笑顔
俺は今、マナの部屋へと伺い、あのセルウスという町について聞き出すために話をしていた。
「で、マナ、あのセルウスとかいう町を黙認しているのは何故だ?」
「セルウス…ですか」
「もちろん、奴隷のことだ。なぜあんなモノを認めているんだ」
「シュンさん、顔が怖いですよ」
「…すまない。だが答えろ」
「セルウスの町長であるアッシモという人物がいるのですが…」
マナが語った内容はこんな感じだ。
アッシモは奴隷貿易により莫大な資金を得ている。そしてその資金を用いてトンでもないほどの兵力を集めていた。もちろんそれらは密かに行われていて、気付いたときにはもはや手遅れだったそうだ。
その兵力は王国と同じかそれ以上、迂闊に動いては逆に王国が攻められるかもしれない。以前も手紙などで警告をしたが応答もなく、どうにもできない状況が続いている、ということらしい。
そして近頃は奴隷貿易が更に活発化して、兵力増強もしているという噂もあるらしい。つまり、何が言いたいかと言うと、王国が潰されるかもしれないのだ。
「ふむ、なるほどな。よく知ってるな?」
「えぇ、私もその奴隷制度は嫌いでしたので、調べた時があったのです」
「それにしても王国と同レベルまでの兵力を集められているのに気付けなかったってのは、ちょっと職務怠慢じゃないのか?」
「言い返す言葉もありませんね、私で良ければ謝ります」
「いや、悪い。意地悪をしたな」
アッシモ…か。なるほど、つまりソイツが全ての元凶というわけだな?
「ちなみに、もしもだがそのアッシモというヤツが失脚した場合はどうなる?」
「アッシモに近しい誰かが代わり、その者がまた美味しい蜜を吸うということになりますね」
「つまり集められた兵力をどうにかするしかないのか」
「それが出来ないから困っているのです。正直、我々王族も見兼ねていたのですが…こればっかりはどうしようもありませんでした」
「…つまりその兵力に勝る力があれば良いんだな?」
「はい?ですから、それが出来れば苦労はしないと……シュンさん?何でそんな笑顔なんですか?」
「よし、じゃあもしそのアッシモをどうにかすることが出来れば、どんな報酬でも用意できるのか?」
「父に聞いてみますが、恐らくどんなことでも願えると思います。まさか、本当に何か手があるんですか?流石に召喚されたあなた方でも人数的に不利過ぎます、それに魔王と戦うべくして育てられているのに、奴隷制度のために力を振るうなど」
「いやいや、良いんだよ。それが良いんだ。むしろ、その全てが上手く行くと言っていい。もちろん、お前ら王族しだいだがな?」
やっと、あの件について目処が立ったじゃないか。ふはは、完璧な流れだ、悪くない。
「あの、シュンさん?私、すごい嫌な予感がするのですが…」
「はははっ!何を言う?みんなの悩みが解消できる完璧な作戦があるんだ。これからはウィンウィンな関係になれるぞ」
「ウィンウィン…?それは、一体誰とですか?」
「時期に分かるさ」
俺はルンルン気分で部屋を出た。よし、これから面白くなるぞ。
自室に戻るといつも通りにイルが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
「おう、ただいまイル」
「ほっふぇっ!?ご、ご主人様が輝くような笑顔をっ!?」
「なんだよその声は。はは、面白いヤツだなお前は」
「ふ、ふぉぉぉっ!?これは夢ですか!?私!いまご主人様に撫でられてます!!」
「大袈裟なヤツめ、これから大仕事が始まるんだぞ?」
「大仕事…ですか?」
「あぁ、大仕事にはとてつもない報酬が付いてくる。それは今回も同様だ」
「それは一体…?」
俺は軽くイルに説明をすると、ひどく驚いた表情になり頷き出す。
「な、なるほど…確かにそれが出来れば全て上手く行くかもしれませんね…」
「だろう?」
「いやしかし!いくらご主人様でも魔王様がお許しになるかどうか…それにまだまだ可能かどうかは分かりませんし…」
「いいや、可能性は十二分にある。出来る出来ないじゃない、やるんだよ」
「ご、ご主人様が珍しくやる気です…」
「いつもこんな感じだ」
「それはないですね」
「むっ、心外だ」
しかし今は気分が良いから許してやる。正に今の俺は仏と言っても過言じゃあない。そう、誰に何を言われようとも俺は決してキレることなく笑顔だろう。
「シュンー?いるかー?」
「イケメン死ねやカスほんまこの世のゴミ虫よりも必要価値のない現代社会の汚物め」
「えっ、えっ」
「あぁユウト、どうしたんだ?」
「あれ?さっきなんか凄い憎悪と殺意を感じたんだけど…」
「気のせいだ。それよりもイル、客だ。お茶を出してやれ」
「か、かしこまりました」
急に入ってきたユウトに一瞬だけ本音が出てしまったが、無問題だ。セーフ。
「なあユウト、当たり前だがもし友達である俺が、お願い事をしたら…協力してくれるよな?」
「し、シュンが俺のことを友達と…?うんうん!なんでもやる!おれシュンのためならなんだってやるよっ!」
「うむ、それでこそ我が下僕」
「あれ、一瞬で格が下がったんだけど。あ、イルさん紅茶ありがとうございます」
「いえ、それよりもユウト様はご主人様を信頼し過ぎでは?」
「何を言うんだいイルさん。シュンを信用できなかったら何を信用すれば良いんだ?」
「……ガタガタガタガタガタガタ」
よし、これでまあある程度の人員は確保できるだろう。ユウトの人望と人脈でな。そして、後は久しぶりにシアに会いに行かなきゃな。
「悪いがユウト、話があったのかもしれないが急用があってな。後にしてくれるか?」
「あぁいや、シュンの顔が見たかっただけだから良いんだ、それより用があるんなら早く行った方が良いよ」
「おう、ありがとな、ユウト」
「今日のシュンはなんだか甘口だな」
「そんなことはないさ。ほら、じゃあな」
「うん、またな」
俺はユウトを送り出し、イルへと視線を向ける。
「イル?なんで震えてるんだ?」
「も、もしかしてこれからファフロツキーズでも降るのでしょうか…?」
「何いってんだお前」
※ファフロツキーズ、別名怪雨。空から雨のようにカエルや魚などの、その場にあるはずのないものが振ってくる現象のことである。
「ほれ、シアのとこへ行くぞ」
「か、かしこまりました」
俺はイルの後ろを歩き、前にリューナと会うきっかけとなったワープホールの場所へとたどり着いた。
無論、眼の力は抑えることで移動には成功。魔王城内部へのワープは完了した。
「行くぞ」
「はい」
俺とイルは並んでシアに会いに行ったのだった。
魔族メイド「ユウト様……まるでご主人様を崇拝しているようですね。なんだかおぞましく感じましたが、そういえば私も崇拝者でしたね。忘れていました」
笑顔の人「おい?なにしてんだ?早く行くぞ」
魔族メイド「はい♪私はご主人様に絶対服従です♪」
笑顔の人「そうか、じゃあ死ね」
魔族メイド「いやです♪」
笑顔の人「絶対服従とは……?」




