異世界チームVS戦乙女聖騎士団⑥
「あなたたちのチームの中で一際強そうなあなたと戦えること、光栄に思います」
「あれ、ローリーさん、僕たちのことを嫌ってるのかと思ってたけど…」
「強者は別です。あなたは特に強そうですね」
「ははは、ありがとう。でも僕よりも強い人なんてたくさんいるよ」
ははは、ありがとう。
あのセリフだけで今何人の観客が恋に落ちた?おい見ろよ、観客たちの目にハートが浮かんでるぞ。異世界は不思議だなぁははは。
「駆逐されろ」
「シュン?聞こえてるからな?」
「のぉシュン。お主のご友人であるあやつはなんであんな人気なんじゃ?」
「ん?ほら、あの顔だろ?」
「ふむぅ…ワシから見ればお主もあやつも変わらんけどの」
「それはおだてすぎだリューナ。行き過ぎた誉め言葉は侮辱と変わらん」
「別におだてたわけじゃないけどのぅ…」
あーもううるさいうるさい。同情はやめろ。
『そろそろ始めてもらって良いかな?』
「あ、ミラン兵長!すみません!すぐ始めます!」
「はい、来ても構いませんよ」
「よし!ローリーさん、行きますよ!」
おっと、やっとか。
「現れよ!『エクスカリバー』!」
「輝くその刀身…煌めくオーラ…相手にとって不足ありませんね」
「ははは、お手柔らかにお願いしますね」
何が現れよ!だよ。ちょっとカッコつけてんじゃねぇよ。どうせなら光指す道となれ!スターダ○トドラゴンくらい言えよ。
「しかし残念ですね。そのエクスカリバーが能力なら、近寄られる前に魔法で倒せば良い話です」
「あはは、試してみるかい?」
うっわぁ、あの余裕があるような笑顔。ほら、耳を済ましてごらん?
「「「「ユウト様ぁぁぁぁぁッッ!!」」」」
はい、『YDS』新規メンバー参加のお知らせ。
「その笑みが何時まで続きますか…ねっ!」
「……すぅ」
ユウトが浅く息を吸う。そしてエクスカリバーを上段に構えたかと思うと……
「燃えよ炎迸れ烈火!『ラピッドファイア』ッ!!」
とてつもない速さの炎がユウトに向かって飛んでいく。しかもその数は一つではない。
「はぁぁぁぁぁッッ!!」
ユウトが叫び、その聖剣で眼前を切り裂く。カキンカキンという音が鳴り、魔法が切られる。
『な……なんだって?』
ミラン兵長が小さく声を漏らす。それと同時に観客が騒ぎだす。
「おい、見たか?今の」
「魔法を切り捨てたの…?」
「そんなことが出来るのか?」
「出来るわけないだろ。炎だぞ?土や粘土じゃないんだ」
そう、出来るわけがない。だがアイツはそれをこなす。爽やかな笑顔を浮かべてな。
「ばっ……バカなっ」
「ごめん、あまり女の人を傷付ける趣味はないんだけど……シュンの為なんだ」
ローリーが驚いた一瞬の間に隼のごとく距離を詰め、エクスカリバーが喉の手前で止まる。
「僕の勝ちで良いかな?」
「………ぇ?」
ローリーはその速さと化け物じみた能力にだらしない声を漏らし、唖然としている。そしてユウトは相変わらずの笑みを向ける。
『お…終わったぁぁぁぁあッッ!!一瞬!勝負は一瞬でした!!魔法を叩き切ったかと思ったら瞬時に懐へ入り、喉へ一閃!!これが異世界チームの副将だあああああっっ!!』
「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああッッ!!」」」」
化け物か、本当に。
俺の立つ瀬が無いだろ。あいつが先鋒なら多分全部勝ってるんじゃないのか?
「ほぉお!すごいのうシュン!お主の友は!」
「ふん。アイツはスゲエよ」
「お、シュンが素直に認めるなんて珍しいの?ママは嬉しいぞ?」
「は?」
「殺気が飛んどる!すまん!言ってみたかっただけじゃ!」
誰がママか。こんな若い母親が居てたまるか。
「いやぁー、危なかった」
「おかえり!ユウトくん!すごかったね!私全然勝てなかったのに……」
「運が良かっただけさ」
「おいユウト!あれなんだっ!?カキンカキンズバズバってさぁ!俺にも教えてくれよ!な!?」
「一樹くん、光ヶ丘くんも疲れてるんだから、あんまり無理言っちゃダメだよ」
「あはは、ありがとう刑部さん」
運が良かっただけさ。
はぁ?運で魔法が切れるんですか?はーへーふーん。じゃあ今度10回くらいやってみるから一回も成功しなかったら殺すからな?良いよな?
