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着々と進んでいく準備

「おや、お久しぶりでございますねシュン殿」

「喋るふくろう…シュバさんか」

「シュバさん、魔王様はいらっしゃいますか?」

「えぇ、こちらへどうぞ」


 道すがら見たことあるフクロウに案内され、シアのいる部屋へと連れていかれる。なんかの童謡かと思う景色だな。


「こちらです」

「ありがとう、シュバさん」

「いえいえ、どうやら目処が立ったようですね」

「…察しが良すぎるな、この執事は」

「おかげで現魔王がシアト様ということが表沙汰になっていません」

「ほほほ、なんのなんの」


 微笑みを溢すシュバさん。見た目は人間サイズのフクロウに人間っぽい体つきをさせたキメラみたいな気持ち悪い見た目なのだが、言ってることは悟った感じでカッコいいんだよな。


「失礼するぞ、シア」


 俺は部屋に呼び掛けた後にドアを開ける。中は仕事部屋らしく、大きめのデスクにたくさんの書類が置かれていたり、資料らしき本が端の本棚に並べられている。そのデスクのチェアに座っていたシアは驚いたような表情をする。


「久しぶり、シア」

「……お兄ちゃんっ」

「おぉ、待て待て」


 走ってくるシアを受け止めるとピョンピョンとして見上げてくる。


「……どうしたのっ?もしかして遊んでくれる?」

「いいや、今日はもっと別の用事があってきたんだ」

「……ぶぅ」

「まあそう不貞腐れるな。それよりだな、シア、もしかしたらシアが望んでいたことが出来るかもしれないんだ」

「……?」


 首をかしげるシアの肩を持ち、俺は問う。


「前にも聞いた気がするが、イル、別にお前は人間を滅ぼそうとか思ってないんだったよな?」

「……うん」

「共生、を望んでるんだったよな?」

「……そう」

「そして魔王や魔族を人間と平等にしたいと」

「……コクリ」

「よし!なら俺にとっても良い作戦がある」

「……ほんと?」

「おう!まずはな───」





「──()()()()()()


 俺はニコリと笑い、シアはあんぐりと口を開けたまましばらく動かなかった。



ーーーーーーーーーー



「……えっと、つまりこういうこと?私たち魔族がそのセルウスという町の兵士を無力化することで王国と共生の条約を結び付けるっていう」

「おう、最初からそう言ってるだろ?」

「ご主人様、さきほど町を滅ぼすとか言ってましたが」

「知らん」

「画面を下にスワイプすれば証拠が現れます」

「次元を越えるのはやめろイル」


 シアはすぐに思案顔になり、ブツブツと何かを呟いている。


「……協力はできると思うけど、本当にそんな条約を結べるの?」

「大抵のことはなんとかなるってさ」

「……ううん…これまでの長い因縁がある魔族と急に仲良くなれ、なんて無理じゃないの?」

「そうだな、解決にはならないかもしれないな。だが『きっかけ』にはなり得る」

「……きっかけ?」

「もちろん、条約による制約が魔族全員に通じるかどうかは分からないし、人間のことを恨んでいるような魔族はたくさんいるだろう。だがそれは人間側も同じことだ。お前たちが魔族を抑え王が人間を抑えれば、少なくともこの状況は変わる」


 状況が変わるというのは大切だ。人は誰しも『安定』を好む。安定しなければ心配になるからだ。しかし状況が変われば安定はしない。安定するための方法をみな模索するんだ。

 つまり、状況が変わることで停滞は無くなり、変化を続ければ結果は180度変わることもあり得るのだ。その為にはまず、行動を起こすことが必要だ。


「今がそのときだ。俺の世界にはこんな言葉がある、『幸運の魔神には後ろ髪がない』ってな。巡ってきたチャンスは後からはもう掴めないんだ」

「……分かった、シュバ。来て」

「はっ、魔王様。こちらに。」

「……聞いてた?配下及び幹部の魔族に伝えて。これから、大仕事が始まるって」

「かしこまりました」


 よし、これで良い。人間よりも魔力があるとされているらしい魔族が仲間に、そしてこの世界にはあり得ないほどの圧倒的な能力を持つ俺たち召喚者。そして国の多少の兵士が居れば……俺たちが負ける可能性はほぼない。


