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レッツゴートゥ孤児院

なんか…フワフワする感覚があるな……夢の中みたいだ。明晰夢ってやつか? いいや、眠い。おやすみ。


「もしもーし、聞こえてるー?」


んだよ……こちとら眠いんだよ、疲れてんだよ。


「それは分かるけどさー、必要なことだから、ね? 起きてよー」


黙れ、俺を起こすなら神様ぐらい連れてこい。それなら起きてやらんでもない。


「神様連れてきてその態度なの……ていうか私が神様だからね」


は?


「おはよー、元気してたー?」

「おはよって……あっ! お前! この世界に連れてきた張本人の神様じゃないか!」

「説明ありがとう。名前、覚えてる?」

「あー、知ってる知ってる、あれだろ?」

「佐藤じゃないよ?」

「……田中?」

「やっぱり覚えてないんだね…ニンフだよ、ニ・ン・フ」

「あ、そう」

「興味無さげだよね〜」


ため息をつく中性的な低身長の神様。あれから色々大変だったんだからな。詳しく覚えてるわけがないだろ。


「まー、それに関しては謝るしかないよね、めんご」

「軽いぞ。そして俺今喋ってなかったろ?」

「神様ですから」

「飲食店で働いたつもりは無いぞ」

「それはあれかい?『お客様は神様です』ていう売り出し文句のことかい? 君、真顔のくせに相当なギャグかましてくるよね…」


お褒めに預かり光栄の至り。というか分かるあたり、日本が好きなのかな?


「違うって、私はこんな話をしに来た訳じゃなくてね? ほら、私、君たちに魔王を倒せって言ったじゃん?」

「だったな」

「でもさ、現に今、魔王と和平結んでんじゃん」

「なんてこったい」

「君が第一人者なんだけどね…で、まあ、世界の平和は保たれつつあるわけだけど、どう? 帰りたい?」

「はぁ、帰りたいか……ですか」


帰りたいか?普段より騒がしくて、うるさくて、それでいて面倒くさいメイドがいて。

元竜王がいて、現魔王がいて、人族の王様と仲良くなって。そんなこの世界から帰りたいか?


んなの、決まってんだろ?


「帰りたいよ」

「へっ? 意外だね、案外エンジョイしてたから、そのまま残りたいって言うのかと思ってたけど」

「当たり前だろ、ここは異世界で、本来の世界じゃないんだ。俺のいるべき場所じゃないんだよ」

「いや、そういう原理とか原則とかの話じゃなくて、君個人の感情を聞いてるんだけどな……まぁ、いいや」


何を言いたいのか分からないが、帰れるんなら帰してくれ。家でぐったり寝てたいからな。


「で、悪いんだけどさ、魔王とは仲良くなれそうだけどね、まだ暫くはそっちの世界にいて欲しいんだ」

「えー」

「なんでかは分からないんだけど、まだ暗雲が晴れないんだよねー」

「神様ならそれくらいどうにかしろよ」

「臆さないね〜君。出来ないから君たちに頼んでんじゃーん。ほら、私、インドア派だからさ?」

「知らねーよ。ていうかそんな軽いキャラだったの神様」


風が吹けば飛びそうなほど軽いよ。桶屋が儲かるよ。


「じゃまあ、なんかあったら解決しといてよ。またね」

「アバウトな神様だな、追放されないのか」

「されませんよーだ。ばいばーい」

「ばいばい……って、また会うことがあるのか」


ニンフはにっこり笑うと消えるように目の前から居なくなった。


はぁ、なんか疲れたわ。寝よう。ここがどこかは知らんが、不思議と暖かいし、心地良いじゃあねえか。おやすみ───



「おはようございます! ご主人様!」


布団が剥ぎ取られ、小うるさい声と共に目が覚めた。イルがこちらを見て笑っている。


「こちとらまだ一睡も出来てねえんだよ!? バカなの!? 死ぬの!? いっそ殺せよ!?」

「さっきまで寝てたじゃないですか!? ぐっすりでしたよ!?」


くっそ、なんだってんだなんだってんだよ。しかもまだ4時前じゃねえか!


