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生きるということ

「ねぇねぇ! ドイツ人って凄いよね!」

「なんか硬派ってイメージがあったけど、クリス君くらい砕けてる方が近付きやすいよね!」

「おっと~、もしかして僕の話をしてるのかい? こんにちは、クリスだよ」

「キャー! クリス君っ!」

「あっはっはっはっ」


 なんだあいつら。


「シュン、目がなんか邪悪だぞ」

「なんてったって、魔神の目だからな」

「あぁ! そこにいるのはユウト君じゃあないか! さっきぶりだね!」

「そうだな、ははっ。そういえばこの国はどうだ? 楽しんでもらえてるか?」

「ん~、良いところさ! 広いし、人も多いし……なにより可愛い女の子がいるからねっ!」

「え、えっと……私に何か用なのかな?」


 俺とユウトが夕飯を食べていると、遠くの方で話していたクリスがこちらへやって来た。

 すると、近くで食べていた結城さんの手を取って屈み出す。


「君はとても美しい! あぁ! 僕が(つるぎ)なら君は(さや)! どうか僕を抱き締め静めて欲しい…ッ」

「あはは………えーっと」

「なぁ、あれ下ネタか?」

「いや違うと思うけど……ドイツの口説き方なのかもしれない」


 ドイツは女性を鞘に例えて、男性を剣に例えるのか。やらしい国じゃないか。興味が出てきたぞ。


「こらクリス! もう! 結城さん困ってるよ!」

「ハンナ! この子は結城さんと言うんだね!? 名前も可憐だ!」

「クリス君だよね、結城美郷です。短い間だけど、よろしくね」

「おぉぉ、おぉぉぉぉ……っ! こ、これが『大和撫子』というものか!! 奥ゆかしい! ビバ日本!」

「クリスは日本が好きなだけだよ! 悪意とかないよ!」


 ハンナさん苦労してんな。凄い必死にフォローしてくれてるじゃん。いい人っぽいけど、苦労人だな。俺はあんな生き方はできない。多分途中で崖から突き落としてると思う。


「ん、ハンナ。グロリアはまだ居ないのか?」

「見学してくると言ってたよ、まだどこかに居るんじゃないのかな」

「グロリアっていうのは、もしかして残りの一人のことか?」

「ユウト! その通りだ! ザッツライト!」

「それは英語だ」

「あれ、そう言う君は……えーと…陰キャの…誰だっけ?」

「シュンくん! シュンくんって名前だから呼んであげて!」

「あぁそうだった! シュン! よろしく!」

「あ? 殺すぞタコ」


 馴れ馴れしく呼んでんじゃあないよ。テンションの高いヤツだ。こういう輩は正直苦手だな。


「日本人は人のことをタコと言うのかい? ははっ! 珍しい文化だね!」

「コイツ……」

「シュン! 落ち着け! 見せられない顔になってるから!」

「はわわわ……シュンくんがキレそうだよ…」

「ふん、もういい。こんなウザいやつがいる場所にいられるか、俺は帰らせてもらう」

「シュン! それは死亡フラグじゃないか!?」


 が、このまま帰るにも速すぎるよな。それに今は気になることもあるし…アイツのとこ寄ってくか。


「──ということで参りました」

「帰れ」

「おいおい、そんな邪険にするなよ。俺とお前の仲だろ?」

「呆然 我とシュンにそのような繋がりはないと記憶している」


 表情は変化は乏しいが、明らかに嫌悪してるのが分かる。


「そんな顔、お前には似合わないぜ☆」

「報告 我の腹部から込み上げるなにかを確認、吐きそう」

「そんなに似合わないかよ……」

「訂正 人間の良し悪しなど分からない。シュンの顔は黄金比からズレてるものの、時代によれば好意を得やすい顔かもしれない」

「結局可能性なのね」


 もういいよ、ホムンクルスにこれ以上のフォローは求めないよ。ぐすん。


「なぁ、フェイリアは魔神に作られたと言ってたよな?」

「肯定 我が肉体と魂は魔神様に作られたものだ。魔神様以外の者から見られることもない、不可視の器……のはずなのだが、何故かシュンには見えるようだ」

「まあ、その辺はおいおいということで……作られるってことは何か目的があったのだろう? それはなんだ?」


 魔神は死んだが、魔神以外に見付けられることはないフェイリアは勇者にも見つからずこの宝物庫にぶちこまれた訳だ。

 しかし、作られたならその理由があるはず。それに、俺の目に関する情報だって得られるかもしれない。


「返答 答える義理はない」

「そこらへんに剣があったよな、あれの切れ味を試してみたいな」

「謝罪 謝るからそれは許して欲しい」

「そんなに大事なんだな、その杯」

「肯定 これは我が存在意義にして、存在理由でもある。依り代であるその聖杯なくして我は存在しない」

「ふぅん、そんなもんかね。で、作られた目的は?」


 と、問うてみるがしかし、フェイリアは難しそうな顔をして首を振る。


「返答 それは我にも分からない。我が生まれるときには既に我が創造主は封印されていた。気がつくと我はこの部屋に閉じ込められていた」

「あ? じゃあ、ずっとここから出られず、一人で居たのか? 何をすればいいか、どうしたらいいかも分からず、ただ時間が過ぎてくのを見てただけか?」

「肯定 我に出来ることは、この魔力が尽きるまでこの杯と共に居ること」


 悲しいとか、悔しいとか、そんな感情は微塵も見せない。ただ、それが当たり前であるかのように、まだ幼い少女は呟くのだった。


「なんだそれ、何が楽しくて生きてるんだよ」

「困惑 我には楽しいという感情は理解できない。それに、我は誰にも見られず、触れられない不可視の器。生きているとすら言えない」

「じゃあ、黙って死ぬのを待ってるってのか?」

「肯定 それ以外我に出来ることはない」


 その無感情さはそういうことか。生まれてからずっと、誰とも関わることがなかったから感情が育つこともなかった、ということだな。


 は?なんだそれ、くっだらねぇ。何が楽しくて生きてんの?生きてると言えない?俺みたいに寝てるだけの惰眠を貪る日々ですら、生きてると言えるのにか?


