表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/91

人造人間

と、意気込んでいたのは良いものの、具体的な内容に突っ込まなければ始まらない。


「そういやさ、俺と同じ性質の魔力だからって、どうこうなるもんなのか?」

「そうですね、そも、人造人間(ホムンクルス)というものについてお話した方が良いかもしれません」

「ホムンクルスね、魔神造人間とは別に、人間が造る人造人間か」

「はい、そうです」

「驚愕 人間にも我のようなモノを造ることが出来るのか」


 視界の端にいるフェイリアが眼を見開く。だけど、もしそれが出来るのなら……


「ご主人様は恐ろしく勘が鋭いですね。ですがそこにたどり着く前の話をします。」


 そう言ってイルはコホンと咳を一つ挟んで話始めた。


「人造人間とは、読んで文字通り聞いて言葉通り、人が造り出す人工生命体のことですね。」

「そこまでは分かる」

「はい、では結論から申し上げると、人工生命体、つまり人造人間(ホムンクルス)を造ることは()()しました」

「成功したのか!? いや、それじゃあおかしいだろ」

「ええ、ですから、()()()()()()()()()()()()。しかし、その製造法は、死んだ人間を寄り代にして魔力を生命エネルギーに変換、吸収させることで魔力がある限り無限に生きられる…というものです」

「それは…外法じゃないか? どう考えても、人道的じゃあない」

「はい。ですから、現在に至るまで人造人間は普及されていません」

「だろうな」


 俺は今までに何度も町に出たが、その時に道行く人たちのステータスを見たときにも人造人間なんて表記は無かった。


「だが……そんな方法が知られてしまったら、絶対に出てくるだろう? 反吐が出るような考えをするやつが」

「そうですね。最初にご主人様が感じ取った違和感がそれです。人造人間(ホムンクルス)()()()()しようとした国がいっぱいありました」

「驚嘆 シュンは人造人間という単語を聞いてまずそれが浮かんだのか?」

「あぁ」

「絶句 シュンは考えが卑屈すぎる」

「誉めるな誉めるな。てかお前は魔王に創られた存在の癖に、そんなことも浮かばないのか」


 俺の返答に眉を寄せるフェイリアだが、まあ、俺はそういうヤツなんだ。常に最悪のケースを考える。それが出来りゃ、()()()()()()()()()は起こらないように出来るだろ?


 ………まあ、どうしようもない時はどうしようもないんだかな。


「その軍事利用をしようとした国ですが、現在に至るまでそのほぼすべての国が滅んでいます。理由は様々ですが最大の原因は民衆による暴動ですね。これは魔族でも同じかもしれません。なんせ、他種族ならともかく自分と同じ存在であり、なんなら近しい関係でもあったかもしれない人を安らかに眠らせてもくれないのですから」

「戦場で死んだら人造人間、戦争による軍用資金増加に伴う餓死でも人造人間、転んで死んだって人造人間。魔力があれば人としての死はなく、戦争の道具として使い捨てられるってわけだ。そりゃあ暴動も起きるわな」


 フェイリアはちょっと複雑そうに顔をしかめる。

似て非なる存在でも、根幹は同じ。思うところがあるのだろう。イルも普段の陽気さはなく、表情は暗い。


「魔力不足や、資金不足で破滅した国もありますがやはり一番多いのは国民の反逆です。結果的に人造人間を造ることは外法とされ、製造が見付かれば終身刑もあり得るほどの大罪とされています」

「当然の帰結だな。むしろ、その時の国王はそんなことすら考えられなかったのか」

「もちろん、この国などの大国の国王は賢く教育も行き届いていたため人造人間の軍事利用はしていませんでしたが、それでもその行為を良しとする愚王は居たようです」


 なるほど分かった。人造人間の謎は溶けた。だが、それがどうやって俺とフェイリアの話に通じるのか。


「話は分かった、で、俺の義眼にフェイリアを移すにはどうすればいいんだ?」

「人造人間が死んだ人間を寄り代にしていると言いましたよね? 魔力を生命エネルギーに変換してるとも」

「そうだな」

「では、死んだ人間がどうやって生命エネルギーを吸収すると思いますか? 生きているならば、魔力を循環させたり、操作することは容易いでしょう。ですが、死んだ人間は死んでいるのです。無いものはありません。同様に出来ないことは出来ません。死んでる者に吸収もなにも無いのです」

「だったら……生きてる内にするしかない…よな?」

「ですが、死んだ人間を寄り代にしなければ、異なる魔力同士が反発し合って効果を成しません」

「…………想像もつかない。答えを教えてくれ」


 死んだ人間に他人が魔力を込めることなんて出来ない。魔力は唯一無二。異なる性質を持つ魔力が体内に同時に存在することなんてあってはならない。だからこそ、魔力の質が違って、使える魔法や得意不得意の魔法が変わってくるのだ。


