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他国の勇者

「今日は! この世界に召喚された君たちとは別の勇者たちを紹介する! みんな、仲良くするよーに!」


 朝早くから叩き起こされ、いつもの練習場に整列させられると思ったらなんなんだ。ミラン兵長が意味のわからないことを言い出す。


「俺たちとは別に勇者が居るのか?」

「シュン、聞いてなかったのか?最初王様から話があったとき、俺たちの他に2クラス分の高校生が召喚されたって言ってたの」

「それ何話のはなしだ、伏線回収には遅すぎるだろ」


 てことはなにか?これからそのどこからか来た高校生と相対することになるわけだ。はーん、急な話だな。


「もうすでにこちらに到着している! ただ全員来るわけには行かなかったから、3人だけしか連れてこられなかった! しかし実力はトップクラスだと思ってくれて構わない! 君たちの能力が他の召喚された勇者たちに敵うかどうか、確かめてみるんだ!」

「「「「おぉぉおーっ!!」」」」


 ミラン兵長、いつも以上に気合い入ってんな。最近出番なかったから気にしてんのか。


「よし! じゃあ今から───」


 と、ミラン兵長が喋ろうとした瞬間。

 

「隙ありぃぃぃい!!」

「ユウト!」

「うぐっ……っ!急に…なんだ!?」


 遠くから突然ライ○ーキックよろしく飛び蹴りが文字通り飛んできた。あんなキレイなキック見たことねえや。


「びっくりしたけど……もしかして、君が他の勇者に当たるのかな?」

「○▽□▲#※■※◎?」

「どうしようシュン! これドイツ語だ!」

「あ、そうなの? ふぅん」


 飛び蹴りをしてきたその男は、どうやら外国人のようだ。何を言ってるか俺には分からなかったが、ユウトはドイツ語ってことに気づいたらしい。相変わらず頭が良いこって。


「#◎□△★&♯§▲★◎、★§★□◎@?」

「え、えぇっ!? 英語とかならともかく、ドイツ語は分からないよっ! どうしようシュン!?」

「死ね」

「なんでっ!?」

「ていうか、さっき隙ありとか言ってただろ」

「はっ!」


 こいつは頭良いのか?それともアホか?


「それに加えて、この世界に来たときに王様と普通に会話できたろ? この世界の言語なんか知らないのに。ということは、こちらへ来たときに何らかの力によって言語統一がされていると考えられる…違うか?」

「おぉっ! シュンは頭が良いな!」

「別に考えたら簡単に分かることだ。それよりも、ちょっとおふざけが過ぎるんじゃないか?」


 俺はユウトにラ○ダーキックをかました男に目を向ける。男は少し驚いたような顔をしたあと、笑みを浮かべる。


「へぇ! 君陰キャみたいな顔してるくせに、頭冴えてるね!」

「…………」

「シュン、落ち着いて?」

「あれっ! もしかして怒らせちゃった? いやぁーごめんごめん! 僕っていつも知らない間に人を怒らせちゃうみたいでさー、でも悪気はないからさ、許してよ?」

「……ビキビキビキ」

「シュン!? なにその音!?」


 無礼なヤツだ。一体俺になんの恨みがあるのか。


「す、すいませーん!」


 と、今度は金髪のチャンネーが走ってきた。

 

