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刑部優香は松岡一樹の彼女である。ギリィ(歯ぎしり)

「今のは、あの少年がしたのか……？」

「嘘だろ？地面が真っ二つだぞ？人間業じゃ…」

「うぉぉ！すっげぇ！なんだ今の！流石ユウトだぜ！」

「光ヶ丘くん…かっこいい……！」

「きゃぁー！ユウトくーん！！」

　各々が思い思いに叫ぶ。ユウト、とりあえずシね。なんで最初に怖がられないんだよ、普通恐怖するだろ。顔か？結局顔なのか？

「宮坂、今のをユウトがやったのか？」

「ぽいな」

「すっげぇ！マジか！凄くね！？えっ、すご！凄すぎだろ！マジすげえ！」

　何回すごいって言えば気が済むんだオマエは。お前の語彙力の無さがマジスゴいよ。

「大丈夫だったか！？シュン！？」

「そんでオマエはなんでこっち来んだよ」

　ほらお前、真っ先に俺んとこ来るからさぁ。

「ねぇ…ホントなんで宮坂くんにいっつも構ってんの？」

「どうせ宮坂がユウトくんに付きまとってるだけでしょ、あぁ汚らわしい」

「光ヶ丘くんが可哀想～」

　ほら、言いたい放題だ。逆だろ？俺が付きまとわれてる側なんだよ。どういう眼をしたらそんな風に見える？イケメン優先フィルター掛けてんじゃねえよ。

「怪我とかないかっ！？」

「なんとかな」

「良かったぁ…シュンに何かあったらどうしようかと…」

「すごかったなユウト！流石はユウトだ！」

「え、あ、うん。ありがとう」

「おいもう少し興味持ってやれよ」

　俺と松岡とで反応が違いすぎだろ。せめて大丈夫だったかとか気遣えよ。

「それよりなんでシュンと一樹が一緒に居るんだ？」

「打ち合いの相手で選ばれ…」

「宮坂とは友達だからな！友達とやるのは当たり前だ！」

　松岡お前…意外と良いやつだったんだな……最初見たときにイケメンだからシねとか思って悪かったよ。でも、友達になる必要はねえよ。

「シュン…友達が出来たのか……」

「なんでちょっと残念そうなんだよ。別に友達なんかじゃねえよ」

　ハンカチで目元を拭うな。泣き方乙女か。

「ねぇーユウトくーん、こっちの友子(ともこ)が泣いちゃったんですけどー」

「あ、ごめんね」

「こっち来てよーそ(・)ん(・)な(・)奴(・)に構ってないでさー」

「あ、腕引っ張らないで……悪いシュン、一樹、行ってくる」

「もう帰ってくんな」

「行ってら！」

　はぁ、なんだあの女子。あの去り際に俺を見たときの目。軽蔑の眼差しってあんな鋭いもんなの？女子怖すぎだろ…闇は深いな。

「みんな！兵長のミランだ！朝の特訓は終了する！これから朝食だ！7時に食堂に集まってくれ！」

　仁王立ちをして響き渡るような大声で叫ぶ兵長。地面の傷をどうにかするためか周りの兵に指示を出している。もう解散のようだ。ちなみに今は6時30位である。

「宮坂、帰ろうぜ」

「松岡、なんで俺にそんな構うんだ？俺と一緒に居たって得なんてないぞ？むしろ損しかない」

「何いってんだ宮坂？友達に損得なんて無いだろ、ほら朝食一緒に食べようぜ！」

　トクン…………とか無えから！あぶなっ！なんか今すこし心臓が脈打ったけど、無いからな！まあ、良い奴だってのはなんとなく分かるけどよ……

●

「そういえば、昨日のメイドさん。可愛かったな」

「は？誰のことだ？」

　バイキング形式の朝食を軽く食べながら、隣の松岡が話し掛けてくる。

　ユウトは隣に来たかったようだが女子に連れられて遠くの席に行ってしまっている。今もチラチラとこちらの様子を伺っている。うざっ。

「ほら、昨日。部屋に居ただろ？王様が言ってたじゃんか。各部屋に奉仕者を向かわせてるって」

