奴隷オークション
「「「「ウォォオオオオオオオッ!!」」」」
会場は異常なほどの熱気に包まれている。各々が思い思いの歓声を上げ、体が震えるような錯覚を覚える。まるで何かに憑かれたような狂気だな。
「よォしお前ら!準備はいいなっ!?始めるぞ!」
「「「「ウオオォォォォッ!」」」」
「「「ピューッ!ピューッ!」」」
「「「「「シャオラアァッ!」」」」」
まるで打ち合わせでもして揃えたかのような掛け声だな。これじゃあれだ。狂気っつーか狂喜だ、狂喜乱舞だ。むしろ距離を置きたいくらいだ。
「まずは人魚族のローラだァ!!出てこいッ!」
アッシモが呼ぶとステージに二人の男と水槽が現れる。水槽の中にはほぼ裸同然の女性が入っていて、ここからでも分かるほどにグッタリとしているのが分かる。
「「「「ウォォオオオオオオオッッ!!!」」」」
会場が更なる熱気に包まれる。周りの男女が手を挙げて値段を上げていく。その度に水槽の中の人魚族は顔色を青くしていく。
「人魚族…亜人だな」
「ご主人様の世界にも人魚がいたのですか?」
「いんや、空想上存在するとは言われてたけど、実際には居ないな」
「ジュゴンの見間違いとか言われてたよな」
「だっただった」
「人魚なら瀬○の花嫁とか大好きだったよ、俺」
「そういやユウトってアニメ見るタイプだったな」
「うん、というかシュンだってハ○テの如くとか見てたろ?」
「あれは良アニメ」
いやぁ日本が恋しいもんだ。今じゃあどっちが本当の世界なのか分からないしな。ほんとに日本なんて世界が実際にあったのだろうか。
「むぅ……」
「なんだよ、イル」
「私の分からない話題で盛り上がらないで下さい!」
「めんどくさっ」
「そんなこと言わないでください……」
「…すまん」
「興奮するじゃないですかっ!」
「だと思ったよクソ駄メイドがッ!」
コイツいっつもこうだよ!困ったら興奮するやべーやつなんだよ!どうせ今コイツのステータス見たら変態とか出てくるよ。
「───落札!1021番に落札されたァ!後で控え室に行って受け取れェ!」
「やったっ!やったぞ!ワシが手に入れたんじゃっ!やったぞ!うひゃひゃっ!」
「「「チィッ!」」」
と、人魚が落札されたみたいだ。水槽がステージから降りていく。先の人魚はまるで絶望に満ちたような顔をしている。まあ、そりゃあそうだろうな。
「なんだかやるせない気持ちになるな」
「何がですか?」
「いや、あの人魚さんも不憫だなと思ってな」
「そうでしょうか?」
「いや、そうだろう。あんな───」
ふと……ふとイルを見た。その声に何らかの違和感を感じたから。ただ、その違和感は確信に変わった。イルの顔は凍てつくような顔だった。感情はなんら伺えない。ただ、その眼に宿っているモノは決して、良いものじゃないだろう。
「亜人の奴隷と言うのは基本的に殺されませんから、下手なことをせず従えば死ぬことはありません」
「………そういうことじゃあ、ないだろう」
「そういうこと、ですか?」
「もし仮にお前に好きな人がいるとするだろ?」
「ご主人様ですね」
「……でだ、だけどその人と結ばれる前に奴隷にされれば、名前も知らないようなヤツに好き勝手されて、乱暴されるんだぞ?」
「ちょっと照れましたね」
「茶化すな」
今は真面目な話してるんだから、茶化すんじゃない。
「嫌だろう?好きな人でもないのに乱暴されるなんて」
「そうですね、ですが、仕方ないですから」
「仕方ない……か」
まあ『何か』あったんだろう。でも別に、今聞くことじゃないし、どうでもいいや。