「クリス! もう! 急に走っていくから! ごめんなさい! 早くクリスも謝るよ!」

「あーはっはっはっ! まさか! この僕が謝るなんてあり得ないよ!」

「クリス!」

「あぁ、良いんですよ。ほら、シュンも怒ってないですし」

「炙るか…? いや、刺すのもいいな……」

「駄目だ! 殺意しかない!」


 金髪の女の子は真っ先に頭を下げる。そして謝罪の言葉。はぁ、ったく。クリスとやらは礼儀をもう少し学ぶといい。俺みたいに。


「あーはっはっはっ! それよりハンナ、グロリアはまだ来てないのかい?」

「もうすぐしたら来ると思うよ」

「あー、えーっと、説明の途中になってしまっが、この二人が東の国ヘパイルからやって来た勇者たちだ。クリス・アイグナーくんとハンナ・フーバーくんだ」

「よろしくぅー!」

「よろしくお願い致します」


 クリスは豪快に笑いながら、ハンナは申し訳なさそうにしながら挨拶を告げる。またうるさいやつらが来たもんだ。


「さて、君たちにはとりあえず──」

「この中で一番強いヤツ! 僕と戦おう! 今すぐに!」

「さっきから言葉が凄い遮られる……」

「ミラン兵長が泣き崩れたっ!」


 可哀想だろやめてやれよ。


「はーい、ここのユウトってヤツが一番強いでーす」

「シュン、なんか分かってたよ」

「おー! さっきのジャパニーズキックを止めた君だねー!?」

「いや、日本人がみんなあんな蹴りをする訳じゃないからな?」

「おーう、youは運動神経がbadなんだね!?」

「ルー語やめろ」


 もう古いぞ。藪からスティックとかな。


「流れ的にユウト君とクリス君が戦うことになったのか! いよぉし! 良いだろう! 我が国が誇る勇者がどれくらい通用するか楽しみだ!」

「あんまり期待されても、俺が勝てるかどうかは分からないけどな……はは」

「死ね」

「今日殺意高くないか!?」


 いつも通り、平常運転でお前のことがだいっきらいだ。


「隙あり!!」

「危ない! ふぅ、びっくりしたぁ」

「読まれた!?」


 クリスが飛び蹴りをするが、ユウトは軽く受け流す。何がびっくりしただ。危なげなくセーブしてんじゃねえか。


「はぁっ! ふぅ! 意外と! しぶといね!」

「そんなことないよ、俺もかなり必死さ」

「はぁぁぁっ!」

「「「「キャァァァァァァア!!」」」」


 クリスはガン攻め体勢だ。ユウトは反撃することなくすべての攻撃を避けるか受け止めている。

 そして黄色い歓声。はぁ、キレそう。


「これがっ、ジャパニーズ武術かいっ?」

「いいや、俺なんかまだまだだよ。松岡の方が凄いね」

「君より強いヤツがいるのか!」

「もちろん。俺よりも何百倍強いシュンっていう人がいるんだ」

「そんな馬鹿な!?」

「おいバカ、なに言ってるんだバカ」

「俺なんかじゃシュンの足元にも及ばないよ」

「寝言は寝て死ね」

「寝て死ねっ!?」


 さっさとくたばれハゲぇ。


「このままじゃ拉致が空かないからそろそろ決めるよ! 僕の能力は電気! 逃げるところなんてどこにもないよ!」

「な、なんだって!」


 クリスの手からバチバチと電撃が迸る。それはどんどん大きくなっていき、やがて地面を破壊していく。


「バリバリバリバリィッ!!」

「うわっ!? 危ないっ!」

「あーはっはっはっ! 大丈夫! 当たっても50%は死なない!」


 あいつ、二分の一の確率で人殺ししようとしてるぞ?誰か止めろよ。


「一転攻勢! 日本人も大したことないじゃないか!」

「クリス! やりすぎは良くないよ! 可哀想だよ!」

「あーはっはっはっ!」


 クリスは笑いながら、さらに電撃の威力を上げていく。あーあ、狂ってるなぁ。


「ねぇ君! あのユウト君の友達でしょう!? クリスを止めないと、あの子が死んじゃうよ!」

「いや、アイツとは友達じゃないんで」

「辛辣だよ!? どっちにしろ止めないと! ああなったら手がつけられないよ!」

「ふぅん、で?」

「いやいや! 本当に! あの子が死んじゃうよ!」


 いやぁ、無理だろ?ユウトを殺すとか、誰にも出来ないと思うぞ?


「まぁ見てろって」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃ!」

「じゃあ、アイツがやられそうに見えるか?」

「やられそうって、そんなの───」


 ユウトは未だに電撃を食らっていない。ダメージを貰うどころか怪我一つない。反面、クリスの方は息が切れてきている。あれだけ強力な能力だ、スタミナも使うんだろう。


「はぁ……っ! はぁ……っ! なんで当たらないのさ!? さっきからずっと狙ってるのに!」

「うーん、確かに凄い能力だけどさ」

「だったら!」

「シュンならすぐ分かるだろうけど、電撃が落ちる位置が予測できるんだ」


 ユウトは避けながら、焦るでもなく喋る。なんか頼もしくなったなアイツ。


「なんでそんなことが分かるんだい!? 僕の電撃が見破られるなんて!」

「うーん、だって電撃が落ちるところが大体決まってるんだよ。見ててわかったけどさ。クリス君のその電撃は地面の石に向かって落ちてるよね」

「っ!!」

「それも比較的大きい石に向かって。多分、避雷針的な役割になってるんだろうね。だから、地面の石を意識しながら避ければ当たらないんだ」


 そうらしい。いや?俺はそんなの見破ってないけど?なんかアイツが勝手に言ってるだけ。


「あぁ! もう体力がないや! 僕の敗けだ! こんな一瞬で見破られたのは初めてだ!」

「いいや、驚いたよ。あの電撃の威力は地面を破壊するほど強いし、石だって意図的に投げたりすれば、命中精度を上げさせることも出来るしね」

「……本当だ! 気付かなかった! ありがとう!」

「こちらこそ、楽しかったよ」

「「「「キャァァァァァァアッッッ!!」」」」


 ユウトとクリスが改めて手を繋ぐ。それはドイツと日本人が異世界で手を取り合う素晴らしい絵図だったが、俺には特に興味が無いので早く終わらせてほしい。ていうか帰らせろ。


「うむ! 二人ともいい勝負だった! 私は感動したぞ! ユウト君もしっかり成長してくれてるみたいだ!」

「ミラン兵長のお陰ですよ」

「日本人、舐めてたけど凄いよ! 絶対終わりだと思ってたのに!」

「あーはっはっはっ! ちょっと手加減してしまったかな!?」

「ははは、じゃあもう一回再戦するかい?」

「それは遠慮するよ! あっはっはっはっ!!」


 あー、なんかもう仲良くなってるけども。なに?あれだけバチバチにやりあってたのにすぐ仲良くなるとか、陽キャなの?チャラ男なの?


「では朝の修練はここまで! 朝食はクリス君たちと一緒に食べてくれ!」

「「「「はーい!」」」」


 ふぅー、やっと帰れる。





「───て、こんなことがあったんだよ。全く、朝から疲れたぜ」

「疑問 なぜその話を我に?」


 いやー、辛いことって愚痴りたくなるじゃん?

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