「シュン!どうだった!?」
「あ?あー…まあ良かったんじゃね?」
「そうか!ありがとう!!」
「あーもう、なんでお前はそんな笑顔なんだ」
「褒められたら嬉しいに決まってるだろ?」
「松岡が褒めてた時と表情が違うが?」
「そんなことないさ!あはは!」
「笑って誤魔化すな爽やか製造機」
松岡が可哀想だろ。
『さぁ!準備は良いかぁっ!?異世界チーム副将!!光ヶ丘裕翔VS!!戦乙女聖騎士団団長!!ニア!!さぁどちらが勝つのかっ!!』
「「「「うわぁあぁぁぁあ!!!」」」」
「「「「ヒューヒュー!!!」」」」
「ほら、行ってこいユウト」
「あぁ!」
「俺の出番を作るなよ」
「要は勝てってことだろ?よし!シュンの為に勝ってくる!」
「俺の為とか言うな。吐き気がする」
おええええ。
「じゃあいってくるよ!」
「頑張ってねユウトくん!」
「ファイト!ユウト!」
「応援してるよー!」
全員に見送られ、笑顔で歩いていくユウト。とりあえず、無いとは思うが最悪の場合を考えて『見ておく』か。
『よぉし!!二人とも配置につけぇい!!!今から始めるぞ!!良いなぁ!!副将光ヶ丘裕翔VS大将ニア!!勝負………始めぇい!!!』
「っつ!」
「疾ッ!!」
言葉を交わすこともなく、ニアもユウトも走りだし互いに距離を詰める。
「エクスカリバー!」
ユウトの片手に光輝く聖剣が現れる。
「はぁぁぁっ!!」
「はぁっ!!」
ユウトの聖剣とニアの刀がぶつかり、金属音が鳴る。
「おい待て、いつの間に木刀じゃなくて真剣で戦ってるんだ?」
「止めんということは良いんじゃろ。エクスカリバーなんぞ真剣よりも鋭いしの」
「ルールガバガバかよ」
「疾っ!」
「……っ!うらっ!!」
「はぁぁ!」
「くっ……でぁあっ!」
「っっ!」
互いに牽制が続く。剣裁きはなんと互角。先程のローリーという女騎士とは比較に成らない。流石団長というだけある。他とは比べられないほどの強さだ。
「ユウトめ、しくじったら許さないからな」
「シュンなりの応援かの…素直になれないところが可愛いのう。よしよし」
「がぶっ!!」
「痛い!痛いのじゃ!」
「ぺっ!くそまじい。ゲテモノは美味しいと相場が決まってるんだがな」
「今ワシのことを『ゲテモノ』と呼んだのかっ!?流石のワシも怒るっていうか泣くぞっ!?」
あーうるさいうるさい。トカゲは黙ってろ。
それよりも…だ。これは危ないな。明らかにユウトの方が消耗してきている。松岡とセレナの対決でも思ったが、スタミナにおいて差がありすぎる。ユウトは息を切らしているが、ニアの方は全くと言って良いほど息の乱れを感じられない。
「はぁぁぁっ!」
「隙ありだ」
「ぐっ…うぉらぁあ!」
「動きが鈍ってきてるぞ」
「ぐはっ!!」
ユウトが柄で腹を殴られた。これは効くな。かなり押されている。大丈夫か?
「うっ………はぁぁっ!!」
大きくエクスカリバーを振りかぶり、一旦距離をとる。その行動は正解だが…距離をとったところでまたすぐ詰められる。この後の行動次第で負けが決まるな。
【ユウト視点】
油断してた…自信がなかった訳じゃあない!けどこの強さは想定外というか…規格外だ!
「ぐっ!」
危ないっ!隙があればすぐに突いてくるっ!
どうするどうするっ!?どうすればこの状況を打破できるっ!?考えろ!俺!
「はぁぁ!」
「ふん、動きが鈍くなってきてるぞ?」
「ぐぁっ!」
痛い!痛い!いつの間に木刀じゃなくなったんだ?腕が切れてしまった…くそう!何か…何か方法はないのか?
思い出せ!何か、何かあるはずだ!
「残念だが…これで終わりだ」
降り下ろされる剣。一瞬の間に、ある言葉が頭に浮かんだ。
『己の体全てが武器だ』
そう、浮かんだのだ。
「っ!うぉぉお!!」
半身で避わすと同時にタックルを浴びせる。そのまま押し倒しマウントポジションを取る。
「なにっ!?」
「終わりだっ!」
腰に着けた短刀を取りだし首に───
「甘い!」
不意に首が絞められ、天地が逆転する。直後、強い衝撃が全身を襲った。
「かはっ!?」
「ちょっと頭を使ったつもりだろうが、そのような付け焼き刃。私には効かない」
いっつつ…何が起こったんだ?
「出ましたわっ!みましたわねローリー!?団長のあの技を!!流石団長ですわね!あの状態から体を捻って足だけでユウトを投げましたわ!!あり得ない脚力と柔らかさが成し遂げる奇跡の技ですわぁ!!」
「そうですね。流石団長です」
な、なるほど…確かに足は無警戒だった…というかジェシカさん、すごい説明口調だなぁ。
「まだ立ち上がれるのか。大したものだ」
「はぁ…息は…切れてるけどね…はぁ」
「もう終わりにするか?」
「そうですね…終わりにしましょう」
再度エクスカリバーを手に取り握る。もう、やられない。
「ニアさん!あなたの負けでね!」
「ふふ、面白い冗談だ!」
刀と剣がぶつかり合う。なんという衝撃だろう、本当に女性の力なのかと疑いたくなるな。
「でも負けてられないんだ!」
なら次はシュンに教わった状況分析で乗りきる!!
