セルウスの町攻略作戦⑦
「あんな巨大な兵士…これってやっぱり高木くんが?」
「あそこで伸びてる寝暗メガネのことか、こんなものを造り出せるとは便利だな」
倒れている高木くんを指差すシズクちゃん。あの顔はサンドバッグとか想像してる顔だ……
「ガシャァアッ!!」
「悪即斬!!!」
「シズクちゃん早いっ」
襲ってきた機構兵士の腕を吹き飛ばすシズクちゃん。なんの遠慮もない、臆さない一撃……見習わなきゃ!
「私も……モフモフちゃん全力放射!!」
「ガシャァアッ!?」
「ガシャジャジャアッ!!」
「グシャァァッ!?」
ふぅ……私もちょっと強くなれたかな?
「相変わらずえげつないな……ミサト」
「え、私何かした?」
「素でやるところがミサトらしい」
勝手に納得したような顔をしないで?私何かしたかなぁ。
「が、ガシャァ……」
「心なしか機構兵士も怯えているように見えるな」
「全力放射! ……あ、何か言った?」
「もはやなにも言うまい」
気がつけば残るはあと2体。動きが速くないし、既に脆くなってる。多分、私が戦う前にユウト君が弱らせてくれたんだと思う。
「ん……あれ?僕の女神ちゃんだっ! 僕に会いに来てくれたの!?」
「あー……ええと、おはよう高木くん」
「なんだあのメガネ。ミサトに気があるのか?悪いがミサトはあそこにいる粗チン野郎のことが──」
「わわわ!!やめて!シズクちゃん!!そのニヤニヤした顔やめて!」
「隣にいるのは女神ちゃんの友達? 強そうだね!」
「純粋そうなヤツだな。悪い意味で」
シズクちゃんは厄介なモノを見る目で高木くんを軽蔑する。うぅん、否定できないなぁ。
「高木くん、よかったらこの兵士さんたちを止めてくれないかな?」
「え?良いよ?」
さっきまでとは打って変わって動きを止める兵士さん。
「じゃあ、今度は女神ちゃんが僕の言うこと聞いてくれる?」
「なにかな?私に出来ることなら」
「僕のお嫁さんになってよ! 毎日大事にするよ? ずっとずっと大事にして、ずぅーっと傍に居てあげる!」
「……分かってるシズクちゃん。分かってるから指を差さないであげて」
シズクちゃんは目を真ん丸にしてこっちを見る。びっくりするよね、私もビックリした。その、根は悪い子じゃないと思うんだ。ちょっと思い込みが激しいだけで。
「ごめんね、高木くん。ちょっと結婚とかはまだ速いかなぁ」
「ふぅーん、そっか。まあそうだよね。じゃあいいや、奴隷になってよ、女神ちゃん」
「おいコイツには1か0しかないのか?」
「高木くん極端過ぎだよぉ……」
流石に奴隷になれとかは、出来ないかなぁ。
「それもちょっと…ごめんね」
「じゃあいいよ!どうせ僕のものになるんだもん!」
「ガシャァアッ!!」
やっぱりダメだったよっ!!交渉次第ではなんとかなるかと思ったけど!
「おいおい、ミサト。更に増やすつもりだぞアイツ」
「ごめん!高木くん!」
魔法を使おうとする高木くんに魔法で返す。同じ魔力量の魔法をぶつけることで相殺させる。
「『反魔法行使』!」
「あれっ?出てこい!機構兵士!出てこい!」
成功したみたい。良かった、上手くいったみたいで。
「魔法を相殺……そんなのアリなのか」
「やったら出来ちゃった」
「私の武器が魔法じゃなくて良かった……いや元からミサトと戦うつもりなんてないが」
勝てる気がしないとボヤくシズクちゃん。そんなことないよ、私はあんなに果敢に敵に向かうシズクちゃんに憧れるけどなぁ。
「もういい!機構兵士!女神ちゃんを捕まえろ!」
「ガシャァアッ!!」
「全力放射!」
「機構兵士っ!?」
火炎魔法と呼ばれる魔法で機構兵士さんを焼きつくす。申し訳ないけど、このままじゃ捕まっちゃうからね!
「全てミサトにやられたら私の面目が立たない。一匹くらい私がもらう」
「ガシャァアッ!?」
「切り刻み塵となれ!秘剣『五月雨』!」
「グシャァァッ!!!」
わぁ!凄い!シズクちゃん!!機構兵士さんがチリヂリになっちゃった……全然見えなかったよ!
