普段の生活②
食堂への道中、結城さんとユウトが話をし、桐峠は目を閉じながらまっすぐ歩き、俺はため息をつきながら、フラフラと歩いていた。
なんで目を閉じてるくせに俺よりも真っ直ぐ歩けるんだよ。平衡感覚か?それとも顔か?やっぱり顔か?そこから違うのか?
「くそう……鬱だ……」
「あ、ニアさんだ」
「む、貴様は……光ヶ丘ユウトか。それに、結城ミサトに桐峠シズク……あっ、宮坂シュンもいるのか……」
曲がり角から出てきたのは、戦乙女聖騎士団の団長、ニアだ。最近会うこともなかったが、今朝の特訓では居たらしい。俺は遅すぎて見なかったが。
「なんだよ、居ちゃ悪いのか」
「そ、そんなこと言ってないだろっ!と、というかあまり近付かないでくれ……」
「あ?」
「シュン、あんだけ虐めたんだから怖がられても仕方ないだろう?」
「うんうん」
「結城さんまで……あのさ、あんな前のこと気にすんなって。あれだってマジじゃないからさ。許してくれよ」
「べ、別に気にしてなんかない!」
「してんじゃねえか……」
うーむ、飽きもせず距離をとってきやがる。ちょっと傷つくけど、俺がしたことだしなんも言えねえ。
「これから食事にいくのか?」
「えぇ、ニアさんも一緒に行きますか?」
「いや、私はまだ特訓をするから」
「へぇ、スゴいですねニアさん!私もうお腹減っちゃって……」
「ははっ、私も素人に負けるのはもう嫌だからな」
「やっぱり根に持ってるやんけ」
「では、食事を楽しんできてくれ」
ささっと特訓場へ歩いていくニア。普通に部屋で寝ている方が有意義だろう。あんなに頑張って……あの強さ、普通の人じゃ勝てないのが分からないのか?俺はまあ、色々とズルをしたようなもんだから勝てたが……
「ニアさん、頑張り屋さんなんだね」
「あのままでも強いと思うがな」
「ときに光ヶ丘。宮坂はあのニアという女性を倒したそうだが、強いのか?」
「あれ?桐峠さんは居なかったっけ?強いと思うよ。この国の最高戦力の一人だからね」
「は?それをこの宮坂とかいうクズが倒したのか?」
「あれあれ?もしかして俺の話をしてる?おかしいなぁ、猿が人の言葉を喋るなんて」
「猿?あぁ、自分のことを卑下するのはやめろ。クズでも辛うじて人なのだから」
「あ?潰すぞ?」
「刀の錆にしてくれる!」
はい殺すー。絶対殺すー。人のことをグズとかいうクズには制裁が必要だよな?
「シュン!朝食の時間過ぎちゃうぞ」
「ちっ、さっさと食って部屋に帰る」
「いや、朝食のあとも午前練習が入るからな?」
「ブラック企業め。休みはないのか」
「土日を待ちなさい」
「ぐぬぬ」
「駄犬は待ても出来ないから困る」
「なんか言ったか三下ぁ!?」
「うるさいぞこの宮坂が!」
「宮坂は悪口じゃねえだろ!?」
さすがの俺も名字を悪口に例えられたことはねえよ!?コイツ悪魔か!?
そんなこんなで朝食、午前練習も終わり、昼休憩が始まった。昼休憩は割りと長く、飯を食っても時間は余る。なので特に意味もなくボーっとしてると一人の女子生徒に話しかけられた。
「あー、宮本くんさ、こっち来てくんない?」
「宮坂だが、何のようだ?」
「いいから!話があるの!こっちに来いって言ってるっしょ?」
「はいはい」
強引な女だ。人気のないところへどんどんつれていかれる。
人気のないところ……?なるほど、これはまさか、噂に聞くあれか?女の子が男を連れて人気のない場所へ話をしに連れていくなんて。
これはまさしく、告は────
「ユウトくんに付きまとうのやめてくれる?マジウザいんですけど」
はい知ってたー。分かってたよーこの流れ。いつもの通り。予定調和。
生まれてこのかた告白なんてされたことありませんけど?なにか?呼び出された回数なら誰にも負ける気しませんけど?
「なんだよ、またそのことか」
「なに?あんたもしかして私たち意外にも同じこと言われてんの?」
「あぁ、何人にもな。ていうか私たちってことは一人だけじゃなく複数人なのか」
「当たり前っしょ。仮にも結城さんに一対一で勝ってたし」
なるほど。そりゃそうか。近くの茂みや物陰から何人もの女子が出てくる。7人か。多いな?
