セルウスの町攻略作戦①
───翌日、空が暗くなり始めた頃。
俺はゾーイの元に訪れていた。
「ゾーイ、寝てるか?」
「……シュンの声…です」
「すまないな、起こしたか?」
「寝てなかった……です」
目をゴシゴシと擦って小屋から出てきたのは、若干の寝グセのついた白髪猫耳幼女だった。寝てたんだな、うん。
「これから、ほんの少し煩くなるかもしれないが、耳を閉じていてくれ。明日になればお前は堂々と町を歩けるようになるからな」
「……です?」
これは、俺のエゴかもしれない。なんども考えていたことだが、この世界のルールに口を出すのは無責任かもしれない。
誰かのために、なんて言っても結局はその誰か以外の誰かを傷付けてるもんだ。この奴隷貿易をぶっ壊す計画は貿易で儲けている人たちの人生も壊すことになる。
それが良いことか悪いことなのかが、俺には分からない。
「ゾーイ……です」
「あ?」
「お前じゃなく…ゾーイ……です」
「前にもこんな会話をした気がするな、はは。そうだ、ゾーイ。お前の名前はゾーイだったな」
「……です」
グシグシと頭を撫でてやる。くすぐったそうにするゾーイを見て思う。
とりあえずはまあ、良いか。ゾーイの笑顔が見られるなら。
ーーーーーーーーーー
「あ、シュン!どこ行ってたんだ?」
「ちょっとな。それよりも、全員揃っているみたいだな」
俺はセルウスの町の前で召集を掛けていた皆のところへと歩いてきた。結城さん、松岡、因幡、桐峠、そしてユウトもしっかり集まっていた。ちなみに5分くらいの遅刻をしている。
「遅いぞ宮坂!」
「悪いな刀娘。茶を飲んでた」
「貴様が集めたんだろうが!」
「まあまあ雫ちゃん……シュンくん、準備オッケーだよ」
「よし」
一応、魔族と共闘することは知っている皆だが、イルが魔族ということは知らない。なので念話でイルに用意が出来たことを伝える。
『こっちは準備ができた。魔族たちの出番だ』
『むむ、ご主人様の声です!分かりました!シア様に伝えて参ります!』
これで魔王率いる魔族がセルウスへと攻め込む。もちろん、既にシアが大体の民家に保護魔法と反音魔法を掛けている。
流石魔王だ。王国よりデカいセルウスの町を魔法で包めるとは。これが相手だと考えると末恐ろしいな。
『あと俺たちの姿が見えなくなる魔法を掛けてくれ』
『そんな急にっ!?』
『出来ないのか?』
『まあ、できますけど』
出来んじゃねえか。試しに言ってみるもんだ。
『ご主人様を通じて魔法を送るので、皆さんと手を繋いでください』
『そんなことしなきゃなんねえの?』
『はい、必要事項です』
『はいはい』
ため息をついた後に、待機しているみんなに声をかける。
「お前ら、俺と手を繋げ。二人は俺と、残りはその二人と繋いでくれ」
「はいはい!シュン!俺と繋ごう!」
「ホモ野郎」
「宮坂、ミサトがお前と繋ぎたいそうだ」
「えっ!し、雫ちゃんっ!?」
「誰でも良いから速くしろ」
「あ、シュン!俺と繋ごうぜ!!」
「松岡、貴様っ!!」
「一樹っちー!俺と繋ぐっしょー?」
こいつらテンション高いなぁ。今、深夜だからね?反音魔法掛けてるから良いものを、もし普通だったら近所迷惑だぞ?
