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褒美として

 アッシモを捕縛に成功して一週間。あの後は色々と大変だった。アッシモに捕らわれていた奴隷たちは解放され、その子達は王国が作った孤児院に送られた。

 何人かは生活に支障が出るほどの障害を持っている子も居た。そのため王様はその子達のために孤児院への寄付金を国で集めるらしい。


 セルウスの町はどうなったかといえば、被害としては結果的に誰一人死ぬことはなく、セルウスの町の人たちが何も知らないうちに、政権は滅ぼされたのだった。

 今度、王国から派遣された貴族の人が代わりに町長になる。


 魔族との協定の話も順調なようだ。この前王様とシアが手を握りあっている写真が送られてきた。

 必要ないから捨てようとしたが、イルに止められてしまったので今も机の上に飾られている。


 そして一段落ついた頃、俺たちは王様に呼ばれていた。


「王様! 勇者様ご一行をお連れしました!」

「うむ、下がって良いぞ」


 俺たちを連れてきた兵士は元気良くお辞儀をするとそのまま出ていった。


「さて諸君、此度の活躍、見事であった。特に誰一人となく死者が出なかったのはこの上なく喜ばしいことだ。君たちの力がどれほどのモノなのか、今回の一件で見直した」

「そんな、僕たちは何も」

「謙遜をするな。努力を誇るのは誉められたものではない。しかし結果を誇ることは素晴らしいことだ。次への自信となり、新たな結果に繋がる」

「はっ! ありがとうございます!」


 王様はそれはそれはもう恭しくおっしゃる。ユウトはそれに反応し、否定しようとするが王様が丸め込む。なんというか、騎士と王って感じだな。


「で、俺たち六人を集めたのはそんなことを言うためですか?」

「しゅ、シュン! そんなこととか言っちゃダメだ!」

「いや、お礼をされるなら言葉より物だろ?」

「シュンくんっ!? そこはもうちょっとオブラートに包まないと失礼だよ!?」

「結城さんまで、いやいや、どれだけ言葉を並べても腹の足しにすらならないからな?」


 俺とユウト、結城さんと桐峠、松岡に因幡の合計六人が今この場にいるメンバーだ。


「う、うむ。シュンくんの言うとおりだ。もちろん、君たちを呼んだのは他でもない。褒美をやろうという話だ」

「よっしゃ」

「シュンがガッツポーズをしたっ!レアだ!」

「ユウトくん?なんでカメラを構えてるの?」

「そういえば、ケータイを高木に作ってもらったのだったな」

「あっ、そうだね。やっぱり便利だよねケータイ!」


 高木は目が覚めた後、結城さんがきっぱりと振られた。高木は放心状態?だったらしく、結城さんが心配していたが、急にケータイを作り出してクラスメイトに配り出した。

 本人が謝るつもりで作ったのか、また別の目的があるのかは知らないが、回りのやつらはアホみたいに喜んでいた。


「ということでこちらへ来るといい、宝物庫がある」

「「「宝物庫!?」」」

「ユウト、松岡、因幡、興奮するな」

「宮坂! 宝物庫とか、男子なら誰でもワクワクするだろう!?」

「……」

「何で無視をするんだ!?」

「一人だけ先に帰りやがって……」

「それはもう謝っただろ!? ごめん!!」

「イヤーお宝楽しみっしょー! 魔神のランプとか無いかなっ!」

「無いだろ」

「何でも切れる刀はないだろうか?」

「おいそこのポニーテール。野蛮な考えを改めろ、今すぐに」

「あはは、みんな楽しそうだね」


 宝物庫、やっぱりあるものなのか。興奮してくるかしてこないかはともかく、貰えるものは貰うしかない。ふふ、何か良いものねえかな。


 王様が振り向き、玉座の後ろにひっそりとあった扉を開ける。そんなところに部屋があったのか。


「ここの部屋は私以外には父と祖父、曾祖父しか入ったことがない。 しかし君たちの成果を考えればこれくらい当たり前のこと。我が国が誇る宝物の全てを見られることを感謝しながら」

「話長いですよ王様、失礼しまーす」

「シュンくん!?」

「長話は年を取った証拠ですよ」

「辛辣っ!私は王様なんだけど!」

「あれだけ将棋で負けては泣き出す姿を見せられたらなぁ……」

「しーっ!シュンくん!それ秘密!」


 慌てる王様も面白いじゃないか。まあ許せ、ちょっと気分が高揚しているんだ。


 中へ入り、まず目に入ってきたのはまさに金銀財宝だった。

 金色に輝くコインや剣や槍など、目に写る全てのものがキラキラとしている。目が痛い。


「うっひょー! たまんないっしょ!?」

「これ、頂いても良いのですか?王様」

「うむ。君たちの好きなものを一つ持っていきなさい」

「ほんとっ!? 雫ちゃん! なんにするっ!?あっちいってみよ!」

「おいミサト、ふふ、待て待て」

「ユウト! あっちにでっかい鎧があるぞ!」

「本当だな! 見に行こう!」


 相変わらずテンションの高い奴らだ。さて、意外と広いんだよな、この部屋。端から端までで何メートルあるんだ?


