集合命令
日差しが眩しい朝、騒々しく叩かれるドアの音に目が覚める。
「ドンドン!宮坂殿!起きてくだされ!」
「もう5分…」
「ガチャガチャ…カチャリ。宮坂殿、起きてくだされ」
「えっ、おまえ部屋に入れたの?」
簡単にドアが開けられ、部屋へと入られる。いや入れるんだったらあんなにノックしなくてもいいじゃん。なに?せっかちなの?高血圧なの?
「いやしかし…宮坂殿…お隣の綺麗な女性は、王様に配置されたメイドですか、羨ましい限りですな」
「んー…むにゃむにゃ…ご主人様ぁ…」
「羨ましいならくれてやるよ、こんな駄メイドでよければ」
「ご主人様っ!私の所有権を譲ろうとしないでください!」
「寝てたんじゃねえのかよ」
おはよう、くそ駄メイド。
「隊長からのお呼びだしです、宮坂殿」
「あ?ミラン兵長からか?」
「すぐに来いとのことです」
「そうか、おやすみ」
「すぐに来いとのことです」
「おやすみ」
「すぐに来いとのことです」
「…」
「すぐに来いとの」
「分かったっつの、お前はNPCか」
イルが着替えを用意してくれていたので着替えて部屋を出る。行ってらっしゃいませと送り出してくれるイルを後にし、闘技場へ。
「こっちでございます」
「あ?そっちは闘技場じゃないだろう?」
「会議室でお待ち下さい」
「会議室だと?」
兵士に案内され、ついた部屋の中にはソファーのようなものが、テーブルを挟むようにきて左右に並んでいた。そこに数人の見たことある奴が座っている。
「あっ、シュン!」
「朝からユウトと会うとか辛い」
「あはは、辛辣だなぁシュンは」
「シュンくん、おはよう!」
「おはよう宮坂!」
「結城さんに松岡か、朝から元気だなお前ら」
座っていたのは刑部さんを除いた戦乙女聖騎士団と戦ったメンバーだった。ここのところ何かと縁があるやつらだ。
「シュンもミラン兵長に呼ばれたのか?」
「無理矢理起こされた」
「シュンは寝起き悪いからな、かなりキレたんじゃないのか?」
「そうなの?」
「何を言う、俺の体の8割は優しさで出来ているんだぞ?キレるわけがない」
「昔俺が家にお越しに行った時にはぶん殴られたのに」
「過去を見るな、俺たちは未来を生きる少年少女なんだ」
「「「かっこいい」」」
とかなんとか言っていると、ドアが開かれる。そこから現れたのはミラン兵長…ではなく黒髪ロングの女の子だった。ただ一つ、普通の女の子ではないとこを挙げるとするならば──
「帯刀してんぞコイツ」
「む、お前たちもミラン兵長に呼ばれたのか?」
「雫ちゃん!」
「知り合いか?結城さん」
「うん!ていうか同じクラスだよ?」
「あー、ね。分かる分かる。うん、佐藤さんだっけ?」
「シュン、日本で一番多い名字だからって当てずっぽうで言っちゃダメだ」
「すまん、分からん」
雫…えぇと、確かクラスの中でもそんな目立ってたようには見えないんだが。あまり記憶にない。
「雫ちゃんは二年なのに剣道部の主将なんだよ!全国大会でも優勝経験があって凄いんだ!」
「そう言われると照れるな、ミサト」
「桐峠さんは部活熱心だし授業中も喋る人じゃなかったからな、俺たちともあんまり話したことなかったはずだよ」
「俺も桐峠とは話したことないぜ!よろしく!」
「あぁ、よろしく頼む」
ユウトと松岡が桐峠雫と握手をする。そのまま桐峠さんは俺の方へと視線を向けてくる。が、俺は手を出さない。
「あ、気にしないで雫ちゃん。シュンくんってそういう人だから」
「いわゆるコミュ障というやつか?」
「うーん、ええと。シュンくんって仲良くなると面白いんだけど仲良くなるまでは時間かかるんだ」
「俺をゲームの攻略キャラみたいに言うな。そもそも俺は誰とも仲良くなんてない。他人には無関心だからな」
それよりもミラン兵長はまだか、一向に来ないではないか。もう帰らせてもらうぞ。
「しかし、妙だな。お前は前に佐伯悠里を助ける際に佐伯悠里を疑っていた女子の情報を知っていたな?それは関心がなくては出来ないことじゃないか?」
「ちっ、桐峠さんもそこに居たのか」
「あれだけ大事になればな」
「別に、人間観察が好きなだけだ」
「人間観察?ストーキングでもしないと知り得ない情報だろう、あんなもの。いったいどういう」
「──すまない桐峠さん。そこまでにしてくれるかな?」
横からユウトが間に入ってくる。余計なことしやがって。
