クラスみんな異世界転移したんだから俺一人くらい楽しても良くね？

異世界チームVS戦乙女聖騎士団 終

『大将戦ッッ！！！お待たせしましたっ！！ここ大一番の名勝負！！それが！！今！！この場で！！！行われるのですッッ！！！』

　テンションたけえんだよ。うるせえな。ミラン兵長あんなキャラだったか？

『両者！配置につけぇい！！！』

「先程の光ヶ丘ユウトよりも強いのか？君は」

「んなわけねぇだろ。あんな主人公補正バリバリの男が二人も居てたまるか」

「しゅ、主人公補正？」

「気にするな」

　まぁ、あいつより強いわけじゃあないが…別に弱いから負けるわけじゃあない。俺は俺なりの戦い方で、勝ってやるよ。

「ねぇ、次宮坂くんでしょ？勝てるの？」

「あいつっていつも教室で寝てたやつだろ？結城さんに勝ったってのも本気か分からないよな」

「結城さん優しいもんねー」

「ユウトくんでダメだったんだから誰がやっても無理っぽくなーい？」

「ははは、違いねえ」

　おーおー、期待されてないもんだ。まあこんなことは分かってたんだけどな。別に悲しいわけでもない。

「宮坂ぁぁっ！！」

「あ？」

「信じてるぞー！！！」

「うるせぇ」

「シュン！ここぞってときにはいつも何とかしてくれるのがシュンだ！頑張ってくれっ！！」

「ハードル上げんなタコ」

「シュンくん！絶対勝つって信じてるからねっ！！」

「結城さんまで乗るな」

「シュンくん！松岡くんや結城さんの敵を討ってね！！」

「あーはいはい。分かった分かった」

「シュン！！ワシも応援しとるからのー！」

「えっ、居たの？お前」

「ワシに対して辛辣過ぎるんじゃっ！！」

　まあー…な。どれだけ性根が腐ってても味方が居るってのは心の支えになるもんかもな。

「俺が勝ったら、お前らもう俺に構うなよ」

「お祝いしようねー！」

「待ってるぞ！宮坂！」

「シュン…俺は嬉しいぞ…こんなにたくさんの友達が出来て…」

「お前それ割りと失礼だからな。片手で数えられるからな」

　ったく。うるせえやつらだよ。ホントに。

「信頼されてるんだな」

「あ？あー、まあ信頼されてるのと勝てるってのは同列じゃないけどな」

「当たり前だ。私に勝つことはできない」

「そうか、じゃあ先に言っておく」

「何をだ」

「───もう『理解』した」

『いよぉぉおしっ！！！行くぞっ！？いいなっ！？勝負………始めぇい！！！』

「疾っ！！」

　走り出し、距離を詰めてくるニア。

　そのまま剣で切り裂いてくる。が、俺には掠りもしない。

「ふん、これぐらいは避わせるか」

「どうぞ、続きを」

「どれほどその余裕が続くか、見物だなっ！！」

「見てくれ見てくれ、見物料はユウトにつけとくから」

　ふん、見えないな。全く剣筋が見えない。あいつはこれを裁いてたのか。すごいな。素直に尊敬してやる。俺は卑怯をしなきゃあ勝てないな。

「逃げ足だけは達者だな」

「悪いな、戦いは嫌いなんだ。面倒くさいから」

「そんな態度で私に勝てると思っているのか！」

「今のところ、負ける要素はない」

「減らず口をっ！」

　負ける要素はない。もう理解したのだから。

「癖って知ってるか？」

「癖だと？今は関係ない！」

「まあそうキレるな。話を聞け。癖ってのは人間に絶対にあるものだ。『なくて七癖、あって四十八癖』つってな。どれだけ癖のない人でも7個は癖を持ってるもんだ」

「だからなんだ！」

　突かれる剣に見向きもせず、ニアの瞳を見る。

「はい、今肩を数ミリ反らしたな。俺から見て左側に袈裟斬り」

　俺は右に半身を反らすと、きれいに剣が横を通り過ぎていく。

「なにっ！？」

「はい、それが癖。お前は切る瞬間に肩を動かし、視線がぶれる。それだけで次に何をしてくるか簡単に読むことができる」

「そんなバカなことがっ！！」

「あぁ、俺はバ(・)カ(・)なんだよ。天才と違ってな」

　バカだからこそ、バカなことが出来るってもんだ。

「足払いをするときにも視線が下がってるぞ、ほら」

「ぐっ！？」

「さっきのユウトのようにすくってやるよ」

　体制を崩し、倒れ込むニア。

『な…なんということだっ！？戦乙女聖騎士団団長のニアがっ！！成す術なく遊ばれているっ！！動きを全て読まれているかの如く遊ばれているっ！そう！人形劇(マリオネット)！！まるで人形劇(マリオネット)を見ているようだぁぁっ！！』

