イルとのデート……ではない
「おはようございます、ご主人様」
優雅な朝は、豊かな朝陽から始まり、一杯のコーヒーから始まる。
目の前の美しいメイドが滑らかな手付きでコーヒーを淹れていく。もちろん、角砂糖を一つ、ミルクを少々の甘めなテイストで頂く。
これが一日の始まりである。
「では、ご主人様。ごゆるりと」
「あぁ。だが俺のベッドに入るのはやめろ?」
「はっ! 身体が勝手に!?」
ただし、その始まりは決して優雅ではない。それは主にこの変態クソ駄メイドが居るお陰である。まあ、コイツのお陰で朝から美味しいコーヒーを苦労することなく飲めれるので……そこは悪くない。
「今日は休日ですね。ご主人様は私とのデートの予定が入っております」
「キャンセルで」
「ご主人様の方から誘われたのに!?」
「チェンジで」
「誰と変われと言うんですか! 私は変わりませんし、誰にも代われないご主人様のメイドです!」
改めて宣言されてしまった。こうまでキッパリと拒否している相手に対してこんなにしつこく干渉出来るのは最早才能だ。
「ご主人様、朝ごはんはシュガートーストでございます」
「お、良いね」
洋風な朝食も中々乙なものじゃあないか。俺は日本でもパン派だったし、シュガートーストは小学校の給食でも大好きだった。
「ご主人様、本日のデートのご予定はどういったものでしょう?」
「デートじゃない。今日は宝物庫に来て欲しい」
「宝物庫ですか………それはご主人様の下着を入れているタンスのような物ですか?」
「旨いなぁ、このパン」
「無視ッ!? あぁでも! これも悪くありません!!」
気持ち悪いぞ、我が駄メイド。
残念な朝食を終え、俺はイルと共に宝物庫に訪れていた。
「ここに私に会わせたい人が?」
「人かどうかと聞かれれば、どうだろうな」
「にしても、宝物庫はまだですか?」
「いやいや、この部屋が宝物庫だ。見れば分かるだろう?」
周りには金銀財宝が至るところにある。これだけあれば何世代も働かずに人生を終えることが出来るだろう。が、それを見て宝物庫と思えないとは、一体コイツは何を見て───
「ご主人様の下着が見当たりませんが」
「王様が俺の下着を宝物庫に閉まってたら俺がこの国を滅ぼしてやるよ」
「ぐっ…ご主人様の下着にはそれだけの魅力があるということですね……やはり人間界は滅ぼすべきですね」
「お前んとこの王様が必死こいて取り付けた和平をぶち壊すつもりか!? 正気じゃねえぞ!」
「狂気の沙汰ほど面白い…ですか」
「次余計なこと言ったら口に手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやるからな」
あーだこーだ言いつつ宝物庫の奥まで足を伸ばしていくと、あの杯が見えてきた。
「出てこいよ、フェイリア」
「溜息 シュンは物好き」
「ほら、イル。お前に会わせたかったのはこの子だ」
「はて? そのお方はどこに? 私にはそのような方を認識できませんが」
「質問 この女性は誰? 我のことは認識できて居ないみたいだが」
「二人揃って質問してくるな!」
「理不尽すぎませんか!?」
うるさい。例えお前が一人だと思っていてもそこにはもう一人居るんだ。見えなくても気付くことくらい誰でも出来るだろうが!
「そこの杯が見えるか?」
「あれですか、大きいですね」
そう、その杯は大きい。高さ1m以上はゆうにあるだろう。そして、存在感にありふれているはずなのだ。
だが、フェイリアが人に気付かれることはない。声すら聞き取れない。皮肉なものだ。
「何か感じないか?」
「ここからだと、なんとも」
「だそうだ、フェイリア。近付かせても良いか?」
「不服 我が杯に触れることは許されない」
「けど、邪魔はできないだろ? 見えないし、触れないんだから」
「嫌悪 シュンはゴミ」
「そこまで言うか?」
長年色々と言われ続けてきた俺でもちょっと傷付いたぞ?ん?どうしてくれる?
