誘拐犯、可哀想。
「この通路を走っていったんだ!」
「ふむ、なるほどな」
ユウトが路地裏を指差して言う。
周りには人影はなく、この辺りで誘拐されるならばまずバレることはないだろう。
「ていうかユウトはなんでこんなところまでトイレに来てたんだ?」
「…迷った……」
「おう予想通りか」
ほんとに迷子になってたとは…我が友ながらに実に残念なやつだ。
「でもなんとなくシュンの居場所が分かったからたどり着けた!」
「そういやそんな能力持ってたな」
『宮坂駿愛好家』とかいう頭の悪い能力だ。どうやら俺の居るところが感覚的に分かるらしい。怖ぇよ。
「ところで、俺の能力をお前に言ったことってあったか?」
「いや、知りたいと思ってたけどシュンは教えてくれなかった」
「むくれるな気持ち悪い。俺の能力は簡単だ。 『見る』能力なんだよ」
「見る? シュンの強さの秘訣はそれなのか?」
「別に強くはないけどな」
俺は意識を集中して目を凝らす。住宅が透けてひとつ向こうの通路、そしてその向こう……と透視をしていく。
「どんなやつだった?」
「と、突然のことだからあんまり覚えてないんだけど…子どもは帽子を被ってて、身長は多分140cmくらいだったと思う。 女の子だったかな?」
「ふむ」
情報の範囲内の子を連れている男を探す。しかし走って逃げていったのであれば此処からはかなり逃げ出したのではないだろうか。
「くそ、どこにもいない…通路には居ない」
この辺り全体の路地裏から公道まで見回して見るが、それらしき姿は見当たらない。ダメだ、もう一度探し直すか?それとももう他の町へ?
「ダメだ、思考が纏まらん」
「あのさ、シュン。誘拐なんだよな?」
「お前がそう言ったんだろ。この街は誘拐が多いらしいし、誘拐だろうな」
「誘拐なら、走って逃げるにしてもそんな遠くに行くかな?」
「どういうことだ?」
「だからさ、子どもは見ず知らずの人に無理やり連れてかれるんだろ。 泣き叫ぶぐらいしてもいいと思わないか? 泣き叫ぶ子どもを連れてどこまでも逃げれるか?」
「……なるほどな」
「だから恐らく…どこかの通路じゃなくて此処から近い家か店、拠点のようなところに連れ込んだんじゃないかな」
「やるじゃないか、ユウト。見直したぞ」
「は、ははは。なんか照れるな」
住宅を透視して見ていたが、そうではなく周辺の家屋を調べていく。
「……ビンゴだ、ユウト。行くぞ」
「良かった!行こう!」
ここから2~300メートルほどの路地裏内の住宅の中に十数人の女子どもが捕らえられている家があった。中には帽子を被った背の小さい女の子がいる。
「ユウトの言った女の子だけじゃなく大勢の子どもが捕らえられている。周りには…武装した男が4人。武装はしてないが棒切れを持っている男が10人。集団の誘拐犯だな」
「くそっ! なんで誘拐なんてするんだっ! 子どもを誘拐するくらいなら俺を誘拐してくれれば…っ!」
「いやそれはないだろ…」
正義感も行きすぎると意味不明だな。
数百メートルの距離、モノの数分で着くことができた。今はその家屋から数メートルの通路の陰から中を見ている。
が、扉の前にも男がいるな。三人いて、その内一人が武装をしている。
「やれるか?」
「たぶん、いける」
ユウトは多分、という割りには自信のある表情で頷く。頼もしい限りだ。正直なところ俺一人帰っても良いなら帰りたいところだが……ユウトが心配だし、見守るだけ見守ってやるか。
「良いか、ユウト。武装していないヤツは恐らく素人だ。なんなく倒せるだろう。だが武装をしているヤツは手練れに見える。隙が少ない。場数を踏んでいる」
「それなら俺も負けてない。ミラン兵長にバッチリ仕込まれた技術があるから!」
ユウトは言い切ると同時に走り出す。片手には既に神の剣、エクスカリバーが握られている。おかげでその速さはエクスカリバー補正によって数倍の速さまで引き上げられた。
「なに……うぐっ!?」
「だ、誰だ!?」
三人のうち、丸腰の一人をユウトが捉える。エクスカリバーの柄で顎をクリーンヒットだ。
そのままもう一人の素人のヤツを切る。切ると言っても体が切れている訳じゃない。ユウトのエクスカリバーは切るか切らないかは自分の意思によって変えることが出来るらしく、今のは鞘をつけた状態で殴ったのと変わりない。偉く万能な剣だこと。
「へへっ!退屈してたところだ。そんな能力見たことないが…おもしれぇ!勝負してやる!」
「後ろの仲間に敵が来たことを告げないのか?」
「おめえをここで、倒しゃ関係ねえじゃねえか!」
武装した男が懐からナイフを取り出してユウトへダッシュする。しかしリーチの差はどうする?ユウトのエクスカリバーの刃渡りは1m以上だ。ナイフなんかじゃ距離は詰められない。
「とか思ってるのか!? あまちゃんよぉ! ここは路地裏だぜ!?」
「なにっ!?」
男が足元にあった石ころを蹴飛ばす。慣れているのかその小石はユウトの顔周辺に向かっていき、ユウトはそちらへ気が向いてしまう。
「へへっ!かかったなぁアホが!くらえっ!」
「ぐっ……!」
ユウトの顔に赤色の線が走る。顔をうっすら切られたようだ。
「ユウト!」
「大丈夫!言っただろ?」
