でしたら……私がシュンさんのお嫁さんになります!」

「マナぁっ!?」

「結構です」

「しゅんくんぅぅぅん!!?」


 王様が顔の筋肉を引き攣られせて叫ぶ。男が叫ぶなど、見苦しいぞ。王様のくせに、最初の貫禄はどこへ行った。


「しかし、私にはこれ以上渡せるものがありません」

「じゃあこの話は無かったことに」

「お父様も何かありませんか? 私はどーしてもシュンさんに来て欲しいのです!」

「うむむ……しかし、なぁ。私がシュン君に渡せるものなど休日ぐらいしか」

「よし行くぞ」

「えっ、あの…私と休日並べてその反応だと流石に泣きそうになるんですが」


 マナが視界の端で指で地面をつついている。が、俺の興味はそんなところにない。


「王様、休日どれくらいくれますか」

「君、今までに無いくらい真剣だね」

「真面目に答えてください! 怒りますよ!」

「王様ないがしろにし過ぎじゃない? 私も泣こうかな」





─────



 と、いうことで。なんと休みが3日も貰えることに。1日犠牲にして、3日増える。実質2日増えたという事だ。悪くない。


「なぁシュン! これを見てくれ! さっき立ち寄った村で買ったんだが、とても綺麗だろう!?」

「ねぇねぇ、シズクちゃん。この髪型どう思う?」

「うむ、ポニーテールか。良いと思うぞ。私とお揃いだな」

「皆さん、お茶はいかがでしょうか」


 悪く、ない……悪く、なくなくなく泣く泣く。めそめそ。


「なんでこいつらもいるんだ…」

「ユウトさんがアリナ姫と知り合いということでしたので。しっかり招待状もありましたし」

「まぁ、ユウトは予想出来たさ。一緒に行く流れだろうなと。そうじゃなくて、結城さんと桐峠だ。なんでこの2人が居る」

「あっ、えと……ごめん、邪魔だったかな……?」

「おいシュン、貴様ミサトを泣かすとは万死に値する」

「泣いてねーよ。別に邪魔とかじゃ……いや邪魔だな」

「えぇ…」


 今、馬車に揺られてウィンドブルムを目指しているところだ。大体にして2日掛かるらしい。その間の護衛として、ある意味雇われているのだが。


 あぁ、なるほど。合点がいった。


「コイツらも護衛ってか」

「はい、そうですね」

「はぁ、また騒がしいヤツらを連れて来やがって。ユウト一人居りゃ十分だろ」

「良いじゃないですか、楽しいですよ、人が多いのも」


 結城さんとか、桐峠とか、もはや遠足気分じゃん? 髪もいつもと違った感じに結ってるし。ポニーテール良いな。


「あっ、えと、どう…かな?」

「あん?」

「怖いよ…髪型、ポニーテールどうかな?」

「あぁ、似合ってると思うぞ。俺は好きだ」

「っっ…シズクちゃんごめん!」

「お、おぉ…照れてるミサトも可愛いな」

「何してんだお前ら」


 結城さんが桐峠の胸に飛び込んで顔を埋めている。てか桐峠意外と胸がある…はっ!


「この貧乳が!」

「はぁ!? 貴様! 私は何もしてなかろう!」

「うるせぇ! なんかムカつくんだよ!」

「シュン! 落ち着け!」

「いいや、限界だ! 落とすね!」

「おい粗チンやめろ! 危ないじゃないか! うっぷ…」


 桐峠の肩を持って全力で揺すってやると、口に手を当ててその場に倒れ込んだ。


「お、おい? 桐峠、大丈夫か?」

「おのれ…宮坂貴様…許さんぞ…私は乗り物酔いするんだ……我慢してたのに…うぇぇっぷ……ふぅ…」

「なんかごめん」


 普段の桐峠からは想像もつかないくらいに弱っている。これはチャンスか?