「上手くいきそうですね、ご主人様」

「あぁ、悪くない」


 隣にたたずむイルがニコリと笑ってこちらを見る。俺はすこしの満足感と達成感を覚えながらこれからのことを考えていた。



ーーーーーーーーーー



 深夜、俺は一人でゾーイの小屋へと向かっていた。ドアを開けると中には前に見た毛布とぐちゃぐちゃに置かれた食料などが見えた。ゾーイの姿はない。


「……ゾーイ。俺だ、シュンだ。居るか?」

「シュン?本当だ、シュンの匂い……です」

「おぉ、そんなところにいたのか」


 ゾーイは食料の後ろからひょこりと顔を見せて近寄ってくる。


「怖い人間かと思って隠れてた……です」

「悪いな、怖がらせて」

「ううん……です。それより急にどうした……です?」

「あぁ、その、もしゾーイが良ければなんだが、一緒にセルウスの町に行ってくれないか?」

「セルウス……です?」

「ゾーイが逃げてきた町だ」

「…………」


 当たり前だが、嫌そうに顔をしかめる。あまり表情がないはずなのに、明らかに拒否反応を示しているのが分かる。


「すまない、俺はセルウスの町を知らないし土地勘もない。ゾーイは数ヵ月前に逃げてきた方向を覚えていたということは町の様子や逃げてきた家とかも分かるんじゃないのか?」

「…分かる……です」

「うん、そうだよな。で、もし良ければ俺に協力してくれないか?」

「何をする……です?」


 俺が幼女でもわかるように簡単に説明すると、ゾーイは顔をしかめたまま、ゆっくりと頷いた。


「シュンが守ってるくれる……です?」

「あぁ、もちろんだ。指一本触れさせないことを誓う」

「…それなら協力する……です」

「そうか、ありがとうゾーイ」


 俺は軽くゾーイの頭を撫でる。猫耳のような耳がピコピコと揺れて気持ち良さそうにしている。これがあれか、アニマルセラピーか。癒されてるわ、いま。


「シュン、もう帰る……です?」

「あぁ、用は済んだからな」

「一緒に寝ないの…です?」

「う、ううん…イルを待たせてるからなぁ…」

「また抱き締めてほしい……です」

「ぐはっ…覚えていたのか」


 そりゃそうか!数ヵ月前のこと覚えてるんだからそうだよね!ごめんね!


「そうだな…仕方ない。じゃあ今日は一緒に寝よう」

「はい……です」


 俺は毛布に倒れ込むと、ゾーイがもぞもぞと腕の間に入ってきて腕枕の体制になる。


「ゾーイは、怖くないのか?俺も人間だぞ?」

「少し怖い……です」

「そ、そうだよな……でもならなんでこんなに近くに居ても大丈夫なんだ?」

「暖かいから……です」

「恒温動物は大概暖かいけどな」

「違う……です、なんだか、心がポカポカする……です」

「……おやすみ」

「……?おやすみ……です」


 なんかちょっと恥ずかしくなってしまったので会話を切り上げる。子どもというのは発言に容赦がないな。思ってることをなんでもそのまま言いやがる。


「くぅ……くぅ……」


 ったく。良い気に寝やがって。不意に頬をつついてみる。


「ぷにぷにしてるな」


 頬をつつくとプヨプヨと弾力のある感触が帰ってくる。気持ちいい。


「んう……くぅ……ぅんん」

「おっと、悪い悪い」


 寝にくかったみたいだ。

 俺は指を離そうと力を入れるとゾーイが急に指を掴み、そのまま()()()()()


「みゅう……みゅう……」

「おい嘘だろ」


 唾液が指を濡らしているのが分かる。時々舌を絡ませては甘噛みを繰り返している。なんだろう、この罪悪感は。


「ぴゅう……ぴぃ?」


 ムカついたので反対の手で鼻を摘まんでやるとすぐに指を離し、寝返りを打つゾーイ。

 その姿に少し可愛いなと思いながら、俺も眠りに入っていくのだった。



ブクマ、評価、感想などが来るとやる気が出てホイホイ書きます。待ってまーす!

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