俺とゾーイとその他もろもろ
高木ストーカー事件から数日後、特に目立ったこともなくいつも通りに時間は過ぎていった。高木は手を引いたのか結城さんのストーキングも今のところは収まっているようだ。
そんなある日。
「なぁシュン」
「なんだよ」
「俺に隠してることはないか?」
「ねえよ」
「本当か?じゃあ俺に秘密にしていることはないか?」
「そうだ、別に秘密にしている訳じゃないが、言うことがあったんだわ」
「何でもいってくれっ!」
「そうか。じゃああと数日で町一つ壊しにいこうな」
「うん………えっ?」
俺の部屋で、俺とユウトがベッドの上に座っている。そして隣で立っているのがイル。うちの魔族メイドである。
今日はセルウスの町の見学に、また行こうということでユウトに詳しい話をすることになった。説明をしている間、ユウトは何一つ喋ることなく、相づちを打っていた。
「ま、こんな感じだ。ユウトがこの作戦の中でも重要になっている。頼んだぞ」
「分かった。シュンのためなら何でもやるよ」
「ありがてぇ」
「ご主人様とユウト様の友情、一見微笑ましいですが、よく考えたら怖いです」
なにを言う。ユウトが俺の言うことを聞くのは当たり前。この世が始まる前から決まっているようなことなのだ。
「ユウト、お前ってまだセルウスの町行ったことなかったよな?」
「あぁ、うん。もしかして連れていってくれるのか!?」
「おう。下見ぐらいしとかなきゃ動けないだろ?」
「シュンとデートだっ!」
「は?」
「ご主人様っ!私というものがありながらっ!」
「縫うぞ。口を」
相変わらずうるさいやつらだ。必要なことをするだけで、ここまで言われてしまうのか。
まぁということで、俺とユウトはイルと共にセルウスの町付近へと降り立った。ちなみにセルウスの町に入るための身元保証は王国の姫様、マナに貰ったカードを渡せば良い。
「と、悪い。とある獣人を連れてくるから待っててくれ」
「ん?俺もついていくぞ、シュン」
「いや、あまり人慣れしていないヤツでな。まずは俺が話をする」
「分かった」
「イルはユウトを守っておいてくれ」
「かしこまりました」
ーーーーーーーーーー
数十分後、俺の影の後ろでズボンを掴んでいるゾーイがユウトと対面を果たした。
「はい、こいつが獣人のゾーイ。怖がりだからあまり刺激しないように」
「こんにちは……です」
「ゾーイちゃんか。よろしくね」
「よろしく…です」
ちなみにユウトは日本にいた頃、ボランティアとして近くの児童館などに通っていた。ユウトはそこでも男女限らず人気者で子供に囲まれていて、俺はそこの従業員さんたちとこの世の不条理について語っていた。
なのでゾーイもすぐに心を許すだろう。むしろ俺よりも仲良くなれば良い。そうすれば俺は苦労することもないからな。
「この子がゾーイちゃんですか、中々可愛らしい子ですね」
イルがひょいっとゾーイを抱き抱える。
「おいばか、怯えて……ないな」
「お姉ちゃん…人間…です?」
「……ええ、人族ですよ。その人族の中のでも上級人族で人王の幹部でもあるのです、えっへん」
「おい、魔族の魔を人に変換しただけじゃねえか。隠すなら上手に隠せ。誰だよ人王って」
「イルさんが魔族…?」
「はいこの会話終了します!すいませんでした!ですからご主人様そんな目で見ないでください!」
こいつ、危うくバレるとこだったじゃねえか。いやまあ別にいんだけどさ。ユウトはそんな誰かにいったりどうにかするようなやつじゃないから。
「上級人族…すごい…です」
「あのなゾーイ、この残念なお姉ちゃんはすぐに調子に乗るから下手なことは言わない方がいいぞ?」
「ご主人様にお姉ちゃんと言われました…ゾクゾクッ」
「ふんっ」
「痛いですぅっ!」
要らんことしか言わんなこいつは。おでこに軽くデコピンをいれてやる。
「あ……お姉ちゃん…痛い…です?」
「…すまんゾーイ。あんまり見たいもんじゃなかったよな。悪いイル」
「え?いえ、私はむしろ気持ちいいのですが…」
「もうダメだこいつ」
「あはは、イルさんもシュンもいつも通りだな」
ゾーイは目の前で暴力というものを見るのは苦手らしい。奴隷だった頃に友達がたくさん殴られたり蹴られたりしたからだと言っていた。いかん、忘れていた。ゾーイが奴隷だったこと、俺のメイドが変態だったこと。
「まあまあ、こんなところじゃあれだし、町に入ろうよ」
「あぁ、そうだな」
「ゾーイちゃん、行きますよ」
「はい…です」
俺とイルの間にゾーイが手を繋いで歩き、俺の隣のゾーイと反対側にユウトが歩いている。横に四人並んでいる状態だな。
「食べ歩きでもしますか」
「お前が決めるな駄メイド」
「ぶー」
「ぶーじゃないが」
「ははっ、良いじゃないかシュン。ゾーイちゃんも何か食べたいのがあるんじゃないのか?」
「…お姉ちゃん…」
「はい?」
「ゴニョゴニョ…です」
「ゾーイちゃんは焼き鳥と呼ばれるものが食べたいそうです」
「めんどくさコイツら」
わざわざ耳打ちでイルを通して会話するユウトとゾーイ。しかし焼き鳥か。前のとこのやつかね。
「あれならもうちょい向こうだな。広場みたいなとこの通りだったろ」
「…です」
「もうお二人でこの街を歩いたのですか?」
「あぁ、言わなかったか?」
「私というものがありながら女の子とデートですかっ!?」
「相手は幼女だぞ」
「もーっ!イルは怒りましたっ!ぷんぷん!ぷいっ!」
「可愛くねんだよ」
「イルさん……良い…」
「うそだろおまえ」
騒がしい二人に囲まれて歩いていると普通以上に疲れてしまうな。帰らせるか?