「これだけ数がいればアンタも勝てないっしょ?」
「元から抵抗する気なんて、ねえよ。で、俺はどうすればいい?」
「い、意外と潔いわね……なに?慣れてるの?」
「まあな。アイツと一緒にいたら嫌でもこうなる」
分不相応ってか。
多少イケメンだったり、クラスの中心的人物ならまあ、なんも言われねえんだろうが、俺みたいな日陰者が側にいたら不満も出るもんだ。『なんでお前みたいな奴が光ヶ丘の隣にいるんだ』つって。
「と、とりあえずあんたは黙ってユウトくんから離れてよ!」
「あー、じゃあ代わりにお前がユウトの側にいてやれよ」
「そ、そんなこと出来るわけないじゃない!」
「俺一人分空いた席に座れって。特等席だぞ」
常にやっかいごとに巻き込まれる『特等席』だ。座るのは自由だぜ?座ったが最後、立てれねえけどな。
「俺が付きまとってるわけじゃなくて、アイツが俺に付きまとってるだけなんだけどな」
「それくらい分かるわよ」
「分かってんじゃねえか。じゃあなんで俺に言うんだ」
「アンタぐらいにしか文句言えないから。ユウトくんや結城さんには言えないでしょ?」
「知らねえよ。アンタ『ぐらい』って言うな。傷付くだろう?」
「そんな風には見えないけど」
「傷ついてないからな」
顔をしかめる女子。名前とか覚えてねえけどコイツ。平気な顔で差別してきやがる。まあ、逆上しないだけマシか。
「で、俺が離れようとしたところでアイツはくっついてくるぜ?なんか案があったら乗るけど?」
「なんでアンタはユウトくんから離れるのに乗り気なの…?」
「当たり前だろが!分かるか!?アイツのせいでお前みたいな奴らに突っ掛かられて、いじめをうけて、やっかいごとに巻き込まれるこの気持ちが!あんなイケメンの横にいるという劣等感が!」
「うわぁ……ガチじゃん……」
ドン引きする女子ら。まぁ、お前らに分かったら俺も苦労しねえよ。
「じゃあな。俺は帰るぜ」
「ま、待ちなさいよ!」
「あ?」
「このまま帰すわけにはいかないのよ!」
「まだなんかあんの?」
「ユウトくんにこのこと言われたら困るのよ!」
「んなこた言わねえよ。はよ帰してくれ」
気を使わせたくねえからな。誰にも言ってねえし、言う気もない。
「じゃ、じゃあここで脱ぎなさいよ!」
「いやん!変態!」
「ち、違うわよ!写真を撮るだけだから!それでアンタはユウトくんに言えないでしょ!」
「んなことしなくても言わねえのに……」
「信じられるわけないでしょ!」
「信用皆無か」
だがこんなとこで脱ぐなんて選択肢もないし。どうすっかなー。走って逃げる?
「それとも殺しますか?」
「急に話しかけてくんなイル。静かにしてろ」
「かしこまりました……」
そういや、こいつはいつも近くにいるのか。忘れてたわ。緊急事態にゃ便りになりそうだな。
かと言って殺すわけにもいかんしな……
「おい!お前ら!」
「だ。誰よ!?」
「アタシは佐伯悠里!いじめはダメだ!」
と、突然出てきたのは……えぇと……15話で出オチを決めた佐伯さんじゃないか!
「もう兵士さん呼んだからな!早く逃げないとバレるぞ!」
「ちっ!お、覚えてなさいよ宮本!」
「宮坂だから」
小物臭半端ない逃げ方をする女子に手を振り、佐伯に目を向ける。
「ありがとな、佐伯」
「ふぇっ?あっ!いや!気にするな宮坂!前にアタシのことを助けてくれたろ?」
「ん……?」
「助けてくれたろっ!?」
「そんなことも……あったなぁ?」
「疑問系じゃんか!」
うそうそ。覚えてる覚えてる。あれだろ?アレアレ。知ってるよ。シュンくん知ってる。
「絶対覚えてない顔じゃん!」
「下着盗難事件だろ」
「そうだよ!なんだ、覚えてんじゃんか……びっくりしたぁ」
「それよりどうしてここに?寮や食堂からは離れてるが」
「えっ!?べ、べべべつに良いだろ!?」
「いや、良いけど」
この慌てぶり……もしやコミュ障か?
「あ!アタシ用事思い出したから!じゃあな!」
「あ、おい」
ダダダッと去っていく佐伯。元気なヤツだ。まあ助けてもらったんだ。今度なんかあったら俺も助けてやろう。
俺は午後の練習のため、特訓場へと向かっていくのだった。




