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不可視の器

 ───厨二病。


 成長期や思春期の間に、アニメや漫画などの影響を受け自分には他とは違う力があると盲信し、片手に意味もなく包帯を巻いたり片目に意味もなく眼帯を巻いたり……と、何故か常に片方だけというスタンスが多いのもまた厨二病患者の特徴である。


 そして目の前の少女である。この魔法少女よりも更に絢爛豪華にしたような黒いゴスロリ服に身を包んでいて、その少女趣味に重なるようにツインテールにまで手を出している。


 この少女は、正にザ・厨二病を患っている。



「……どうやら今日は星の位置が悪いらしい、我が本領を発揮するにはまだ足りない……ククク」

「感応 邪悪な気配を我の横に感じる。主にシュンから厭な予感を感じる」

「なぁ、グロリア。お前のその能力、さぞ凄まじいものだと感じる。俺は今すぐその力をみたい。頼む、見せてくれ」

「へっ!?」


 自分でもこれは性格が悪いと思う。だが……ッ!俺はどうしても見てみたいのだッッ!!


 ───()()()()()()()()()()()()()!!


「わ、我が神力に興味を持つとは……貴様、良い眼をしてるではないか……」

「いやいや、見る人が見れば分かるよ、そのオーラ。凡人には出すことが出来ない、絶対的なオーラを感じる」

「ぜ、絶対的なオーラ!? く、ククク……そうだろう? 無意識の内につい力の一部が滲み出てしまったようだ、気を悪くしないでくれ。これも我が強すぎるゆえのことだ……」


 おぉ!すごい!信じてる!あ、だめだ、笑いがこらえきれない……プルプルしちゃう。


「だからあの…プッ……力の一部を…見せて欲しいなぁ……ふふ」

「見せてやりたい気持ちはあるのだが…わた…あっ違うっ、我が力は強大すぎるゆえに人の前で発動するには貴様が危ないのだ」

「大丈夫! 離れてるから!」

「そ、そういうわけには」

「え、まさか、本当はそんな能力はない…なんてことはないですよね?」

「あ、ああ、あたりまえだろう!? そこまで言うなら! く、ククク、見せてやろう!! 我が神力をッッ!!」


 マジか。見せてくれるのか神力(笑)を。にしても凄いな、言えばやってくれる辺り若干の人のよさを感じる。乗せやすいヤツは話してて楽しいよ。


「ちょ、ちょっと離れてくれるか? 巻き込んでしまうからな」

「あ、はーい」

「どうする……我……」

「あれ、なにか言いました?」

「な、なんでもない! 離れていろ!」

「はーい」


 焦ってるなぁ。さて、何が見れるやら。


「グロリア、十分離れたよ」

「よ、よし。そこから見ていろ」

「ちなみに何する予定なんだ?」

「それは……えーと……み、見てからのお楽しみだ!」


 離れたところからゆっくり見ていることにする。その辺の椅子に座って、アタフタしているグロリアを見てニヤニヤしていると後ろからフェイリアが近付いてくる。


「外道 シュンは性格が悪い」

「そんなこと言うなよ、アイツも信じてもらえたの初めてなんだろ? だからあんなに張り切ってるんだ。俺、優しいだろ?」

「軽蔑 彼女は理由は分からないが虚言を吐いている。それを分かってシュンは苛めている」

「人聞き悪い、俺はただ暇潰しをしてるだけじゃないか」

「呆然 もっと悪くなった」


 表情がないくせにジト目を向けてくるフェイリア。グロリアは何か考え込むような動作をした後片方の腕を握りしめる。


「はぁぁぁぁっ!!」

「おっ!」


 グロリアの腕が光始める。その光は明るいなんてものではなく、眩く目を潰すほどの光。あまりの光に目を隠す。


「マジで能力持ってたのか……神様からもらった能力か?」

「驚愕 眩しすぎる」


 やっとのことで光が収まっていった。あまりの光の強さに眼がつぶれるところだったぞ。


「……ど、どうだ? 我が神力は?」

「あ? いや、すまん光っててなにも見えなかった」

「ク…ククク、仕方ない。凡人が見てしまえば呪われてしまうかもしれないからな!」

「は?」

「よ、よし! じゃあ我はすることあるから!

さらばだ我が盟友!」

「ちょ、待て───」


 あー、逃げられちゃった。逃げ足速いな。


「ふむ、光を放っていたが、実際の能力はなんだ?」

「疑問 光は凄かったが、周囲への影響は見てとれなかった。どのような能力か、我も理解できない」

「本気を出していなかったとか? いや、ならあの慌てようはなんだ、説明がつかない」


 今思えば能力値を見てやれば良かったのか。いやー、最近もめっきり使ってないからなー。称号の説明が荒れそうなんだよな。誰が考えてるか分からないが、あの書き方は悪意があるだろ。



 ……試しにフェイリアのステータスでも見てみるか。



ーーーーーーーーーー






フェイリア ???歳


カップ数:B

性格:無口、無表情

趣味:特になし



体力 ? 魔力 ? 攻撃力 ? 忍耐力 ?






精神力 ? 俊敏 ? 総合戦闘力 ?




称号 魔神造人間(ホムンクルス)



魔神造人間:魔神によって創られた存在。???up+++





情報:???



求めた情報:???



