とある一日
VS戦乙女聖騎士団から約一月。この世界に来て二ヶ月と言ったところで、事件は起きた。
「な…なんじゃあこりゃあっ!?」
「松田○作とは渋いな、シュン」
「いやこれ見ろよ」
俺のとなりでレモンス○ッシュのように爽やかな笑顔で突っ込んでくるのは、腐れ縁の幼馴染光ヶ丘ユウトである。
なぜ俺とユウトが二人で俺の部屋にいるのかというと、実はユウトが一月前に優勝したペア大会で、週に一日以上休みを作ってもらえることが決まった。
元々休みはある時とないときがあり、決まった休みはなかった。この世界の一週間は日本と同様に七日、そのなかで平日しかなかったところに日曜ができた。そんなところだ。
これはそのときの会話である。
「ありがとう、ユウト」
「お、珍しいな。シュンからそんな言葉が出るなんて」
「今日だけは人間として見ることにする」
「むしろ今まで何に見えてたんだ?」
「制汗剤」
「生き物ですらないのか…」
はい。
んなことはどうでもいい。
俺の目の前にあるのは、そう………
ラブレター
である!
ピンク色の封筒に、ハートマークのシールで閉じられたソレは、その雰囲気と容姿から、恋文、ラブレターであることが伺える。それが何重にも重なり、束のようになっている。
あ、ユウト宛てな。
「ユウト、お前は何人の女を泣かせれば気が済むんだ」
「えぇっ…いやぁ、俺にはシュンがいるから」
「いねえよ」
「それに俺に好きな人はいないから」
「はぁー?これだけの恋文を貰っておいてどの口が死ね」
「シュン、早い。我慢して。せめて言い切るまで我慢してくれ」
「見ろよ、ほら。これとか」
透視により中身を覗き、気になったものをぴょいっと拾い上げる。
そのまま広げて中身を出す。
「こんなに愛されてるんだぞ?」
「俺に一体何を求めてるんだ…っ!」
「これ呪いの類いだろ」
中から出てきたのは謎に捻れていたり短かったり長かったりする毛。ちぢれ毛というやつである。
同封されていた紙にはどこかで見たことある赤色で『私loveユウト様』と書かれている。差出人とか書かれてないあたり、告白にもならないだろうと、俺は突っ込みたいね。
「ほら、他にも」
「これは?」
「ふむ、見たかぎり……パンツか?」
「なんで手紙に下着を入れるんだっ!?」
「これトランクスだな」
「男からかぁ…キツいなぁ……」
透視する限り普通のラブレターもあるが、中々際どいものもある。
「まあどれも生命に影響のあるものはないから安心しろ」
「ラブレターで生命に危険を及ぼすとかあってたまるか感すごいけどな…」
「異世界に来たからってこういうのは止まらないんだな」
「あー…うん。むしろ増えたかも」
「は?おいおい嘘だろ?」
「この前の休みにアリナに連れられて町を見てきたんだけど、その時に見かけたってのも多かったり…他にも戦乙女聖騎士団のローリーさんと一緒に特訓したときとかに、他の女性騎士さんとかに…ね」
「アリナっていうのは、確かお前んとこのメイドだったか?ローリーも、副将だったやつだろ?」
「そうそう、なんだかあの後気に入られちゃったみたいでさ…あはは」
「あははじゃねえよ。脳をほじくるぞタコすけ」
「強い強い、暴言に力込めすぎだろ」
順調にハーレムを築いて行きやがって。ハーレムルートはバッドエンドって相場が決まってんだぞ。
「コンコン」
「誰だ?」
「ご主人様、イルでございます」
「帰れ」
「失礼します」
「ユウト、お客様がお帰りだ」
「えっ?えっ?」
どこへ行っていたのか、イルが部屋へと帰ってくる。
「あら、ユウト様。お久し振りでございます。ご主人様がお世話になっております」
「オカンか」
「イルさん!久しぶりですね。あはは、俺の方がお世話になってるかもしれないよ」
「当たり前だろ」
「ご主人様、ご友人は大切にしてください」
「ちっ」
「仲良いんだな、二人とも」
「ええ、ご主人様とはいつも一緒に寝て…」
「お前が入ってくるんだろうが。ダブルベッドでもないんだから狭いんだぞ?」
「ご主人様っ!その狭さが!良いんじゃないですかっ!!」
「興奮するんじゃあない、豚が」
「あひぃっ!!」
「………シュン?」
「俺はおかしくないからな。おかしいのは全てコイツだ」