「王様、これは趣味で?」

「む、シュンくん! そう、我が家系の男はみんなコレクション癖があってね! ほらこれを見てみてくれ! 見たことない位キレイな水晶だろう!? これはその昔この大陸の極東にある国、ヘパイルに行った時に頂いた土産でね、これだけで家が10件は立つくらいでね! そしてあれは───」

「あ、これは止まらない奴だ。退散退散」


 胸を張り喋り続ける王様を横目に奥の方へと歩いていく。あのまま聞いてたらいつまでも終わらねえよ。自分の趣味を語るときは饒舌になるのはまあ、分からんでもない。


「さて……この辺りはなんだ? ガラクタにしか見えないものばかりだが……」

「シュンくん、いつの間にそんなところへ。この辺りは先代の勇者が大陸中から集めたお宝が置かれてるんだ。ほら、あの絨毯(じゅうたん)があるだろう? 実はあれ、飛ぶんだよ!」

「へぇ。それは普通に凄いな。ただの古ぼけた絨毯にしか見えないが」

「もちろん、飛ぶのは勇者が乗ったときだけだからね。基本的にはただの絨毯だ」

「なんだそれ」


 それは最早価値がないだろう?勇者が使わなければ小汚ない絨毯だ。断捨離するなら真っ先に捨てるぞ。


「これは?」

「正義のマント! これを着けると魔力が大幅に上昇する! らしいよ!」

「らしいって」

「これも勇者が使わなければ意味がないからね!」

「……捨てよ?」

「ダメ!絶対ダメだよ!?いくらシュンくんでもこれだけは譲れないからね!」


 若干涙目になりながら首を振る王様。元気だなぁ。


 しかしまあこれだけたくさん良く集めたもんだ。あっちにもこっちにも使えそうな物が一つも無さそうなんだが───


「ん、あれはなんだ?」

「む? 何か気になる物でもあったかい?」

「いや、何か見えた気がしたんだが……気のせいか?」


 ちらりと、動くものが見えた。視界の端だったし、良く見えなかったのだが……


「こっちに行ったはずだ」


 さらに奥の方へと進んでいくと、古い杯のような物が置いてあった。他の物に囲まれているが、それらとは別格の存在感ほ放っている。


「これは……」

「警告 それ以上近づくことは許されない」


 杯に触れようと近づいた瞬間、無機質な声が聞こえた。驚き周りを見渡すが、目に入ってくるのはただの財宝。喋りそうなものは何もない。


「まさか、この杯が喋ってるのか?」

「警告 それ以上近づくことは許されない。直ちに回れ右をして帰れ」

「ほーう、杯のくせに良くしゃべるヤツだ。何者だ? お前」

「不敬 お前ではない。我が名は『フェイリア』。そして我は杯ではない。杯が喋るわけが無い。そんなことも分からないのか人間」

「ほっほー、キレそう」


 杯が喋らない?それくらい知ってるに決まっているだろ?誰も『勇者の集めた宝なんだから喋るくらいあり得るか』とか思ってねーから。あ?全然思ってねえし?うん。


「出てこいよ、警告とか遠回りなことなんてせず姿を見せたらどうだ?」

「無論 既に見せている。しかし人間に見ることは出来ない。我が肉体は不可視の器。誰も我を認識することはあり得ない」

「不可視? なるほど、俺の前にいるんだな?」

「愚問 同じ事を言わせないでほしい」

「よーしそうかそうか、じゃあ俺がお前を見ることができたら何をしてくれる?」

「嘲笑 そんなことはあり得ない。仮に出来たとすれば、どんなことだってして見せよう」


 はい、言質(げんち)取った。見えないだと?


 俺が()()()()()()()()()()()()

 俺の能力は『魔神の義眼』、見えないものを見るための能力だ。あんまり人間を舐めるなよ?


