再開
「では、皆さん料理を始めましょ~。今日はカレーね~」
「「「「「イエッサーッッッ!!!」」」」」
大量の数の子どもたちが蠢きながら、作業に取り組む。うじゃうじゃと動くこの景色。小さい頃に何度も見た気がするんだよなぁ…何だっけ?
「マリナさん、凄いですね。この数の子どもたちを統一させて、軍隊みたいです」
「あらあら、うふふ。何でかしらねぇ?」
「マリナさんの人が良いからですよきっと! あの子どもたちもみんな幸せでしょう!」
「嬉しいこといってくれるのね、うふふ。お姉さんときめいちゃう」
「あははは」
なんだあれ。
「ユウト、ちょっと来い」
「え? どうかしたのか?」
こちらへ駆け寄ってくるユウト。俺は右手を振りかぶり頭へと目掛けて降り下ろす。
「いたっ!? どうしたんだシュン!?」
「おい。おいコライケメン。なに口説いてんの? 馬鹿なの? 見境なしなの?」
「思ってること言っただけなのに……」
「自重しろ! お前は自分の顔の良さを考慮しろ! 何百人という女の子がそのせいで勘違いしてきたろうが!」
その度に呼び出される俺の気持ちにもなれ。もう呼び出しに期待することが無くなったよ。
『これ、ユウト君に渡してくれる?』ってね!
『ねぇ、あんた邪魔なんだけど』ってね!
俺が告白されるわけでもないのに放課後体育館に呼び出されたよ。呼び出しの回数ならお前にすら勝ってるよ。
「それにしても、本当に凄いよな。この数。10や20じゃきかないよ。おーい、マリナさーん」
「はーい?」
「セルウスの街からの孤児って何処にいるんですか? 僕たち、その子達にも挨拶したいんですけど」
「あぁ、あの子達ね。まだ環境に慣れてないようで、教会の寝室で寝てもらってるの。ユウトくんやシュンくんが行っても怖がられちゃうかも…」
「いえいえ、僕が挨拶したいだけなので。教会ですね。行ってみます」
はぁーあ、本当にコイツは何の目的も無しにやるんだから。勝手に行っとけ。俺はこの草原で寝させてもらうよ。
「シュン! 行くぞ!」
「だと思ったよ。嫌だよ。眠いんだよ、こちとら今日は一睡たりとも出来てないんだよ!」
「まだ朝だぞ!」
「『もう』朝なんだよ! あの神様ぜってー許さねぇ!」
結局腕を掴まれて連れてかれる俺。慣れたよ、この展開。嫌々連れてかれて内心喜ぶってのはエロ本の世界だけだって。
教会の奥にあるドアの向こう。少し広い廊下の左右に更にいくつかの部屋がある。ここがその子達の部屋らしい。ていうかこの教会ひろいな。見た目古かったのに。
「ノックして…入るよー」
「おじゃまー」
部屋のひとつに足を踏み入れる。
中に入ると、予想通り、一部あるはずの部位がない女の子5人位が寝ていた。
が、俺たちが入った瞬間に起き、小さな悲鳴をあげて部屋の隅へと入って逃げる。
「あーあ、まあ予想通りだな。じゃ、帰るぞユウト。分かったろ? まだ怖いんだって」
「……」
元とはいえ奴隷だぞ? 一生分のトラウマを抱え込んでてもおかしくない。むしろ小さな悲鳴で済んで良かった。叫ぶぐらいあっても仕方ないほどなのに。
「俺たちの出番じゃねえよ、ユウト」
「よいしょ」
「ユウト?」
ユウトはその場で座り、子どもたちと視線を会わせる。
「ごめんね、急に入って来て。はじめまして、僕はユウト」
「「「……」」」
ユウトが話しかける。子どもたちの顔はまだ険しい。俺はなにもしない方が良さそうだな。
「君たちと仲良くなりに来たんだ。ほら、良く見ててごらん」
ユウトが不意にポケットから……黄色の紙?を取り出した。
「これをね……こうやってこうやって、こうすると~?」
なるほど。よく考えたな、折り紙か。確かに子どもの心をつかむには良い案だ。
ユウトは慣れた手付きで鶴を作っていく。
完成した鶴は今にも動き出しそうなほどきれいで、嘴なんてまるで本物のような曲線だった。どうやってるのか、尻尾を引けば羽を羽ばたかせる。
「……すごい」
「駄目、まだ何かされるか分からないよ」
「マリナしゃんはどこにいるの?」
食い付いてはいる。視線は釘付けだが、あともう少し足りない。まだ信用が足りないみたいだ。
「大丈夫だよ」
ユウトが笑顔になり、子どもたちに語りかける。
「怖くないよ、ほらご覧。これがお花。君たち全員に特別にあげるよ」
ユウトは恐ろしい早さで黄色や青、赤色の花を作り出した。それを一つ一つみんなに渡していく。
あ、これは……
「お兄ちゃんすごい…これどうやって作ったの!?」
「私にも出来る?」
「しゅごいしゅごーい!」
「ははは、良かった。みんな、折り紙は一杯あるから一緒にやろうね。そうだ、他の部屋の子達も呼んでこようよ」
「「「はーい!!」」」
はい、ありがとうございます。陥落です。良かったですね、最初の部屋が女子部屋で。
男なら誰もが生まれついての才能と顔の違いに絶望し生きる希望を亡くして死のうとして、しかし死ぬ勇気は無くて将来を捨てて二次元へ逃げるというのに……