その1!『視野を広く持て』!
焦ってるときは視野が狭まり選択肢を誤りやすい!ニアさんだけじゃない、もっと他に何かないか…!?
いやある!これだっ!
「ずぁぁあっ!」
「なにっ!?」
結城さんが使った土魔法により、盛り上がった岩や土がたくさんある。それをエクスカリバーで思いきり切り上げ、ぶつける。
「そんな子供だましの技に…なんだと?」
その2!『優位に立て』!
相手にもよるが、常に自分が優位であれ!心に余裕を持ち、自信があれば作戦をいくらでも作れる!
盛り上がった岩は背の高さまである!ニアさんが石つぶてを受けている隙に岩かげへ逃げ込んだ!
「なるほど、考えたな。だが…」
と、ニアさんが呟くと、こちらへ走ってくる音がする。
「残念だったな。私が切った傷から流れた血が見えてるぞ!」
その3『相手の思考を読め』!!
そうくるだろうと思って、血痕をわざわざ残したんだ!
血痕を飛ばし、自分とは違う方向の岩へと誘導した!時間がなく、少ない量だったが相手が強い人故に、気付くだろうと思った!!
「ここに…っ!いないだと!?」
「後ろだぁっっ!」
「っっ!?」
エクスカリバーで突く。これで終わりだぁぁぁっ!!!
「…戦乙女聖騎士団を舐めるな!」
「なん…っ!?」
まるで読んでいたかのように振り替えることなくエクスカリバーを受け止める。
「ここまで考えるとは思わなかった…が、しかしそれはあくまでここまで、だ」
「…」
「我ら戦乙女聖騎士団は!決して伊達や酔狂なんかで居るわけじゃない!この世界へ来て一月も経ってないような奴等に負けられるか!!」
ぐっ!?なんだこの力っ!?さっきよりも全然っっ!押し返されてしまう!!
「足払いなんて見え透いた技なんて効かない!」
「あっ!?」
払おうと思った足をすくわれ、そのまま体が沈む。とっさに距離をと───
「終わりだ」
「………っ!」
残酷に、容赦なく、真剣が喉へ突きつけられていた。
『しょ…勝負ありぃぃっ!!!勝者!!戦乙女聖騎士団団長!!ニア!!!!』
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっっ!!!!」」」」
「ま…負けた…のか」
「驚いた。まさかそれほどの強さだとはな。私も最後は本気を出してしまった」
「それまで…本気じゃなかったんですか…」
「素人に本気で挑む達人がいるか?…だが、認めよう。私は最後、本気を出した。君は…いや、光ヶ丘ユウトは素人じゃあなかった。これからも強くなるだろう」
…完敗だ。シュンには悪いが、どれだけ運が良くたって、今の試合は多分、勝てなかった。今のままならどれだけやっても。
あーあ…悔しいなぁ。
【シュン視点】
負けた…か。まあしょうがないだろう。特にあの最後のやつは普通に考えて止められないだろう。止められたら怪物だ。人間じゃあない。
「ごめん…みんな」
「ううん!お疲れ様ユウト君!すごいね!私の土魔法を使ってくれるなんて思ってなかったよ!えへへ」
「あぁ、結城さんの土魔法がなかったらあれだけ戦えなかったと思う。ありがとう」
「ううん!」
「しゅ、シュン!ユウトとやらにワシからもお疲れと言ってくれ!」
「二度手間やめろ」
「いやぁユウト!惜しかったなぁ!!俺も戦いてぇ!!」
「一樹くん、それよりもほら、ユウトくん怪我してるから休ませてあげないと」
「あぁ、刑部さん。いいんだ、それよりも俺は、シュンの戦いを見たい」
「は?」
「良いだろ?シュン」
「まあ減るもんじゃないからな」
見てもいいが、絆創膏くらい張っとけ。それで治る傷でも無さそうだが。
「ねぇ、シュンくん大丈夫?ユウトくんがこれだったんだからシュンくんじゃあ…」
「優香ちゃん!シュンくんは強いんだよっ?負けないよ!」
「おう!宮坂!応援してるからなっ!」
「そっか…そうだよね!ごめん!勝ってね!シュンくん!!」
「シュン!俺のかわりに…頼む!!」
はぁ…なんで俺なんかがこんなことをしないといけないんだ。俺がまるで神様かってくらい手を合わせやがって。
「正直乗り気じゃねえんだよ、勝手に出ることにされて大将やらされて。部屋で寝てた方が俺はずっと楽だったろうよ」
「とか言いつつ、シュンはずっとユウトたちのことを見ておったがの」
「当たり前だろ。やるからには負けねえ。負けてたまるか」
「お前ら、今日から拝むなら魔神を拝め」
神は神でも…悪魔の神をな。
次回でVS戦乙女聖騎士団編は終わりですかね。多分。
次回は正にチートというタグに恥じない実力を見せましょう。