「少なくとも、だ。あまり言いたくないが……」
「はい?」
「俺は……だな。その…なんていうか……」
「あの、言いたくないことでしたら、言わなくても構いませんが……」
「いや。まあ、なんだ。お前が好きでもない、変なヤツに襲われたりするのは…許さないからな」
「ご主人様……っ!?」
「う、うぐぐ……やっぱ忘れろ!なんでもない!」
「ご主人様がデレました!!私の勝ちです!」
「おい勝ちってなんだ、なんの勝負をしてたんだよ俺たちは」
「あぁぁっ!私は今幸せです!幸せの真骨頂です!」
「なんだそれ……」
ったく、喜びすぎだ。こっちが恥ずかしくなってくるだろ。
「そういやユウトはどこいったんだ?」
「あぁ、ユウト様ならこの話をする前にトイレに行きましたよ。察したのですね」
「要らん気を回しやがって…ゾーイは?」
「ご主人様の足元に居られますよ」
「え?……おわっ、びっくりした。なんでこんなとこで寝てんだ」
俺の足にしがみついて寝ているゾーイ。ズボンはヨダレにまみれている。くそぅ、洗うのめんどくせえじゃねえか。イルが洗ってくれるけど。
「──次の奴隷だっ!出てこい!」
おっと、また次の奴隷か。沢山居るんだな。こんなに奴隷がいるなんてどっから調達してんのか。
「奴隷ってのはどこで見つかるもんなんだ?」
「基本的には犯罪を犯した者が奴隷に堕とされますね」
「基本的には?それ以外にもあるのか?」
「……正直、外法ですが…誘拐とかがありますね。足が着かないように遠くの集落なだから誘拐されます」
「ムカッ腹が立つな」
「そうですね」
イルは他人事のように、けれど某かの感情が籠っていた。俺は見てないフリをする。
「ていうかユウト、遅くないか?」
「そうですね、もう数十分経っていますが」
「迷子か?いやあの歳で迷子はないな」
ゾーイは寝てるし、ユウトは帰ってこないし、イルはなんか怖いし、胸くそ悪いし……うん、帰ろう。
「帰ろ」
「えっ、ユウト様が居ませんが」
「帰ろ」
「問答無用ですね……」
「アイツなら適当に女捕まえて戻ってくるさ」
「ご主人様…発想が怖いですよ」
「俺はユウトが怖い」
あの顔であの性格。そしてあの器用さ。なんでもできるユウトさんである。
「チィッ!ムカつく!帰るぞ!」
「……はっ……です」
「あ、ゾーイちゃんが起きた」
「帰るぞ!アイツが来る前にっ!!」
「シューンッッ!!」
「あ"ぁっ!?」
遠くからユウトが走ってくる。かなり急いで。
「んだよ、血相変えて」
「シュン!誘拐だ!さっきあそかの路地裏で女の子がっ!」
「あ?…………イル」
「はい、かしこまりました。ゾーイちゃんを返したあとに戻ってきます」
「おう、いくぞユウト」
「あ、あぁ!こっちだ!」
俺はユウトの指差した方向へと走っていく。
「ユウト、目の前で誘拐されたならなぜ追わなかった?」
「追おうとしたけど路地裏は入り組んでいてすぐに見失う!だからシュンに頼んで二人や三人くらいで手分けした方が良いと思った!」
「なるほどな」
昔とは違うな。無鉄砲に突き進むだけじゃない。ちゃんと考えて行動している。イルが言っていたがユウトは柏木先生を捕まえにいくとき、誰にも言わず一人で行動していたらしい。無自覚だとは思うが、過信していたんだろうな。成長ってやつかね。
「どうしたんだ?シュン?」
「いいや、なんでもない」
ま、とりあえず助けにいきますか。
一週間ちょい振りでさぁ!
良ければブクマ、評価、感想お願いします。してくれている方はありがたいのでお線香上げて祈ります。南無阿弥陀仏。
チーン。




