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セルウスの町攻略作戦②『結城美郷サイド』

 なんというか、突然こんな戦いに乗り出しちゃったけど、良いのかなぁ。


 シュンくんが人を集めてるって聞いたから飛び出してきたのはいいけど、ちょっと怖いよね。


「どうした?結城さん」


 松岡くんが笑顔を向けて話し掛けてくれる。心配させちゃいけない!悩んでたって始まらないもんね!


「ううん、それより奴隷の子達は何処にいるんだろうね?」

「粗チン野郎が言っていたが、こういうときは地下牢だって相場が決まっている」

「前から思ってたんだけど、雫ちゃんのいう粗チン……?てのは何なのかな?」

「あー……いや、結城さん!なんでもないって!な!?桐峠!?」

「そ、そそそ、そうだな松岡!なんでもないぞミサト!だから早く行こう!?」

「うーん?分かった」


 二人で秘密にするなんてズルいなぁ!私にも教えてくれれば良いのに…


「あ!あそこに階段があるよっ」

「地下牢の入り口か?」

「入ってみようぜ!」


 廊下を歩いている内に、地下へと続く階段を見つけた。足元も殆ど見えない暗がりのなか、壁に立て掛けられた松明だけが頼りになってる。


「ちょっと暗いね……」

「あれ、もしかして結城さん怖いの?」

「そ、そんなことないよっ、ぜ、全然こんなの──」

「あ、ミサトの肩に手が」

「いやぁぁぁぁあっっっ!?」


 何々何々なにっ!?ごめんなさい!ごめんなさい!!強がってごめんなさい!怖いですだからあっち行ってぇっ!


「あ、ミサト!」

「結城さんっ!先にいっちゃダメだ!」

「ごめんなさぃぃぃい!!!」


 誰か助けてぇええっ!


「……これどう収集つけるんだ桐峠」

「まさかあそこまで怖がってるとは思っていなかった」

「二人して謝ろうな?」

「すまない松岡……」





ーーーーーーーーー


 はぁ……はぁ……怖くて一人で下まで来ちゃった。


 ていうかなんで逃げようとしたのに階段降りちゃうの私?バカだなぁ私……シュンくんならこういうときだってスマートに出来たんだろうな。憧れちゃうよ。


「……ぅう…」

「っ!?誰かいるんですか!?」


 ふと奥の方から声が聞こえた。松明でよく見えないけど、多分この声は女の子……


「結城さん!」

「静かにして松岡くん、誰かいる」

「分かっている。俺の能力は『気』だ。流石シュンだよな。敵を探知できる俺をこっちへ寄越すのも想定内なんだろう」

「粗チンのそういうところだけは誉めるに値するな」


 後から降りてきた松岡くんと雫ちゃんが互いにシュンくんを誉める。えへへ、なんか私まで嬉しくなっちゃうな……


「弱々しい気ばかりだ。死にはしないまでも、衰弱している」

「それって……っ」

「奴隷だろうな。俺が先導するから二人はついてきてくれ」

「うん」

「分かった」


 松岡くんを先頭に私を挟んで雫ちゃんと付いていく。ゆっくり進んでいくと、小さなロウソクに写し出された弱々しい子供たちを見つけた。


「うそ……ッッ」

「……あんまりこういうのは好きじゃないな」

「虫酸が走るぞ……アッシモとやらは私の刀で斬らなければ!」


 数十人の子供たちが何個もある牢に閉じ込められていた。その何人かは片腕が無かったり、どこか部位の欠損も見当たる。


 酷い……こんなの、あんまりだよっ!

 

「早く出してあげよう!?」

「あ、あぁ!」


 松岡くんがドアに手をかけるけど、鍵がかかっていて開かない。中の子供たちはまだ何が起こってるのか分からないみたい。


「ごめんね驚かせて…でも私たちはみんなを助けに来たの!家に帰れるよ!」

「……」


 衰弱しているからか、目に光が無い。まるで、希望を捨てたみたいな顔をしてる……

 こんなのおかしいよっ!シュンくんが怒るはずだよ!


「鍵が開かない!」

「雫ちゃん!鍵を探そう!」

「その必要はない。秘剣!『牢屋斬り』!」

「「あ、そういう」」


 雫ちゃんは腰に帯刀していた刀を振り抜くと、ドアがゆっくりと倒れていった。

 ちょっと驚いたけど流石雫ちゃん!かっこいいなぁ!


「スパってなったね!」

「ふふ、こんな時のために牢屋を斬れるようにしておいた」

「すごい限定的だなっ!?」


 用意周到な雫ちゃん!かっこいい!


「ほら、もうみんな自由だよ。出ておいで!」

「……本当?」


 まだ他にも牢屋はある。他の子達も助けてあげなきゃ!


「次の牢屋は向こうかな」

「よし、行くか。松岡、お前の探知の出番だぞ……………………松岡?」

「あれ?松岡くんは───」




「逃げろっ!結城さ……うぐっ」

「困るんですよねェ……奴隷を解放されちゃあ……あぁでも、いっかァ。新しい奴隷も増えちゃうみたいだし……」


「「ッ!?」」


 松岡くんの方を振り返ると、松岡くんが骨で出来た人?に羽交い締めにされている!なんでっ!いつのまに!?


「あなたは……誰ですか!?」

「誰ですかと聞かれればァ……私はこの牢屋の管理をしている『ムー』と申します。よろしくお願いしますねェ」


骸骨さんの後ろから出てきたのは、デカイローブを着たおじさん?だった。


「ムカつくしゃべり方をするおっさんだ!」

「ごめんねみんな!もう一度牢に戻ってて!すぐなんとかするから!」


 奴隷の子達が怯えている!この人を怖がってるんだ!