しばらくして、部屋は子どもまみれになった。俺は目付きが悪いので、ほとんどの子どもたちは寄ってこない。これもまた才能である。要らないなぁ。
「いたっ! ……あれ? なんか紙が飛んできた」
「ねえねぇ! お兄ちゃん! これはどうやって作るの!?」
「えっとそれはねー」
あーあ、俺一人除け者じゃん? へいへい、いいよいいよ。俺は帰って寝ますよ。カレーなんてイルが作ってくれるから要らないし。
「シュン……です」
「うるせぇな。ほっとけ」
「シュン……です」
「同情で俺に関わるんならやめとけ。ほら、あっちの兄ちゃんの方がカッコいいだろ」
「ん……シュン……の方が…カッコいい…です」
「はぁ? ていうか知らないやつに下の名前で呼ばれる筋合いはねぇよ。それに名乗ってないだろ。なんで知ってるんだ───」
隣から話しかけられ、鬱陶しさを感じながらも振り替えるとそこには見たことのある幼女が居た。
頭の上に耳があり、時々ピクピク動き、お尻から生えている尻尾は左右に忙しなく動いていた。
「ゾーイか!」
「ん……久しぶり…です」
「おぉー! あれから会うことなくて心配してたんだ! あの後会いに行ったら居なくなってたから街に帰ったのかと思ってたぞ!」
「森を歩いてたら……ほご?って言われて…気がついたらここに来てた……です」
「ちっ! ロリコンか!」
ゾーイに手を出すとか、俺の眼を駆使して探しだして駆逐するレベルだぞ?密かに悲しんでたんだからな。
「あれ! 君は確か、シュンになついてたゾーイちゃんか!」
「……です」
「おいそれ以上こっちに近付くなよ? 俺のゾーイにまでお前の毒牙をかけようとは、万死に値する」
「俺何かしたか……?」
ゾーイは俺の膝の上に乗ると、そのまま体を預けて眼を閉じる。
「一緒に寝る…です」
「え? いや、今はちょっとダメだって。ユウトがいるし」
「シュンは…ゾーイと寝るの…いや?」
「その子首をかしげる仕草やめろ、あざとすぎるから」
ゾーイといるとなんか油断してしまうからなぁ。苦手じゃないが、いつか弱味を握られそうで怖い。
「なぁゾーイ! そんなやつより俺と遊ぼーぜ!」
と、俺の膝のゾーイに向かって叫ぶ子ども。元気な男の子だ。片手には花があって格好はつかないが。
「ゾーイの友達か? 行ってこいよ」
「……ふるふる」
「オタサーの姫か。効果音を喋るんじゃないよ」
「ぞ、ゾーイ! そんなやつより俺の方が楽しいぞ!」
「あ、もしかしてゾーイのこと好きなの?」
「は、はぁぁぁっ!? そ、そんなことねーし! むしろ嫌いっていうか!? あ! いや! ゾーイ! ごめん!」
この男の子テンション高いな~。10歳くらいか? 色づきやがって。まぁ、見てる分には楽しいけど。で、謝ってるけどゾーイは最早聞いてすらいない。あと俺の服を食べるな?
「…はむはむ」
「おい、ヨダレがつくだろ。やめとけ」
「シュン…久しぶり」
ギュッと服が握られる。力は弱いが、少し震えてるのが分かる。
全く、王国のやつが保護したんだろうが、いい加減なことしやがって。怖がってるじゃねえか。そりゃそうだろ。急につれていかれたら誰だって怖い。くそっ、今度王様と将棋するとき全力で潰す。
「ぐ、ぐぬぬ……ゾーイ! そいつのこと好きなのか!?」
「シュン……好き……です?」
「え、なに? 俺に好きかって聞いてんの? まぁ、ゾーイは嫌いじゃないけど」
「好き……です?」
「別に」
「がぶがぶ」
「微妙に痛い。やめなさい」
甘噛みは可愛いからやめろ。
「くっそー! ゾーイのバカーっ!!」
「あ、逃げ出した。良いのか? ゾーイ。友達じゃなかったのか?」
「……です?」
……ちょっと可哀想になってきたなあの男の子。
「あらあら! すごい! こんなに元気な様子初めて見たわ!」
「あ、マリナさん。いやぁここの子達はみんな物覚えが早いですね。ほら、見てくださいよこれ」
「まぁ! これは鳥かしら? 上手ねぇ!」
「全部子どもたちが作ったんですよ、凄いでしょう?」
ユウトは自分のことのように喜び笑っている。マリナさんも初めて見た遊びにびっくりしてるようだ。まぁ、良いことした後だから気分は良いよな。
「そうそう、朝御飯ができたから二人とも呼びに来たの。でも凄いわ、あんなに怖がってた子達がこんなにも元気になるなんて。魔法みたい」
「そんなことないですよ、それに、最初来たときマリナさんの名前を呼んでましたよ。マリナさんはとっくのとうに子どもたちの中で頼りになるお母さんになってるんですよ」
「───っ! いけないわ、年を取ると涙もろくなって……ちょっと泣けてきちゃった……ごめんなさいね」
はぁーこの色男は。ちょっと加減を覚えた方がいいぞ。そのうち背後から刺される。
文字数が多くなってきたので切り上げ! 次話もゴールデンウィーク中に出します!