「こんな早く俺を起こして…分かってんだろうな?」

「怖いです! 怒るならユウト様に怒ってください! 私はユウト様に命令されただけですので…」

「なんで俺の命令には背いてんだよ!」

「だって……ご主人様が起こすなと言わなかったので……」

「言ったっつーの!!」


あーもう! 目が覚めたわ! おはよう太陽! 俺が起きてんのにお前だけまだ沈んでるとか許さねえからな?


「シュン、居るかー?」

「イル、鍵は閉めたな?」

「はい、いらっしゃいませ」

「イルぅぅぅぅんッッ!?」


ガチャリと開けやがったよこの駄目駄メイド。俺の言うこと1つも聞きやがりゃしねぇ。


「だって……ご主人様が開けるなと言わなかったので……」

「言わなかったけど! 分かるだろ? 伝わるだろ? 伝わってくれよォっ!」

「おはようシュン、朝早くから元気だな、あはは」

「誰のせいだよ誰の……あー、頭痛してきた」


頭痛いよ、母さん。ぐすん。


「じゃあ、イルさん、シュンを借りてくよ」

「はい、夕飯までには帰ってきて下さいね」

「もちろんですよ! シュンも良いよな?」

「もー好きにしろ」


諦めの境地ですよ。もう、今日から敬語しか使わないようにしようかな。そしたらみんな俺に優しくならない? ならないか、そう。




ーーーーーーーーーー


まだ日が出てこない、早朝。いや、早『朝』という言葉を使うのも烏滸(おこ)がましい。朝というのは、日が出て初めて認識されるものでありたい。

つまり、早朝という字は誤用であり、正確には『遅深夜』ということにしよう。うん、それがいい。


今の時間帯は遅深夜。はい決まり。


「シュン? さっきから目にハイライトが無いけど、どうかしたのか?」

「なんでもないよ、ただ造語を作って遊んでいただけだよ」

「語尾が変わってないか?」

「そんなことないアルヨ」


現実逃避もこの辺にしますか。で、見えてきたあれが孤児院……いや、教会か?

それなりの大きさだが、若干古いな。見た目は教会だが、ちょっと小汚い。


「実は俺も来るのは初めてなんだけどね。ほら、前にセルウスの街を助けた時、沢山の子を助けたろ? その内の多くがこの孤児院に連れてこられたんだ。だから、ちゃんと挨拶くらいはしとこうかなって」

「…………あ、話し終わった?」

「聞いてなかったろ、シュン?」

「そんなことないぞ、お姫様可哀想だよな」

「誰も童話の話はしてないぞ!?」


中へ入ってみると、普通に小綺麗な協会と言った感じだ。良く見てみると、壁に落書きや埃が落ちているが特に汚いという印象は持たない。外から見た景色と大分違うな。


「あらぁ、いらっしゃい。どなたかしら?」

「あっ! す、すいません! 勝手に入ってきて!」

「良いのよ、入るのも出ていくのも自由だから。それよりも、何か用かしら?」


奥から現れたのは、正にシスターの格好をした若い女の人だった。20代前半くらいか? 茶色の髪を肩から流し、下の方で留めている。清潔感のある人だ。実際綺麗。


「先日ここに何人か子どもが来たと思うのですが、その子達を見に」

「あらあらまぁまぁ、それはありがとうございます。こんな早い時間帯から」

「シスターさんこそ早いっすけど、その手に持ってるのはホウキですか。掃除でも?」

「えぇ、貴方も見に来てくれたの? えーと…」

「俺は宮坂シュン、覚えなくても結構です」

「僕は光ヶ丘ユウトです。お姉さんの名前は?」

「私はこの孤児院と教会で働いている、マリナです。ごめんね、貧民街から出てるから苗字はないの」


おぉ、反応に困ること言うじゃん? 貧民街からって、この国にもそんな所があったのか?


