魔族との交戦
「誰?お前。もしかしてクラスメイト?」
「い、いや何言ってるんだよシュン!俺だよ!おれ!ユウトじゃんか!」
「あ?確かに、ユウトというやつは知っているが、知りすぎているがお前は知らねえよ」
「な、なんだよそれ!?なんの冗談なんだっ!?」
目の前の誰かは焦ったように大声をあげる。
パッと見だと分からないが、普通に見れば簡単に分かる。ユウトじゃない。俺の能力は『見る』能力。ただの猿真似なんて余裕で見破れる。
「残念だが、モロバレだ。低級魔族が」
「て、低級……?…し、信じてくれよシュン!なんで信じてくれないんだよ!?」
「そうだな、お前の悪い点を挙げていってやろう」
俺は息をスゥっと吸うと、一口に畳み掛ける。
「まずはその髪、アイツは髪がいつもサラサラだが後頭部の左にほんの少しだけ癖毛が付いている。左向きで寝てるからだろうな。次に目の色だが確かにブルーではあるが父親が日本人のため藍色に近い。お前のその瞳は明るすぎる。そしてユウトは俺と話すときに何故かは分からないがまず俺の腰の辺りを見てから話す。それがない。いつも漂っている爽やかな匂いもしない。他にも多々あるが、何よりもな──」
もう一度一呼吸入れ、ただ、当たり前なことを言うように、そうなることが当然であるように必然であるように、呟いた。
「──ユウトは仲間を置いていかない」
自信などではない、信頼なんて大したものでもない。ただ、そうあるべきであるように、アイツはそうなのだ。
「アイツは仲間を置いていったりはしない。とんでもないお人好しなんだよ。どうしようもない、と言い換えても良い。どれだけ言っても変わらない。本質みたいなものだ。常に誰かのために動くヤツなんだよ」
「……し、死にそうになったら怖くなったんだよ!」
「それもあり得ない。そんな経験、今まで何度もあったよ。俺も巻き込まれてな。そんで、いっつも言うんだよ。口癖らしいな。言ってみろよ、ほら『友達が犠牲になるくらいなら、俺が犠牲になる』ってな。ったく、言うだけで甘ったるくて仕方がねえ」
はぁ、たくさん喋って疲れたわ。はい、俺のターンは終わり。
「……くそっ!死ね人間!大人しくしていれは良いものをっ!」
「なんだよ、何するんだ?」
「殺してやるっ!!」
いつの間にか、その様相を醜く変容させ、まるで一目の巨人に変化する。両方の腕が異常に発達しているようでかなりでかい。つまり、化け物だ。ふつーに怖い、やだ、助けて誰か。
「死ねぇぇぇっ!!」
「俺のターンは終了した!だがいつからこれがシングルバトルと錯覚していた?」
「なっ…戯言をっ」
「速攻魔法発動!帯刀女召喚の儀式!俺は目の前のキモい巨人を生け贄にして帯刀女を特殊召喚するっ!」
俺は拳をあげ高々と叫ぶ。
「この粗チンがぁぁぁっ!!!」
一秒と間を開けず、岩陰から桐峠が出てくる。そして巨人の死角から一刀両断した。巨人はパクパクと何かを喋ろうとするが、身体が反応しないのか音はでない。すぐにそのまま倒れ、息を引き取った。
「よし、よくやった。帰っていいぞ」
「きっさっまっ!!」
「落ち着け。素数を数えろ、ほら。お前とその数でしか割れないボッチのための数字だ。桐峠には最適だろう?」
「殺す!今すぐ殺すッッ!首をだせっ!!」
ブンブンと刀を振り回す女子高生。なにこれ映画?日本のもんじゃなさそうだな。いやでも機関銃と女子高生がコラボしてたりするからなぁ……日本人の発想って恐ろしいよ。
「お、抑えてシズクちゃん!」
「止めてくれるなミサト!私は悪を正さなければならない!」
「おいおい、殺害は立派な悪だぞ?悪を正すために悪になる。なるほどそれがお前のやり方か」
「うがぁぁぁぁっ!!」
結城さんに組み付かれていてもなお暴れ続ける帯刀女。楽しいなこれ。
「シュンくんも煽っちゃ駄目だよ!めっ!」
「めってお前…昭和のアニメぐらいでしか聞かねえよ…」
「フゥーッフウーッ!!」
「ラマーズ呼吸法なら息を吐くときに力を入れて吸うときは抜くんだぞ」
「出産中じゃないっ!」
「シュンくん!」
「すまん、つい」
もうなんかついやっちゃうんだよ。虐めたくなるような反応をする桐峠が悪い。
「それより、コイツどうするんだ?」
「殺す……切って殺す……首を切って殺す……」
「いやもう死んでるから。一刀両断されてるから…………あっ、それ俺の話?」
なるほど、殺意が高いな。こんな風になるなんてどういう育ち方をしたのか。殺すとか死ねとか、そんな野蛮な言葉使うもんじゃあないな。
「それにしてもシュンくん、良く分かったねー?私なんて変身するまで気付かなかったよ!」
「そうか?あんなのすぐ分かるだろ」
「気持ち悪い友情だ。まるでカップルだな」
「よし帯刀女、話をしよう。拳でな。刀は仕舞え」
武器は卑怯です。
「あ、あはは…それでえっと…どうしよっか?ルシウスさんたちも先行っちゃったし…」
「大丈夫だ、もうすぐ来る」
「なんで分かるの?」
返事をする前に、聞いたことのある声が響いてくる。
「シューン!!大丈夫かー!?」
「宮坂ー!!結城さーん!桐峠さんも大丈夫なのかー!?」
すぐにこちらへやってくるユウトと松岡。次いでルシウスが微笑みながらやってくる。
「大丈夫だったかシュン!?」
「やばいもう無理死にそう」
「何があったんだっ!?」
「ユウトの顔を見てたら死にたくなってきた。リスカしよ」
「シュン!?」
くそうイケメンめ。俺の精気、いや全世界の微妙な顔の人達の精気を吸い取ってんじゃねえのか?