　そんな話あったか？いや、どっちみち奉仕者なんて来てないぞ？つまりメイドさんのことだろ？居た？いや居なかったよな？

「俺の部屋には来てないぞ」

「え！？本当か！？それ言った方が良くね！？兵士さーん！ちょっとお話が！！」

「やめろばか」

　食事中に叫ぶな、そして席を立つな。振動で飲み物が倒れただろ。

「別にいい、俺生活管理されるのも嫌だし」

「そんなこと言ったってお前、めっちゃ可愛いんだぞ？」

「だから何だ。どうせ国に管理されたメイドだ、その内裏切られる」

「疑り深いなぁ宮坂は……」

　仕方ないだろ、裏切られるのは怖いんだよ。友達を作らない理由ってのはそういうことが含まれてんだよ。

「松岡くん。隣、良い？」

「お、優香(ゆうか)」

「誰だ？」

「同じクラスだろ宮坂！俺の彼女だよ」

「刑部(おさかべ)優香(ゆうか)だよ、宜しくね。えっと…シュンくん？」

　彼女……だと？あぁ、言ってたな。ほら、今裏切られた。彼女持ちは許さない。

　ちなみに刑部さんは胸まで伸びている髪をシュシュみたいなのでまとめて左の肩から垂らしている。顔も結城さんと比べたら劣るが、それでも大分可愛い。

「おいなんで俺が『松岡くん』で宮坂が『シュンくん』なんだよ！？」

「だってユウトくんがシュンって呼ぶから、名字覚えてなくて…」

「宮坂だよ宮坂！覚えてやれよ！」

「別にいいよ、じゃ、俺は部屋に戻るから」

「あ、おい宮坂！」

　居るんなら彼女と二人で朝食を食えよ。俺と食う必要なんて無いんだからな。

「おい優香が名字を覚えてなかったから帰っちまっただろ！？」

「いや今の気を使ってくれたんでしょ…」

「そうなのかっ！」

　バカだろお前。もっかい言うわ。バカだろお前。あと刑部さんにバレてるじゃねえか、恥ずかしいなオイ。

「あ、シュン！ごめん君たち。俺シュンと話すことあるから！」

「えー！何それつまんないー！」

　食堂から出ていこうとするとユウトが急いでこっちへ走ってこようとする。おいおい、俺はオマエと話すことなんて一つもないんだが。

「ねぇユウトくん」

　すると女子の一人がユウトの腕をつかみ止める。

「それって、私たちよりも大事なことなの？えっと……そう、宮坂くんと話すことが」

「え、うん」

「……っ！……そう、行ってらっしゃい」

「あ、あぁ、ありがとう」

　おいおい、今の顔が見えなかったのかユウト。あの『覚えてろよ』って顔。そしてなんでオマエはオマエで『当たり前だろ？』みたいな顔してんだよ。

「待ってくれよシュン！」

「嫌だ」

「なんで置いていくんだよ！？」

「なんで着いてくんだよ」

　お前のせいで俺は後で絶対なんかされるんだよ。知ってるか？女子ってのは怖いんだぞ？お前と一緒に居てきてからそれが分かるようになったよ。この流れは俺、絶対呼び出されるからな？恨むぞ？

「……もしかしてなんかあったのか？」

　気遣うように、心配そうに俺の顔を伺うユウト。もしかして？もしかしてだと？……いいよなぁ、イケメンは悩みがなくて。

「お前のせいだよ！！」

　全く、俺じゃなきゃ過労死してるぜ。

食堂でのユウトとその周りを取り囲む女子の会話。

「ねぇねぇ！ユウトくんは好きな女子とかいるの！？」

「好きな女子？俺には早いよ」

「えーうそうそ！私たちもう高校生だよ！？あ、もしかして結城さんとか！？」

「ん……それは……ないよ」

「え……」

「なに今の反応……え、ユウトくんってほんとうに！？」

「俺に好きな人はいないよ」

「今の絶対おかしかったよねー？本当はいるんでしょ？」

「そうだな……シュンとか？」

「「「「「誰？」」」」」