「お前、面白くねぇ」

「否定 だから我はお前では───」

「うるせぇッッ!」

「っ!?」

「いいか、よく聞け。人は誰でも生きてるんだよ。生まれながらにある貧富の差や才能の差、どうしたって埋められない壁なんていくらでもある。人生を恨んで恨んで、血の滲むような思いをしているヤツもいる。だけど、()()()()()


 突然叫んだ俺に驚きつつも、静かに聞いてくれている。ありがとうな、フェイリア。俺の自己満足だが、聞いてくれて。


「生きているってのは、ただ心臓が動いてるだけじゃねぇ、心が動いてるから生きているんだ。憎悪にしろ嫌悪にしろ、それは生きた心なんだ。フェイリア、お前は確かに感情がないのかもしれない、作られた存在かもしれない。だけど、お前には心がある。実感はないのかもしれないが、それは経験していないだけだ、目で見て、肌で感じて、心で感じる。知らないことは罪じゃない、だが、知ろうとしないことは罪だ」

「知ろうと、しないこと──」


 反芻するように、フェイリアが呟く。


「『誰にも見られず、触られないから生きていない』と言っていたな。だが、()()()()。俺なら幾らでもお前を見てやる、触ってやる、撫でてやる、話してやる、聞いてやる、遊んでやる、一緒に生きてやる。だから、何もせず死ぬなんて悲しいことはするなよ、まだ何も知らないんだから」

「シュン───」


 あぁ、ごめんな。なんか湿っぽくなっちまったよな。悪い癖だ。


「意外 シュンのような性格の悪い人間がそんなことを言うなんて、何か悪いものでも食べた?」

「なぁ俺今凄い良いこと言ったよね? えっ、それで最初にその反応? 傷付くよ?」

「冗談 ちょっとびっくりしただけ。本当は嬉しかった…と、思う」

「思う、か。最初はそれでいい」


 表情は相変わらずだが、そう思ってくれたならあれだけ熱弁した甲斐があったってもんだ。


「質問 しかし、我には結局、ここを離れる術がない。シュンの言葉を聞いて、外界に興味が出てきた。けど、離れようにも依り代からはこれくらいしか離れられない」

「うーん、そうだな。依り代ってのは、それじゃないとダメなのか?」

「ため息 やっぱりノープランだった。シュンは期待させるようなことを言って、なにか案があるわけではない」

「まあそうキツいこと言うなよ、これから考えるからさ───」


 後ろから足音がする。誰だ?ここは宝物庫、基本的に誰も入ることはない。ユウト?いや、ユウトの足音はこんなに軽くない。


「驚嘆 来客だ」

「静かにしろ、誰かわからない」

「否定 我の声は聞こえない。普通は」

「異常で悪かったな」


 口の減らない杯だ。そして、こっちに向かってくる足音は…


「来る」

「警戒 感じたことのない魔力、この城の者ではない」

「そんな探知能力あったのかお前」


 なんか少し胸を張ってドヤ顔してる気がするのは気のせいか?もしかしてお前普通に感情あるんじゃねえの?


「───うわっ! 人がいる!?」

「っ……なんだ、こんなところに何のようだ?」


 ゴスロリ……というのか?あの、魔法使いと言うべきか?そんな黒いキラキラの衣装を着た金髪の少女が驚いた表情でこっちを見ている。まさかこの世界の魔法少女とか?


「ふ、ふふふ、我は漆黒の闇と孤高の光の間に生まれし堕天使……グロリア=スフィアーノ。貴様、名を名乗れ」

「またキャラの濃いヤツが現れたな……堕天使だと?」

「驚愕 初めて見た」

「ふふふ、無礼なヤツだ……しかし許してやる。我の器は大きいからな、それよりも先程からの話し声は貴様のものだったのか」

「聞こえていたのか」


 まぁ、どうせフェイリアの声は聞こえてないんだし、俺がちょっとヤバイヤツって思われておしまいだろ?別に悲しくねえし。


「あぁ、貴様の後ろに立つ、その化身。我の万物を見通すこの瞳はどんなものも逃れられない! 見えるぞ!!」


 グロリアと名乗った少女は片目にしている眼帯に手を当て叫ぶ。


「驚愕 もしかして今の人間たちはみんな我を見ることが出来るのか?」

「いや、分からないぞ。まだこの少女に関しての情報が少なすぎる。なんでフェイリアが見える? 俺だって最初はギリギリ影が見えたくらいなのに」

「ふふふ、貴様のソウルから抜け出したその化身! フェイリアと言うのだな? ふふ、良い名前だな。ならば我が化身も見せてやろう!! 現れよ! 『黒龍丸』!!」


 グロリアが全身に力を入れて震える。眼帯に手を当て、苦しんだように声を荒げる。一体、何が始まるんだ?というかソウルってなに?


「はぁぁぁぁっ!! あぁぁぁぁっ……!!」

「……あ、これあれか」

「疑問 何か分かったのか?」

「うん、これはね───」


 グロリアが眼帯を外して叫ぶ。


「爆ぜろリアル! 弾けろシナプス! ジャッジメントーーーッッ!! ディス・ワールド!!!」


 そう、これは───




「───厨二病だ」



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