「もう怖い思いはさせない!松岡くん!」

「コイツっ力強いじゃねえかっ!……燃えてきたぜぇっ!!!オラァアッ!」

「ガシャァッ」


 松岡くんが羽交い締めをしてきた骸骨を気合いて叩き壊す。ぱ、パワーファイターだよ……


「なんだコイツ…『気』を感じ取れなかった!」

「ふふふ……当たり前ですよねェ……何せェ…そいつらは『生きてない』のですからァ」

「モンスターじゃないのか!?」


 そうか…松岡くんの『気』は生きてる人が纏ってるオーラ?みたいなものらしいから、死んでいる者は気が無いんだ!


 でもおかしい。私たちはまだバレてないはずなのに…音も少ししか出してないよ。


「なんで俺たちの居場所が分かったんだ…?」

「それは…簡単ですよォ…」


ニヤリと口を釣り上げるヌーさん。


「内通者が…居たんですよォ…漆黒の闇よ…彼の血肉を捧げる…貪り、食い尽くせ……『召喚陣(サモンサークル)スケルトン』」

「うそ…っ!?」

「内通者…だと?」

「お、俺じゃないぞ!?」

「疑ってない!それよりも何か出てくるぞ!構えろミサト!松岡!」


 ヌーさんが唱えた瞬間、足元に魔法陣のような物が現れて、そこから骸骨さんたちが湧き出てきた!


「ひっ…」

「怯えるなミサト!秘剣『骨断ち』!!」

「キシャアッ!?」

「ウオラァァアッ!!かかってこいやぁ!!」

「ガシャァッ!」

「えっ、二人とも強い……」


 魔法陣からボコボコと現れる骸骨さんたちを容赦なく斬りつけ叩き付ける二人。うん、私も見習わなくっちゃ!


「行くよ!モフモフちゃん!風魔法でお願い!」

「キュイイッ!」

「ガシャっ!?」

「ギギギッ!?」

「グバッシャァッ!!」


 モフモフちゃんの口からバレーボールサイズの風の塊が飛び出す。骸骨さんたちに当たると勢いそのまま吹っ飛んでいく。


「うん!いい調子!」

「……規格外なお客さんたちですねェ……もしかして勇者様たちでしょうかァ……?」

「おう!俺たちが勇者だ!魔王を倒す予定のな!あれ?でも魔王と今共闘してんのか?」

「良いから前の敵に集中しろ松岡!死にたいのか!?」

「おっ、すまんすまん!」

「……よく分かりませんが…あなたたちが勇者なのですねェ……」


 クックックと突然笑い出すヌーさん。何かおかしいことでもあったかな?


「いやァ……良いタイミングです……ちょうど()()()()奴がいてねェ……」

「どういうことですか…?」

「コイツは少々気象が荒くてねェ……あまり使えたものではないんですが…勇者相手なら文句はありませんよねェ……生に執着する亡霊よ…我が魔力に呼応し生け贄を貪れ…生きとし生ける者共のすべてを蹂躙せよ……冥界の統べるもの……『召喚(サモン)、エビルデーモン』」

「くそっ!スケルトンが邪魔で妨害できない!」


 長い詠唱を終えた直後、地鳴りがオコリ、まるで世界が震えているかのような錯覚を覚える。


「なに……っこれっ……」

「おいおいおい……これはやべぇだろ……っ!」

「スケルトンの比にならないな…」


 突然黒い霧が立ち込める。それがいつからか形を成していきそれは巨大な悪魔の姿となっていった。優に3メートルはあるだろう巨体。コウモリのような羽。鰐のような尻尾。そして頭から生えた長い角。


「スケルトンだってまだ出てきてるんだぞ……?どうしろってんだ…よっ!」

「ギジャっ!!」

「死ねっ!!……あの身体、刃が通るのか?」

「ジャ……ッ」

「二人ともこっちに来て!スケルトンたちを一掃するから!」


 正直一つ一つ倒してちゃきりがない!出来る限りの魔法で全て倒しきる!


「おう!わかった!」

「ミサト!なにか手段はあるのか!?」

「もちろん!これまでの練習の成果……見せてあげるよ!モフモフちゃん!」

「キュキュウ!」


 近くに来てくれた二人に魔法壁を張り、障壁を作る。そしてこちらへゆっくりと歩いてくるスケルトンさんたちを睨み付ける。


「ごめんね……っ!エクスプロージョン!」

「キュウゥゥウッ!!」

「なに────」


 とてつもない爆発音が辺りを襲う。同時に衝撃波がこちらに来るが、魔法壁によってなんとか耐える。なんとか成功したみたいでよかった。

 セレナさんと戦ったときに力の弱さを実感したから、セレナさんに勝ったときの魔法のように広範囲高威力の魔法を使えるように練習したのだ!


「どう……かなぁ?」

「すごいぞ結城さん!スケルトンは全員倒れてる!魔法陣諸とも吹っ飛んだぜ!」

「すさまじいな……これが無詠唱でしかもほぼノーコストで使えるのか…」

「えへへ……なんとかなった…かな?」


 デーモンの姿はなくなっている……けど、ヌーさんの姿もない。


「ふ、ふふふ……今のは流石に危なかったですねェ……しかし、エビルデーモンはその程度では死にませんよ」

「GUAAAA…………」

「うそっ!」

「ちぃっ!デーモンと一緒に隅の方まで一瞬で移動しやがった!なんて速さだ!」

「流石は王国以上の戦力を持つ街…やはり一筋縄にはいかないか……」


 でも!スケルトンは消えた!あとはあのデーモンを倒すだけ!内通者ていうのは…後回しだね!



 シュンくん!私に力を貸してっ!!



???「無理」

???「いや精神面での話だから……」

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