「あ、あれ?機構兵士!?もう死んだのか!?くそっ!使えないなぁ!」
「さて、あとはもうコイツだけだが……どうする」
「ええと、起きてたらまた機構兵士さんを造られちゃうし…寝てもらおっか?」
「ミサトって意外と容赦ないよな」
シズクちゃんが高木くんのお腹を柄でどつく。どむっと鈍い音がして高木くんは項垂れた。
「ふぅ…こっちは終わったけど……向こうはどうかな?」
「ふむ、向こうには光ヶ丘ユウトが居て、粗チン野郎が居る。まさか負けることもないだろう」
「いやいや!警戒してなきゃダメだよ!何があるか分からないからね!」
「心配しすぎだと思うぞ?」
機構兵士さんたちと戦ってる間にシュンくんと離れちゃった。速くもどってシュンくんの援護をしよう!
「急ごう!」
「あぁ」
お願い!シュンくんが無事でありますように……!
ーーーーーーーーーー
「ぐぅっ……なんてことだ……ここまで辛い戦いだなんてな……」
「シュン!大丈夫か!?」
体の節々が拒否反応を示している。まるでこれ以上は耐えられないと言わんばかりだ。
「こんな……こんなに辛いなんて……」
「大丈夫だシュン!もう少しでアッシモも……」
「違う……違うんだユウト……」
俺が辛いのは───
「お前と隣り合って戦うことだよ!なんだこれ!腹が煮えたぎるんだが!?」
「俺なにもしてないじゃないかっ!?」
「うるせぇ!そんなに汗を流しやがって!水も滴る良い男ってか!?糞がっ!ヘドが出る!」
「俺だって傷付くんだからな!?」
はぁ……はぁ……もうなんか疲れた……
「な、何で勝手に負傷してやがるゥ……?得たいの知れねぇ野郎だ……いやいや!そんなことは関係ネェ!お前らは俺が直々にぶっ殺してやるゥ!」
「ユウト!」
「応!」
走ってくるアッシモに俺はユウトへ指示を出す。
「ソイツは自分の加速に着いていけてない!戦う時は常に隙をうかがえ!基本は防御!隙を見つけて一気に叩け!」
「何をボソボソ言ってやがるゥゥ!!死ねぇ!」
「フンッ!……お、重い…けど、これくらいじゃ俺はともかくシュンに勝てると思っちゃダメだぞ!」
「なにっ!?」
「おーい、なに勝手なこと言ってるんだ?」
ユウトは優勢に戦えているようだ。アッシモはユウトの反応速度と長剣のリーチに悪戦苦闘している。
「ふぅ!まだ……やるかい!?」
「くそっ!お前!なんでこんなに強いんだ!?」
「はぁっ!練習してきたからね!」
「ちぃっ!お前らは良いよなぁ!才能があって!この世界に来ただけで飛んでもない能力を持ってるんだろう!?ズルいよなぁ!」
「そ、それは……」
「おらァ!」
「ぐっ…」
「耳を向けるな!ユウト!」
ユウトが一瞬気をとられる。そしてその瞬間に右腕を叩かれた。ここからでも分かるほど腫れている。たった一発でも直撃したらこれか。
「お前らはよォッ!そうやって最初から強くなって!俺たちみたいな弱いやつらを笑ってるんだろう!?」
「それは……っ!そんなことはない!」
「事実そうだろう!?エクスカリバーなんて神話の中でしか見たことないような代物を、見せつけるかのようじゃないかぁ!?」
「ち、違う……ぐあっ!」
ユウトが隙を突かれて吹き飛ばされる。ったく、世話かけさせやがって……
「なーにがズルいだ、弱いやつらを笑うだ。さっきから言ってることが分からんぞ」
「シュン!?」
「あのなぁ、反対だからな?弱者を笑ってるのはお前らだろう、アッシモ」
「何が言いたい?」
すぅっと一息吸って落ち着く。そして喋り出す。
「お前らが奴隷を扱うことが何よりも弱者を下しているんじゃないのか?奴隷を自分の慰みものにして、優越感に浸る。強い立場からふんぞり返って弱者を笑う。お前がいつもしていることだろう?」
「……うるせぇ」
「お前みたいに地位も富もない。力もなければ魔力もない。そういう存在を更に卑下した存在に下しているのはお前だ、奴隷商。ユウトがお前みたいなやつと同じな訳がないだろう?ユウトは一度たりとも自分のために剣を振ったことはねえ。お前みたいな屑がユウトに近づくことすらおこがましいんだよ!死ね!」
「……うるせえええぇぇ!」
こっちへと飛び込んでくるアッシモ。そのスピード、恐ろしいな。だけど、そんなもので俺を倒せると思うな。俺には用心棒がついてるんだぞ?