 日本における似たような事象を挙げるすると、輸血だろう。B型の人にA型の血液を注入すればどうなるか。答えは簡単だ。身体が拒否反応を起こしてショック死してしまう。


 ここ(魔力)では、全ての人が違った血液型のエネルギーを体内に持っている、と考えると分かりやすいかもしれない。


「では、死んだ人間を寄り代にして、生命エネルギーを循環させ、同じような魔力を込めることが出来る存在。それは────」



「家族」


 フェイリアが呟いた。今思えば、フェイリアにとって1番遠いであろうその言葉を、彼女が最初に言ったことに、違和感を持つべきだったのだろうが、この時の俺はそれ以上に心を支配していた感情があった。


「そう、同じ性質を持ち、産まれた時から魔力を使う様を見て、共に成長し、常に見てきた親族の方による魔力供給。それこそが人造人間(ホムンクルス)の製造方法、及び継続、維持の方法です」

「……」

「親族が死んだ時、墓を作るどころか自らの手で戦争のための道具にしなければいけない。従わなければ殺されて、自分が死ねば、今度は自分の産んだ子や親によって、戦場へと運ばれる。そんな、人を人とも思わない正に非人道的な行為を行えば、反逆が起こらない訳が無い……ということです。申し訳ありません、ご主人様。気分を害したでしょうか?」

「…いや、大丈夫だ。要は、俺とフェイリアは同じ魔神の魔力だから魔力供給の条件を満たしているから、俺がフェイリアの魔力を義眼に吸収すれば良い……という話だな?」

「はい、要約すればそうなりますね」


 言いたいことは分かった。なるほど、俺にはフェイリアの魔力を受け入れる資格があるわけだ。


「フェイリア、出来るか?」

「疑問 そもそも、さっきから言ってる義眼とは何のことだ」

「あぁ、言ってなかったが俺の眼は普通の眼じゃないんだ。待ってろ、結城さんから貰ってるコンタクト取るから」


 付けていたカラーコンタクトを外す。すると金色に輝く十字架が現れる。これが魔人の義眼。女神に貰った俺の能力。久しぶりに人の前に出したな。


「それ……は……」

「だから移せるだろ? お前と同じ性質を持ってる俺の義眼になら」

「シュン……は…魔人様なの……か?」

「いや、これは俺のもんじゃない。神様からの預かりもんだ。ほら、俺の眼に魔力を送れ。ゆっくりだぞ? 痛いのは嫌だからな。怖い怖い」

「り、了解 今はとりあえずシュンに魔力を送る」


 フェイリアが俺の近くまで寄ってきて、俺をしゃがませる。抵抗することなく、フェイリアと同じ高さまでしゃがむと、フェイリアが俺の目を見つめて深呼吸する。


「用意 今から送る」

「おう、バッチ来い」


 フェイリアと俺の間を糸のような物が現れ、フェイリアの瞳と俺の瞳を繋いでいく。バチバチと魔力が迸り、段々と左眼が熱くなっていく。





 気が付くと、俺は倒れていた。仰向けになり、薄暗い天井を見つめていた。後頭部には柔らかく暖かい感触。なんどか体験したこの感じはイルの膝枕だろう。


「ご主人様! 目が覚めましたか!?」

「……俺、どれくらい寝てた?」

「ほんの数分です。ですが心配しましたよ……はぁ……肝を冷やしました」

「すまん、今立ち上がる」

「駄目です」


 うぉっ、とたまらず声が出る。立ち上がろうとした身体が急激なベクトル変化によって元の位置にポスリと音を立てて倒れる。また膝枕の体勢だ。こっちとしては気はずかしい。


「心配 シュン、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。心配するな」

「安堵 良かった」


視界の端からひょこっとフェイリアが出てきた。長い黒髪が頬をくすぐってくる。近い近い。


「それよりご主人様、この方が噂のフェイリア様だったのですね」

「見えるのか」

「はい。恐らくご主人様の義眼に移ることで不可視の器(ハイドムーン)の性質よりもご主人様の性質に寄ったのだと思われます」

「ほぉ、なるほどなぁ」

「ですが……ですが……聞いてません……私は聞いてませんよ……」


 イルがワナワナと身体を震わせて呟く。酔っちゃう酔っちゃう。頭を太ももに乗せてるから震えがダイレクトに伝わってくるよ。


「フェイリア様が女の方だなんて! 私聞いていません!!」





 ———あぁ、駄メイド。どうしてお前はこう……残念なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