ええい近付くな暑苦しい!
「大丈夫だったかい?ミサトさんもシズクさんも。さっきシズクさんの声が聞こえて飛んできたんだよ」
「あ、そっか。それで来るのが分かったんだ」
「そういうことだ。って分かったから引っ付くなユウト!気持ち悪い!」
「シュン!?この巨人みたいなヤツに襲われたのか!?すまないシュン…っ!俺が代わりだったら…っ!!」
「やめろ、そういうの」
ふん、泣き付くな気持ち悪い。まったく、本物の方が質が悪いな。一向に離れようとしやがらねえ。
「いやぁすまない君たち。僕が眼を離した隙にこんな魔族に襲われるなんて……運がなかったね?」
微笑みながらルシウスが歩いてくる。
「い、いえ。大丈夫です」
「こちらも問題ない」
結城さんと桐峠は首を振り、なんともないことを表明する。俺はユウトを引きずってルシウスの前まで行くと、手を振りかぶった。
「バチンッッ!!」
大きい破裂音が洞窟に響く。ルシウスはわざと受けたらしい。俺がはたく直前、しっかりと俺の手のひらを捉えてやがった。だが、避わさなかった。
「ルシウス、お前は最低なことをした」
ルシウスは頬を擦りながら微笑み、ただ黙っている。
「俺が嫌いなら俺だけを陥れればいい。だが結城さんや桐峠は関係ない。置いていったのもわざとだろう?ダンジョンに初めて入るヤツを置いていくなんて、普通はあり得ないだろう。お前は下手をすれば3人も人を殺したんだぞ?分かってるのか?」
許せない。別に俺は良い。最悪逃げれるし。そんなことは問題じゃない。問題なのは俺以外にも被害が及ぶことだ。
「シュンくん!私はっ」
「誰であろうと関係ない。ただ、死ぬ可能性があったんだぞ?それを謝ってすぐ済まされると思っているのか?少なくとも、俺はお前を許さない」
「……そうだね」
俺は結城さんの言葉をさえぎり言う。取り返しのつかないことをしたんだ。十分に罰せられる必要がある。俺が喋るなか、ルシウスはその微笑みを一つも変えず、その場にしゃがむ。
「すまなかった」
すこし湿った地面に正座で座り頭を下げるルシウス。ふん、プライドとナルシストの塊かと思っていたが、こういうことはできるらしい。許さないと言ったが、誠意を見せるという意味では正しい。そこだけは評価してやる
「シュン……」
「まあいい。もうするなよ。ほら、帰ろう。ダンジョンにはもう慣れたろ?」
「ま、まぁ……」
「他のやつらも、良いか?」
松岡、結城さん、桐峠はうなずき、ルシウスも同意する。
それからは特になにもなく、ダンジョンを出るまで時間がかかることもなかった。ミラン兵長は何度も頭を下げ、他の魔族が侵入していることなんて知らなかったと謝ってきた。まあ知るよしも無いことだろうし、どうでもいい。ルシウスもミラン兵長に挨拶するとそのまま帰っていき、松岡や結城さん、ユウトも夕飯のために部屋へ帰っていった。
「ただいま」
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
「ん」
フラフラと歩き、疲れた身体でベッドにダイブする。
「ご主人様、ベッドに汗が付きますよ。お風呂が沸いてるので入ってください」
「んー…疲れてんだよ…そっとしておいてくれ」
「何かあったんですね。じゃあもう少ししたら起こしますよ」
「頼む」
しょうがないなぁと笑うイルを見て、そのまま眼を閉じ、意識を捨てる。
ふん、認めたくないが…身体が安心しているのが分かる。ここを家だと認めちゃってるんだろうなぁ。
イルの鼻唄を聞きながら、俺はそう思ったのだった。
また劇的な伸び方をしてる……っ!?
ウレシイ……ウレシイ……ブクマ評価お願いします…ウレシイ…




