急なシリアス
「では昼食後、この部屋へまた集合してくれ。その後ダンジョンへ案内しよう」
「「「「はい!」」」」
「うぃっす」
結局、俺はこいつらと一緒にダンジョンへ行かなくてはならなくなってしまった。あぁ、ここは現実だぞ?未だに対人間としか戦闘訓練を行ってない上、実際に人やモンスターを殺したことのない俺たちがマトモに動けるわけがない。
「うぉー!楽しみだぜー!」
「おいおい一樹、不謹慎だぞ?」
「みんなのために頑張らなきゃね!」
「私の力を試すにはもってこいだな」
こいつら…ほんとに分かってるのか?和気あいあいとしやがって。今はその場のノリとモンスターを見たことがない事から来る無警戒によって、恐怖心はないようだが…
「おいユウト」
「なんだよ、シュン?」
「この後部屋に来い」
「…?分かった」
疑問符を浮かべるユウトだったが、特に気にすることもなく部屋へ来てくれるそうだ。
「ちなみに昼飯の時間も近いし、イルが昼食を作ることになるんだが…いややっぱり昼食の後すぐに来てくれれば」
「いや行く!大事なことなんだろう!?」
「あ?…まあ、大事ていうか心構えの話なんだが」
「分かった!今からいこう!」
「お、おう」
えらく食い気味に来るなコイツ。そんなにイルの作ったご飯が食べたいのか…?ふむ、コイツもしかして…
「おいユウト」
「な、なんだ!?早くいこうシュン!」
「ユウトって、もしかしてイルのことが好きなのか?」
「え?」
若干の間を空けてユウトが間の抜けた声を出す。
「いや今の食い付き方とか、確かに今までのことを考えれば時々変なときあったなって思うわ」
「…いや、それは…シュン…」
「うーん…じゃあ…」
俺は腕を組んで目を伏せる。少しの間考え事をして、息をすうっと吐く。
イル…俺のメイドであり、この数ヶ月色々と世話をしてもらったもんだ。まあ、悔しいが俺の中でもほんの少し…一ミリくらいの信用ならある。大切か、と聞かれたならその他大勢よりもまあ、一ミクロンほど大切かもしれない可能性が微粒子レベルで存在するかもしれない、うん。
だから、俺の答えは…
「──告白してみるか」
「こく…っ!?」
口をあーんぐりと開けるユウト。いやだって、告白しなきゃ願いなんて通じないだろ?
「告白、しないのか?」
「いや、だって…シュンのメイドじゃないか」
「おっそうだな?」
「なら俺が告白するなんて…」
「あ?よく分からんが、想いを伝えたいなら言うべきだ。想うだけで伝わることなんてないからな。相思相愛だったとしても行動に移さなきゃすれ違いしか起きねえよ」
「…シュン……」
「ほれ、行くぞ」
どこか涙ぐんでいるユウトを引き、自室へと戻る。最初はその手も重かったが、すぐに軽くなっていった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
「ほら、ユウト」
「あ、ユウト様ですね。お久しぶりです」
「あ、あぁ。久し振りだねイルさん」
部屋のドアを開けるとイルが笑顔で出迎える。後ろからユウトが現れると、ペコリと頭を下げて笑う。
「あの…えっとさ…」
「はい?どうかされましたか?」
「あー…あの…さ。そのー…し、シュン!」
「助けを求めるなヘタレ」
「辛辣過ぎるよシュン…」
どうせ見た目完璧性格完璧のパーフェクトヒューマンだ。失敗するわけがない。はよ行け。
「うぅ…シュン…やっぱり明日とかにしないか?」
「おいどうした制汗剤。いつものお前らしくもない」
「せめて名前で読んでくれないか?」
「…ユウト。はよしろ。俺も早く昼飯を食べたい」
「うぐ…」
あまりにもヘタレなユウトを鬱陶しく思いながらため息をつく。イルもイルで状況が掴めないでいるのか、俺とユウトを交互に見ている。そして時々俺の顔を見て舌舐めずりをする。うわっ、キモい。
「よいしょ(デコピン)」
「いっ…ご主人様の愛が痛いです」
「お前は愛が痛みで出来てると思うのか、詩人かな?」
「ご主人様から与えられる全てが愛に感じます」
「病院で精密検査を受けよう。恐らく死期は近い」
「ご、ごほんごほん」
いつも通りの下らない会話をしていると、ユウトが咳をし出す。
「あの、いいかな?」
「お、やっとやる気になったか。じゃあ俺はトイレ行ってくるから。あとよろしく」
「え、ご主人様?私はどうすれば…」
「良いからいいから。そこにいろ。戻ってくる頃には昼飯を作っててくれ」
「…便秘ですか?」
「長くなりそうだからって便秘とは限らないだろうが。煽ってんのかクソ駄メイド」
軽く睨んでから部屋を出ていく。さ、大きいの出してくるか。最近便秘気味なんだよな。
ーーーーーーーーーー
《ユウト目線》
やばい…心臓がバクバク言ってる…どうしよう、シュンは出ていっちゃったし…
「ご主人様、どうなされたんでしょうか?」
「あー、えっとシュンは俺に気を使ってくれたというか…なんというか」
「そうなんですか。まぁ、ご主人様ってぶっきらぼうに見えて優しいですからね。そういうところが可愛いんですよ」
え…それって……もしかして…
「イルさんもそう思うんですか!分かりますそれ!俺もあれが凄い可愛いなって思うんだ!」
「ですよね!最初はなんか目付きの悪い人だなーぐらいしか思わなかったんですけど、ちょっと不器用な優しさがキュンって来るんです!」
「うわー!分かりますー!!」
なんと!まさかイルさんとこんなところで会話が合うとか、ビックリだ!!嬉しいな!共通点があるって!
