セルウスの町攻略作戦③『結城美郷サイド』
「今のは冷や汗が出ましたけどねェ……もう先程のようなミスは致しません…私は端で見学をしていますよ」
ヌーさんは薄ら笑いを浮かべながら後ろへ下がっていく。壁際でこっちのようすを伺ってるみたい。
「どうする!桐峠!結城さん!」
「魔法が効かないとなったら、もう足止めくらいしか…」
「二人とも何を言っている。どうするもなにも……」
雫ちゃんがデーモンにスタスタと臆すことなく歩んでいく。そして───
「叩き斬るだけだぁぁぁぁぁあっ!!」
「GUOOOAAA!?」
「「あ、そういう」」
デーモンに駆け寄り射程距離に入った瞬間、一閃。デーモンの片腕を切り落とした!さっすが雫ちゃん!
「まだまだまだまだぁっ!!」
「俺も負けてられねえ!結城さん!俺も行ってくるぜ!」
「う、うん!私も後ろから支援するね!」
私と松岡くんが打撃と魔法で牽制をして、隙をついて雫ちゃんが斬撃を加える!デーモンさんも私と松岡くんの攻撃に手一杯で、反撃する余地もない!
さっきみたいに一杯の骸骨さんたち相手ならともかく、デーモンさん一体だけなら集中して攻撃が出来る!
「ば……ばかなっ!?そんなバカな!デーモンだぞ!?それもただのデーモンじゃない!」
「口調が崩れてるぞ、ほら。さっきみたいに笑わないのか?」
「うぉぉぉお!!お・れ・つ・え・えぇぇッッ!!」
「GURUUUUAAAAA!!!」
ヌーさんは驚きを隠せないみたい。ふふん、大きい相手なら的も同然だよね!
「モフモフちゃん!」
「キュウッ!」
「ナイスフォロー!結城さん!」
「ここだぁぁぁっ!」
「GUUUUU……」
やった!もう少しで倒せるよ!
「な、なんでこんなことにィ………あの松岡とかいう糞ガキの技も、デタラメな剣技も……そして後ろから魔法を飛ばしながら、味方にかすり傷一つ負わせずに的確にデーモンを攻撃し続ける化け物……っ!」
「えっ、今ヌーさん。化け物って言った?」
「ひぃぃぃっ!今っ!私の真横を風刃がっ!た、助けてっ!」
化け物とか酷いよね!私そんなことないでしょ!?
「ねぇ!松岡くん!なんとか言ってあげて!」
「……すまん」
「なんで謝るのっ!?雫ちゃん!」
「……敵ながら同情する」
「雫ちゃんもっ!?」
うぅ、酷いよ……なんで、私のどこが化け物なの!?
「わ、私は逃げるっ!で、デーモン!あとは頼んだ!」
「あ、ヌーさん待って。ローブに火がついてるよ」
「な、なっ……なんでだっ!?」
「さっきの風刃は、ヌーさんに撃ったんじゃないの。さっき狙ったのはヌーさんの後ろにある松明だよ!」
「こ、これかっ!!」
この薄暗い地下の壁に立て掛けられた松明。それを狙って撃つことで地面に落とした!長いローブを着ているヌーさんに着火するのは当たり前だよね!
「ぐ、くそっ!熱い!しかし……こんなの脱いでしまえば!」
「オラァッ!!行けっ!桐峠!!」
「分かっている!」
「GU……GUAA…A…」
松岡くんがデーモンの隙を見つけてアッパーで打ち上げノックアウト!あとは火に気をとられていたヌーさんを雫ちゃんが決めるだけ!
「ふんっ!!」
「がっ……はっ……っ!?」
「安心しろ…峰打ちだ」
ドサリ、と倒れるヌーさん。雫ちゃんが柄で腹を思いっきり叩くことで気絶させたみたい。最後の台詞が言いたかったんだなって。
「ふぅーっ、なんとかなったな」
「うん、そうだね!」
「思ったよりも時間をかけてしまった。宮坂と合流しよう」
「あれっ、今桐峠、粗チン野郎って言わなかったな?あれ?」
「……っ!うるさいぞハゲ!」
「は、ハゲはないだろ!ごめん!」
「ま、まあまあ…」
なんとか一段落。デーモンさんも思ったより余裕だったね。もしかして、私たち少し強い?ふふ。
「シュンくんたちのところに行く前に奴隷の子達を逃がしてあげなきゃ」
「お!そうだった!」
「しかし逃がしておくと言ってもどうするんだ?ここに安全な場所などないだろう?」
「そんなとき!呼ばれて飛び出てこんにちは!私です!」
「「「っ!?」」」
突然現れたのは、シュンくんの専属メイドさんのイルさん。
えっ、どこから現れたの!?
「ここに一つのワープホールがあります。そして奴隷の子達をこのワープホールに入れるだけで、あら不思議!なんと王国まで一っ飛びなんです!」
「おぉー!」
「いやおぉー!じゃないだろ松岡、こいつは誰だ?」
「あれっ、桐峠は知らないのか。シュンのメイドのイルさん。なんか色々と噂はあるけど、良いメイドさん!らしい!」
「こんにちは、イルさん」
「ご丁寧にどうも、結城さん。では、こちらのワープホールに」
イルさんは謎多き女性だけど、シュンくんが信用している数少ない人物の一人だからね。私も信じるよ!