「シュンは詮索されるのが嫌いなんだ。誰しも秘密の一つや二つあるだろ?」
「しかし…」
「し、雫ちゃん!この話はやめようよ!それよりミラン兵長さんはなんで私たちを呼んだのかな!?」
「なんでこんな険悪なムードなんだ?宮坂、なんでだ?」
「お前は空気を読めるようになれ」
KYな松岡は置いておいて、結城さんまでフォローしてくるとは…まあなんというか、ありがたいのかもしれない。
「うむむ、悪かった。すまない宮坂」
「人を呼び捨てにするの早いな、お前も松岡も」
「仲良くなるには手っ取り早いだろ!」
「初対面でお前と呼ぶのはどうかと思うぞ私は」
「桐峠さんだって俺たちのことをお前たちと呼んでただろうが」
「忘れた」
「おいおい、人間は過去を知ることで未来を作ってきたんだ。温故知新という言葉があるだろう。時には後ろを振り替えることも大切なんだぞ?恥を知れ」
「おかしい、シュンの言葉はマトモなはずなのに、なんか引っ掛かる…」
ったく、身勝手なやつだ。俺としてはもっとおしとやかで落ち着いた女と話したいもんだ。
と、そんなことを思っているとノックと共に会議室の扉が開きミラン兵長が入ってくる。見たことあるイケメンを連れて。
「よし、揃ってるな。みんな」
「「「「はい」」」」
「うぃっす」
「シュン!はいだろそこは!」
「るっせ」
「ははは!元気が良いな!君たちに集まってもらったのは他でもない!そろそろダンジョンへと潜ってもらいたいんだ」
「ダンジョンですか?」
そうだ、と言ってミラン兵長はソファーへ座り、後ろのイケメン…もういいや、ルシウスとかいう奴が続く。
「そこは低級魔族が住み着いてるダンジョンでだな、先ずは召喚者の中でも特に強い君たちを呼んでダンジョンに慣れてほしいと思っているんだ」
「すいません、そもそもダンジョンというのはなんですか?」
「あぁ、すまない。分からないか。簡単に言えば魔族が作る巣穴みたいなものだ」
色々ながったらしく話すミラン兵長だが、要約するとこういうことだ。
魔族が拠点として洞窟のようなものを作る。それをダンジョンと言って、その中では魔族の魔力により魔物が作られていく。その魔物たちは近隣を荒らしまくるので排除しなければならない。
ほかにも色々とあるが、まあダンジョンを壊すには奥にいる魔族を殺せば良いのではよ殺せ。ということだ。
「頼めるか?もちろん、強制じゃない。君たちが嫌というのなら無理強いはしない」
「…いま行かなくても、じき行かなくてはならなくなるんですよね?」
「そうなるな」
「俺たちが行くことで、他のクラスメイトの皆を安心させることができますよね?」
「経験者が居るだけで安心感は大幅に増えるだろう」
あー、この流れはあれだな…絶対やらないといけないやつだ。よし、帰ろう。いますぐ帰ろう!
「宮坂駿くん…だったよね?どこに行くんだい?」
「……ルシウス、だったか?トイレだ。便秘で長引きそうだから、俺だけこの話はなかったということで頼む」
「え?前勝負で僕に勝ったんだから君が適任だよね?」
「なにっ!?そうなのか!!宮坂少年!」
「いやそれはコイントスで」
「流石召喚者だと驚いたよ僕も。まさかあんなに強いなんて…ということで僕は宮坂シュンくんを推します」
「よし!頼むぞ宮坂少年!」
ふざけんなユシウスてめぇ。俺を陥れやがった!憎悪の目線を送るが、どこ吹く風と言わんばかりに目を細めてやがるアイツ。いつかぜってー殺す。
「シュンが行くなら俺もいきます!」
「本当か!?」
「宮坂とユウトが行くってんなら俺も行くぜ!魔族なんて吹っ飛ばしてやるよっ!」
「シュンくんが行くなら…じゃない!みんな行くなら私もいくよ!」
「断るつもりはない」
うわっ、なんかみんないくことになっちゃったみたいだよ。嫌だなぁ、こんなやつらに囲まれて命の危険のあるダンジョンに潜らなきゃならないのか。
「ありがとう少年少女たち!無論君たちだけで行かせるつもりはない!私のとなりにいるルシウスくんを君たちに同行させるから、危険はないと思ってくれて良い!」
「よし!俺たちでダンジョン攻略するぞ!みんな!」
「「「おー!」」」
ユウトを筆頭に他のやつらが声を上げる。ルシウスも微笑んでそれを見て、ミラン兵長も嬉しそうに筋肉をピクピクと動かしている。
「俺に拒否権はないのか…」
ただ、その場にいる俺だけは、誰よりも無気力なのだった。