ーーーーーーーーーー



「疑問 我の顔に何か付いている?」

「いや、そう言うわけではない。が、本当にホムンクルスなんだな」

「勿論 我は魔神様に創られたことに誇りを持っている。嘘をつく必要がない」


 殆どのステータスが???と表記されている。多分、俺はまだ魔神の義眼を使いこなせてないのだろう。しばらく大きな変化はなかったし、目に見えて何か起こったわけでもない。



 が、だ。


「いつの間にカップ数とか分かるようになったんだ……ッッ」


 俺は出所の分からない恥ずかしさに腕をつく。


 なんだよ、知らねえよ。Bって意外とあるんだなとか思ってないから。あと趣味とか性格とか、そこまで分かってくるんだな。本当に、どこまで『理解』できるのやら。


「さて、そろそろ帰るかな」

「安堵 やっと帰ってくれる」

「なんだ? そんなに帰って欲しくないのか?」

「否定 シュンはひねくれている」

「やかましわ」


 ここに来てもう1時間以上経っている。もうそろそろ部屋に戻らなければ、イルがうるさいからな。


「じゃあな」

「進言 もう来ないで良い」

「またな」

「……」


 返事はない…か。まぁ、そんなもんだろう。しばらくは通う羽目になりそうだ。





「ただいま」

「おかえりなさいませ! ご主人様!」

「抱き着くな、おい」

「ハグです! ご主人様の国では普通と聞きましたが!?」

「それは西洋の文化だ。俺は東洋に住んでいた」


 自分の部屋へ入ると、イルが胸元へ飛び込んでくる。避ける気力がなかったため、抱き付かれてしまった。鬱陶しい!暑い!あとなんか柔らかい!


「やめろ、暑苦しい」

「お風呂にします? ご飯にします? それとも

わ…た…」

「寝る」

「せめてお風呂には入りましょうよ!?」

「眠いんだよ、こちとらよ」

「うぅ……私はご主人様のくらすめいと?の方たちから話を聞き、どんなことを日本の殿方が好むのか研究してたのに……ピクリとも(なび)きません……」


 現代でそんなこと言う女はいねぇよ。てか誰だよそんなことイルに教えたヤツ、出てこい。


「クリス様から聞きました」

「クラスメイトじゃねえよソイツ!」


 ていうかクリス!別に日本人がみんなそんなこと言うとか思ってんなよ!そんな幻想抱いてたらそのうち後悔するからな!


「お風呂沸いていますよ、入ってきてください」

「はいはい」

「紅茶は淹れておきますから」

「ロンネフェルトで」

「畏まりました」


 この国の紅茶は不思議なことに、俺たちの世界の紅茶がある。理由は先代勇者にそういった物を好む人が居て、どうやったのかこの世界で育つように改良して市場に流したらしい。


 で、このロンネフェルトという紅茶は───


「ご主人様! 脱ぎながらぼーっとしないでください!」

「あ、すまん」


 なにも考えてなかったわ。





 十分後、お風呂から出ると既に紅茶と御茶請け、クッキーが用意されていた。


「ありがとう」

「いえ、今淹れたばかりなので。冷めないうちに」

「おう」


 ロンネフェルトという紅茶を軽く啜る。


 この紅茶を世界に広めた先代勇者とは趣味が合うと思う。これはドイツでは特に有名な紅茶で、ドイツの高級ホテルならまず置かれているような、ブランド紅茶だ。


 正直言うと、凄い有名……という訳ではない。ので専門的なことを説明するつもりはないが、嗜好性が強い紅茶の中でも、特に飲みやすく万人受けするため、機会があれば飲んでみて欲しい。


「ご主人様、カップの持ち方は右手につまむようにして持ちます。また、テーブルが低いときには左手でソーサーを取り、右手で取っ手をつまんで飲みます」

「堅苦しいって」

「マナーです!」

「躾もされてない豚がほざくな」

「ありがとうございます! 久し振りにご主人様に暴言を吐かれました!」


 なんで嬉しそうなんだこの変態は……。はいはい、持ち方ね。分かった分かった。こういうところはやっぱり魔王のメイドなんだなって思う。


「ふう、御茶請けも旨いじゃねえか」

「はい、手作りです」

「……ははっ、面白い冗談だ」

「本当ですよ?」

「マジ?」

「本気とかいてマジです」

「嘘だろ……」


 見た目は高級菓子店のそれだぞ。なんというか、性格にスペックが反比例している…残念なヤツだ。


「何故かご主人様から軽蔑の目で見られてます! あぁ! なんだか興奮してきました!」

「そういえば」

「はい」

魔神造人間(ホムンクルス)って知ってるか?」

「エロ知ってるか、ですか?」

「おい、なんで6文字が2文字に聞こえるよ。耳ぶっ壊れてるのか殺すぞ」

「冗談です、ご主人様の口からそんな言葉が出るとは驚きました」


 イルはちょっと驚いたように目をパチクリさせるが、なんかもう色々台無しである。


「これは諸説があり、それに確実な話でもないのですが」

「続けろ」

「はい。魔神様はその昔自分が封印される直前、その未来を()て、その魔力の一部を不可視の器(ハイドムーン)と呼ばれる聖杯に込めて魔神造人間(ホムンクルス)を創ったと言われています。現在それがどこにあるかなどは誰も知らないそうですが」

「ほぉ」


 不可視の器(ハイドムーン)。それがあの杯の名前か。これは一度イルに宝物庫に部屋に来てもらうべきだな。


「明日、時間とれるか?」

「……? えぇ、ご主人様の為なら是が非でも時間を作りますよ」

「すまないな、会って欲しい人?がいるんだ」

「ご両親に挨拶だなんて……まだ速いですよ……えへへ」

「お前はいったい何を言っているんだ」


 ええい、床に手を当ててモジモジするな気持ち悪い!


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