「さっき通った道がそれだよ」

「見てなかった」

「ボーッとしてたもんなシュン…」


まあ確かに、ここは城からかなり遠いしな。端だし、国の中の辺境の地って感じだ。


「5時になったら起きてくると思うんだけど…まだもう少し時間があるかも」

「大丈夫ですよ、実はそのために早く来ましたから。何か出来ることありませんか?」

「は? お前、そんな事のために早く起こしたの?」

「あらあら、良いのかしら? 雑用よ?」

「すいません俺はかえりま」

「構いません! な! シュン!」

「お前は何を目的にこんなことを……いや、言わんでいい。どうせなんの見返りも求めてないんだろうからな」


コイツを動かしてるのは『良い人』という称号でも、『優しい』というイメージでも、『感謝』をされたいとかじゃなくって、心の底からの善意だからな。助けることに躊躇が無いんだよなぁ。


ま、コイツ自身が善意によって支えられてるとこもあるけどな。


「じゃあ〜、申し訳ないんだけど、外の井戸から水を汲んできてくれる? いつもは私が行ってるんだけど、ちょっと距離があって」

「分かりました! 行ってきます!」

「あ、おい……はぁ、井戸はどの辺にありますか?」

「ここの裏手だけど…ユウトさん、もう行ってしまいましたよ?」

「猪突猛進なんすよアイツ…」


何処にあるか知らないくせに走っていくからなアイツ。




で、井戸まで行ったら行ったでユウトが居るあたり、勘が良いのかなんなのか。


「ユウト、ほら、これに次いでこいってさ」

「あぁシュン! 良かった! どうしようかと思ってたんだ! ありがとう!」


井戸の水汲むのって結構な労働だから今度やる時あれば皆もやってみるといい。次の日腕が筋肉痛だから。


「よいしょ…っと」

「シュン、片方持とうか」

「どこでだよ、もうお前両手に持ってんじゃねえか」


小説で分かりにくいギャグ辞めてくれますー?


「頭で持つ!」

「聞いてねえよ。聞いたけど聞く気ねえよ」





教会に戻ってきたところで、中からマリナさんが出てきた。教会内の掃除を終えたようだ。


「あ、ありがとうね。ごめんね、重かったでしょ」

「そんなことないですよ」

「重い。チョー重い。時給が出ていい」

「こら! シュン!」

「うふふ、よかったら朝ごはん食べていかない? これから作るところなの」


そういえば何も食べてなかったな。朝から急に連れ回されたからな!!


「シュン、目が怖いぞ?」

「じゃあお言葉に甘えて。どこで頂くんですか?」

「こっちに来てちょうだい」



教会の裏手、井戸よりも東に進んだところにこれまた古い屋敷のような建物が建っていた。


うーん、これ中々危ないだろ。ミシミシ聞こえるぞ? その内壊れそうなもんだが。


「どどどどどどどどど……」


「ん? なんだこの奇妙な冒険してたら鳴りそうなSEは」

「その発言危ないぞ! シュン!」

「出てくるわよ〜」


出てくる? おい待て嫌な予感が─────



「「「「「ワーーーーーァァァァっっっっっ」」」」」

「「「「「おはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


待てっ! なんだこの量は!? 子どもか!? 屋敷の中から子どもが滝のように…っ! 人に溺れるとはこの事か!?


「みんな〜、整列〜」


「「「「「ハイっ!!」」」」」


「みなさーん、元気ですか〜」


「「「「「YES! マイマザー!!」」」」」


「料理を始めましょ〜」


「「「「「イエッサーーっっ!!」」」」」


おい……あの数の子どもたちをあんなに簡単に……


「なぁ、ユウト」

「分かる、あのマリナさんっていう人……」


「「只者じゃねえっ!!」」


シュンとユウトって敬語にするとどっちがどっちか分かりにくいですよね。めんご☆




桶屋が儲かりそう。

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