「な、なぜ…なぜ追撃に来ない！」

「俺は慎重派なんだよ。追撃して反撃をもらっちゃあ世話ないからな」

　まあ、ほんとのことを言うと、ちょっとムカついたからってのもある。

「異世界から来てすぐだからと言って、バカにする気持ちは分かる。実際、お前らの努力と比べたらちゃちなもんだろうな。だがな、努力そのものを否定するのは頂けない。戦乙女聖騎士団を舐めるな？おいおい、日(・)本(・)人(・)を(・)舐(・)め(・)る(・)な(・)」

「…っ！」

「もう少し教育されとけ、女騎士なんて持て囃されて調子乗ってる暇があるならな」

「………ッッ！？お前ぇっ！！言ってはいけないことを言ったなっっ！！」

　女騎士ということに誇りを持っているコイツは、そこをくすぐれば直ぐにキレると思っていた。分からないかなぁ、全部手のひらの上だってことがさ。

「そうやってキレたら判断を誤るぞ？」

「くらえっ！！」

　凄い顔だな。必死の顔だ。親の敵でも見るかのような表情だ。

　だが、もう分かってんだよ。

　突きだそうとする腕を掴み、押さえる。

「なにっ！？」

「やられる前にやれってな」

「こんなものっ！！」

　振りほどこうとするが、そうはいかない。人間にはツボがある。人によって効く効かないがあるが、大体の場合はここだ。

「ぐっ…いっ！や、やめろ！！」

「痛いか？痛いだろうな。ここは天秤というツボだ。ちょうど肘の上辺りにある。痛くて力が入らないだろう？」

「ぐっ…うぁぁあ！！」

　が、そこは流石の精神力だ。痛みをこらえ、振りほどかれる。

「はぁ…っ！…はぁ…っ！！」

「息が切れてるな？大丈夫か？」

「ちっ…近寄るなっ！！」

「おいおい、近寄らなきゃ勝つもんも勝てないだろ？」

　ふむ、そろそろ恐怖の表情が見え始めたな。やばい…ちょっと楽しい…

「おいおいおい、そんなもんなのか？さっきユウトに啖呵切ってたよな？『戦乙女聖騎士団を舐めるな！』だったか。ほら、かかってこいよ」

「う、うあぁあ！！」

「はい効かない。ぜーんぶ読めてるから」

　降り下ろされる剣を読み、横から弾く。そして手首を抑えつけて剣を落とさせる。

「これで武器が無くなった」

「う…うぅ痛いっ…」

「痛いのか？ん？こうか？これが痛いのかぁ？」

「いやっ…やめてくれっ」

「参った…は無しだったよな？」

　ユウト、グッジョブだ。完全にニアは戦意喪失している。今にも泣きそうなほど、涙目になってしまっている。

「す…すまない！だからっ！やめてくれっ」

「戦場でやめてと言われて止めてもらえるのか？」

　突きだそうとした拳を読み、受け止める。

「効かないな！」

　そのまま押し倒す。完全にマウントを取った。

「う…うぅ…ご、ごめんなさいっ…許してくれっ！」

「ゾクゾクする…楽しいな、これ」

「ひぃっ！？悪かっ…私が…ひっ…がぁ…悪かったっっ！からぁっ！！ひっ…ぅう…ごめんなさいっ！！」

「えっ、あ、ごめん」

　な、泣き出してしまった…やばい、追い詰めすぎた。

『えーっと…これ良いのか？あっでもルール上問題ないのか…うわぁ、ニアの泣き顔初めて見た…』

「おいアイツ、女性を押し倒して泣かしたぞ」

「うわまじか最低だな」

「宮坂くんさいてー」

「女の敵ね」

「宮坂死すべし」

　うわぁ、外野からの殺気がやばい。

「う…うぇぇん…うぅ…ひっ…」

「ごめんって、悪かったって。だから、泣くなって、な？」

「ひぃっ！ご、ごめんなさい！泣くのっ…うっ、やめるからぁっ！ごめんなさいっ…ごめんなさい…ひぅっ」

「いやだからさぁ…うーん…えっと大丈夫？ごめんやり過ぎたっ！だから許してくれ！」

「あっ…叫ばないで…くださぃっ！怖いっ…からぁっ」

　やばい！この展開は読めなかった！理解できねえよ！！なんでさっきまであんなガチガチのクールキャラだったのにこんな女々しくなってんだよ！ちょっとやり過ぎたとは思ったけど、ここまで泣くなんて思ってなかったんだよ！