「おい!仲間がいんのか?それはそれとして!敵から目を剃らしていいのかねぇ!?」
「ちゃんと見ていたさ!」
ナイフとエクスカリバーがぶつかり合う。しかしそこはエクスカリバー。ナイフを弾き飛ばし、そのナイフ自体もエクスカリバーが触れていたところから上の部分が吹き飛んでいる。
「っ!?…おいおい銀製のナイフだぞ?どこの剣だ。その長剣」
「神様の特注……さ!」
ナイフが無くなり距離をとった男にユウトは間髪開けず攻め立てる。
「ど、どうせその長剣だけが頼りなんだろ?それぐらい全部避けることも容易い!」
「そうか。じゃあ使うのやめる……よ!」
ユウトがエクスカリバーを捨てる。もちろん男の意識は先ほどナイフを弾き飛ばした剣、エクスカリバーに集中していたため、突然の行為に衝撃を受ける。
つまり、そこに隙ができる。
「ふん……っ!」
「なにっ」
「よいしょ…っ!」
ユウトが思い切り踏み込んで男を背負い投げする。綺麗に隙をついたユウトは男を軽々と持ち上げ、そのまま空に投げつける。男は受け身を取ろうとするが、ユウトの素早い投げ技によって地面に叩き付けられた。
「ぐぅっはっ!?」
「オス!」
男は衝撃に耐えきれず気を失ったようだ。
「やるな、ユウト」
「シュン、背負い投げを柔道の授業でやってて良かったな!」
「いや、そこまで上手く使えるのはお前の才能あってのことだからな。」
あとはこの家屋の中にいる武装した男どもを蹂躙するだけなのだが……正直、子どもたちを無傷で全員助けることは、俺とユウトでは難しい。
「ということで、出てこいイル」
…………しかし、駄メイドは、現れなかった。
「まあ、そう簡単に来ないよな。シュン、俺たち二人でなんとかしよう」
「いや、アイツは来る。ていうか俺が来いと言ったら来い、駄メイド」
「はいっ!!」
「ほらな?」
俺がもう一度呼ぶと駄メイドがひょっこりと現れる。ワープゲートみたいなところから。相変わらずスゴいヤツだよ。
「ゾーイは?」
「無事届けて参りました」
「誉めて使わす」
「むしろ貶してくださいっ!」
「少しは取り繕えマゾ」
「ありがとうございます!」
「あの、もう少し静かに……」
「俺は悪くないぞユウト。全てはこのニューロンが3個くらいしか存在しない脳ミソスカスカの変態が悪い」
「ありがとうございます!」
「もうやだコイツ」
ユウトは苦笑いをして、俺が変態を殴り、変態は笑顔になる。なんだこの不整循環。
「なあイル、お前なら防壁みたいなの作れるよな?」
「作れないと言ったら嘘になります!」
「ややこしく言うな。出来るんだな?」
「出来ますね」
「よし、じゃあユウト、やれ」
「え?」
今のうちにどれくらい力が出せるか見ておこう。
ユウトは家屋の前に立つ。そして俺がイルに座標を何となく言って集められた子供たちを魔法壁で囲ませる。周りにも被害がでないように魔法壁を張る。
「よし、ユウト。いけるな?」
「うん、いけるけど……ほんとに大丈夫?かなりの威力になるから子どもたちや周りへの被害だって……」
「大丈夫だから、その辺はなんとかしてる」
「じゃ、じゃあ行くぞ?」
「おう、やったれ」
ユウトが目を閉じ、エクスカリバーを真上に掲げる。剣は剣先から光を纏っていき、最後にはユウトの体まで光る。眩しい。
「くそぅ、日陰者の俺への当て付けか。ゴミが。塵が。イケメンは死ね」
「このタイミングで!?し、集中してるんだからやめてくれよ……」
ユウトの光が一瞬消えかかるが、すぐに元通りになって更に光輝く。そして、一気に収束する。エクスカリバーが黄金に輝く。
「…………はあぁぁぁぁっ!!」
そのまま一振り、家屋を一刀両断する。とてつもない衝撃が跳ね返ってくる。それくらい強い衝撃だ。ぐらぐらと地面が揺れ、大地が抉れる。イルが守ってくれているおかげで傷は無いが、跡は残るよな……
「さ、流石は異世界人ですね……もう三枚も削られました」
「え、なに?魔法壁そんなに壊れたの?ていうか何枚重ねてるの?」
「一応、念のため5枚張ってましたが……追加しときますね。いやはや、流石はユウト様です。この威力、驚きですね」
「まあ、俺には出来そうにないな」
「そこは適材適所ですから」
ユウトのエクスカリバーから溢れ出る衝撃と光は以前止むことはない。まあ、正直、オーバーキルも良いところだ。誘拐犯死んでないだろうな?
と、やっとのことで光が収まっていく。ユウトが疲れきったようにフラフラと膝をつく。家屋は半壊どころか全壊。犯人たちは全員倒れていて、魔法壁に囲まれた子どもたちは皆気絶している。
「やり過ぎた……かな?」
「やり過ぎだな。ま、子どもは無事だし、周りの家屋も被害はないから大丈夫だろ」
「あとでご褒美をくださいねご主人様」
「黙ってろ」
「やりましたっ」
「何か言ったかシュン?」
「あぁ、いや。何もない。それよりも子どもたちをどうするかだけど、この街の自警団が動くだろ」
先の衝撃も、魔法壁では防ぎきれなかったようで、音とかも合わさってそろそろ自警団の人たちが来る。俺たちはささっと帰りましょう。
「じゃ、帰るか」
「うん、そうだな」
「かしこまりました」
俺たちはワープゲートを使い、その場を後にしたのだった。
ユウトさん……恐ろしい子…っ!!




