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僕の女神

 緊迫した状況、一つ間違えれば高木が何をするか分からない、そんな時、シュンはこう思ったッ!!


(帰りてぇ)

(ご主人様…ぶれませんね)

(ていうかごめん、俺が高木を転がしたせいで魔力探知機に引っ掛かっちまった)

(ご主人様ぁっ)


 足だけでも反応するとか高性能だな。別に魔力が特別高いわけじゃないんだけどな俺。


「ね、ねぇ……女神ちゃんはぼ、僕のことが好きなんだよね?」

「えっ?……う、うーん?」


 しかもあっちはあっちで集中しすぎて気付いてないっぽいな。


(どのタイミングで出ればいい?)

(そうですね…あまり騒ぎにするのもあれですから、ここぞという時に止めたいところですね)

(ふむ)


 今のところ、近くの部屋からも物音はせず、静かなままで誰一人起きている様子は伺えない。


「僕のこと、好きなんだよね?」

「き、嫌いじゃないけど…ほ、ほらっ、私たちってそんなに付き合いないから、あんまり高木くんのことは知らないなーって!あはは」

「大丈夫だよ、()()()()()()()()

「えっ」

「知ってるよ、どんなことでも。僕はずぅっと女神ちゃんのことを見てきたんだから…今さっきも、こんな深夜まで魔法の練習してたんだよね」

「み、見てたんだ……」


 凄い、何が凄いって自分の言ってることがとてつもなく例外無くキモい言葉ということを理解していないことが凄い。凄くキモい。略してスモい。


「起床時間はきっかり5時30分で、寝る時間は勉強時間にもよるけど大体10時から11時。家は○○市の○○区の3○-5で、電話番号も知ってるよ。中学校は○○中で小学校は○○小学校だよね、それに──」


 高木から流れ出る言葉は、普通調べても出てくることない番号や名義、それに以前までの友人関係など、事細かに一つ一つ言い当てていくのだった。

 しかしなるほど、ストーカーとはかくも恐ろしきものか。結城さんの表情は先よりも明らかに強ばって来ている。ここまでとは思ってもみなかったようだ。


「た、高木くん……?ちょっと落ち着いて…」

「あ、あぁごめん結城さん。やっぱり証拠が欲しいよね」

「証拠…?」

「ほら、僕の能力は『創造』と言ってね。この世界にあるものを創れたりするんだ。元の世界のものは創れないから、ケータイとかはないんだけどね。あはは」

「そ、そうなんだ」


 高木はどこからか取り出した袋のような物から水晶のようなものを取り出す。


(あれは…なにかの結晶か?)

(射影結晶ですね。そちらでいう写真というものに近いと仰っていました)

(あれか)


 高木はおもむろにそれに魔力を込めると、結晶の中の映像が写し出される。


「えっ…これ……え?」

「はい、僕はずぅっと、()()()()()()


(ここからは見えないんだが、何が写ってる?)

(魔神の眼ならば集中すれば見えるかと)

(ほんまや)


 意識をして覗き見る。と、写し出された映像は、結城美郷の着替えている画像だった。


「いや…っ…これっ……なんでっ」

「嬉しい?僕に見られて嬉しいよねっ?」

「何言って……ひっ……るの…?」


 あ、泣き出しちまった。いやでも、これはやばいな。


「なんで泣いてるの?何か嫌だった?僕に教えてよ」

「い、いやっ……だ、大丈……夫っ…」


 結城さんは涙をこらえて、我慢をしている。


(結城様、高木というお方を刺激しないようにしているようですね。高木様もクラスメイトですから、大事にしないようにしているのでしょう)

(聖人かなにかか、アイツは。まるでユウトみたいなヤツだな。あと、高木に様をつける必要はない)

(かしこまりました)


 しかしこの状況、本当にどうすればいいか分からないな。ここですぐ出るべきか?高木の気をそらすことができたらなんとか出来そうなんだが…


(一か八か、試してみるか)

(何をするつもりです?)

(俺が出てみて結城さんに気をそらすように指示してみる。幸い、高木は魔力探知機には一つも目をやってないしな)

(しかし結城様もご主人様に気付いたら驚くか声をあげるかするのではないでしょうか?)

