高木よ、永遠に。
「ま、マンモーニ!?」
「そうだ、てめぇは一人じゃあ何もできねぇ甘えん坊さんなんだよ」
「い、意味はわからないけどバカにしてることは分かるぞ!そうやって女神ちゃんを洗脳したんだなっ!?」
「どうやってだよ。洗脳できるような語彙力持ってたら苦労してねーよ人生」
俺は結城さんを背に高木に向かう。叫んでいるがイルが結界を張っているので周りに声も被害もない。
後ろの結城さんは何故かクスクス笑っている。さっきまで泣いてた癖にこいつ。さてはうそ泣きか。
「シュンくんいつも冷静すぎて笑っちゃうよ…えへへ」
「あぁ、いつも通りだからな。ユウトと一緒にいたらこういうタイプの相手には慣れるもんだ。それに女の方が質が悪い分、こっちのが楽だ」
「そうなの?まぁ確かに、ユウトくんってかっこいいもんね」
「おう。あ、もしかして狙ってるのか?ならやめといた方が良いぞ。アイツ、ホモだから」
「えっ」
「だから僕を無視するなぁっ!」
高木が激昂して叫ぶ。こいつほんと、こんな声だして結界張ってなかったら兵士呼ばれて捕まって終わりだぞ。と、思ったので言ってみる。
「て、俺は思うわけよ。お前の後先の考えなさに笑いを堪えられない訳ですよ、バーカバーカ」
「うるさいうるさいうるさぁーいっっ!!」
「シュンくん、煽っちゃダメだよっ!めっ!」
「ほんと、めっ!とかリアルで言うやつお前くらいだと思うわ…」
この容姿だから成り立つわけで、もうちょっと可愛くなかったら叩かれて蹴られて大団円だ。羨ましいよ、ユウトも結城さんも。
「あぁもうっ!邪魔するなぁぁっ!!」
高木が手を地面につけると、その付近からボコボコと鉄のようなもので出来た衛兵が出来上がった。
「ブリキの兵士か。お似合いだな」
「いけぇぇっ!僕の女神ちゃんを取り戻せ!」
「はいはいワロスワロス」
「めっ!」
「すまんかった」
煽ると後ろから結城さんに咎められる。しかしまぁ、なんというかあの兵士たち、この狭い中で5~6人も作り出してまぁ、何してんだか。ちなみにそれぞれが剣や斧を持っている。
「や、やめて高木くん!ダメだよこんなことしちゃあっ!」
「待っててね僕の女神ちゃん…すぐ取り返すからっ!」
「なんで…っ」
「やめとけ結城さん。こういう輩は得てしてそんなもんだ」
あくまでアイツの中では『結城さんのため』となっているのだ。だから、自分が悪いはずがない。警察だって自分じゃなく相手を逮捕するはずだ。だって、人のためなんだから。
「どれだけ人のことを思っても、一方通行じゃダメだ。相手が自分を思い、自分が相手を思っているからこそ、初めて言葉は通じるからな」
「つまりご主人様は私を想っていた?」
「黙ってろ駄メイド。さっきまで空気だっただろうが」
急に話しかけてくる気配を消した駄メイドがいるが、問題ない。後でぶん殴っとけば解決である。
「とかいって本当に殴ることないご主人様萌え」
「ほんま殺すぞ」
「シュンくん?さっきから殺意漏れてるけど…目の前の兵士に向けてじゃないよね?」
「あぁ、すまない。この広大な宇宙のチリの一つよりも価値のないゴミカスと交信していた」
「言葉が殺意を纏ったけどっ!?」
「結城さん後ろ下がっといて」
「あっ、うん」
待て、話が一つも進んでないぞ。閑話休題。
「いけぇっ!」
「待たせてごめんな高木っ!」
「うるさいっ!」
多分こいつ良いヤツや。だって兵士も止まってたもんね。
兵士達が距離を詰めてくる。が、俺に触れられることはない。兵士達に意思はない。多分、俺を倒すという命令だけが与えられているため、一直線に向かってくる。
「つまり、こうなる」
「なにっ!?」
集まってくる兵士たちを掻い潜るように抜けると、ごちゃごちゃと集まった兵士が互いに攻撃し合ってしまう。
「単純な命令しか出来ないんだろうな、雑魚め」
「くっそおっ!来るなぁっ!」
部屋から出ていこうと逃げていく高木。ここで逃がしたら面倒だな。
「イル」
「分かっております」
高木が逃げ出そうと扉に手をかけた瞬間に、イルが突然現れる。
「なっ、誰っ」
「申し訳ありません」
イルがニコッと笑うと、腹パン一発ぶちこんだ。
「うぐっ…へぇ…っ?」
「はい、ご主人様。ご褒美ください」
「お前…そんな笑顔で容赦ないのな…」
「はい?」
「イル…さん?いつの間にここに?」
「ご主人様がここからが面白いと言って、私の後ろに隠れていました」
「シュン…くん?」
「逃げるしかねぇっ!」
俺は立場が悪くなりそうだったので、高木を連れて部屋から逃げる。外はもうすでに白けてきている。うん、俺の睡眠時間は無しか。
「このチビめ」
ペシペシと引き摺ってきた高木の頭を叩くと、透視で中に誰もいない部屋を探して高木をぶちこむ。この時間に部屋にいないってのはあり得ないから、この部屋が高木の部屋ということになる。いちいち他人の部屋の場所とか覚えてないから。
「ご主人様ー、待ってくださぁーい!」
「うるさいぞ」
「大丈夫ですっ!私の回りに結界張ってますから!」
「じゃあなんで俺には聞こえるんだ」
「そうなるようにしましたっ!」
「こいつ、さては天才だな?」
と、下らないことを言い合いながら、俺は部屋へと戻った。そしてベッドへダイビング。そのまま睡眠をとるために瞳を閉じて…
「ご主人様、もう朝ですよ」
「くそが」
「良いではありませんか。ご主人様によって一人のか弱き乙女が救われたのですよ」
「妖精使って魔法ぶっぱする乙女が居てたまるか」
ん、待てよ?アイツ、じゃあなんで妖精魔法使わなかったんだ?
「どうしてだ?」
「恐らくですが、妖精さんの睡眠時間だったのでは?」
「は?」
「結城様はお優しそうですからね。妖精魔法は信用で繋がっているようなものです。なので、睡眠中の妖精を起こすのは申し訳なかったのでしょう」
「おいおい、犯されるところだったんだぞ」
「犯されるとかそういうハレンチなこと言っちゃいけません!」
「誰だよ」
「イルです」
「知っとる」
短い夜の間に、一人の乙女を救い、一人の迷えるストーカーを打ち倒した、そんなよくある日を終えた。
そしてドアが開く。
「シュン!おはよう!」
「寝させろ…」
元気にドアを開くユウトを恨めしく思いながら、また一日が始まるのだった。
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