「ふふ、あ、すいません。それで、なんの用事だったんでしょうか?」
「あ、えっと。えっとね。イルさん」
心臓がうるさい。頭に血が昇ってフラフラするが、俺の視線は美しいイルさんの顔へとしっかり向かっている。
こう改めて見るとホントに綺麗だ。藍色の髪がカチューシャでまとめられていて、少しカールがかった毛先が可愛らしい。目鼻立ちが整っていて、特にその瞳は紅く綺麗で、まるでどこまでも見透かされているような錯覚さえ覚える。笑ったときは本当に美しい。
「初めて見て、その姿に見惚れました」
口から勝手に流れ出る言葉に抵抗せず、ただ思っていたことを打ち明けるように、溢れる想いを告げる。
「気配り上手で、なんでもこなす万能なところに惹かれました。そして、不意に見せる笑顔に、心を打たれました。気がつけばあなたが頭に浮かんでいます」
報われなくても良い。ただ、この思いだけは伝えたい。
「──好きです、イルさん」
黙って最後まで聞いてくれていたイルさんは、少し驚いたようで、でも少し気付いてたように、ちょっとの間考えるような動作をとる。
数秒の間を空けて、こちらへとその瞳を向ける。そして、申し訳なさそうに悲しげに笑い、こう言うんだった。
「──すいません」
「…そっか」
分かっていた。こんな結果は分かっていたんだ。想いを伝えたんだからこれでいい。何も悲しくない。これは俺の我が儘だから。エゴだから。一方的な好意で、イルさんがそれに応える義務なんて無いのだから。
「私は好きな人が居ます。ですから、申し訳ありません」
「いや、良いんだ。言いたいことは言えたから。全然、良いんだ」
無理矢理にでも笑顔を作る。だって、今、ここで泣いてしまうのはズルいから。気を使わせたくない。
「ユウト様」
「あぁ気にしないでくれイルさん!俺は伝えられたから全然、悲しくないんだ!それよりもシュン、まだかなぁ!?」
「ユウト様」
「ははは!便秘気味なのかな?俺見てくるから待っててよイルさ」
「ユウト様ッ!!」
「っ!?」
突然声をあげるイルさんに身体をビクリと震わせる。
「そんな、悲しいことを言わないでください」
「悲しいこと?なんのことか分からないよ、イルさん」
「確かに、私はユウト様の想いに応えることできません」
「…分かってるさ」
「ですが、受け止めることはできます」
どういうことですか、と聞こうとした瞬間に、視界が暗闇に包まれる。同時に柔らかな感触が顔を覆い、良い匂いが香る。
「い、イルさっ!?」
「良い、なんてことはありません。悲しくないなんてことは、あり得ません。ユウト様は作り笑顔が下手です」
「…」
「誰でも、失恋すれば辛いと思います。報われなくて良い恋なんてありません。人は、望む結果が欲しいから、行動に移すのです。そして結果が報われなかったら悲しい。それは人も魔族も変わりません」
紡がれる言葉が心身に染み込み、水分を、涙を押し出す。
「泣きたいときは泣いて良いんです。私がユウト様の心の中を全て読むことなんて出来ません。ですが、今のユウト様が『辛い』ということだけは分かります」
「………うぅ…」
「どうか、強がりなどしないでください。私は人を見た目で判断致しません。どんなに泣いていようと、汚れていようと、そんなものは関係ありません。私で良ければハンカチ代わりになれますよ」
「うぁ…うあぁぁ……うぅぅっ……うあぁ…!」
我慢しようとしたモノが溢れ出る。まるでダムが決壊したように、止めようとしても止めようとしても、想いが止むことはない。
ズルいよ、シュン。こんなに素敵な人が側に居てくれるなんて、羨ましい。でも、良いんだ。強がりじゃなくて、心の底から、これで良かったと感じるよ。
ただ、もう少しだけ…もう少しだけこのままで居させて欲しいな。
ーーーーーーーーーー
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「あ?………おかしいな、思っていた状況と違う」
「昼食を作るのはもう少し後でも構いませんか?」
「…インスタント食品が無いことがこの世界の汚点だなぁ」
ベッドの上で泣き張らしたようなユウトを膝枕しているイルを見て、どこか安心に似た感情を不思議に思いながら俺はそう呟いた。
明日から部活動のインターハイに行ってきます。疲労でしばらく書けなかったりして!
あ、帰ってきたときに評価とかブクマ、感想が増えてたらやる気がでてすぐ書きます。待ってまーす!レビューとか貰えたら幸せになれます。