希代の天才、エクスカリバーのユウト様がな。
「シュンに……手を出すなぁ!」
「ぐぬぅぅっ!?さっきやられたくせになんだお前!?」
「ユウトはそもそも、この世界に来る前から天才だったんだよ。こっちに来てからは更に磨きが掛かったけどな。やれ、ユウト」
「うおおぉぉっ!!」
「なっ!?」
ユウトの手に持っている長剣が更に大きくなり、光を放つ。
「『勝利と栄光の宝剣』!!!!!」
「さっきよりも速く……ッ!?」
「ウオオオオオオオオォォォオォ!!!」
世界が光輝く。どこまでも白く、どこまでも明るくなっていく。ユウトの咆哮が響き渡る。
しばらくして、世界に色が戻ってきた。
目の前には息も絶え絶えのユウト、そして倒れているアッシモ。
「天才の勝利だな」
「はぁ……っ! はぁ……っ! 疲れたぁぁっ!」
「おつかれさん」
ドサッと尻餅をつくユウトの頭に手を置いて労ってやる。ユウトは嬉しそうにニヤニヤするだけだ。
「なんだよ」
「いいや、頑張って良かったなって思った」
「気持ち悪いな」
「ははっ」
達観したような爽やかな笑い。今ぐらいは許してやる。
「……ま、まだだ…あぁ! オレはまだ終わってねぇ!」
「なにっ!? まだ……っ!?」
「いいや、もう倒れる寸前だ」
「へ、へへっ……もう身体は動かねえよ……けどなぁ……お前らは逃がさねえ!」
アッシモが懐からスイッチのような物を取り出す。
「は、ははは……これは爆弾の起爆スイッチだ……万が一のためにと高木が作っていた……まさか、必要になるとはナァ……いい気分だ、お前らを殺せるなんてなぁ……!!」
「アッシモ……っ!やめろぉっ!」
「そうはいかねぇ!これでしめえだっ!」
カチリっ、と小さく音が響く。
「死ねぇ!」
「シュンっ!」
アッシモが叫び、ユウトが俺の名前を呼ぶ。
────しかし、爆発など起こらない。
何故かって?
「な、なんで起動しない!? おい! 故障か!?」
「いいや、故障なんてしてないぞ。これは当然の結果だ」
呆然とするアッシモを横目に堕メイドを呼ぶ。
「イル」
「はい、ご主人様。命令通りこの城に貼り付けられていた爆弾は全て撤去しておきました」
「ご苦労。もう帰って良いぞ」
「あぁんっ! ご褒美をくださいご主人様ぁっ!!」
「ハウス」
「犬じゃありませんよ!?」
イルの手にはC4爆弾って言うのか?そんな感じの爆弾が大量に抱えられている。
「お、おい……それはなんだ……?」
「あ?分からねえのか? 爆弾だよ、お宅がお探しの」
「なんでだっ!? なぜそこにあるんだ!?」
「はぁ? 当たり前だろうが。王国と同格以上の戦力を持った町だぞ? 爆弾くらい警戒するに決まってるだろ。今回は高木の仕業だったがどっちみち助かったぜ。ありがとうな、イル」
「いえいえ! ご主人様のご命令ならどこまでも!」
ユウトは今も唖然としている。アッシモは最早出来ることはないらしい。
「……くそっ!」
「イル、撤退だ。アッシモを拘束して王国に戻るぞ」
「し、シュン!? 俺達は大丈夫なのか!?」
「だから爆弾は全部撤去したっていったろ。ほら、帰るぞ」
「はぁーっ、なんだ。結局最後はイルさんに持っていかれちゃったのか」
「なんだよ? なんか不満か?」
「別にそういうわけじゃないよ」
口を軽く尖らせるユウト。
「はぁ、ちゃんとお前は役に立ったよ。さっきも言ったろ?感謝してる」
「そっか、なら良かった!」
「シュンくーん!」
「結城さん、終わったよ。帰ろう」
「なんだ、もう終わったのか。早漏だな」
「おい刀女? 意味を履き違えてないかアァン!?」
「うるさい粗チン野郎」
「んだとゴラァッ!?」
「「まあまあ、落ち着いて」」
色々あったが……結局俺達はなんとかアッシモの捕縛に成功。誰一人欠けることなくミッションコンプリートってわけだ。
んー、なんだろう。何か忘れている気がする……まっ、忘れるくらいだから差して大事なことでもないんだろう。さっ、帰って寝るとしようか。
「あれ?みんなどこにいるっしょ?」