「あー…大丈夫？ごめんな？変に押さえつけたりして」

「い…いやっ、私が悪かったからっ！」

「おい顔が赤いぞ？大丈夫か？熱でも出たか？」

「だ、大丈夫だからっ！そのっ、近いっ！！」

　うん？これ見覚えあるな。確か同級生の女子がユウトと会話しているときにこんな様子だった気がする。

『み、宮坂少年、もうそろそろ終わらないか？』

「いや、これどう終わらせば良いんだ？」

『ルール上、その木刀を突きつければいいから』

「お、おう」

　ニアから落とさせた剣を拾い上げる。ニアは今は女の子座りをして泣いている。泣き止もうとしてるようだが、もう少し掛かりそうだ。

「ニア…さん？とりあえず時間なんで終わって良いですか？」

「ひっ…あ、あぁ、構わない…ただ、その…優しく…頼むな？」

　うーんっ！やりづらい！すごいやりづらいぞ！！なんで涙目で見詰めるんだ！上目遣いでさぁ！

「えっと…じゃあ、これで終わり」

『しょ、勝負ありぃぃっ！！！しょ、勝者は異世界チーム宮坂シュンだぁぁぁ！！！この練習試合ッッ！！異世界チームの勝利だぁぁぁあっ！！』

「「「「うわぁぁぁあああああッッッッ！！！」」」」

「ま、まけてしまったのか…」

「頼むから泣かないでくれ」

「もう泣いていない！……なんかすまなかった」

「本当だ。針のむしろだったぞ」

「…あんな笑顔で完封されたりしたら、誰だって泣くだろう」

「正直すまんかった」

　はい、ごめんなさい。帰ります。

　まあ、あれだけ応援してくれたみんなだ。観客の奴等にはあんな目で見られたが、チームのみんなは優しい笑顔で歓迎してくれるはず───

「シュンくん…えっちだよぉ…」

「あ？」

「シュン…あれはダメだろう。押し倒すなんて」

「お前も押し倒してただろうが」

「あんな笑顔で押し倒されたら、完全に犯罪者だぞ」

「んだよ、勝ってやったのにその言い草は」

「宮坂…女を泣かせたらダメだ！！」

「松岡、正論を言うな。反論できないだろ」

「シュン…ワシにも、あれぐらい迫ってくれれば…」

「この後はどうなるんだ？」

「無視なのかっ！？」

　うるせえトカゲ。

『よしっ！全員中央にあつまれっ！』

「「「「はいっ！」」」」

「だる」

「シュン！」

　はいはい。分かったから手を引くな。

　異世界チームと戦乙女聖騎士団とで向かい合うように並ぶ。

なんか戦乙女聖騎士団のやつらからの視線が痛いんだが？そしてニアはなんでこっちを見たり視線を反らしたりしてんだ？

『それでは！最後に良き戦いをした戦友に…礼っ！！』

「「「「ありがとうございましたっ！！」」」」

　はー、長かった。やっと終わった。最後に戦うことになって、まさかの展開だったが…まあ勝ったし良いか。

　その後、全員で会場を掃除したり、戦乙女聖騎士団の人たちに一度挨拶をして回り(強制)、ついでに夕飯も食べて帰ってきた。あとは寝るだけである。

「ただいま」

「お帰りなさいませご主人様ぁぁっ！！！」

「バタン」

「ご主人様！どこへ行きなさるのですかっ！？」

　いやだって、なんか怖いし。

「流石ご主人様でした！まさに完勝と言った感じでしたね！」

「まあ、ユウトが戦ってるところを見れたお陰でな。前情報が無ければ一瞬で倒されて終わってい

た」

「しかし勝ったものは勝ったのです！！お祝いに一緒にお風呂に入りましょう！！」

「祝いの意味知ってるか？」

　もうさっき無駄に囲まれたばっかりだ。代わる代わるに色んなやつから罵声とか祝いの言葉とか入り交じった言葉を言われた。まあ基本はユウトのとこへ行くやつらばっかりだったけどな。

「それよりもご主人様！なんなんですか！？」

「なにがだよ」

「あんな騎士を押し倒して泣かせるなんてっ！！」

「ちっ、お前も俺を責めるのかよ」

「なんで私にしてくれないんですかっ！？」

「ん？」

「私も押し倒されたいです！！泣かされたいですっ！！」

「あれあれ？」

「そうです！今から私を押し倒してください！ほらっ！速く！ハリーアップ！」

「ふんっ！」

「ひゃうっ！！」

　気持ち悪いほどにヒートアップするイルのオデコにチョップを加える。可愛らしい声と共に涙目になっていくイル。

「も、もっと強く…」

「うわっ、きもっ」

「あっはぁっ！！マジな表情で言われましたぁっ！！」

「うるせえ優しくすんぞ」

「そんなっ！ご主人様ぁっ！？」

「よしよしイル、今日はありがとうな。色んな面でフォローしてくれて。頭を撫でてやる」

「ふえっ！？…あの…その…ご主人様ぁ…」

「おいなんで優しくしたら今度はこれはこれでありだなぁ…みたいな顔してんだよ」

　くそう、こいつ弱点はないのか。

「ご主人様ぁっ！」

「あぁもう！うっとうしい！寝かせろバカ！」