「そういえばシュン、ここはなんだか獣人というか、亜人?というのか、それが多い気がする」
「あぁ、その通りだ。イル」
「はい、この街、セルウスは奴隷商売をしている町であり、それによりとても盛んな町となっております」
「奴隷……?この世界には奴隷がいるのか?」
「ヘドが出そうだろ」
「シュンが嫌いそうだ」
通りを歩く首輪のついた獣人や四つん這いになって歩いている亜人を見ていると虫酸が走る。我が物顔で歩いている主を見ると尚更な。
そんなこんなで広場につき、前の時のお兄さんがいたので焼き鳥をもらう。
「おっ、兄ちゃん!久しぶりだね!」
「あぁ、覚えてたのか?」
「当たり前よ!ここだけの話、あんまり客とは話さねぇからよ。兄ちゃんぐらいなもんだ、話したのは」
「俺とも話す必要はないがな」
「へっ!そんなこと言うなって!それより知ってるか?今日はこれから広場でアレをやるらしいってよ!」
「アレ?見せもんかなにかか?」
「見たらわかるさっ!あいよ!焼き鳥4本お上がりぃっ!」
「まあ暇だったら行ってみるよ、ありがとう」
「へいっ!また来てやっ!」
出来立ての焼き鳥が良い香りを漂わせている。ふむ、この街に攻撃すればあのお兄さんにも被害が出ちまうのか。それはなんというか……ま、いいか。所詮客と店主っていう関係だしな。
待たせていた三人のところへ行き、焼き鳥を渡す。通りの脇にあるベンチに座っていたので、俺も腰を落ち着かせる。
「悪いなシュン」
「いや、気にすんな。ほらゾーイ。美味しいぞ」
「パクパクパクパク……です」
「ゾーイちゃん、語尾を徹底してますね…これは私もキャラ付けをしなければなりませんねっ!」
「そんな、イルさんはかなり濃いキャラしてると思いますけどね」
「ほんとだよ」
「そんなことないっちゃよ。ねっ、ダーリン」
「誰がダーリンだよ。古いんだよ」
『う○星やつら』を知っているというのか、この異世界人は。
「そういや広場でなんかあるみたいだぞ」
「良いですね、行きますか」
「この世界ではどんな見世物があるのか楽しみだ」
「パクパク…美味しい…です」
「ゆっくり食べろよ」
「もう食べ終わった…です」
ゾーイは串を綺麗に舐めとると、なにも刺さっていない串をただ見つめている。
「………俺のもいるか?」
「いいの…です?」
「あーっご主人様!ずるいですよ!なんでゾーイちゃんだけなんですか!」
「えぇいうるさいっ!駄メイドがっ!黙って突っ立ってろ!」
「シュン!俺も欲しいぞ!」
「お前もややこしくするなっ!ほれ!ゾーイ!」
「ん……ありがとう……です」
「あーもう許しませんからね!私にも何かくれるまで許しませんからねっ!」
「何を張り合っとるんだお前は…」
「パクパクパクパク……です」
もうこいつらは絶対に連れてこない。うるさすぎて三半規管がどうにかなりそうだ。
しばらくして広場へと向かった。案の定、人がたくさん居座っており、これから始まるであろう何かに対して期待の表情をしている。
「いったいなにが──」
「いよォォォしッ!!お前らァァ!準備は良いかァァッ!?」
途端に大きい声が広場に響く。民衆のどよめきが静まっていき視線は広場の中心にいる人物に定まっていく。
「さァさァさァさァお立ち会いッ!この街の大イベント!セルウス主催!奴隷オークションを始めるぞォォォッ!!」
「「「「「ウオオオオオオオォォォォォォォッ!!!!」」」」」
『奴隷オークション』というイベントの開催宣言が始まり、民衆はもれなく声をあげる。開催宣言をした男は俺の知る限り最も奴隷に通じている男。
「アッシモ……か」
「びくっ…」
「今回の捕縛対象ですか」
「あれがアッシモ…かなりゴツいな」
広場でこれから始まるのは、俺が嫌いな奴隷という単語を全面に押し出したオークション。その開催をアッシモは声高らかと、叫ぶのだった。