「ご主人様? 先程から言う、そのフェイリアというのは?」
「コイツだ」
「……エアドリブルしてるようにしか見えませんが」
「憤怒 我の頭をポフポフ叩くなシュン」
あぁ、ちょうど良いところにあったから、つい。
「それで、ですが。この杯、ほんの少しだけ特異な魔力を帯びているように見えますね。この魔力、どこかで見たような気が───」
「それ、これじゃないか?」
俺は左目に力を込め、魔力を放出する。
「ご主人様の瞳から溢れ出る魔力と同一の魔力………はっ! これ、もしかして『不可視の器』ですか!?」
「多分、そういうことだ」
「本物ですか…? 確か、不可視の器は伝承だとその名の通り見ることが出来ないという性質を持っているはずですが……」
「そうなのか」
「まさか人間界の王様が所有しているとは、驚きですね」
訝しげに杯を見ているイル。その表情はいつにも増して真面目な顔だ。やはり、魔神のことになると本気になるんだろうな。真剣な表情は神秘的とも言える美しさだ。
「イル、何か分かりそうか?」
「───もし、私が透明になれたらあんなことやこんなことが出来ますね」
「お前に期待した俺がバカだったよ! 珍しく真剣な顔してると思ったらこれだよ!」
「期待通りでしたか?」
「期待外れも良いとこだわ! ……はぁ、本題に戻るぞ」
ため息を吐きながらヨダレを垂らしてるイルを見つめる。
「ここにさ、フェイリアっていう自らを『魔神造人間』と名乗る幼女が居るんだが、その単語に覚えは?」
「魔神造人間ですか! 確か魔神が死ぬ前に造り出した物だと言う話ですが…………何かもう少し記述があった気がするんですが……すいません、あまり覚えておらず、最後に魔神様について詳しく調べたのが数十年前なので」
「そうか。イル、悪いが、少し調べておいてくれないか?」
「畏まりました」
イルなら何か詳しいことを知ってるかと思ったが……いや仕方ない。知らないことは知らないのだ。これから調べてくれるらしいし、情報待ちだな。
「人造人間というのは、その多くが寄り代を必要としますが、フェイリア様はもしかして……」
「あぁ、そうだ。フェイリアはその杯を寄り代としているみたいなんだが、どうにかここから動かせないか?」
「なるほど、少し考えさせてください」
「もちろんだ」
イルは口元に手を持ってきて、思案するように目を閉じる。
フェイリアは相変わらずムスッとして俯いてるみたいだ。ポフポフしていると時々頭を振って手をどけようとするが、俺は絶対に手をどけない。その内諦めたようにため息を吐くと、ブツブツと何かを呟いた。
「不服 我は魔神様に創られた魔神造人間なのに、シュンは我を適当に扱う」
「んなことねぇよ。適当になんかしてないぞ、ちゃんと尊敬してる」
「虚偽 それは絶対に嘘である」
「よーしよしよし」
「うぅぅぅ、嫌悪……だから人間は嫌いなのだ」
「んー? なんだってー?」
「憤怒 なんでもない」
と、フェイリアを適当に扱っているとイルがパッと顔をあげる。
「どうにかできそうか?」
「これは予想ですが、魔神様の創った杯を寄り代としているのでしたら、同一の性質と魔力を持つご主人様のその目を一時的な寄り代とすることが出来るかもしれませんね」
「そんなことができるのか?」
「魔神と同じ眼であるご主人様なら、あるいは」
ふむ、やってみる価値はあるな。
これまで何年も人と関わることなく、埃被っていた魔神造人間、コイツが何を言おうと、連れ出してやる。そして、生きることの素晴らしさを教えてやろうじゃねえか。
今週の土曜から月曜までの間、選抜大会に行って参りますので、しばらく投稿できません。応援してくださいな☆
というか、今回も二週間くらい久しぶりの投稿ですね。すいません。疲れやら、練習やら、最近は立て込んでてあまり投稿頻度は多くありませんが……大目に見てください。
「とか言いながら、最近はFGOやら、非人類学園やら、やっている作者である」
バカ! 口を閉じなさい! 事実無根ですよ皆さん!
「好きなFGOキャラは?」
そうですね、FGOで最初に手に入れた星五であり、一番一緒にいるキャラのエレシュキガルですかねぇ。正月にてにいれた紅閻魔も良い感じです。星四なら、虞美人が特に好きですかね、はい。
───はめられた!?




