魔王の矜持
パチっ……
「そういえば王様」
「なにかな、シュンくん」
パチリ……
「話しておかなければならないことがありまして」
「話さないといけないことだと?」
パチン……
「話したいこと、というか頼みたいことなんですが 」
「勿体つけるじゃないか」
パチっ
「そんな大層なことじゃないんですけどね、はは」
「なんだ、シュンくんの頼みだ!多少のことは聞いてやるぞ!」
「ありがとうございます、では」
「セルウスの街を滅ぼしたいので兵を貸してください」
「…………は?」
将棋を打っていた手が止まり、王様の目が点になる。鳩が豆鉄砲を食らったって言わんばかりだな。
「まてまてまて……シュンくん?どうしてそんな話になったんだ?」
「あれ、前にマナを通じて話していませんでしたか?もし滅ぼせれたら褒美はなんでもやるという」
「あれはもしもの話だろう!?」
このカスが…激昂するんじゃあない。
「そもそもシュンくんたちは魔王を倒すために召喚したんだから、セルウスの街は置いておけば良いから…」
「イヤだめです。奴隷制度は許せません」
「それは分かるが……」
表情に曇りが現れる。そう、これは俺の個人的な感情からくるものだ。奴隷制度は良いと思われていない。それは俺も王様も一緒だ。
だが、そこには大きな問題がある。それは───
「すまないが、やはりそれは出来ない。君の気持ちは分かる。私たちも、奴隷制度を良しとはしない」
「なら」
「だが、だ。戦力的に差が無くなってきているのだ。もっと前に手を出しておけば良かったのだが、今のセルウスの街はこの王都と同じ……いや、王都以上の兵力を集めている。そんな中、君たちを送り出してもし誰かが負傷、死傷者が出てしまえば人類の目標、魔王討伐が出来なくなってしまう」
当たり前、至極全うなことを王様は言う。その顔は普段の気の抜けた顔ではなく、この国を背負う者としての気迫と誇りを持った凛々しい顔だった。
「私はこの国の王だ。兵を犠牲にし、民を脅かし、君たちを傷つけてまでセルウスの街を滅ぼそうとは思えない」
「なるほど、確かに普通ならそうですよね」
「あぁ、だから君の提案は認められない」
流石は王様だ。民からの信頼が厚いのも分かる。誰よりも何よりも、この王様はこの国を、この国の人を愛し、大切に想っているのだ。
「では、もし絶対に負けず、死者も出さず勝てる保証があれば良いんですよね」
「ぬ?確かにそうだが……ダメだぞ。君たちが最前線に戦うとしても、数に勝てる者はない。押し込まれたら終わりだ」
「いや、俺たちだけが戦うわけではありません。もちろん、少しは戦わせてもらいますが残りは─────」
「───魔王に任せましょう」
「は?」
ーーーーーーーーーー
後日、王様の部屋にて。
「私は魔王側近、シュバと申します。そしてこちらが」
「……現魔王、ヘキセ=ジェルマン=シアト。よろしく」
普段よりも更に豪華な客室のソファに座ったシアとその左後ろに立つシュバさんが頭を下げる。
「……シュンくん、これはなんの冗談かね?」
「言ったじゃないですか王様。話し合いのためにシア…魔王を呼ぶと」
「どこで魔王と知り合ったの君!?」
ええまあ、色々ありまして。はい。
「それにシュンくん、なんというかその、魔王さん、幼女じゃない?見た目10歳前後のまだまだ幼いように見えるんだけど……」
「それには私がお答えしましょう」
「あ、ありがたい……」
シュバさんが、シアが現魔王である理由と前魔王が病床に伏せていることを教えると、王様は何がなんだか分からないようで少し風に当たってくると部屋を出ていった。
「王様、大分こんがらがってたな」
「……シュン!久し振り!」
「あぁ、シア。元気だったか?」
「私も会いたかったですよ、宮坂シュン殿」
「怪しいなぁ、シュバさん」
「それはひどい」
「……シュン、シュバはどうでもいいから私と話そう?」