「───いいか?」
『準備できたぞ』
『あ、良いですか?じゃー……ほいっ!』
『そんな簡単で良いのか』
『はい。というか、手を繋ぐ必要もないです』
「お前殺すからなっ!」
『声が漏れ出てますよご主人様』
当然叫びだした俺に全員が驚く。いやごめん。でもほら、今反音魔法掛けてるから大丈夫だって。気にするな。
「これで何か変わったのか?シュン」
「そのはずだが…」
「あ!ねぇ!もう魔族さんたちが攻めてるみたい!」
「喧騒がここにも届いてるな。俺たちも行こう」
「「「「「応!」」」」」
街へ入るとそこは魔族たちが人々を殺して─────いない。
もちろん、今回の作戦で被害は一つも出すつもりはない。魔族たちがちらほら見えるが、それは夜遅くに家に戻ってない人たちを静かに無力化しているのだ。
それぞれの家にも睡眠魔法とやらを掛けて回っている。完全体制だ。
「これ、見えなくなる魔法の意味あったか?」
「一樹、俺も最初はそう思ったけどアッシモの屋敷に入るんなら警備とかも要るんじゃないか?」
「そりゃそうか。ユウトは頭良いな!」
「そ、そうでもないよ」
ユウトの言う通りだ。まあ、最悪バレる前に見つけて叫ばれる前に倒す。終わり。
「魔族さんたち、私たちには目もくれないね」
「あぁ、魔法が効いてんだな」
「効果あったのか…」
すれ違いそうになると、こっちが避けなければならないのが面倒くさいな。触れられると魔法が解けるらしい。変なところで使い勝手が悪い。
「シュン、あそこが町長の屋敷だな」
「ん、速かったな。見張りは……もちろん、居るよなぁ」
まだ屋敷付近には魔族は来ていない。今回の作戦は慎重に行われている。これも魔族あっての作戦だ。町全体にここまでの魔法を使えるのは、魔族でしか無理だからな。
ほとんどの兵を使うことなく、俺たちぐらいで動いている。
だが、シアが現魔王ということを知る魔族が少ないために運用できる魔族も少なく全体的に少数精鋭となる。
イルもシアを知る者として住人の保護と魔法掛けに出向いてもらっている。
「桐峠、ユウト。頼めるか?」
「無力化すれば良いのか?」
「峰打ちなら練習済みだ」
「心強いじゃねえか」
警備兵は町の変化に気づかず、欠伸をして頭を掻いている。まさか俺たちが目の前にいるなんて思ってもいないだろう。
「剣を通してなら魔法も解けない。ユウトはエクスカリバーを、桐峠は持ち前の刀を使ってくれ」
「「応!」」
警備兵は二人、ユウトたちなら一瞬だろう。
「疾っ!」
「ぐっ……!?」
「はぁっ!」
「……かはっ!?」
桐峠が柄で腹を一発。ユウトは剣の腹で叩く。
殆ど音を出すことなく無力化に成功。ほんと、瞬時に気絶させるって凄いな。俺にゃ無理だ。見ることしか出来ねぇからな。
「ご苦労だった」
「上から目線なヤツだな」
「シュン、行けるぞ」
「よし」
アッシモの屋敷を見上げる。見たときから思っていたがかなりデカい。流石は町長の屋敷。いっそのこと城と言っても遜色ない。
「このどこかにいるアッシモを叩く。何もなく終われば良いんだが……」
「なあなあ宮坂!」
「なんだ、松岡」
「この鎧を着れば変装できるんじゃないか!?」
この男はアホじゃなかろうか?いや、アホだな。確信できる。
「俺たちが見えなくなる魔法を掛けられてること、忘れたか?」
「はっ!」
「次いでに言うと、その兵士二人、俺たち六人。二人が着て、残りの四人はどうする?」
「…………あっははは!」
「笑って誤魔化すな筋肉バカ」
「ま、まあまあシュンくん。松岡くんも私たちのことを考えてのことだったんだよ」
「まあ、そうだな」
連れてくるやつ間違えたか?これからの作戦に若干の不安が残るんだが……
「じゃー、まあ。そろそろ分かれるか」
今回の作戦の中では俺たちは二手に別れる。片方はアッシモを捕縛する。もう片方は閉じ込められているはずの奴隷を助ける。
奴隷貿易をしていて、自らを奴隷商人と言っていたならな。多分、凄い数の奴隷が閉じ込められているはずだ。
「アッシモは俺とユウト、あとは因幡、お前も来い」
「分かった」
「了解っしょ!」
「うるさい」
「私たちは閉じ込められている奴隷を解放……だね!」
「私が居れば大丈夫だろう」
「俺もいるぜ!」
よし、行くか。
───国王との作戦会議
「王様、今回の作戦はこういう風に魔族の人たちによって無力化するのはどうでしょう?」
「うっわぁ……えっこれマジ?私の王国に同じ事されたら滅ぼされる気がするんだけど?
」
「そんなガチに引いたような声出さなくても良いじゃないですか」
「いや、実際かなり効果的だと思うぞ。これで住民に被害が被ることは殆ど無いだろう」
「ですよね。ではこのように」
「にしてもシュンくん、えげつないこと考えるね、これじゃあ兵も満足に動けないだろうし」
「魔法って便利ですよね」
「魔族が強すぎるんだよ……」
かなりガチで引いていた王様であった。