「シュン君」

「流石にしねぇって、冗談だよ」

「いやそうじゃなくて、今周りに妖精さんに離して警戒して貰ってるんだけど、左右から別の馬車が来ているみたい」

「おいおい、早速お出ましか?」


 目を凝らし、遠くを見てみると、確かに小さく馬車が見える。今俺達は公道、つまり平地を走っている訳だが、あっちは明らかに整備されている道ではない。


「ミサトさん、馬車のどこかに紋章はありませんか? 国の者でしたら必ず刻まれているはずです」

「聞いてみます。妖精さん、分かる?」


 結城さんが空に話し掛け、どこからか風が流れてくる。しばらくして結城さんがこちらに向き直る。


「全ての馬車にこんな感じのマークがあるそうです」

「これは…ウィンドブルムの物ですね。どうやら国からのようです。何かあったのでしょうか」


 結城さんが馬車の床に手を当てると、光が集まり紋様を作る。あれも妖精か? 便利なもんだ。


「待てよ、いま通っているこの道は平地だったとしても、あっちの方は決して整備された道じゃない。それが左右からって、おかしいだろ」

「確かに。じゃあ敵か?」

「それも違う、敵だったとして国の馬車を盗んだと仮定しても数を揃えられるとは思えない。盗賊にそんな力があって溜まるか」


 ふむ、残る答えは…あまり想像したくないものだが。


「敵ではなく、味方ではないのなら一体何なんですか?」

「いや、まあ味方だと思うが…敵もいる」

「あの中に?」

「いや、上に」


 マナやユウトが何を言ってるのかさっぱり分からないと言った感じでこっちを見る。


 俺は溜息を吐いて馬車の端に移動し、上を指差す。周りの奴らもやってきて、一斉に上を見る。


「はは、仮定の1つだったが…ほんとに居るとはな」

「お、おい……シュン? あれって──」

「うそっ……っ!?」

「シュンさん、あれはもしかして──」


「「「お逃げくださぁいいいっ!!!」」」

「「「お前らっっ! 早く動け! 間に合わないぞ!!!」」」


 左右から走ってくる馬車の中から叫び声が聞こえる。怒号のような声は、しかし耳に通ることは無く、俺達はみんな釘付けとなっていた。



「ふはははは!! メアも運が良いのだ! 質のいい魔力を持った人間が沢山居るのだ!!」


 角を生やし、尻尾が生え、コウモリのような翼を携えた女の子が空中からこちらを見ていた。




───そう、魔族だった。



 周りからやってきた馬車の人達はみんな助けに来ていたのだ。いつからか分からないが、襲ってくる魔族から、俺達の馬車を守るため。


「じゃあ、死ぬのだ」


 魔族の女の子は手を振り下ろす。すると、何十個の魔力の塊が隕石のように降り注いだ。


「結城さん防壁、ユウトと桐峠はいなせ。マナは俺の近くに居ろ」

「あっ! …うん!わかった!」

「シュン! マナ姫様は任せた」

「ぅぷ……き、きつい…」


 咄嗟のことだったがなんとか反応し、防壁を張る。その間に入ってきた塊をユウトが剣で叩き切り、消し飛ばした。


「なに…良い反応なのだ。特にそこの不機嫌そうな顔をした人間。何者なのだ?」

「誰が不機嫌そうで気だるげで臭そうだ! 殺すぞ!」

「そ、そこまで言ってないのだ…よく分からんが、どうせ死ぬのだ! ほらほら!」


 魔族は更に魔力の塊を撃ちまくる。もう少しで他の馬車もこちらへ着きそうだが…アイツら対抗する術があるのか? こっちはまだ結城さんの魔法やユウトが居るが。


「シュンさん! どうするんですか!?」

「まぁ慌てなさんな。ユウト、どうする?」

「丸投げ!? い、いやぁ…斬る?」

「物騒だな。それもありだが…」


 俺は馬車の外へと出て、魔族と顔を合わせる。防壁のおかげで俺に魔法が当たることは無い。


「むっ、人間。なぜ出てきたのだ?」

「いやまぁ、お前と話がしたくてな。降りて来いよ。飛んでるだけで魔力使うんじゃねえの?」

「おいおいシュン、流石にそれで降りてくるわけ───」

「分かったのだ」

「えぇぇぇぇっ!!」


 うっさい奴だな。心の中で驚いとけ。いちいち言葉に出すな。

 前にイルに聞いたが、どうやら浮遊魔法というものはあるが、持続させるのには大分魔力を使うらしい。色々と方法はあるらしいが、人ひとりを持ち上げる魔法ってのは決して安くない。


「どうも、降りてきてくれて」

「構わないのだ。それよりと、話というのはなんなのだ?」

「メア、と言ったか? 人間を襲う理由を聞かせてくれないか? ほら、茶でも飲めよ」

「お、ありがとうなのだ」


 どうやらこの子のさっきの様子から、人間を舐めていることが分かる。舐めているということは=警戒心が少ないということ。

 そしてコイツが馬車の中でも、マナではなく真っ先に俺へと反応したところから、恐らくマナを目的とした攻撃ではない。


 魔族は気まぐれと聞く。この辺りに出没するという話だったのだろう。だから他の馬車の人たちは周りに隠れていたのだ。この魔族が現れた時、対応出来るように。


 以上のことから、別段怒らせなければ多少の会話は出来ると踏んだ。話してるとコイツなんかチョロそうだし。


「ん…美味しいのだ。お前はあれだな、良い奴なのか」

「良い奴? まぁ、そうかもな。ほれ、茶菓子のクッキー」

「ん? なんだこれは、くっきー? お菓子とはなんなのだ?」

「まあ食べてみろ。騙されたと思って」

「騙しているのだ!?」

「言葉のあやだよ、さっさと食え」


 メアはおずおずとクッキーを口に入れる。もぐもぐと口を動かした後にニコーっと笑顔になった。


「美味しいのだ! もっと欲しいのだ!」

「マナ、おかわり」

「えっ、えぇ…」


 困惑したようにマナは用意した茶菓子を持ってくるのだった。




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