「ミサト!こんな得たいの知れないヤツに奴隷を預けるなんて良いのか!?」
「なんと、私を信用して頂けないのですか、ヨヨヨ」
「大丈夫だよ雫ちゃん!なんてたってイルさんはシュンくんのメイドさんだからね!」
「尚更信じられないんだがっ!?」
あれっ、なんでだろう?私が信じる理由の第一なんだけどなー。
「でもまあ、信用して大丈夫だと思うよ。誰よりも警戒心が強いシュンくんが気を許しているメイドさんだから」
「……ふん、まあ……この場では他にどうすることもできないしな」
「これがツンデレですかぁ……あんまり萌えませんね」
「おいコイツムカつくんだがっ!?」
ふふっ、もう仲良くなってるよ雫ちゃん。
「なぁ、子供たちは集めてきたけど、この穴に入れれば良いのか?」
「はい。どうぞ。それはもう、ポイっと入れちゃってください」
「よしっ!ほらみんな!行くぞーっ!」
松岡くんに釣られて子供たちがワープホールへ進んでいく。一人、また一人と入っていき、奴隷の子達と松岡くんは居なくなった。
「──いや松岡くん!?」
「あのバカ!帰りやがった!」
「あちゃー、これ一方通行にしてるんですよね」
「あちゃーって!じゃあどうするんだ!?」
「まぁ、なんとかなるでしょう。松岡様には子供のお守りでもしていただきます」
「これで戦力が減ったわけか…」
ため息をつく雫ちゃん。私もまさか帰るとは思わなかったよね。松岡くん、こんなとこでもユーモラスを忘れない!
「私も見習おう!」
「ミサト!?何を見習うんだ!?」
「それよりもお二人とも、この残った気絶している男は如何いたしましょう?このまま残しておいても直ぐに目を覚ますと思われますが」
「……斬るか」
「雫ちゃん?」
「私に任せていただければ目覚めないように出来ますよ」
「本当ですか?」
「えぇ、もちろん」
イルさんがゆっくりと歩いていき、倒れてるヌーさんの前で止まる。そして口を開き──
「ラ○ホーマ!」
「それは有名なゲームの魔法だよ!?」
「……ぐぅ…ぐぅ…」
「寝たみたいだな」
「寝ちゃった!?」
い、イルさん……本当にあんな魔法が使えるの……?
「さ、私はこのあと仕事があるのでお二人はご主人様のところへお向かいください」
「どこか行くんですか?」
「ええ、まあ。ご主人様に頼まれ事をされているので」
「そっか」
シュンくんは、イルさんとユウトくんには頼み事をするんだね。私に頼んでくれたことなんか殆どないなぁ……
「結城さま」
「……あっ、何かな?」
「ご主人様は口ではおっしゃられませんが、しっかり結城さまのことを見ておられますよ」
「そうなの?」
「えぇ。あの方はヘタレなので、女性にお願いなんか出来ないんですよ」
「へ、へぇ……そうなんだ…」
へ、ヘタレとか言ってるのは.まあ良いとして。
それよりもシュンくん、ちゃんと私のことを見ていてくれてるのかな?だったらその、なんていうか……
「ミサト、にやにやしてるぞ」
「ふぇっ!?うそっ!」
「鏡があれば見てくると良い、相当だぞ。ふふ」
「も、もう!やめてよ!」
「では、お二人様。また後ほど」
「あっはい!頑張ってください!」
「えぇ。結城さまも」
笑顔で手を振り、反対の方向に歩いていくイルさん。なんだか不思議な魅力のある人だよね。
「胡散臭い女だったな」
「そんなこと言っちゃダメだよ!」
「あれが魔族だったとしても私は驚かない」
「まさか、どこから見ても綺麗な女の人じゃない?」
「それはそうだが……あんなことを簡単にするんだぞ?」
雫ちゃんがほぼ閉じかかっているワープホールと爆睡しているヌーさんを指差す。
「た、確かに……」
「魔族と言われても全く違和感がない。むしろ、安心するレベルだ」
「いったい何者なんだろうね、イルさん」
本当、不思議な方だなぁ。
「ていうか、内通者について聞くんじゃなかったのか?このおっさん寝てるけど」
「あっ」
もう遅いよ!
ーーーーーーーーーー
「うぉぉぉっ!間違えて俺もワープホールに入っちまった!!」
「お、お兄ちゃん……?」
「あ、ああいや、なんでもないよ。おまえ達ももう怖くないからな!安心しろ!」
「「「「「うん!」」」」」
「にしても、戻れるようすもないし、これは桐峠とシュンにボコられるかもしれないな……どうしようか……」
「お兄ちゃん、遊んで?」
「えっ?うーん………………よし!遊ぶか!!」
間違って王国へ帰ってしまった松岡は、考えることを放棄した。




