快適な時間
ようやく自室に帰ってこれた。これで変態の相手をすることなく、自由気ままに寝ることができる。
「おかえりなさいませっ!ご主人様っ!」
「うっわ」
そういえば居たわこんなやつ。さっきのルシウスとかいうイケメンとマナの威力が強すぎて忘れていた。
「うっわとはなんですかご主人様!興奮するじゃないですか!」
「お前はなんでそう残念なんだ」
「ところで紅茶要ります?」
「あぁ、頼む」
椅子に座り、置かれた紅茶を飲む。うん、うまい。柑橘系の香りがして落ち着く。
「アールグレイでございます」
「分かる分かる。俺これ好きだわ」
「えっ、そんな…ご主人様ぁ」
「紅茶の味に対しての評価だ。お前に対しては感情を抱いていない」
「ぶー」
「ぶーじゃないが」
口を尖らせて唸る駄メイド。コイツとの会話はテンポが早くてティータイムには合わないな。
「そういえばご主人様、魔王様が会いたがっていましたよ?」
「俺一応魔王討伐を目的に召喚されたからな?」
「あはは、馬鹿なことを」
「お前この城に居る召喚者全員を敵に回したからな?」
「元々敵ですが」
「そうだった」
魔王…シアのことか。魔王を良いイメージで広めるって約束したが、中々簡単なことでも無いんだよな。正直方法もまだ決めかねている。
「まあその辺はおいおい、ということにしてくれ」
「そうですか、ではもう一つ話すことが」
「まだあるのか」
「はい、例のストーカー男のことです」
「高木か」
以前に結城さんの部屋へ行った時、急に部屋に入ってきたあの男だ。小柄な体型で目立たない奴だったが…一応イルに監視を命じたんだった。
「はい、しばらく行動を把握していたところ、やはり結城さまのストーキングを繰り返している様子ですね。本日もすでに20回以上の凝視と30回以上のすれ違い、数時間のストーキング、盗撮が10枚といったところですね」
「なんというか…言葉にできない酷さだな」
「さすがの私もドン引きでした」
「お前も俺のことストーキングしてたんだろ?」
「何を言うんですか、私はただ四六時中なめ回すように見つめて寝ているときにもじっと顔を見ているだけじゃないですか!」
「ギルティ」
「有罪判決っ!?」
当たり前だバカ。俺のドン引きの矛先はお前へ向かってるぞ。
まあそれにしたって高木もヤバイやつだな。
「盗撮ってどうやるんだよ、カメラでも持ってきてるってのか?」
「いえ、写影結晶という魔石を用いてますね。ユウト様も仰っていましたが、カメラではありません」
「そんなものどこで手に入れたんだ?」
「おそらくですが能力かと」
「おいおい、先生もそうだったらしいが能力をもった瞬間に魔が差し過ぎだろ」
「人間の欲は恐ろしいですね」
「お前も人間……じゃなかったな」
「魔族です」
「変態のな」
見た目は有能な美人メイドなのだが、中身はこれもうほんと残念なんだよ。
「どうしますか?」
「どうって、何がだ」
「高木とやらの処分でございます。こちらで処理しておきますか?」
「処理ってお前、そんな怖い言葉を使うな」
「ではどういたします?」
「どうって、決まってるだろ?」
「───放置だ」
「そうですか」
当たり前だよなぁ?別に俺に被害があった訳じゃない、俺が正義感に溢れているようなやつに見えるか?んなわけがない。ただどんなやつか気になっただけの好奇心による調査だ。もはや興味はない。
「自分に害がない限り、俺は動かない」
「はい、そういう方でしたね」
「なに笑ってんだ」
「いえ、ふふっ、ただご主人様は可愛らしいなと思いまして」
「バカにしてるのか?」
「抱き締めたくなります」
「来ないで」
「口調が崩れるほど嫌ですか!?」
適度に距離を取りつつ、ベッドに倒れ込む。ふぃー、疲れた疲れた。変人たちの相手は疲れるもんだ。今日はもう休もう。
「ご主人様、夕飯はどういたしますか?」
「いらん、もう寝る」
「食事をなさらないのは体に障りますよ」
「構うな」
「仕方ないですね、私が作ってきましょう」
「帰れ」
「少々お待ち下さい」
ぐぅ…ぐぅ…
ーーーーーーーーーー
「ご主人様、出来ましたよ」
「ぐぅ…」
「できましたよー」
「眠らせろ駄メイド」
「だから、出来ましたよ!」
「……」
「子どもが」
「ガバッ」
「嘘です」
「ふんッッ!!」
「いったいぃっ!?」
はっ、目が覚めた。いつの間に寝ていたのか。しかし寝起きは最悪だな。目の前にあった肌色の壁にデコピンをしてしまった。限りなく出せる限りの全力で。
「ん、良い香りだ」
「ひぃーん……あ、分かります?ぐすん」
「これは、じゃがバターか」
「はい、もっと凝ったものも作れたのですが、すぐお眠りになるそうなので暖まるものを」
「食べて良いか?」
「どうぞ」
綺麗に一口サイズに切られたじゃがバターをスプーンで取り口に運ぶ。
ホロホロと崩れる食感にほのかに甘いバターが体に染み渡ってくる感覚。全身が満たされるような錯覚を覚える。
「うん、うまい」
「そうですか!良かったです!」
「こういう単純なのが俺は好きだ」
「また作りますね」
「おう、紅茶も頼めるか」
「かしこまりました」
ニコニコと微笑むイルを横目に、夕飯をいただく。外はもう暗くなり、名前も知らない夏の虫が リンリンと鳴いている。
横ではトプトプと紅茶を淹れるメイド。少し肌寒い体にじゃがバターが染みる。なんというか、快適だ。全身が安らぎ、うっすらとする眠気が心地よい。
「良いな、こんな雰囲気も」
「紅茶です」
「じゃがバターには合わないな」
「そうでもありませんよ、今回は飲み口のスッキリとしたダージリンという紅茶を淹れております」
「むっ、これも中々…」
後味が残らず、じゃがバターと混ざらなくて飲みやすい。こういうとこは流石の気遣いだな。魔王の幹部兼メイドというのも納得できる。
「美味しかった」
「良かったです」
「また寝る」
「食べたあとにすぐ寝ると牛になりますよ」
「この世界にもそんな言葉があるのか」
「正確には胃液が逆流して逆流性食道炎という病気になります」
「この世界って意外と医療が発達してるのか?」
「私の独学です」
「これが天才か」
お前、俺の敵フォルダにぶちこむぞ?あっ、ダメだ。見たら分かるウイルスな奴や、コイツ。
「まぁ、寝るけどな」
「ご主人様、お疲れの様子ですし、マッサージをいたしましょうか?」
「いいよ、申し訳ないし」
「何を言うんですかご主人様。メイドは主に奉仕することが最大の幸福なのですよ」
「いいって、構うな」
「ぶー」
「ぶーじゃないが」
いんだよ、一々触られてたら意識して眠れないだろ。