(結城さんが最初に目を覚ましたとき、目の前に高木がいても驚かなかったろ?ならやってみる価値はあるさ)


 この極限の状況、ただでさえ危ないのに、結城さんも精神的に辛いはず。そろそろどうにかしなければ、どうなるかわからない。そしてなによりも。


(俺は帰って寝たいっ)

(素直なご主人様も好きです)


 俺は高木の後ろに、そして高木と対面している結城さんからは正面になるところへ出た。結城さんの表情が驚きに染まる。


「僕はねぇ…女神ちゃんのこと、入学したときから見てたんだよ……?」

「……っ!」


 気付いたようだ。結城さんの表情が驚きから涙目に変わっていく。俺は手足や顔でジェスチャーを送り、結城さんへ指示を出す。


(高木の、気を、引いてくれ)


 これで伝われっ、俺の思いっ!



ーーーーー


《結城美郷視点》


 ど、どうすればいいのかなっ!?目が覚めたら目の前に高木くんがいて、私のこと、ストーキング?みたいなことしてるみたい…


 いやでも多分、そんな悪いことする人じゃないよね?だから安心して───


「証拠見せるねっ」


 駄目だ…高木くんはストーカーだ。今まで何度か同じようなことに会ってきたけど……ここまで実害があるのは初めてだよぉ…


「ひぐっ…ぐすっ……うぇぇ……」

「どうしたの?何かあったの?」


 あぁ駄目だ私…やっぱり涙が出ちゃう…弱いなぁ私って。もっと上手くやらなくちゃあ、シュンくんには追い付けないよ……




 って駄目だ!私!こんなことで挫けちゃ駄目だ!だから追い付けないんだ!シュンくんにも、ユウトくんにも!高木くんがこれで捕まっちゃったりしたら可哀想だし、私もこんなところで挫けられない!


「なんで泣いてるの?何か嫌だった?僕に教えてよ」

「い、いやっ……だ、大丈……夫っ…」


 こらえるんだっ!ここで私が騒いだらみんなに迷惑かけちゃうから、だから私が声を上げたら……ダメっ!




「……え?」



 あれ、気のせいかな?シュンくんが…見えるよ?あはは、私、辛すぎて幻覚見ちゃってるのかな?こんな時にまでシュンくんが出てくるなんて、やっぱり私…って、シュンくん、何か言ってる?ジェスチャーかな?


(ここは、俺に、任せてくれ……?)


 えっ、本当なのかな!?私、任せてもいいのっ!?幻覚じゃなかったの!?なんでシュンくんいるの!?


「し、シュンくんっ!!」



ーーーーー


《宮坂シュン視点》



「し、シュンくんっ!!」


 えええええええええええっ。


 伝わんなかった?あっそう、伝わんなかったか。うん仕方ないよね仕方ない。難しいもんね。でもなんて間違えたんだ?俺の方を見て、泣きながら名前を呼ぶって。あっ、泣いてるのは怖かったからか。


「なにっ?……宮本?女神ちゃんの部屋まで入ってきて何のようだっ」

「お前が言うのかそれ。あと俺の名前は宮坂な。まぁ覚えなくていいけど」

「シュンくっ…ひっく…うぅ…」

「あ?今俺のこと呼び捨てにしたか?」

「ええっいや泣いてたからなんだけど…ってそんな状況じゃないよっ!?」

「おいおい、思ったより元気じゃねえか。こちとら心配して見てたってのに」

「見てたの!?なら助けてよっ!」

「面白かった」

「最低だよっ!?」


 あれ、ほんとに意外と元気だな。まるで俺が来たことで全部解決したように思ってるみたいに。


「ぼ、僕の女神ちゃんに何のようなんだよ!」

「それより、結城さんはこの高木とか言うチビのこと好きなのか?」

「えっっ」


 急に顔を赤くして返答に困ったような表情をする結城さん。


「し、シュンくんの前で言い難いなぁ……

あはは」

「そうか、ならいい」

「もう少し興味を持ってくれないかなっ!?」

「僕を無視するなぁっ!」


 ちっ、俺が折角楽しく会話していたというのに、横から入ってきやがって。仕方ない、相手してやるか。


「女神ちゃんは僕のことがす、好きなんだぞ!お、お前なんかに渡すもんか!」

「はー、ふーん、へー。で、女神ちゃんって誰?」

「女神ちゃんは女神ちゃんだ!僕の女神ちゃんなんだ!」

「名前は?」

「だから女神ちゃんは女神ちゃんなんだ!」

「お前…名前知らねえんだろ?」

「……そんなこと」

「よし、お前が目をそらしてるみたいだから教えてやろう」


 俺は息を一つ吸い、はっきりと大きな声で喋る。


「女神ちゃんと呼んでいるのはつまりお前が上っ面しか見ていないということだ。人間は女神なんぞという高等な者になれるほど綺麗じゃねえ。それをまるですがるようにペラペラペラペラご託を並べやがって。女神は女神なんだ?結城さんは結城さんなんだよ。結城美郷、フルネームくらい覚えられるだろ。名前も知らず女神だなんだのと下らないこと言っていることが表面しか見ていない現れなんだよ」