「分かった。あとシュバさんにはもうちょっと優しくしてやりな」
俺とかリューナに何言われても気にも留めないシュバさんが顔を覆ってめそめそと泣く。うん、親バカに似たものを感じる。
「ちなみに、前に和平を結ぼうとしたみたいたが、それはいつ頃なんだ?あの王様が魔族や亜人を大量に引き取ったり、殺したりするとは思えないんだが」
初めてシアに会ったとき、理不尽な和平を押し付けられたと聞いた。その時の会話は今でも覚えている。中々に残酷なものだった。だが、あの王様がそうとは思えない。
「……私はまだ生まれてない頃」
「あのときも言いましたが、200年ほど前になりますね。国王様も三、四世代ほど代わっているので考えが変わっていったのでしょう」
「なるほどな」
しばらくしてドアが開き、王様が戻ってきた。どうやらやっと整理がついたみたいだ。
「えっと、じゃあ、改めて…ゴホン!私はこのシュドール国の王、ロミオ=シュドール=スーモです。初めまして」
「……初めまして」
「さて、早速ですが今回は何のようで来たんでしたか」
「……セルウスの街を攻め入る協力をしたい」
本題に入る。シアの目的を果たすための第一歩だ。
「ほう、人類の敵である魔王が…ですか」
「……っ!」
「王様、それは言いすぎじゃ」
「シュンくんは黙っていなさい。これは王同士の話だ」
「…すみません」
王様は鋭く、探るような目でシアを見る。
「そもそも、魔王様。いえ、シアト様と呼びましょう。シアト様はこれまで、我々人類をたくさん殺してきました。それで急に協定を組もうと言われて、はいそうですかと認められると思いますか?」
「……それはっ…魔族も一緒!私たちは人類に滅ぼされかけた!前勇者のせいで!」
「そうですね。しかしそれは私が生まれる前の、更に前。そして今では人間が魔族に追い詰められています。死傷者の数としては、合計すると我ら人族の方が多いでしょう」
「……そ、それは…」
そうだ、そうだった。
ロミオ=シュドール=スーモは、この国の『王様』なんだった。誰よりも民の幸せを願う存在であり、民を引き連れて行かなければならない存在なのだ。
今まで数えられないほど殺し合い、信用なんてものは全くない。そんな人間と魔族が、こんな急に会わせられても、仲良く手を繋ぐなんてことはあり得ない。
これは、失敗した。くそっ、調子に乗ってたかもしれない。
「……わ、私は…」
「申し訳ありませんが、言うことか無いのでしたらお引き取りを。私は国民を、人類を守らないといけません。そう簡単に頷くことが出来ないのです」
「……そう」
「魔王様、ここは私が」
シュバさんが見ていられなくなったのか、前へと出てくる。確かに、ここはシュバさんの方が良いかもしれない。長年王族に仕えてきた人?だ。もしかすると……
「……ダメ、シュバ」
「しかし、このままでは……」
シアがシュバさんを制す。そして、先程までの泣きそうだった顔を叩き、目を開ける。
「……私は、現魔王、ヘキセ=ジェルマン=シアト。魔王は欲しいものは必ず手に入れる。それが王様からの信用だったとしてもっ!」
自らを呼び、奮い立たせる。その奮起の様子は、魔王と称されても遜色ない。
「……聞いてほしい、人間の王ロミオ」
そうして、魔王、ヘキセ=ジェルマン=シアトは語り始めた。
お久しぶりです。しばらくの間更新できず申し訳ありませんでした。何かと忙しかったもので。
(ネタ切れじゃないですよ?ええ、もちろん。)
そういえば最近、リアルの友達にこの小説のことがバレてしまい、恥ずかしい私です。
『え、これお前が書いたの?』
と疑われてしまうのはきっと、友情の裏返しだと信じております。
本編では物語が動き出そうとしてますね。続きが楽しみです。え?書くのはお前だって?いえいえ、いつだって物語を描いていくのは……
キャラクターたちだけ、なのですよ。
あ、ブクマ、評価、感想お待ちしておりまーす。