 目を凝らし、前方にいるであろう何かに意識を向ける。

 

 しばらくすると目の前の空間に輪郭が作られていく。それは人の身体を成していき、いつからかそこには恐ろしいほどに冷たい表情をした、狂おしいほどに美しい少女が立っていた。


「…………女の子?」

「……質問 まさか我のことが見えている?」

「うん」

「否定 そんなことはあり得ない。我の容姿について述べよ」

「お安いご用だ。褐色の肌をしていて、黒髪ロングだ。黒髪は長すぎて若干地面に触れてるな」

「動揺 嘘、我が見える人間なんているはずがない」


 表情は一つも変わっていないが、手を口に当てて考え込んでいる。


 うん、というか。また女の子か。それに褐色肌とか、なんかマニアックだなぁ。クリクリの栗色の目をしていて、あどけない可愛さがある。


「で、こんなところで子供が何してるんだ?」

「驚愕 ほんとに我が見えているのか、人間」

「さっきからそう言ってるだろ。それよりも何してるんだ?」

「回答 我が依り代を護っている。人間のような野蛮なものに壊されないように」

「いや、そんなめんどくさいことしねえから」

「虚言 人間は嘘をついている」

「あ? なにもしないって言ってるだろ? それともあれか、お前は人の言うことなんて信用できないか?」

「肯定 人間は信用できない」


 ふむ、良くわからんやつだが……この少女は人間じゃないのか。確かに、俺のこの能力がなければ見つかることもなかっただろうし、人ならざるものということになる……のかな?


「お前は何者だ?」

「回答 お前ではない、フェイリアと呼べ。我は魔神様に創って頂いた神工生命体(ホムンクルス)。人間などという下等生物とは格が違う」

神工生命体(ホムンクルス)だと? ……この世界にはそんなものもあるのか」


 魔神というのは生命体も作れたのか。飛んでもないな。


「おーい! シュン!」

「あ? ユウトか。なんだ」

「いや、シュンも何か欲しいもの見つけたのかなって」

「んー、ナイフとか欲しいかも」

「料理道具? シュンって料理できたのか?」

「お前に突き立てるためのナイフだ」

「考え直せシュン、犯罪だよ」

「後悔はない」

「シュン、落ち着け」


 オレ、オマエ、コロス。


「俺はこのロケットにするよ」

「何か写真でも入れるのか?」

「あぁ、シュンとの写真をな」

「マジでやめろ」


 ユウトが手に持っているロケットとというのは胸飾りの一種だ。純金で作られた容器にスペースがあり、そこに写真や絵、毛髪や御守りなどを入れる。ただ、純金は重くないか?


「シュンは何が欲しいんだ?」

「んー、あれかな」

「あの賞杯のことか? 大会とかで貰える優勝カップみたいだけど、あれが欲しいのか?」

「あぁ、ちょっと面白そうだからな。それよりユウト、この辺りになにか見えないか?」

「その辺り? ……いや、普通に床があるくらいしか分からないけど」

「そうか、いや、気にしないでくれ。こっちの話だ」


 ユウトにすぐ行くと伝えて先に行かせる。するとすぐに声が聞こえてくる。


「驚愕 1日に二人の人間を見たのは初めて」

「あ? へぇ、そうなのか。あんまり人とは会わないのか?」

「回答 我が依り代はここから動かず、我もこれ以上は離れられない」


 少女は杯から2メートルくらいの位置まで歩くがそれ以上はピタリと動かない。


「ホムンクルス……だったか。魔神ってのは生命体を造り出せるのか?」

「回答 魔神様は何でも出来る。疑問、人間はなぜ我が見える。先程の人間は我を知覚することはなかった。そうすると人間が特別ということ」

「俺のことを人間と呼称するな、俺の名前は宮坂シュンだ」

「了解 シュン、我の名はお前ではない、フェイリア」

「あっそう、で、フェイリア。ここから出たくないのか?」

「疑問 ここから出ることで何がある? 我が依り代はここで安全に保管されている」


 フェイリアは軽く首を傾げる。いや、別に無理に出そうって訳じゃないがな。


「つまらなくないのか? ずっとこんな埃っぽい部屋に一人って」

「回答 つまらないという感情が分からない。が、人間とこんなに話したのは初めて」

「ふぅん」

「シュンくん、そろそろ良いかい? 他のみんなはもう決めたみたいだけど」

「ん、王様。ちょっと決めきれてないから、しばらく通って見てもいいですか?」

「良いぞ良いぞ。どれも素晴らしい逸品だろう?」

「えぇ、まあ」


 神工生命体(ホムンクルス)とかいう定義の分からない存在が居る辺り、素晴らしく適当な管理をしているんだと感心する。


「また来る」

「質問 シュンは暇?」

「ケンカ売ってんのか」

「肯定 もう来ないで欲しい。我が依り代は人間の手に触れてはならない」

「やだよ、それにお前、姿が見えたら俺の言うことなんでも聞くって言ったろ?」

「否定 そんな事実は知らない」

「ほぉ、魔神が創った神工生命体ってのは記憶力が乏しいみたいだな?」

「……訂正 さっきのはほんの冗談。記憶している」

「ならよかった。また来るぞ」


 なんでも言うこと聞くっての、もうすこし有用な使い方をした方が良かったかな?

やっと新キャラを書けたーっ!!


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