「……だからなんだっ!僕のことが好きなはずなんだ!僕がこんなにも好きなんだから女神ちゃんも僕のことが好きなんだよ!」

「イル、声が漏れないようにしておいてくれるか」

「もうしております」

「流石俺の駄メイドだ」

「もったいなきお言葉」

「そうでもない」


 俺はイルに一言入れると、結城さんに視線を向ける。ここで一番効率が良いのは、つまり合理的なのは、高木に結城さんを諦めさせることだと思う。なら俺がどうするべきか、簡単だ。


「悪いが、結城さんは俺の女神ちゃんだから」

「ふぇっ!?」

「なにっ!?」


 こういう頭がおかしいやつと対峙したとき、少々危ないが一番手っ取り早い方法が相手の視点に乗ってやることだ。こういう輩は外から何言っても聞かないので、相手の世界観を内側からぶち壊してやるのだ。


「なぁ、俺の女神ちゃん」

「え、ええと、わっ、なにかなこれっ!すごいもにょもにょするっ!」


 結城さんは照れたように視線をあっちこっちに向けては時々こちらを見つめる。


「勝負しようぜ高木。結城さんが俺とお前、どちらを選ぶか。どちらの女神ちゃんなのか」

「なにをするつもりなんだよ?」

「簡単だ。俺とお前が結城さんを呼ぶ。そして結城さんが来た方が勝ち。負けた方は潔く敗けを認めて帰って寝る、これでいいな?」

「ははっ、そんなの勝負にならないよ!女神ちゃんは僕を選ぶに決まってるもん!」

「じゃ、決まりな」


 俺と高木が横に並び、結城さんを正面に立たせる。


「準備オッケー、じゃ、呼ぶぞ?」

「う、うん。なんか凄い展開になっちゃったなぁ」


 結城さんは相変わらず赤面しているようで、しきりに顔を手で扇いでいる。まあ分かる。女神ちゃんなんて呼ばれたら恥ずかしくて仕方ないよな。もう少しだから勘弁してくれ。


「せーのっ」


「「女神ちゃんっ!」」


 高木は余裕の笑みを浮かべて、俺は若干の恥ずかしさを覚えながら呼ぶ。


 結城さんも恥ずかしそうに、しかし迷うことはなく一直線にこちらへ走って来る。


「ごめんね、高木くん」

「悪いな、女神ちゃんは俺を選んだみたいだ」


 俺は歩いてきた結城さんを見て勝利の笑みを浮かべる。当たり前だが、どんな勝負でも勝ったら嬉しいもんだ。


「………」


 高木は俺と結城さんを交互に見たあと、無言で首を振る。


「おかしいよね?おかしいよ、こんなの。僕の女神ちゃんなんだから、ねえ?ねぇ女神ちゃん」

「う、ううん!……わ、私…シュンくんが……えっと…その……」

「だから言ってるだろ?女神ちゃんは俺の女神ちゃんなんだって。お前に横入り出来るような隙間はないぞ。ほら」


 俺は高木から見て俺と結城さんが重なるように顔を近づける。高木から見ると結城さんと俺がキスをしているように見えるはずだ。


(ごめん、後でいくらでも怒っていいから)

(う、ううん!私のためだもんね!)


 良かった。怒ってはないみたいだ。

 ちょっとの間顔を近付け離れると、高木は茫然自失といった感じにこちらを見ている。が、焦点があってないようにも見える。


「お、おま……おまえぇ……っ!お前が!お前が女神ちゃんを洗脳したんだ!じゃなければおかしい!おかしいもん!」

「はい出たー、頭おかしいやつの常套句(じょうとうく)ー。洗脳?そんなことが現実にあるわけないだろ?」

「神様からその能力を貰ったんだろ!?」

「あっ、それならこの世界にはあるかもしれないな。でも悪い、俺の能力ってそんなもんじゃないんだ」


 俺は高木の能力や称号、ステータスを教えてやった。そして言ってやる。


「へっ、マンモーニ(ママっ子)が」


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