俺はビクンビクンと痙攣しているイルを指差しながら答える。マジで勘弁してほしい。罵倒すれば喜ぶし褒めても喜ぶし…対処のしようがない。
「あ、この紙の束はなんなんです?」
「えっと…あの……あれだよ!なっ、シュン!」
「あぁ、これはラブレターだ」
「シュンんぅぅっ!?」
「うるせえ」
「はぁー…ご主人様宛てですか?」
「そんなわけあるか、全部ユウト宛てだ」
俺がこれだけラブレターを貰ったとしたら多分、その日が命日だ。宇宙の。
「しかしご主人様、これはご主人様宛てでは?」
「は?そんなものがあるわけ……本当だな」
「宮坂駿さまへと書かれているな」
「流石ご主人様。おモテになるのですね」
「コイツの前で言うか?それ」
「しゅ、シュン?見てみないか?なぁ?」
「なんで当人の俺よりお前の方が気になってんだよ」
特にドギマギともせず、無心で手紙を開ける。白色の便箋に質素なシール。この手の手紙は基本、ユウトから離れろとか罵倒とか、そんなもんだ。
ペラリと開けると中から紙がでてくる。綺麗な字がスラスラと書かれていた。
『拝啓、宮坂シュン様。
お元気ですか?私は元気です。
先日の戦乙女聖騎士団との試合、お疲れさまでした。圧倒的な勝負、どうやったのか私には全くわかりませんでした。
さて、本題になりますが、私は暇です。
遊びに来てください。遊びに来てくれなければ泣きます。お父様に泣きつき、『宮坂シュン様が乱暴してきました』と言います。
敬具 マナ=シュドール=ニーナ
』
手紙雑過ぎか。
「ご主人様、姫様とも縁がおありだったのですね」
「切れるなら切りたい縁だ。行かなきゃ俺が殺されるやつだろこれ」
「マナ姫様に呼ばれるなんて、光栄なことじゃないのか?」
「マナはなぁ……やりにくいんだよ。掴み所がなくて」
「ご主人様?呼び捨てなのですか?」
「そう呼べと脅されたんだ」
「ご主人様は王族に好かれやすい体質なのかもしれませんね。魔王様しかり、竜王しかり、姫様しかり」
「共通点は『王族』じゃない、『変なやつ』だ」
「可哀想ですよ」
「お前も含めてんだよバカ」
ったく。そういえばリューナは度々こっちに来るけどシアには最近会ってないな。また会いに行かないとな。
「さて、行ってくるわ。マナのところへ」
「あ、じゃあ俺は帰るよ」
「ん、じゃあな」
「では私は洗濯をしておりますね。うへへ」
「おい、その笑い方やめろ」
「ゲースゲスゲス」
「どうやって笑ったらそうなるんだよ」
駄目だこのメイド、早くなんとかしないと。略して『駄メイド』を横目にマナの部屋へと向かう。暇だからと言って俺を呼ぶとは、我が儘姫め。ドラ○エのアリーナ姫だってもう少しおしとやかだったよ。
「む、貴様は…シュンか」
「あ?…あー、佐藤さん?」
「ニアだ!先月戦っただろう!?」
「あー、あの完封してやったやつか」
「ぐ…あ、あのときは調子が悪かっただけだ!」
「はいはい」
マナの部屋へ向かう途中、廊下で偶然ニアと出会う。もちろん顔を覚えていたし名前も覚えていたが、こいつをからかうのは正直楽しい。
「これからどこへ向かうのだ?」
「マナ……姫様のところだ。呼び捨てにしないから刀をしまえ」
「ふん、姫様を呼び捨てにするなんてバカなことするわけがないな。まさか姫様にそう呼べと言われたわけではあるまい?うむ、あり得ないな」
「ハハハソウデスネー」
うん、まあ当たりなんだけどね。ここで突っ込んでも多分、面倒なことにしかならないんでもういいです。
「……」
「……?」
「……」
「……あのさ、用事ないんならもう行くけど」
「貴様っ!!」
「どうしろってんだよ」
無言で見つめてきたり目を反らしたり、かといって通りすぎようとすればキレるし……なんだこいつ。
「その…なんだ……あれだ……えーと……そうだ!私は前の戦いは本調子じゃなかった!もう一度戦おう!」
「あーはいはい、また今度な」
「ほ、本当かっ!?やった!………いやまあ別にやらなくてもいいんだが、お前がどうしても再戦したいと言うならやってやらなくも」
「じゃいいや、やめよう」
「貴様ぁッッ!!」
「だからどうしろってんだよ……」
もうほっとこうコイツは。さっさとマナのところへ行って、用事を終わらせて帰ろう。




